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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科44巻3号

2009年03月発行

雑誌目次

視座

日本の臨床研究――今昔と将来

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.239 - P.240

 一流国際誌の掲載論文数では基礎研究で世界4位と健闘する日本が,臨床研究では14位に急落してしまう2).欧米勢は「日本の臨床医は着眼点は良いが,それを臨床研究で検証するのが不得手」と心得ており,日本の発想を密輸しさっと臨床試験を仕上げ知らぬ顔で一流誌に出す,とはある脳外科医の直話である.日本の貴重な臨床的英知が横取りされるのは国辱ものであろう.そのくせ,欧米の診療指針追従がevidence-based medicine(EBM)に大事だとされる.もっともEBMの原義は,臨床経験を踏まえて実証的根拠の可否を吟味し個別の臨床判断を下すことであり4),日本で横行する「EBM=ガイドライン遵守」という曲解は,医療費削減を狙う下心によるものらしい3)

 他方,海外の教科書にも載る重要な薬が一向に日本で使えない状況もあり,これが抗癌剤だと生命予後に直結するのでやっと問題視され出した.世界同時に治験を行い承認を得る国際共同治験が主流になる中,日本の国際共同治験参加件数は世界60位前後で,パキスタンやインドネシア並みである.

論述

大腿骨近位部骨折後の日常生活動作(ADL)の改善と居住場所に対する検討

著者: 菅野伸樹 ,   後藤あや ,   安村誠司 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.241 - P.246

 本研究の目的は,高齢者の大腿骨近位部骨折手術後における,ADLの改善状況とそれに影響を与える要因を明らかにすること,そして日常生活動作(ADL)の改善と居住場所について前向きに調査することである.分析対象の67名を分析した結果,Barthel indexの得点が一定の値となる時期は受傷後3カ月だった.ADLの改善に良い影響を与える要因は,年齢が若いこと,認知機能に障害がないこと,そして手術後に起立と歩行を獲得するまでの期間が短いことであった.また,受傷1年後に受傷前のADLと同等の状態に改善することは,自宅での居住を可能にすることと関連していると考えられた.

脊椎圧迫骨折の保存療法後に新たな圧迫骨折が生じる因子の解析

著者: 阿部博 ,   武井寛 ,   橋本淳一 ,   杉田誠 ,   古川孝志 ,   吉岡信弥

ページ範囲:P.247 - P.249

 骨粗鬆性脊椎圧迫骨折の保存療法後に,新規圧迫骨折を生じさせる因子について検討した.初回受傷機転が非転倒であること,損傷椎体に後壁損傷を認めること,ビスフォスフォネート製剤の服用をしないことが新たな圧迫骨折発生の危険因子と考えられた.

同一高位腰椎再手術例の成績と合併症

著者: 牧野孝洋 ,   細野昇 ,   三輪俊格 ,   向井克容 ,   内田良平 ,   冨士武史

ページ範囲:P.251 - P.255

 腰椎後方手術後の同一高位再狭窄に対し後方より再手術を行った41例(男28,女13,63.7歳)の成績を調査した.JOAスコア改善率は53.1%で,ヘルニア群では61.4%,狭窄群45.8%,不安定群45.0%であり,ヘルニア群のなかでも初回再脱出ヘルニアは74.6%と他と比べて有意に良好な成績であった.前回手術から今回手術までの期間や罹病期間と改善率に相関関係はなかった.合併症は41.5%で認められ,特に髄液漏は31.7%に認められた.手術回数が増えるほど合併症発生率は高かった.

手術手技/私のくふう

フリーハンドによる頚椎椎弓根スクリュー刺入のための条件―解剖学的検討

著者: 茶薗昌明 ,   曽雌茂 ,   井上雄 ,   中村陽介 ,   篠原光 ,   丸毛啓史

ページ範囲:P.257 - P.262

 頚椎椎弓根スクリュー(CPS)を安全に刺入するために解剖学的に詳細に検討された報告は少ない.今回,椎弓根軸角(PTA)や椎弓根横径(PD)がフリーハンド法(F法)によるCPS刺入精度に及ぼす影響について検討した.10体の頚椎椎骨モデルのCT撮影を行い,PTA,PDを計測した後にC3~C7の椎弓根に100本のCPS(3.5mm径)をF法で刺入した.スクリュー刺入後にCTを再撮影し,CPS逸脱の程度(Grade0~3)について調査した.本研究の結果からCPSを安全に刺入するための解剖学的条件はPD:6mm以上またはPTA:35~40°が該当した.これらの知見はCPSを安全に刺入するための指標になり得ると考える.

調査報告

勤労者における仕事に支障を来す腰痛の関連要因の探索的検討

著者: 松平浩 ,   町田秀人 ,   小西宏昭 ,   三好光太 ,   小川真司 ,   内田毅 ,   原慶宏 ,   竹下克志 ,   中村耕三

ページ範囲:P.263 - P.268

 仕事に支障を来す腰痛の関連要因を横断データを用いて検討した.対象者数は9,307名であった.調査時の過去1カ月間におけるdisabilityの強い(仕事への支障度が強い)腰痛の有無を従属変数とし,関連要因を検討した.「睡眠時間」や「家族歴」などと強い関連を示したが,最も関連が強かった要因は,人間工学的要因の「前屈み・中腰姿勢の作業に4時間以上従事していること」(調整オッズ比:3.84,95% CI:2.92-5.05)であった.強い関連要因を明らかにするため,引き続きコホート研究を遂行中である.

検査法

磁気センサータッピング装置を用いた頚髄症の手指運動解析

著者: 三輪俊格 ,   細野昇 ,   向井克容 ,   牧野孝洋 ,   冨士武史 ,   神鳥明彦

ページ範囲:P.269 - P.274

 軽量の磁気センサーを指に装着し,30秒間タッピング運動(最大努力での母指示指間反復対立運動)を行わせ新しい装置を用いて定量記録した.頚髄症(30例)では対照(30例)に比して有意にタッピング回数,総移動距離が少なく,リズム不整が強かった.またこれらの指標とJOAスコアには有意な相関関係があった.さらに全指の握り開き運動と同様に疲労現象,すくみ現象も認められた.磁気センサーを示指ではなく,環指や小指に装着することで頚髄症における麻痺をさらに詳しく定量評価できる可能性があり,本装置の応用が期待される.

整形外科/知ってるつもり

肩こり

著者: 高岸憲二 ,   篠崎哲也

ページ範囲:P.276 - P.278

 肩こりで悩む国民は多く,厚生労働省国民生活基礎調査〔平成16年(2004年)〕の「性別にみた有訴者率」によると,肩こりは日本人が訴える症状の第2位であるとともに通院者率では女性の第4位を占めている3).このように日本では多く自覚される肩こりではあるが,その定義について調べてみると,いずれの領域の文献でも肩こりは筋肉の緊張状態に由来する症状名とされており,周知された明確な定義はない.また,肩こりの病態は多彩であることが知られており,依然として明確な治療法が確立されていない.ここでは肩こりの定義,疫学,病態および原因などについて今までに知られていることをまとめて解説する.

境界領域/知っておきたい

障害・健康の計り方

著者: 赤居正美

ページ範囲:P.280 - P.283

■はじめに

 障害・健康をどう計るかということは通常,医療行為の有効性を議論する場合に問題となる.すなわち臨床医は診断に基づき,その時点で最善と判断した治療手段を実行し,良好な反応・経過を得ようとする.この時,医療介入の効果を計るものがアウトカムであり(図1),医療介入による健康状態の違いを前後で比較する1)

 アウトカムに代表される評価尺度を用いて統一的な扱いをすることで,治療や医学的介入の質,有効性を定量的に評価することができる9).実行された医療介入のもたらす効果判定の中心となる考え方である.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】・33

蘭学の華を咲かせた医師・その2 緒方洪庵(1810-1863)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.284 - P.287

■まえがき

 今年1月のある日,NHK総合テレビの番組「そのとき歴史が動いた」で,「日本の種痘の普及に貢献した医師」の1人として,大坂(今の大阪)適塾の緒方洪庵のことが放送された.

 私はちょうど10年前,緒方洪庵に興味を抱き,ある日曜日に博多から岡山まで新幹線に乗り,岡山足守藩の洪庵の生まれ故郷を訪ね,大阪の適塾に行き,さらに大阪中央区,東西線沿線にある龍海寺にある洪庵のお墓をお参りした.その後,第100回目の日本医史学会が東京の順天堂大学医学部で開催されたとき,江戸で他界した洪庵と妻八重が眠っている東京文京区の高林寺にお墓参りしたこともある.

 医者仲間に,あの有名な「緒方洪庵」のことを聞いても,「名前は聞いたことがある」と残念ながら反応が今一つである,悲しいことである.

整形外科と蘭學・23

杉田玄白と解体新書(その1)

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.288 - P.290

■はじめに

 昨年(2008年)12月14日,福井県小浜市が募集した「杉田玄白賞」にたまたま合格し,小浜市で受賞表彰式と記念講演会に出席する機会を得たので,杉田玄白の出身地小浜市を訪ねることになった.授賞理由は杉田玄白・前野良沢を開祖とした蘭学史の研究を行ってきたこと,関連する5つの著作を出版したこと,第107回日本医史学会を中津で主催したこと,オランダ正月料理の復元や郷里中津市において村上医家史料館や大江医家史料館の立ち上げ,維持に協力してきたこと,「マンダラゲの会」を結成し,大江医家史料館の薬草園の維持に努め,薬膳料理,大江「薬草」風呂の復元を行ってきたこと,中津市医師会長として健康増進大会を毎年開催したり,「食と健康」について,特に骨粗鬆症やメタボリック症候群の予防に関する講演活動を継続的に行ってきたことなどが挙げられていた.筆者としては恩師の天児民和九州大学名誉教授の言われるままに,「整形外科の歴史」のテーマで調査研究を続けていただけのことなのでなんとも面映いことであるが,ともかく有難くいただくことになった.これを機に,前野良沢とともに日本に蘭学を創始し近代医学の礎石を築いた杉田玄白について改めて考えてみたい.

小児の整形外科疾患をどう診るか?―実際にあった家族からの相談事例に答えて・23

先天性下腿偽関節症

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.292 - P.293

相談例「先天性下腿偽関節症」

 私の娘(8歳)のことで,お伺いしたいと思います.

 娘は,先天性右下腿偽関節症と診断され,これまでに悪い部分を取り除き,骨延長を創外固定器にて行いましたが,伸ばした部分がうまくつかず,偽関節となっており現在装具で生活しております(松葉杖なしでゆっくり歩行できます).偽関節の部分の骨が少しずつ吸収されているようで,創外固定器をとりつけ,偽関節の部分をつなげる手術を数カ月後に行ったほうがよいとのことです.

 今度手術を行うのは3回目で,足の長さが現在右足に比べ差がある状態でさらに差が出るそうです.その差は将来的に膝より上を伸ばすとのこと,私は,本人のことを思うとなんとか他の方法で治療できないかと思い悩む日々です.ご意見をいただければ幸いです.

臨床経験

胸腰椎Chance型骨折(屈曲伸延損傷)の治療成績

著者: 畠山雄二 ,   島田洋一 ,   宮腰尚久 ,   千馬誠悦 ,   成田裕一郎 ,   宮本誠也 ,   小林志 ,   白幡毅史

ページ範囲:P.297 - P.301

 胸腰椎Chance型骨折の治療成績について検討した.症例は男5例,女2例の7例であった.損傷部位は全例胸腰椎移行部で,損傷型はpure bone type,combined typeがそれぞれ2例ずつ,burst typeが3例であった.Pure bone typeの2例は保存的に加療し,他の5例は椎弓根螺子を用いて後方固定した.受傷後平均2年9カ月時点で全例骨癒合した.平均後弯角は21°から17°へ,椎体変形は68%から75%へ改善した.Burst typeも含め後方固定の有用性が示された.

肘関節離断性骨軟骨炎に対する鏡視下病巣切除術の成績

著者: 三宅潤一 ,   正富隆 ,   高樋康一郎 ,   十河英司 ,   島田幸造 ,   冨士武史

ページ範囲:P.303 - P.308

 目的:肘離断性骨軟骨炎に対する鏡視下病巣切除術の治療成績を検討した.対象と方法:1997年以降の10年間に当科で施行した106例を対象とした.鏡視下に病巣を評価し,病巣の不安定な場合,また既に遊離している場合には骨軟骨片を切除した.術翌日から可動域訓練を開始し,疼痛に応じてスポーツ復帰を許可した.結果:1例を除く全例でスポーツ復帰を果たした.病巣範囲が大きく,さらに橈骨頭の骨端線が未閉鎖なものは早期予後不良で,4例中2例に橈骨頭切除を追加した.結語:鏡視下病巣切除術はスポーツ復帰という観点で良好な結果を期待できる術式である.

症例報告

頚椎硬膜内ganglion cystの1例

著者: 大島卓也 ,   植田百合人 ,   竹嶋俊近 ,   小泉宗久 ,   重松英樹 ,   佐藤誠久 ,   松森裕昭 ,   山本聡 ,   高倉義典

ページ範囲:P.309 - P.314

 今回われわれは,極めて稀な頚椎硬膜内髄外に発生したganglion cystの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は54歳の男性で,手術で嚢胞性病変を摘出し,内容液がゼラチン様の粘調な液体であったこと,病理組織診断で嚢胞壁に細胞成分がなく線維性結合組織からのみ形成されていることより,ganglion cystであると診断した.非常に稀ではあるが,ganglion cystも硬膜内髄外の嚢胞性病変として念頭に置く必要がある.

三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷による遠位橈尺関節ロッキングの2例

著者: 谷野善彦 ,   倉林博敏 ,   小粥博樹 ,   竹内克仁 ,   浅野尚文 ,   矢部裕 ,   中村俊康

ページ範囲:P.315 - P.320

 われわれは,自動回内は可能であるが自他動の回外が不可能であった三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷に伴う遠位橈尺関節ロッキングの2例を経験した.症例はいずれも単純X線像で,尺骨茎状突起骨折を認め,関節造影ではTFCCが尺骨頭と重なるような造影剤の欠損像を呈していた.MRIでは,TFCCの水平高信号と遠位橈尺関節での関節液貯留像を呈していた.本病態は三角靭帯の背側部分に尺骨頭が嵌頓することで発生していた.治療については,無理な徒手整復による尺骨小窩の損傷を引き起こさないように愛護的にロッキングを解除することが必要である.

重度な不安定性を呈した高齢者反復性肩関節脱臼の1例

著者: 田村太 ,   内山善康 ,   繁田明義 ,   新福栄治 ,   持田讓治

ページ範囲:P.321 - P.325

 症例は67歳の男性で,主訴は右肩関節脱臼不安感であった.脚立より右肩から転落し受傷した.保存的に経過観察したが,脱臼不安感のため内旋位から肩を動かせなかった.術前JOAスコアは33点であった.画像上,関節窩縦計20%のbony Bankart病変と骨頭頂に達する大きなHill-Sachs損傷,広範囲腱板断裂を認めた.手術は鏡視下にbony Bankart病変の修復とHill-Sachs損傷部への腱板縫合を行った.術後3年,JOAスコア92点で,再脱臼は認めていない.鏡視下手術は高齢者の重度不安定肩に対し有効な手術法であると思われた.

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あとがき フリーアクセス

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.332 - P.332

 戦争に明け暮れ,終わってみたら戦争による負の遺産と未曾有の恐慌以外何も残さなかったブッシュに替わって,バラク・オバマ氏がアメリカ合衆国の44代大統領に就任した.1月20日の就任式の模様を,テレビなどのメディアを通じてご覧になって感動した方は多いことと思う.あの世界一人種差別の激しい国での,黒人初の大統領の誕生というだけでも歴史的な快挙である.悲しいかな,わが国では首相がばたばたと政権を投げ出して夜間逃亡を繰り返し,国民の信を問うこともなく密室で政権与党が軽薄短小なたらい回しするなか,1年を通した長い選挙戦を勝ち抜いての大統領就任である.格と重みが違いすぎると,一人の日本国民として恥ずかしくさえ思う.

 さてわが国では,大学医局の血の滲むような努力によって支えられてきた,地方の中小病院への医師の派遣ができなくなるきっかけを作った新臨床研修システムの導入で,図らずも本来の医師不足の実態が明るみに出ることになった.大学医局への医師の偏在を打破し,市中病院に分散を図ることをもくろんだ厚生労働省の意図は,若手医師の都市集中による偏在を助長して,もろくも崩れた.これを少しでも緩和しようと,初期研修の2年目は将来進む科で1年間研修することを可能にした.何のことはない.初期研修を1年に短縮したということである.また医学部定員が増員されたが,これが功を奏するのは10年以上も先のことである.それまでの間をどのように凌ぐかが大きな問題である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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