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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科44巻1号

2009年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第82回日本整形外科学会学術総会を開催するにあたって

著者: 岩本幸英

ページ範囲:P.2 - P.3

 第82回日本整形外科学会学術総会を,本年5月14日~17日の4日間,福岡市で開催させていただきます.会場は,博多湾に面した福岡国際会議場を中心としたエリアです.日本整形外科学会は,1926年の学会設立以来めざましい発展を遂げ,ますます大きな発展を遂げようとしています.近年における日本整形外科学会の会員数(および日整学術総会参加者)の動向は,2003年会員数21,106名(参加者5,015名),2004年21,507名(5,033名),2005年21,383名(6,068名),2006年21,258名(5,945名),2007年21,519名(6,757名),2008年21,860名(6,823名)と漸増傾向にあり,第82回の学術総会では,約7,000名の参加者が見込まれています.日整会の現在の繁栄を将来の飛躍につなぐ重要な時期に,学術総会の会長を務めさせていただくことを大変光栄に存じております.

 学会のメインテーマは,「日本整形外科学会のグローバル化と個性」とさせていただきました.メディアの発達により世界の情報が瞬時に入手され,人の行き来もボーダーレス化した現在,日整会は世界の整形外科医療に役割を果たすべき時代を迎えたと思います.国外の参加者を交え,このグローバル化という問題について話し合いたいと思います.幸い参加を呼びかけたSICOT(国際整形外科学会議),AAOS(米国整形外科学会),EFORT(欧州整形外科学会議),APOA(アジア太平洋整形外科学会議)のすべての組織が代表を送り,シンポジウム「整形外科学会のグローバル化」において意見を述べてくださることになりました.また,「医療のグローバル化」というシンポジウムも組まれています.グローバル化は重要ですが,一方ではその弊害として,各国の個性,独自の文化が失われることが多分野で懸念されています.整形外科の分野も例外ではありません.われわれは日本オリジナルの個性あふれる整形外科医療を見失わず,継承していくことが重要であり,この問題も,シンポジウム「わが国における整形外科医学・医療のidentity」など,プログラムの中身に反映させました.

誌上シンポジウム 整形外科における人工骨移植の現状と展望

緒言 フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.4 - P.4

 骨組織は,骨折の治癒現象に代表されるように,本来豊かな再生能力を有している.しかし,骨腫瘍の切除後や,重度の粉砕骨折などで生じた大きな骨欠損に対しては,自家骨では対応できず,人工骨を用いた骨組織の修復,再生が必要となる.また骨粗鬆症により脆弱化した骨の補強や,高齢者の骨折治癒の促進は,QOLを高めるのみならず,患者の社会復帰を促し,医療費や介護費の削減を導く.骨は力学的強度を必要とする組織であり,その再生には,まず骨形成細胞の足場としての良好な人工骨の開発が必要である.近年まで,アルミナ,ジルコニア,バイオグラス,ハイドロキシアパタイト,β-リン酸三カルシウム(β-TCP)など様々な素材が人工骨として使用されてきた.なかでも,ハイドロキシアパタイトは哺乳類の骨・歯の無機成分に類似しており,その生体親和性,骨伝導能からも人工骨として適している.したがって,1980年代から整形外科,歯科口腔外科領域において骨補てん剤としてハイドロキシアパタイト人工骨が使用され始めた.しかし当初のハイドロキシアパタイトは内部に有効な連通気孔構造を持たないため,内部に十分な骨新生が起こらなかった.細胞が十分通りうる大きさの気孔間連通孔と適度の初期強度を有する人工骨が理想とされ,近年,気孔間連通孔構造を有する新世代人工骨が開発された.一方,骨伝導能に優れ,骨への置換が比較的早いβ-TCPも,広く臨床使用されてきた.研究面では,これらの人工骨をスキャフォールドとして,骨髄幹細胞やBMP(骨形成蛋白)などの併用,血管の導入などにより骨再生をさらに促進させる試みがなされている.近い将来,これらハイブリッド人工骨を用いた骨の再生医療が可能になることが期待されている.本稿では,整形外科における人工骨移植の現状と将来展望について理解を深めるため,各領域でご活躍の先生方に執筆していただいた.最初に,占部先生には整形外科における骨移植全般の現状と動向について紹介していただいた.次に,香月先生,生越先生,橋本先生,松崎先生には,各々の専門領域別に人工骨による治療の実際を紹介していただいた.最後に,寿先生には,人工骨を用いた骨再生医療の現状と課題について解説していただいた.いずれも,人工骨に関する最新の知見を多く盛り込んだ内容になっており,整形外科医にとって多くの有益な情報を提供するものと信じている.

整形外科における骨移植の動向

著者: 占部憲 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.5 - P.8

 日本整形外科学会移植・再生医療委員会では5年ごとに整形外科移植に関するアンケート調査を行っている.本稿では2005年に行われた2000年から2004年の調査結果を過去3回の調査と比較し,現在の骨移植の動向を検討した.骨移植数は年々急速に増加していたが,自家骨移植数に変化はなく,人工骨移植数が急速に増加し,同種骨移植数の増加はわずかであった.人工骨移植,同種骨移植は人工関節手術で最も行われていた.同種骨の供給は不十分であり,全国的な骨採取・処理・保存・供給システムの設立が必要であると考えられた.

人工骨による手の外科治療

著者: 香月憲一

ページ範囲:P.9 - P.15

 手の外科領域では人工骨は内軟骨腫などの良性骨腫瘍の摘出後の骨欠損部の補てんや,骨粗鬆を有する患者の骨折部の補てん材料などとして使用されている.骨折では橈骨遠位端骨折での使用例が多く,最近では変形治癒骨折に対する楔開き型矯正骨切り術によって生じた骨欠損部の補てんにも利用されている.人工骨の種類や形状は様々であるので,各人工骨の特性をよく理解し,使用部位や用途により使い分けが必要である.人工骨の臨床応用の範囲は,コンピュータ支援手術の応用や,骨形成蛋白(BMP)の臨床応用により,今後ますます拡大されるものと予想される.

人工骨による骨腫瘍治療

著者: 生越章 ,   有泉高志 ,   川島寛之 ,   堀田哲夫 ,   遠藤直人

ページ範囲:P.17 - P.24

 良性骨腫瘍そう爬術後に人工骨移植を行うことで優れた臨床成績が報告されている.現在わが国で広く使用されている人工骨には,ハイドロキシアパタイト,骨ペースト,β-リン酸三カルシウム(β-TCP)などがある.各材料,さらには同じ材料でもメーカーや気孔率,気孔の連通性,表面形状によりその特性が異なり,自分の使用する材料の特性をよく知ることが重要である.筆者が好んで用いているβ-TCPは初期強度は弱いが吸収置換され,旺盛な骨伝導能をもつ優れた材料であり,骨腫瘍領域において優れた臨床成績の報告が多い.

人工骨によるリウマチ・関節外科治療

著者: 橋本淳 ,   南平昭豪 ,   平尾眞 ,   坪井秀規 ,   栗山幸治 ,   藤井昌一 ,   村瀬剛 ,   名井陽 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.25 - P.30

 関節リウマチの治療戦略は生物学的製剤の登場により大きく変化しつつある.それは,薬物療法の範囲にとどまらず,むしろリウマチ関節外科的治療の分野でこそ大きく変わりつつある.その中の一つの事例として,十分な疾患コントロールを行いつつ人工骨移植をうまく利用した手術の適応が広がったことが挙げられる.これによりこれまでに比較して高いゴールを目指した手術を行うことができるようになったが,このリウマチの手術治療戦略の変革をもたらしたもう一つの要因は,内部にまで迅速に骨形成が進む骨伝導に優れた全気孔連通ハイドロキシアパタイト多孔体の登場である.生物学的製剤もこの連通多孔体人工骨も同じ2003年に登場した.

人工骨における脊椎外科治療

著者: 松崎浩巳 ,   星野雅洋 ,   中島伸哉 ,   大森圭太

ページ範囲:P.31 - P.36

 主に脊椎骨折に対して筆者が現在ハイドロキシアパタイト(HA)を用いて行っている術式を中心に述べる.とくに椎体形成術についてその適応と注意点について言及し,インストゥルメンテーションの併用についても現況を述べる.骨粗鬆症例では椎弓根スクリューを強固に固定するためHA顆粒をスクリュー孔に充てんすべきである.また若年者の破裂骨折に対しても椎体形成術とインストゥルメンテーションを併用することにより,後方から対応できることを述べる.

セラミックス人工骨と自己間葉系幹細胞を用いての骨再生医療

著者: 寿典子 ,   大串始

ページ範囲:P.37 - P.41

 骨髄には間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells:MSC)と呼ばれる幹細胞が存在する.細胞培養という生体外の操作により,この間葉系幹細胞の増殖ならびに骨芽細胞へ分化が可能である.すなわち組織工学的手法を用いて細胞増殖・骨分化が制御可能である.この技術の確立により,骨移植へのアプローチに間葉系幹細胞を用いることが可能となった.われわれは患者自身,つまり自己の間葉系幹細胞から分化した骨芽細胞が産生する骨基質をその表面に有する人工骨(再生培養骨)を作製し,その再生培養骨を用いての種々の骨疾患治療を大学病院などとともに行っている.通常の骨移植では同種骨(他人の骨)が用いられることがあるが,果たして組織工学的技術による再生培養骨においても同種の細胞利用が可能であろうか.本稿では,自己ならびに同種細胞を用いての骨再生に焦点をあて,自己細胞の必要性につき論じる.

論述

頚髄症に対する除圧24時間後の手指運動機能は神経学的改善度の予後因子となる

著者: 細野昇 ,   牧野孝洋 ,   向井克容 ,   坂浦博伸 ,   三輪俊格 ,   冨士武史 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.43 - P.48

 圧迫性脊髄症48人96手と対照(腰椎手術患者)25人50手を対象に術前,術後4時間,24時間,48時間,1週間,2週間の6時点で15秒テストを行い回数の変化を見た.頚髄症ではそれぞれ26.7,29.7,35.0,35.1,36.2,37.2(回)と24時間までに急速に増加しており,24時間値は2週間値の94%に達していた.術後24時間で獲得される手指運動回数は最大獲得回数やJOAスコア獲得点数と有意に相関しており,神経学的回復の予後因子であった.対照群では術後4時間において一時的に回数が低下していたが,頚髄症でも軽症例になるほどこの傾向が強かった.

調査報告

運動器に関する疫学調査―南会津スタディ第3報:Roland-Morris Disability Questionnaire日本語版を用いた腰痛による日常生活への支障度の検討

著者: 大谷晃司 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一 ,   矢吹省司 ,   五十嵐環 ,   恩田啓 ,   山内一矢 ,   二階堂琢也 ,   竹谷内克彰 ,   高橋一朗 ,   立原久義 ,   高山文治 ,   渡辺和之

ページ範囲:P.49 - P.54

 本報告では,地域住民において,どのような腰痛が日常生活動作(ADL)に影響を与えているのかについて検討した.対象は,同年代の人口の21.5%に当たる地域住民1,862名である(最多年代層は70歳代).腰痛によるADLへの支障の程度は,「全く支障ない」,「少し支障がある」,および「大いに支障がある」の3段階に分類した.腰痛の内容は,Roland-Morris Disability Questionnaire日本語版(以下,RDQ)の24項目の質問で評価した.その結果,日常生活に影響を来す腰痛とは,移動能力や腰椎の運動機能へ影響を及ぼす腰痛であることが明らかになった.この事実は,腰痛治療におけるADL障害の改善とは,疼痛管理のみでなく,移動や腰椎の運動機能の改善にあることを示唆している.

総説

神経因性疼痛とグリア細胞

著者: 井上和秀

ページ範囲:P.57 - P.64

 神経因性疼痛発症にミクログリアおよびアストロサイトは重要な役割を演じている.各グリア細胞表面の機能分子には,P2X4,P2X7,P2Y12受容体などのATP受容体サブタイプ,免疫系受容体,さらにはケモカイン受容体,フラクタルカイン受容体,toll-like receptor 4(TLR-4),カンナビノイドCB2受容体などがある.これらがどのように役割分担しているのかについてはいまだ不明であり,相互に連関するのか,あるいはそれぞれで機能するのかについては今後の研究により明らかにされなければならない.グリア細胞内シグナリングには各種mitogen-activated protein kinase(MAPK)が関与すると考えられ,それらの機能としては,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)や炎症性サイトカインの放出が神経因性疼痛発症に重要と考えられる.

境界領域/知っておきたい

ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針

著者: 名井陽 ,   松山晃文

ページ範囲:P.66 - P.69

■はじめに―再生医療の発展と指針の意義

 近年,再生医療による重篤な疾病の治療への期待が高まっている.整形外科領域でも治療の困難な軟骨欠損や難治性骨欠損などに対する治療法として,再生医療への期待は大きい.しかし,幹細胞には科学的にみても医学的にみてもいまだ不明な点が多く,体外増幅による細胞の癌化,未知ウイルスなど感染症伝播の可能性など安全性の問題がすべて解決されたわけではない.また,細胞培養そのものは医学研究の心得が多少ある者にとって決して難しい手技ではないだけに,本当に安全に,そして適切にヒト幹細胞を用いた臨床研究が適正に実施され,再生医療が産業あるいは医療技術として定着するためには,研究者および研究機関が遵守すべき事項について一定のルール作りが必要である.このような事情から「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/iryousaisei01/pdf/01.pdf)が策定された.本指針において,幹細胞の対象はヒト体性幹細胞に限定され,胚性幹細胞は指針の対象とはされていない.本指針は,平成18年7月3日に厚生労働大臣告示として公布され,同年9月1日から施行されている.

連載 小児の整形外科疾患をどう診るか?―実際にあった家族からの相談事例に答えて・21

成長痛

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.70 - P.71

相談例「成長痛」

 8歳の男の子の足の痛みについて質問します.

 8歳の男の子ですが,2カ月ほど前からか足を少しひきずって歩くことがあり,本人に聞くと足が痛いといいます.常にではなく,またひねったりしたわけでもないようです.その以前より親の目から見て走り方がおかしく見えたので,某国立病院整形外科を受診し,腰や足など7カ所レントゲンをとった結果,骨に異常はなく整形側から原因はみあたらないといわれ,気になるのならあとは小児科でと言われました.

 幼稚園の頃から歩き方がすこしおかしく,園の行事で2キロほど歩いたときなど,翌日から3日ほど筋肉痛でまともに歩けなくなったこともありました.また,ひざの痛みはよく訴え,心配になり血液検査なども受けましたが異常はなく,成長痛だろうと言われました.

 幼稚園のころはまだ成長段階なのかと思っていましたが,8歳になった今も症状があることから,今後もっと悪くなっていくのではないかと心配になります.

医者も知りたい【医者のはなし】・32

蘭学の華を咲かせた医師 杉田玄白(1733-1817)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.72 - P.75

■まえがき

 今回は有名な杉田玄白を書いてみたい.玄白のことは,有名な歴史家や学者が書いているが,私の友人で,福岡記念病院院長で脳外科医の高橋伸明氏の著書「杉田玄白探訪」の中に,杉田家は「隠れキリシタン」であったと書かれている.この根拠は,高橋氏の奥様のご出身が因幡(鳥取県)の田中家で,そこに杉田玄白の娘・八百が嫁いでいて,高橋氏は田中家が「隠れキリシタン」であり,また杉田家もそうである証拠を多く発見され,『解体新書』の表紙の絵を見ても「隠れキリシタン」であることがわかると著書の中に述べられている.また2006年5月に大分県中津市で開催された日本医史学会で,高橋氏は杉田玄白が「隠れキリシタン」であったことを発表された.

臨床経験

胸腰椎破裂骨折に対する経皮的椎弓根スクリュー挿入システムSextant®を用いたtemporary fixation without fusion法による低侵襲手術の治療経験

著者: 高見正成 ,   山田宏 ,   吉田宗人 ,   納田和博 ,   延與良夫

ページ範囲:P.79 - P.86

 われわれはAO分類typeAの胸腰椎破裂骨折に対し,temporary fixation without fusionの概念に基づき,経皮的椎弓根スクリュー挿入(Sextant)と椎体形成術(vertebroplasty)を用いた低侵襲手術による脊椎固定術を行った.本法は術後早期の離床,通院加療への移行を可能とし,骨癒合後の運動制限・遺残腰痛も認めなかった.経過観察中,内固定材料の破損はなく,矯正損失も許容範囲内であった.また,抜釘を行うことによりmobile segmentを温存しうる点で,脊椎破裂骨折の治療として理想的と考えられた.

中足部骨折の一部分としての舟状骨骨折治療の小経験

著者: 大島卓也 ,   藤井唯誌 ,   田中康仁 ,   高倉義典

ページ範囲:P.87 - P.92

 舟状骨を含む中足部骨折の5例に対し,マルチスライスCTを撮影し病態を検討した.マルチスライスCTにより,細部にいたる骨折の状況が把握でき,舟状骨のほか多部位の中足部骨折を合併した複合損傷として診断が可能となった.われわれは今回,複合損傷の位置により,内側列集中型と均等分散型に分類した.また,この2つの治療方法は分けて考えるべきであり,足部内転および短縮変形の予防として,補助的ピン固定によるLisfranc-Chopart関節間・仮固定が有用であった.本症例の治療は全例に手術加療を施行し,短期調査ではあるが足部変形や足長の変化はなく歩行は可能となった.中足部骨折の中には,今回のように,X線像のみでは十分な術前計画を立てることが困難であったことから,マルチスライスCTによる詳細な検討が不可欠なものもあると考えた.

後頭骨螺子固定システムを用いた後頭頚・胸椎固定術の手術成績

著者: 中村潤一郎 ,   山田勝崇 ,   三ッ木直人 ,   石田航 ,   上杉昌章 ,   青田洋一 ,   齊藤知行

ページ範囲:P.93 - P.97

 後頭骨頚・胸椎固定術を施行した17例,平均63.1歳の手術成績を調査した.疾患は関節リウマチ(RA)12例,腫瘍2例,歯突起骨2例,外傷1例であった.RA例は半数がRanawat分類で1段階以上,他はJOAスコア10.7点が12.3点に改善,後頭部痛VASは8.9点が2.9点になった.合併症は深部感染2例,採骨部感染1例,嚥下困難1例が生じた.後頭骨螺子の脱転1例,弛みを3例に認めた.脱転した螺子は円筒形であり,bi-cortical screwingに加え,手ぶれなく円筒状に骨孔を作成することが重要である.

症例報告

Bone transport後に感染が再発し高気圧酸素療法を併用した脛骨感染性偽関節の1例

著者: 大野一幸 ,   小橋潤己 ,   世古宗仁 ,   行方雅人 ,   篠田経博 ,   井内良 ,   清水義友 ,   樋口周久

ページ範囲:P.99 - P.103

 症例は21歳の男性で,Gustilo type IIIBの下腿開放骨折後,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染性偽関節となった.3回の掻爬と抗菌含有セメントビーズ挿入で感染は沈静化したが,約6cmの骨欠損が生じたため,bone transportを行った.その後,偽関節部分で緑膿菌による感染が再発したため,再掻爬し,創外固定器で固定したうえで,高気圧酸素療法を併用した.再発後1年の現在,骨癒合は得られ,感染徴候はみられない.感染性偽関節のbone transport後の再発例に対して,高気圧酸素療法は有効な治療法であった.

変形性胸椎症による胸髄症に対し,直接的前方除圧を行わず後方固定術のみで対処した1例

著者: 成瀬隆裕 ,   簗瀬誠 ,   堀江裕美子 ,   松山幸弘

ページ範囲:P.105 - P.110

 症例は,変形性胸椎症に伴うTh7/8レベル椎体後方骨棘による胸髄症症例である.骨棘は軽微なものであり,胸髄変性の重症度との間に解離があり,病態の確定診断に難渋した.治療においては,これまで筆者らは胸椎後縦靱帯骨化症に対して後方矯正除圧固定術のみを行い良好な結果を得てきたことを踏まえ,本症例をbeak-typeの胸椎後縦靭帯骨化症に準ずる病態であるとの判断に基づき同様の術式で対処し,良好な結果を得たので報告する.

書評

『変形性膝関節症―病態と保存療法』―古賀良生(編) フリーアクセス

著者: 小林晶

ページ範囲:P.55 - P.55

 わが国の高齢化は少子化とともに常に議論の中心にあり,政治もこれをめぐって甲論乙駁が続いて果てしない.運動器疾患も例外ではなく,変形性膝関節症と脊柱管狭窄症が中高年を悩ますものとして,近年話題を賑わしている.

 今回,古賀良生先生が編集された『変形性膝関節症―病態と保存療法』が出版されたのは,時宜を得たものと言える.古賀先生は周知のように,長年にわたり新潟大学時代から現在のこばり病院まで膝関節疾患の研究,治療に従事された碩学である.これまで汗牛充棟の業績を積み重ねられ,その集大成ともいえる内容豊富な著書である.

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あとがき フリーアクセス

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.118 - P.118

 新年明けましておめでとうございます.今年こそ,医学会・医療界にとって良い年でありますことを願っております.しかし,昨年を振り返ってみますと,本当に多難な1年でした.地球規模では,温暖化現象などの環境問題や頻発した大地震などの自然災害,石油高騰によるエネルギー問題,食の安全と食糧危機問題,米国のサブプライム問題を引き金に世界中に広がった金融・経済危機とそれに続く大企業の経営危機・倒産,世界的に多発したテロと戦争,新型インフルエンザ流行の恐怖,等々…….米国による一極支配が終焉を迎える中,その判断はともあれ,世界的に統制がとれずに地球規模での危機が迫っている予感がいたします.わが国でも,アメリカ経済不況の影響による経営危機,大企業の経営悪化と就職難,政治不信,教育崩壊,無差別殺人,小児虐待,大麻問題と倫理面の欠如,少子高齢化,等々…….中でも政治不信はひどいものです.官僚がやり玉に挙げられてきましたが,本当は政治が,政治家が最も重症のような気がいたします.

 さて,医学会,医療界ではどのような1年であったでしょうか.医療界も散々な1年であったと思います.医療崩壊と地域医療の壊滅,医師不足,産科・小児・救急医療崩壊,医療過誤多発,病院経営破綻,母体たらい回し事件(これはマスコミの表現であり,本当は「入院不可能」とでも言うべきです),年金制度崩壊,後期高齢者医療混乱,等々.そして極めつけは,「医師は社会的常識がかなり欠落している人が多い」と全国知事会議で総理大臣自らが医師に対して発言した言葉です.全く言語道断であり,すべての医師が怒り心頭と思います.日本医学会も早速に謝罪と訂正を申し入れ,全国医学部長病院長会議も総理大臣宛に抗議文を提出しました.「こんな日本に誰がした……」と本当に言いたいところです.でも,新年ですから明るい話題も載せましょう.北京オリンピックでの日本人の活躍,ノーベル物理学賞・化学賞の受賞,世界中を駆けめぐったiPS細胞,等々.少しは希望が持てる感じもいたします.そして,政府が行った施策は,今年度から全国700名弱の医学部定員増,産科・小児科・救急・女性医師優遇措置,地域医療活性化政策,救急体制構築,等々です.また,優れたわが国の基礎医学の重点化,集中化を図るためにグローバルCOEプログラムや幾つかの拠点形成が成されました.そして,その基礎医学の成果を臨床応用に向かわせるための施策としてスーパー特区も選定されました.日本の医学・医療が世界と戦うための体制作りかと思いますが,アメリカと比べれば規模が全く違います.アメリカのように莫大な研究費の支援や人的・物的支援を行わない限り,あっという間に追い越されてしまうはずです.政府は,ぜひとも医学・医療に対して国家的戦力を立て,世界と戦えるだけの支援を行うべきです.日本の基礎医学は世界と十分戦える力を持っています.知恵を持っています.今年こそ,日本の医学・医療の夜明けの年としたいものです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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