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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科43巻7号

2008年07月発行

雑誌目次

視座

専門医制度の罪

著者: 菅本一臣

ページ範囲:P.637 - P.637

 自分のことは棚にあげて何を!といわれそうだが,最近,整形外科領域の臨床研究で斬新なものに滅多にお目にかからなくなった.難関の医学部を卒業したエリートばかりなのになぜだろうと考えていて,一つの結論に至った.

 世の中では専門医が年々重要視されてきている.Subspecialtyという概念も出てきて,さらに細分化されていきそうである.しかも一度それらを取得しようものなら継続のための単位取得が半端ではない.日本整形外科学会は単位取得のためだけのものとなりつつある.さらにそこで披露されるEBMに基づいた治療法などを繰り返し聞くことで,受講者はあたかも洗脳された信者のごときありさまとなる.近年EBMという言葉で治療方法に優劣をつけようという試みがある.この目的自体は非常に有意義なことであるが,客観的評価として耐えうるEBM作成が現実的にはほとんど不可能であることは,ガイドラインを作成されている先生方は痛感されていることだろう.

誌上シンポジウム 人工股関節術後の骨折の治療

特集にあたって

著者: 大橋俊郎

ページ範囲:P.638 - P.639

 1970年前後から日本でも人工股関節全置換術が開始された.それ以来インプラントに様々な改良が加えられ,素材もチタン合金やCo-Cr合金,セラミックスが使用されるようになり,また,摺動面に関してはより長期に耐磨耗性に優れたクロスリンクポリエチレンライナーの使用や,セラミック―セラミックやメタル―メタルの摺動面を使用することも可能となり,さらにインプラント固定法の改善改良により人工股関節はより長期の使用に耐えられるようになってきている.

 これらの進歩によって,より若年者(特に関節リウマチ症例)にも手術が安全に行えるようになってきており,現在,日本全国で年間3万5000例以上の手術が行われている.一方,平均寿命は延長の傾向が続き,男性で79.0歳,女性で85.81歳である.そのような状況下で,人工股関節手術後に転倒したり,各種の事故に遭遇する機会も増加し,人工関節周辺骨折も増加しているものと考える.さらに高齢者の大腿骨近位部骨折も増加し,大腿骨頚部骨折に対しては人工骨頭置換術を実施されることが多く,年間4万8000余例が実施されている.そのステム周辺骨折の治療法は人工関節周辺骨折の場合と同じであるが,骨粗鬆症を合併している症例が多く治療にはより困難性が増加する.人工関節周辺骨折の頻度は1~4%といわれているが,多数例のまとまった報告はなく,報告される症例は一部と考えられる.

人工股関節再置換術後の大腿骨骨折に対する治療方法

著者: 大川孝浩 ,   久米慎一郎 ,   永田見生 ,   熊谷優

ページ範囲:P.641 - P.647

 骨融解や弛みを来した骨質が不良な状態で再建を行う再置換術(revision THR)においては,術後にステム周囲で骨幹部骨折を来した場合,初回THR後の骨折以上にその治療には難渋する.Vancouver分類Bでは,プレート&スクリュー,Mennenプレート,boneプレートなどいくつかの固定方法が報告されているが,いずれの方法においてもステムが存在する近位部分の固定力が問題となる.cable & plate systemはスクリューの刺入が困難な場合にケーブルによる固定が可能となる有用な方法であるが,やはり回旋固定に関しては不安定であり,可能であれば少なくとも,1本でも追加スクリュー固定を行うべきであると考える.また,弛みを生じている場合には,理想的には一期的に再置換を考慮することが望ましいが,まず1次的に骨接合術を行い,2次的に再々置換術を考慮することも必要である.各種の固定方法との比較についても論述する.

人工股関節ステム周囲骨折に対する治療の考え方―外傷外科医と関節外科医の各々の立場から

著者: 高平尚伸 ,   内山勝文 ,   片野素昭 ,   高崎純孝 ,   新田浩史 ,   福島健介 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.649 - P.652

 1995年以降の人工股関節ステム周囲骨折11例11関節(受傷時年齢:平均72.8歳)を対象にした.Vancouver分類別の発生頻度は,A:0%,B1:18.2%,B2:27.3%,B3:18.2%,C:36.4%であった.Failureは認めていない.弛みを診断できなかった場合や再置換術の手技に経験が乏しい場合には,分類が甘くなって治療を行う危険性がある.外傷外科医は常に弛みを念頭に置き,再置換術を考慮していく必要があり,関節外科医は骨折治療の原則を念頭に置き,早期リハビリテーションを考慮していく必要がある.

人工股関節および人工骨頭置換術後の大腿骨骨折の臨床成績

著者: 中村正則 ,   助崎文雄 ,   宮岡英世

ページ範囲:P.653 - P.657

 人工股関節および人工骨頭置換術後に生じた大腿骨骨折11例に対して,保存的に1例,ケーブルプレートなどによる骨接合術を6例,ロングステムによる再置換術を4例に施行した.プレート固定の6例中2例に再骨折を認めた.髄内にステムが存在し骨皮質が菲薄化している症例では強固な内固定ができないため,ロングステムによる再置換術のほうが好成績が得られると思われた.また入院期間は平均4カ月と長期化し,歩行能力も多くの症例で低下した.

人工股関節置換術後のステム先端部骨折に対するMennenプレート2枚とDall-Miles cableシステムを使用した骨接合術

著者: 山岡清明 ,   野村隆洋 ,   伊東秀博 ,   依田功

ページ範囲:P.659 - P.662

 人工股関節置換術後(人工骨頭を含む)のステム先端部での骨折に対してMennenプレート(MP)2枚で大腿骨の全周を被い,その上からDall-Miles cableシステム(DMC)で締結して骨接合術を行った.MPは通常のプレートとDMCの併用に比べると,骨の血行障害が少なく骨癒合という点で有利と思われる.しかし骨癒合を得るためには,可能な範囲での髄腔内のセメント除去と,DMCとMPが骨から浮いていることが重要である.本法は強固な固定が得られ,早期離床が可能である.高齢者に多いステム先端部の骨折に対する骨接合術として有用な選択肢である.

大腿骨ステム周囲骨折に対する治療経験

著者: 川上洋平 ,   澤村悟 ,   櫻井敦志 ,   島直子 ,   川北晃平 ,   乾淳幸 ,   矢野智則 ,   織邊隆

ページ範囲:P.663 - P.667

 2001年から2007年までに経験した大腿骨ステム周囲骨折,17例17関節について骨折部位,弛みの有無,治療法により分類し経過を検討した.人工骨頭置換術後14例,人工股関節全置換術後3例であった.骨折型は,Johanssonらの分類でtype Ⅰが8例,type Ⅱが6例,type Ⅲが3例で,骨折時のステムの弛みはtype Ⅰの3例,type Ⅱの1例で認めた.治療法は,手術加療を16例,保存加療を1例に行い,手術方法は骨接合術が14例,ロングステムへの再置換術が2例であった.全例で骨癒合が得られ治療成績は良好であった.

股関節インプラント周辺骨折(大腿骨側)に対する観血治療の成績

著者: 難波良文 ,   寺田忠司 ,   門田弘明 ,   児玉昌之 ,   相賀礼子 ,   花川志郎

ページ範囲:P.669 - P.674

 股関節インプラント周辺骨折症例のほとんどは骨質も悪いうえに,インプラントの弛みの問題もあり,その治療は困難なことが多い.今回われわれは,過去5年に,観血治療が必要であった8症例(全例女性,平均年齢は81歳で,セメントタイプは4例,セメントレスタイプは4例)について,ロッキングプレート(LCP)を用いた観血治療の成績をまとめたので報告する.症例によって,骨移植の追加,ダブルプレート,ワイヤーの追加を行った.全例骨癒合が得られ,もともと介助歩行が必要であった3例を除き,ほぼ受傷前の歩行能力を獲得して退院した.セメントレス症例では骨皮質は薄く,近位部をmonocortical screwだけで内固定するには困難なため,ワイヤリングの追加などのオプションが必要であった.LCPを使用することによって,従来のプレートよりも固定力はよくなったが,インプラント周辺骨折は,LCPだけではまだ解決されず,特にセメントレスインプラントが入っている場合は,あらゆる追加手技を用意して対応する必要があると考えられた.

論述

低侵襲性人工股関節全置換術(MIS-THA)後早期ADL拡大を可能とする条件

著者: 池田崇 ,   鈴木浩次 ,   原洋史 ,   高木三憲 ,   平川和男

ページ範囲:P.677 - P.681

 低侵襲性人工股関節全置換術(MIS-THA)を施行した218例229股を,術後3日目までに病棟杖歩行が自立した151股,4日以上を要した78股の2群に分類し,早期日常生活動作(ADL)拡大に要する条件を検討した.早期ADL拡大に要する条件は術後3日目の外転筋力が高値,疼痛マネージメント,術前からの股関節屈曲伸展可動域(ROM),JOAスコアが術前から3カ月を通して高値,原疾患が片側性,術式がMIS antero-lateral・2-incision,であった.これらから適切な術前指導・術後リハビリテーションを実施していくことで早期にADLの拡大が可能になると考えた.

変形性股関節症における腰椎すべりの検討―Hip-spine syndrome

著者: 森本忠嗣 ,   西田圭介 ,   重松正森 ,   園畑素樹 ,   馬渡正明 ,   佛淵孝夫

ページ範囲:P.683 - P.687

 変形性股関節症と腰椎すべりの関係について検討した.初回人工股関節置換術(THA)を行った女性の変形性股関節症患者247例を対象とした.調査項目は腰椎すべりの頻度,腰椎すべりと椎間関節の形態との関係とした.腰椎すべりの頻度は31%,L4/5椎間関節の矢状化は41%であり,矢状化例で有意に腰椎すべりの頻度が高かった(p<0.05).両疾患の高頻度の合併の要因として,共通する遺伝因子や股関節拘縮などの動的因子の影響が推察された.股関節疾患を診療する際に誤診や見逃しを防ぐためには腰椎病変を念頭に置く必要がある.

最新基礎科学/知っておきたい

神経堤幹細胞を用いた移植研究―神経再生を目指して

著者: 名越慈人 ,   中村雅也 ,   岡野栄之 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.688 - P.691

■はじめに

 難治性神経疾患に対する細胞移植治療の有効性は,研究レベルにおいて多数報告されている.しかし,これらの研究で使用されている移植細胞の多くは胎児由来あるいは胚性幹細胞由来の神経幹細胞であり,倫理的な問題から臨床応用は難しい状況である.また骨髄や脂肪などの成体組織において,神経細胞を生み出す幹細胞が存在し,それらを用いた移植研究の報告が散見されるが,移植細胞自体の発生学的根拠が明らかでないことが多い.われわれは,成体幹細胞である神経堤幹細胞に着目して研究を進めてきた.神経堤幹細胞は,成体の自家組織から採取が可能であるため,安全性が高く,倫理的・免疫学的問題を克服できる可能性が高く,将来の臨床応用が期待されている.本稿では,神経堤幹細胞についての最近の知見を解説し,再生医療への応用について概説する.

Lecture

拡散テンソルトラクトグラフィ

著者: 藤吉兼浩 ,   中村雅也 ,   山田雅之 ,   疋島啓吾 ,   北村和也 ,   辻収彦 ,   名越慈人 ,   向野雅彦 ,   百島祐貴 ,   加藤裕幸 ,   石井賢 ,   松本守雄 ,   千葉一裕 ,   岡野栄之 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.692 - P.699

はじめに

 核磁気共鳴像(MRI)は現代の医療において不可欠な検査法であり,その有用性は論を俟たない.MRIにおける応用技術の開発もとどまるところを知らず,最近ではfunctional MRIやMRS(magnetic resonance spectroscopy)が注目されている.水分子の拡散を利用したMRI全般を拡散MRI(diffusion MRI)といい,拡散運動を強調して画像化したものを拡散強調像(diffuison weighted MR imaging:以下DWI)という.DWIはいちはやく臨床応用された撮影法であるが,近年では拡散テンソルMRI(diffusion tensor MR imaging:以下DTI)や,拡散テンソルトラクトグラフィ(diffusion tensor tractography:以下DTT)と呼ばれる撮像法が注目され,世界中で研究がなされている.しかし整形外科領域において“拡散MRI”は相変わらず耳慣れない言葉であり,これを正確に理解している人は少数と思われる.そこで,本稿では特にDTTに焦点を絞り拡散MRIを解説し,われわれの最新の研究結果とあわせて概説する.

連載 小児の整形外科疾患をどう診るか?─実際にあった家族からの相談事例に答えて・15

ブラント病

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.700 - P.701

ブラント病

 小学6年生の男児の母です.小学3年生から少年野球チームに属し,ピッチャーをしていました.今年の夏8月に入り県大会前で練習量が増えた頃から右膝の痛みを訴え,次第に悪化し歩行も困難なほどになりました.近所の整形外科を受診し,レントゲン的には異常はないので使いすぎによる痛みだろうと言われ,練習を8月いっぱい休ませました.2学期までには痛みは軽快し,9月中旬の運動会では100メートル走も走り,野球の練習にも復帰しましたが,右足をかばってひきずるような歩き方が治らず,さらにこのころから右膝から下が曲がっていることに気がつきました.再び整形外科を受診し,右足がO脚変形しているので大学病院を受診するよう勧められ紹介状をもらいました.某大学病院で,レントゲンとMRIを撮ったところ,MRIで右足の骨端線の片側の色がおかしいことがわかり,骨端線に異常がでるブラント病ではないかとの診断を受けました.これからの成長期に骨がまっすぐに伸びず,だんだんO脚変形が進む可能性があるので,運動禁止はもちろん,体重をいっさいかけないで成長期が終わるまで,装具による免荷療法を勧められました.

 病気についてはきちんとした説明を受け理解はしたつもりですが,当人にとっては,これからの中学,高校時代をいっさい運動ができずに,不自由な装具をつけて過ごすのは,かなりの精神的負担になるはずで,現在とてもショックを受けている状態です.

 先生や装具士のかたも,「大変なことだと思うので,十分納得することが必要」とセカンドオピニオンをとることを勧めてくれました.

 もしブラント病という診断が正しい場合,

 (1)この免荷療法は唯一絶対の治療法なのか,

 (2)また精神的な負担を負ってまでやる効果があるものなのか,

 (3)将来の手術の見込みやその予後はどうなのか

 などを,息子と同じような症例を扱い,治療した経験が豊富な先生に伺いたいというのが,親子ともの希望です.

臨床経験

80歳以上の高齢者頚髄症に対する頚椎椎弓形成術の術後成績

著者: 泉文一郎 ,   住田忠幸 ,   真鍋英喜 ,   伊東祥介 ,   藤原靖 ,   中崎蔵人 ,   大田亮

ページ範囲:P.705 - P.708

 高齢者頚髄症の治療上の問題点を明らかにするために,当院で加療した80歳代(20例)と60歳代(19例)の患者を対象とし,術前後のJOAスコア,責任高位,既往症,術後合併症の有無について比較検討した.JOAスコアは80歳代が平均10.5点から13.1点(改善率40.5%)に,60歳代は12.8点から15.1点(改善率53.9%)に改善した.80歳代では90%の症例に合併症を有していたが,譫妄などの明らかな術後合併症はなかった.周術期管理を徹底すれば高齢者でも安全に手術が可能で,良好な結果が得られた.

高位脱臼股に対するKTプレートを用いた初回人工股関節全置換術についての検討

著者: 佐々木幹 ,   石井政次 ,   高木理彰 ,   川路博之 ,   浦山安広 ,   小林真司 ,   大楽勝之 ,   濱崎允

ページ範囲:P.709 - P.712

 高位脱臼股に対する人工股関節全置換術(THA)では,臼蓋の骨欠損が問題となるが,大きな移植骨では術後の圧潰を生じることがある.移植骨圧潰予防のため,KTプレートを用いて行った高位脱臼股に対する初回THA 29例30股(平均年齢57.2歳,平均観察期間2.3年)の短期成績を報告する.移植骨の被覆率,骨癒合,圧潰の有無,カップのlooseningを調査した.移植骨の被覆率は平均64.5%であり,全例で骨癒合を認め,圧潰を生じた例はなかった.1mm以下のradiolucent lineを2例に認めた.短期成績ではあるが,高位脱臼股に対する初回THAにKTプレートは有用と考えられる.

腓骨筋腱脱臼に対する上腓骨筋支帯の解剖学的修復術

著者: 高村昌樹 ,   奥田龍三 ,   石津恒彦 ,   田村竜一 ,   矢津匡也

ページ範囲:P.713 - P.718

 腓骨筋腱脱臼に対する上腓骨筋支帯修復術の術後成績を検討した.対象は腓骨筋腱脱臼に対して手術を行った14例14足(男性11足,女性3足,平均31歳)とした.経過観察期間は平均1年11カ月であった.手術所見より損傷形態を3型に分類し,解剖学的な上腓骨筋支帯修復術を行った.最終調査時,JOAスコア,AOFASスケールはいずれも平均99点であった.12例は疼痛が消失したが,スポーツ後の軽度の疼痛を2例に認めた.可動域制限や再脱臼は認めなかった.われわれの術式は新鮮および陳旧性の腓骨筋腱脱臼に有用であった.

症例報告

後方除圧後に腫瘤縮小を認めた歯突起後方偽腫瘍の1例

著者: 菅原敦 ,   村上秀樹 ,   吉田知史 ,   遠藤寛興 ,   佐藤和宏 ,   山崎健 ,   嶋村正

ページ範囲:P.719 - P.724

 除圧術のみで腫瘤が縮小した歯突起後方偽腫瘍の78歳の男性例を経験した.主訴は2年半前からの右上下肢のしびれ感,両上肢脱力感であった.単純X線像では環軸関節不安定性は認めず,MRI・CTMでは歯突起後方偽腫瘍による頚髄圧排像を呈した.後方除圧術で症状の改善を認め,経時的に腫瘤は縮小し脊髄の形態も改善した.術後の環軸椎の不安定性の出現も認めなかった.環軸関節不安定性のない本症の治療法には様々な報告があるが,除圧術のみでの治療も考慮されてよいことが示唆された.

脛骨遠位部に発生した外傷性骨軟骨腫の1例

著者: 大歳憲一 ,   堀川哲男 ,   菊池一郎 ,   粟野昇 ,   武田明

ページ範囲:P.725 - P.729

 足関節捻挫後,脛骨遠位に発生した外傷性骨軟骨腫の1例を経験した.症例は18歳の男性で,足関節捻挫後3カ月後に,脛骨遠位骨幹端部に腫瘍が発生した.腫瘍は骨間膜に沿って増大しており,腓骨との骨性架橋構造が認められた.病理組織学検査では,成熟した軟骨組織と幼若な骨組織が認められたが,その配列は不規則で,通常の骨軟骨腫で認められる成長軟骨帯類似の層構造は認められなかった.臨床経過と組織学的所見から,骨膜胚芽層内や骨膜付着部の幼若な細胞の軟骨化生が原因で発生した傍骨性骨軟骨異型増生(bizarre parosteal osteochondromatous proliferation;BPOP)と考えられた.

骨化を伴ったアキレス腱付着部断裂に対し骨付き膝蓋腱を用いて再建した1例

著者: 村田佳太郎 ,   印南健 ,   大塚一寛 ,   高尾昌人 ,   松下隆

ページ範囲:P.731 - P.734

 症例は49歳の女性で,他院で右アキレス腱炎の診断で4回のステロイド局注を施行された.その後,歩行時に疼痛が増悪したため当院を受診した.アキレス腱付着部の陥凹,MRIで骨化を伴う付着部断裂が認められた.脛骨粗面骨付き膝蓋腱を採取し,スクリューを用いてアキレス腱付着部の再建術を施行した.術後1年において可動域制限,疼痛,日常生活動作の障害は認めていない.

頚髄症に対する後方内視鏡下除圧術後に生じたC5麻痺の2例

著者: 木岡雅彦 ,   吉田宗人 ,   中川幸洋 ,   南出晃人 ,   河合将紀 ,   山田宏 ,   岩崎博 ,   遠藤徹 ,   中尾慎一

ページ範囲:P.735 - P.739

 頚髄症に対する内視鏡下除圧術(microendoscopic laminectomy:MEL法)後に生じたC5麻痺を2例経験した.症例1は76歳の男性で,C4-6までのMEL後にC5麻痺を発生した.症例2は63歳の男性で,C3-5のMEL後にC5麻痺を発生した.2例ともC5麻痺は進入側と同側に発生した.保存的治療により筋力は改善傾向である.多椎間除圧による脊髄の後方シフトに伴う神経根の牽引がC5麻痺の原因と考えられた.

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あとがき フリーアクセス

著者: 清水克時

ページ範囲:P.746 - P.746

 今月号の「視座」欄は,菅本一臣教授(阪大運動器バイオマテリアル学)が専門医制度の弊害について述べておられます.山は高きがゆえに尊からず.ひょろ長くて高いだけの専門は,ちょっとした地震や,嵐によってたちまち崩れてしまいます.裾野の広い富士山のような形が理想ではないかと思います.専門というのは静的なものではなく動的なものです.疾病構造の変化や,科学技術の進歩によって時代とともに変化しますし,また,文化の違いや国によっても変わるものです.制度によって守られることを期待するのでなく,専門の研鑽と同時に裾野を広げる努力を継続することが重要です.専門性の高さと裾野の広さは本来矛盾するものではありません.

 専門医制度というと理念も大事ですが,一方で,実質的であるべきです.同業者のあいだで互いに評価し,専門医の質を担保するためには大きな手間と経費が必要ですし,資格を取得したり,維持しようとする意欲を持続させるためには,専門医の資格に経済的な裏づけが必要です.理念だけが走っているだけの専門医制度は,か弱いものになってしまいます.専門医が有効に作用するには,資格に応分の報酬を伴う必要があると思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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