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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科44巻12号

2009年12月発行

雑誌目次

視座

「医局講座教育制度」の素晴らしさ

著者: 稲垣克記

ページ範囲:P.1191 - P.1192

 今から25年前の昭和59年,私は大学の整形外科医局に入局した.と同時に大学院試験を受けて大学院にも進学した.医局に入局するには何の契約書もなく,サインをする必要もなかった.なんて自由なんだろうと感じたのを思い出す.

 医局講座制がわが国につくられたのは明治6年,相良知安と長与専齋の大変なご努力によりドイツ医学が日本の医療教育に導入された.現在,医局は病院の診療科のことで厚生労働省の管轄であり,講座は大学医学部のシステムで文部科学省の管轄である.しかし日本では講座と医局が「医局」や「教室」という名のもとに一体となっているのが現状である.医局は教育,研究,診療の3本の柱で運営されており,さらに最も大変な仕事に人事がある.医局はまず学生の教育はもとより,若い医局員に幅の広い教育と専門分野の教育をしなければならない.現在の医学教育は知識だけを詰め込むことではすまされない.観察力や思考力さらには判断力が求められる.特に若い外科医には,五感をいかに働かせて観察し自ら考えて判断するという教育が非常に重要である.

論述

変形性股関節症における股関節痛の検討:疼痛領域の多様性

著者: 森本忠嗣 ,   重松正森 ,   園畑素樹 ,   馬渡正明 ,   佛淵孝夫

ページ範囲:P.1193 - P.1195

 初回人工股関節置換術を行った変形性股関節症138股(男:女=24:114,平均年齢62歳)を対象に股関節由来の疼痛領域を調査した.疼痛領域は鼡径部67%,股関節側方61%,殿部54%と股関節周囲で99%を占め,大腿部(大腿近位1/3から膝蓋骨高位)16%,下腿部7%であった(複数回答を含む).鼡径部痛を訴えない症例は33%に及び,また,変形性股関節症の固有疼痛領域を同定できず,本症の病態の多様性を反映していた.下腿部の疼痛は7%に認められ,腰椎疾患との鑑別の重要性が示唆された.

頚部神経根症に対する斜角筋間ブロックの除痛効果と頚椎に由来した肩甲帯部痛と前胸部痛のメカニズムの検討

著者: 村田泰章 ,   久保田元也 ,   金谷幸一 ,   和田啓義 ,   和田圭司 ,   柴正弘 ,   八田哲 ,   加藤義治

ページ範囲:P.1197 - P.1201

目的:頚椎由来の肩甲帯部や前胸部の痛み(関連痛)の伝達経路を調べることである.対象と方法:頚部神経根症患者に対し斜角筋間ブロック(以下IBPB)を行った.結果:神経根性の上肢の痛みは,IBPB5分後と7日後でIBPB前と比べ有意に低いvisual analogue scale(VAS)値を示した.関連痛は,星状神経節までブロックされていた患者のほうがブロックされていない患者より,IBPB5分後で有意に低いVAS値を示した.結語:関連痛の伝達経路は,交感神経幹を含むと考えられた.最も頭側に存在するT1やT2の白交通枝,およびT1やT2脊髄神経根が関連痛の経路と考えられた.

線維筋痛症とchronic widespread pain(CWP)・不全型CWPの治療成績の比較

著者: 戸田克広

ページ範囲:P.1203 - P.1207

 3カ月以上治療を行った線維筋痛症(FM)患者34人とchronic widespread pain(CWP)・不全型CWP患者18人の治療成績を調べた.疼痛が著減し治療を終了した患者を治癒とみなした.初診時の疼痛を100とすると疼痛が30以下になった患者を著効,31から90以下になった患者を有効とみなした.FM患者の治療成績は治癒5人,著効4人,有効17人,不変・悪化8人だった.CWP・不全型CWP患者の治療成績は治癒6人,著効3人,有効7人,不変・悪化2人だった.有意差はないが,CWP・不全型CWPのほうが治療成績がよい傾向にあった.

特別寄稿

リウマチの治療―50年の歩み

著者: 七川歓次

ページ範囲:P.1209 - P.1217

 わが国が本格的なリウマチ病研究を始めたのは,昭和28年(1953)に清水源一郎教授(大阪大学)を班長とする「リウマチ,特にリウマチ熱およびリウマチ様関節炎の研究」の文部省総合班研究が発足した時である.その研究成績は,昭和30年(1955)に大阪大学で公開発表され,後に清水教授編集による単行本『リウマチ―新しい考え方と治療』32)が刊行されている(図1).これは日本で最も古いリウマチの単行本である.

 これという治療法もなかった関節リウマチ(RA)の独創的な外科療法を世界で初めて開発し(1947),この難病の〈治療の窓〉を開けた清水教授の功績は正しく伝えられなければならない(表1).

最新基礎科学/知っておきたい

コラーゲン架橋

著者: 斎藤充 ,   丸毛啓史

ページ範囲:P.1218 - P.1224

■はじめに

 コラーゲン架橋とは,コラーゲンの分子間をつなぎ止める構造体(共有結合)のことである.コラーゲン架橋に関する研究は,本邦においても30年以上前に整形外科医を中心に盛んに基礎研究が行われていた.しかし,当時は数あるコラーゲン架橋のうち一部の構造体のみしか同定されていなかった.このためコラーゲン架橋の生物学的な機能の解明は進まず,この分野の研究は廃れてしまった.しかし,その後,成熟型のピリジノリン架橋や,老化型架橋である最終糖化/酸化生成物(advanced glycation end products;AGEs)といった架橋構造体が同定され,コラーゲンにおける架橋形成の生物学的意義が次々と明らかにされ,臨床につながる基礎研究として新たな時代を迎えるに至っている18).そこで,本稿では,コラーゲン架橋の代表的機能である骨強度規定因子(骨質因子)としての役割と,その臨床的意義について述べたい.

連載 手術部位感染の基本・9

SSIサーベイランス

著者: 小林美奈子 ,   毛利靖彦 ,   大北喜基 ,   楠正人

ページ範囲:P.1226 - P.1229

SSIサーベイランスとは

 サーベイランスは「特定の疾患や出来事についての発生分布や原因に関するデータを収集,統合,分析する組織的な手法であり,結果を改善することができる人々に必要な情報を提供できることを目的とする」と定義されている.手術部位感染(SSI)サーベイランスはSSI発生に関するデータを収集し,感染率の計算など解析を行って,その結果を現場にフィードバックする活動である.サーベイランス自体は定義上ここまでであるが,現場ではそれに基づいて対策を施し,さらにサーベイランスを継続する.そして究極的には感染率の低下という結果を得るところまでを含めてサーベイランスと考えたほうが妥当である.

医者も知りたい【医者のはなし】・37

新宮涼庭(1787-1854)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1230 - P.1233

■はじめに

 新宮凉庭(しんぐうりょうてい)は,江戸後期の天明7年(1787),丹後に生れた蘭方医学者である.凉庭は通称で,初めは凉亭と書いていた.名は碩,号を駆豎斎・鬼国山人・順正主人などと称した.彼は最初,伯父の有馬涼築に漢方医学を学ぶが,蘭方医を志したために文化10年(1813)から長崎で,吉雄権之助(吉雄耕牛の息子)の塾にとう留して,オランダ商館医フェールケと次の商館医バティに師事して蘭方医学を習得した.5年間長崎に滞在して文政元年(1818)に帰郷し,翌年の文政2年(1819),京都東山南禅寺近くに開業,20年後の天保10年(1839),医学校と社交サロンを兼ねた順正書院を造り,多くの後輩医生を教育し,輩出した.彼の経営は成功し,理財家として盛岡藩と越前藩の財政を立て直した.また故郷田辺藩にも多額の金子を調達し,過去の恩義に報いている.跡継ぎの3人の優秀な息子たちと多くに弟子たちに見守られて,嘉永7年(1854)1月9日に68年間の生涯を終えた.彼の青少年期の家は貧困であり,士分でもなかった.当時,士農工商の身分は歴然としており,彼はすべてを自覚して藩医にも典医にも属さない,己の力で生きていくというプライドを持った処士の医師として終生を貫き通した.「予,事業を成す所以の者は,堪忍力と勉強力に在るのみ」と「鬼国先生言行録」に述べている.

臨床経験

第5腰椎神経根椎間孔外障害のX線像の特徴―Far-out症候群と外側型ヘルニアの対比

著者: 伊藤圭吾 ,   湯川泰紹 ,   堀江裕美子 ,   中島宏彰 ,   町野正明 ,   加藤文彦

ページ範囲:P.1237 - P.1241

 腰部根性疼痛の原因として,腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症がよくみられる疾患である.その他にも第5腰椎(以下,L5)椎間孔外側障害があり,見逃されやすい疾患として報告されている.L5椎間孔外側障害を生じるものとして,L5/仙椎間外側型ヘルニア(以下,L5/S L-LDH)やFar-out症候群(以下,FOS)などが挙げられる.今回,L5/S L-LDHを対照群として比較することにより,変性側弯によるFOSの特徴についてX線画像〔L5横突起-仙骨翼間の距離(T-A距離),およびL4傾斜角,L5傾斜角,L1-S1 Cobb角〕を中心に検討した.FOSの最大の特徴としてはT-A距離3mm以下だけでなく,症状側にL5椎体が傾き,またそれだけでなくL1椎体は代償性に反対側に傾く傾向であった.

頚椎症性脊髄症における硬膜管・脊髄面積の動的変化―Multi detector-row CTを用いた機能撮影

著者: 町野正明 ,   湯川泰紹 ,   伊藤圭吾 ,   中島宏彰 ,   加藤文彦

ページ範囲:P.1243 - P.1248

 頚椎症性脊髄症(以下CSM)の発症原因の一つである動的因子の関与をmulti detector-row CT(以下MDCT)を用いて検討した.対象はCSM患者100例である.脊髄造影後に頚椎前屈位と後屈位でMDCTを撮影し,横断像における硬膜管と脊髄の面積を測定した.C3/4以下C7/Th1高位でほとんどの症例で後屈時に硬膜管と脊髄面積が減少し,特にその変化はC5/6に著明であった.CSMの診療においては動的因子を考慮すべきであり,その際MDCTによる動態撮影は脊髄の動的変化を詳細に把握できる有用な検査である.

後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)において椎間を持ち上げすぎると隣接椎間障害を来す(第2報)―棘突起プレートを用いたPLIFと椎弓根スクリューを用いたPLIFの比較

著者: 海渡貴司 ,   細野昇 ,   冨士武史 ,   牧野孝洋 ,   米延策雄

ページ範囲:P.1249 - P.1256

 腰椎固定術後の隣接椎間障害の危険因子を求めるため,第4腰椎(L4)変性すべり症に対してL4/5後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)を施行し2年以上追跡できた130名〔棘突起プレートを用いた45名(LA群)と椎弓根スクリューを使用した85名(PS群)〕を対象としL3/4の変化を調べた.両群においてケージによるL4/5椎間持ち上げが大きいほど隣接椎間障害を生じやすかった.また隣接椎間障害はLA群で2%,PS群で15%とLA群で有意に少なかったが,LA群においてはケージの沈下によって持ち上げ距離が消失することが原因と考えられた.

環軸関節に起因する急性頚部痛

著者: 小林孝 ,   今野則和 ,   野口英明 ,   石川慶紀 ,   阿部栄二

ページ範囲:P.1257 - P.1262

 2004年3月から2008年3月に受診した急性頚部痛27例に環軸関節穿刺と抗生剤あるいは局所麻酔剤の環軸関節内注射を行った.関節液が採取されれば顕微鏡検査を行った.対象は27例で平均75.9歳だった.CTでは3例に石灰化がなく,22例で横靱帯内に石灰化を認め,2例でC2の椎体前方に石灰化を認めた.VASスコアは,穿刺前平均81.9mmが穿刺30分後には平均35.6mmと軽快した(p<0.001).16例で関節液を採取でき,10例でcalcium pryophosphate dihydrate(CPPD)結晶が認められた.高齢者の急性頚部痛の一因として環軸関節炎による可能性が示唆された.

寛骨臼回転骨切り術後の人工股関節全置換術

著者: 金井宏幸 ,   佐々木哲也 ,   滝田泰人 ,   塩野寛大 ,   宮本英明 ,   高柴賢一郎

ページ範囲:P.1263 - P.1267

 寛骨臼回転骨切り術後に人工股関節全置換術を要した8関節を対象にJOAスコア,X線およびCT所見,術中所見について調査した.JOAスコアは術前平均37点が調査時平均82点に改善したが,可動域制限は残存した.寛骨臼前方に骨棘が存在した例が多く,大腿骨との骨性インピンジメントを認め骨棘切除を要した.一部では寛骨臼の前壁が欠損している例も存在した.臼蓋コンポーネントを適切な位置に設置するためには,CTでの術前計画が有用である.寛骨臼骨棘の適切な切除が重要である.

腰椎後方内視鏡手術における閉鎖式ドレーン留置についての前向き調査

著者: 中川幸洋 ,   吉田宗人 ,   川上守 ,   安藤宗治 ,   山田宏 ,   南出晃人 ,   麻殖生和博 ,   河合将紀 ,   岩﨑博 ,   延與良夫 ,   岡田基宏 ,   遠藤徹 ,   中尾慎一

ページ範囲:P.1269 - P.1274

 腰椎内視鏡手術後は,血腫予防として術後ドレーン留置が推奨されているものの,ドレーンに関係するトラブルをしばしば経験する.しかしその現状についての報告はない.そこで今回,腰椎内視鏡手術後のドレーン留置にまつわる諸問題やマイナーな愁訴なども含めた前向き研究を行った.腰椎内視鏡手術(MED)65例,従来のオープン手術(Open)45例につき無作為にシリコン製(S群),あるいは塩化ビニル製(P群)チューブを割り当て,ドレーンチューブ抜去前後の腰部違和感,創部痛,腰痛,下肢痛のVAS値を測定するとともに,ドレーンチューブの留置不良例,ドレナージ不良例などの状況を調査した.MED(S群)31例,MED(P群)34例,Open(S群)20例,Open(P群)25例を検討した結果,内視鏡手術では従来法に比し,ドレーン留置不良や誤抜去が高率に認められた.またドレーンチューブそのものは創部の疼痛や違和感の原因になりうるが,早期離床を行う内視鏡手術後ではさらに腰痛や下肢痛の原因にもなりうることが示された.愁訴に影響すると思われたドレーンチューブの材質については,シリコン製と塩化ビニル製の間では統計学的有意差は認めなかった.

症例報告

特発性脊髄ヘルニアの2例

著者: 鈴木英嗣 ,   河内敏行 ,   石突正文

ページ範囲:P.1275 - P.1279

 胸椎に発生した特発性脊髄ヘルニアを2例経験した.2例とも2~3年の経過で脊髄障害が進行し,1例はBrown-Séquard症候群を呈していた.画像所見では脊髄の前方への偏位を認めていた.いずれも術中所見で二重硬膜を形成しており,その内層の欠損孔から脊髄が脱出していた.ヘルニア孔を拡大し,短期の術後経過は良好である.中高年で胸椎レベルでの緩徐進行性の脊髄障害を呈している場合には脊髄ヘルニアも念頭に置き,早期に診断・外科的治療を行うことが良好な成績を得るために重要と考えられた.

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あとがき フリーアクセス

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.1286 - P.1286

 夏から秋にかけて,局地的な集中豪雨や,大きな台風などが来て,これらの異常気象は地球温暖化のためではないかと多くの人たちが考えています.世界的にも,環境汚染予防,太陽光発電や電気自動車などクリーンエネルギーをどうやって効率よく得るかが大きな話題です.国内で政権を担当する政党が民主党に変わりましたが,多くのことがいまだ不確定です.八ツ場ダムの工事中止が話題になっています.最終的にどのような治水・利水を行うことで問題を解決するかは手腕が問われるところです.少しでも良い世の中になってほしいものです.

 今月号の「視座」で,昭和大学教授の稲垣克記先生が,『「医局講座教育制度」の素晴らしさ』を書いておられます.医局制度による卒後教育には私も大賛成です.国内の多くの病院の中で,整形外科の全ての領域を一つの病院で十分研修できる病院は多くないと思います.各病院を回り,たくさんの先輩や後輩と一緒に仕事をして,それぞれの場所で特徴ある疾患や治療法を学び,よいところを身につけていくローテーションの研修の素晴らしさは,人との出会いという点でも一カ所の病院での研修に勝る気がします.各医局間での交換研修などの交流があるともっと素晴らしい研修ができるのではないかと思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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