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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科44巻5号

2009年05月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム プレート骨接合術―従来型かLCPか

緒言 フリーアクセス

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.428 - P.428

 “新しいものはすべてよいものである”との期待を抱くのは,何も患者だけではない.いやむしろこの夢のインプラントを使ってみたいという甘い誘惑に駆られるのは,患者よりも医師のほうであるような気がする.Locking Compression Plate;LCPの出現がまさにそれであり,多くの整形外科医が飛びついた.プレート骨接合術は大きく様変わりし,骨折を取り扱う現場で混乱が生じている.そこで今回は,新しい概念に基づいた角度安定性を有する内固定器internal fixatorとしてのLCPを中心に,従来型との比較における解説を,その道の専門家の方々にお願いした.

 新藤先生には,骨折治療における骨折部の安定性の考え方,力学的刺激に対して生体がどのような生物学的な反応を惹起するか,またそれが骨折の癒合過程にどのように影響するかについてわかりやすく解説していただいた.田中先生にはLCPの理論的背景とその有用性をくまなく述べていただいた.しかしこの新しいプレートLCPの理論と実際の使い方についての理解は必ずしも浸透しているとは限らないため,澤口先生にはその適応と正しい使い方について詳細に述べていただいた.佐藤先生と内野先生は,症例を提示しながらピットフォールと適応の限界,従来型のプレートの特徴と適応などについてわかりやすく解説され有益な示唆をいただいた.

骨折治療に求める絶対的安定性と相対的安定性の適応と選択するプレート

著者: 新藤正輝

ページ範囲:P.429 - P.433

 骨幹部骨折の固定法として,AOグループは長らく骨折部を正確に整復し,骨片間圧迫による強固な固定を行う絶対的安定性を推奨してきた.その結果得られる骨癒合形態は,仮骨形成のみられない特殊な癒合形態であり,直接的骨癒合と呼ばれた.一方,髄内固定法に代表される,骨折部の癒合を妨げない程度の動きを残した固定法は,豊富な仮骨形成がみられ,絶対的安定性に対して相対的安定性と呼ばれる.プレート固定法は,絶対的安定性を目標とする固定法から,骨片の血行を温存する生物学的固定法へと発展進化していった.

Locking Compression Plateの理論と有用性

著者: 田中正

ページ範囲:P.435 - P.440

 骨折治療におけるプレート法はロッキングプレートにより大きく変わってきた.ロッキングプレートは角度安定性を有する全く新しい概念のインプラントであり,従来のプレート手技で臨むと思わぬピットフォールに陥ることがあり,その特徴をよく理解して使用する必要がある.プレート固定を行う場合は,その骨折が必要とする生体力学的な固定原理やプレートのどの機能を適用するのかを決めることが最も重要で,「どのようなプレートを使うか」ではなく「どのように使うか」を常に考えなければならない.

Locking Compression Plateの適応と正しい使い方

著者: 澤口毅

ページ範囲:P.441 - P.447

 Locking Compression Plate(LCP)は,スクリューとプレートがロッキングすることにより強固な固定が得られ,また骨にプレートを密着して固定する必要がないなどの利点がある.そのため骨幹部や骨幹端部粉砕骨折,骨粗鬆の高度な骨折,人工関節周囲骨折,関節部骨折,MIPO法,骨切り術によい適応がある.しかし,スクリューヘッドのネジ部分とプレート孔のミゾ部分がかみ合ってロッキングしないと固定力が著しく損なわれる.良好な固定を得て,その利点を生かすには,手技上の注意点に配慮して正しく使用することが重要である.

Locking Compression Plateのピットフォールと不具合例対策

著者: 佐藤徹 ,   塩田直史

ページ範囲:P.449 - P.455

 Locking Compression Plate(以下LCP)を用いて治療を行った長管骨骨折例の臨床的治療成績を検討し,合併症と問題点を検討することによってその適応と限界について検討した.上腕骨近位部骨折において64例中4例で固定術後から骨癒合までの間に内反変形を認めた.プレートの固定性は一気に低下するわけではなく,リハビリテーションを遅らせることで対応可能である.LCP周囲骨折は3例で認めたが,いずれも著明な骨粗鬆症を合併しており,脆い骨でも良好な固定性を示すものと考える.脛骨遠位部骨折2例でロッキングスクリューの破損を認めた.

従来型プレート・Locking Compression Plateの適応

著者: 内野正隆 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.457 - P.464

 LCP(Locking Compression Plate)の開発によって骨折の観血的治療が大きく変貌した.最も変革された点は,従来の力学的強度を求めた圧迫固定による強固な内固定ではなく,骨膜血行を温存しつつ良好な固定が得られるという,いわゆるbiologicalな固定法を推奨したことであろう.LCPは従来型プレートよりあたかも勝っているかのように謳われ,多くの施設で使用されるようになったが,一方で誤った使い方による不具合報告もみられる.この項では,LCPが従来型プレートに取って代わるものに成り得るのかを検証し,従来型プレートとLCPの適応について言及する.

論述

ステロイド剤が女性関節リウマチ患者の骨型アルカリホスファターゼ(BAP)に与える影響

著者: 串田剛俊 ,   齋藤貴徳 ,   松矢浩暉 ,   浅田卓 ,   飯田寛和

ページ範囲:P.465 - P.471

 ステロイド剤が関節リウマチ患者(RA)の血中骨型アルカリホスファターゼ(BAP)値にどのような影響を与えるかを検討した.女性RA患者131例(ステロイド内服63例,非内服68例)を対象に年齢別,罹病期間別,炎症反応別(ESR,CRP)にBAP値を測定した.その結果,ステロイド内服の有無にかかわらず,各項目とも進行に従いBAP値は上昇していた.ステロイドは骨代謝回転を抑制する働きがあり,ステロイド内服例のBAP値は非内服例に比べ低値となっていた.このため,骨密度が減少していてもBAP値が低値になることがあり,注意を要すると考えられた.

検査法

健常者における10秒テストと身体機能の相関

著者: 陳俊輔 ,   沼沢拓也 ,   横山徹 ,   小野睦 ,   和田簡一郎 ,   梅田孝 ,   高橋一平 ,   中路重之 ,   藤哲

ページ範囲:P.473 - P.478

 頚髄症の簡便検査法である10秒テストが身体機能と関連するかについて,高齢健常者を対象に調査した.対象は地域住民検診に参加した961名のうち,60歳以上で脳疾患,関節リウマチ,脊椎手術の既往例を除外した506名である.身体機能検査は,開眼片足立ち,長座体前屈,棒反応と握力を測定した.健常者全体の10秒テストの平均値は20.6±4.4回であり,年齢とは弱い負の相関を示した.10秒テストと各身体機能の関連では棒反応のみが弱い相関を示し,その他の運動機能とは相関していなかった.今回の結果から,加齢による身体能力の低下が10秒テストの回数に与える影響は少なく,その回数自体の低下は頚髄症患者で著明であることから,健常者においても神経伝導障害の影響を強く受けている可能性が考えられた.

最新基礎科学/知っておきたい

椎間板ヘルニア関連遺伝子THBS2

著者: 廣瀨裕一郎 ,   千葉一裕 ,   池川志郎 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.480 - P.483

■はじめに

 腰椎椎間板ヘルニア(以下,椎間板ヘルニア)は,骨・関節疾患の中で最も発症頻度の高い疾患の一つである.本症は,生涯罹患率80%といわれる腰痛の主要な原因の一つで1),かつその好発年齢は20~40歳代の青壮年期であり,労働生産性の低下などの社会的な問題も引き起こす.これまでに椎間板変性の危険因子として,重労働16),喫煙2),スポーツ13)などの後天的要因が数多く報告されてきたが,その厳密な発生機序はいまだに不明である.一方,椎間板ヘルニアには家族集積性の報告3,11,14)があり,その発症には遺伝的素因が関与するとされている.Videmanら17)のビタミンDレセプター遺伝子(VDR)を嚆矢として,すでにいくつかの疾患感受性遺伝子が報告されている.しかし,複数の遺伝子が関与する可能性が高い多因子遺伝病である椎間板ヘルニアには,さらに多くの遺伝子が関与していると考えられており,それらの遺伝子を見つけ出すことが大きな課題となってきた.

 本稿では,疾患感受性遺伝子を見つける有力な方法の一つである,遺伝子多型を用いたケース・コントロール相関解析の手法を解説し,われわれが発見したトロンボスポンジン2遺伝子(THBS2)についての研究成果8)と合わせて概説する.

連載 手術部位感染の基本・2

術前の患者管理(栄養・食事・血糖など)

著者: 大北喜基 ,   楠正人 ,   毛利靖彦 ,   小林美奈子

ページ範囲:P.484 - P.486

はじめに

 創傷の治癒に必要な因子としてエネルギー源である栄養はきわめて重要である.栄養不良があると,手術侵襲が加わることによって外科的手術部位感染(surgical site infection:SSI)をはじめとした感染性合併症の発生率や死亡率が高くなることが知られている.連載第2回目の今回は,術後感染性合併症を予防するうえで重要となる周術期の栄養管理と血糖管理について述べる.

小児の整形外科疾患をどう診るか?―実際にあった家族からの相談事例に答えて・25

先天性内反足遺残変形

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.490 - P.491

相談例「先天性内反足遺残変形」

 初めてメール致します.私の息子は現在10歳になりますが,生まれた時から先天性中足骨内反と診断され,某小児施設で治療を受けました.デニス・ブラウンを1歳頃まで装着し,つかまり立ちもでき歩けたので治療を終わりました.完治と安心していたのですが,成長するにつれ靴選びが難しくなり困っています.走ることもできるので他から見るとなんで靴を踏んで歩くのか,態度が悪いと学校の先生からは叱られることもあるほどです.その度に,大きめの靴を探し歩いています.なかなか甲高,幅広4Eでも入らずアシックスの靴でスーパーワイドと言う大きめな物を買って履かせています.土踏まずもほとんどなく,ベタベタと歩くので仕方ないと思うのですが,成長期なのでサイズが次々変わり靴代がかかり困っています.サイズを探すのも一苦労で,この先オーダーメイドで作るしかないのかと悩んでいます.何かよい治療法方はあるのでしょうか? 何かよい方法があれば教えてください.よろしくお願いいたします.

整形外科と蘭學・24

杉田玄白と解体新書(その2)

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.492 - P.495

■山脇東洋と杉田玄白

 山脇東洋の京都六角獄舎における解剖に参加した小浜藩の小杉玄適(1730~1791)は,佐知隆建の次男で小浜藩医小杉玄統の養子となり,延享2年(1745)に家督を相続,150石の扶持,後に奥医師まで勤めた医師であるが,日本最初の人体解剖の許可を受けたということ,杉田玄白の人生に大きな衝撃を与えた人物として,もっと評価されてよい人物である.玄適は江戸に戻ると,小浜藩の同僚である22歳の玄白に京都における解剖の状況をつぶさに伝えた.

 玄白はその時の様子を,享和2年(1802)に書いた回想録「形影夜話」に大きな衝撃と感動を受けたと記録している.関西の人々の下風に立つのがよほどくやしかったのか,東洋がわずかひとりだけの解剖で「蔵志」を著したのは疎漏とまでいっている.玄白は大いに発奮し,何時の日か自分こそが本格的な解剖を行ってみせると決意を固めた.そのための準備をまず始めるしかないと徐々に行動を開始するのであるが,高価な西洋の解剖書を入手することがなかなかできなかった.

症例報告

膝窩翼状片症候群の1例

著者: 小関弘展 ,   森俊介 ,   弦本敏行

ページ範囲:P.497 - P.499

 本邦で初めての膝窩翼状片症候群(popliteal pterygium syndrome)の1例を報告した.症例は女児で,妊娠週数38週の正常分娩にて出生したが,右下肢に翼状片を伴う変形を認め,心房中隔欠損症と膣低形成,外反扁平足を合併していた.翼状片によって-90°の膝関節伸展制限を認めたが,生後6カ月から3歳までに右下肢アキレス腱延長術と皮膚形成術を3回施行した.8歳の現在,膝関節の屈曲140°,伸展-20°で約4cmの脚長差を認めるが,走行,跳躍は可能である.

先天性橈尺骨癒合症の3例

著者: 古賀龍二 ,   根本孝一 ,   有野浩司 ,   土原豊一 ,   中道憲明 ,   加藤直樹 ,   岡林俊貴 ,   津田悦史 ,   田中祥貴

ページ範囲:P.501 - P.504

 先天性橈尺骨癒合症3例に対して橈骨遠位1/3で回旋骨切り術を行い良好な成績を得た.代表症例は8歳の女児で,両側の先天性橈尺骨癒合症であり,右前腕は120°回内位強直,左前腕は中間位強直であった.右前腕に対して手術を行い,術後2年2カ月の現在,右前腕は30°回内位強直である.先天性橈尺骨癒合症に対する手術は授動術と回旋骨切り術に大別される.橈骨遠位での回旋骨切り術は手術手技が容易であり,合併症も少なく優れた方法である.われわれは骨切り後の転位予防のためK-wireによる髄内釘固定を追加している.

経口ビスホスホネートが著効を示した反射性交感神経性ジストロフィーの1例

著者: 寺山恭史 ,   山本直也 ,   北島忠昭 ,   加藤義治

ページ範囲:P.505 - P.509

 反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy:以下RSD)に経口投与のビスホスホネートが著効した症例を報告する.症例は54歳の男性で,左下腿から足部にかけての疼痛,腫脹を訴え,著明な骨萎縮を認めた.通常の抗炎症治療に反応せず,ビスホスホネートを経口投与したところ,症状は改善し骨萎縮像も回復を示した.これまで静脈投与のビスホスホネートのRSDに対する効果は報告されているが,常用量の経口投与が奏効した報告はない.骨萎縮を呈するRSDに対して経口ビスホスホネートは治療の選択肢となる可能性がある.

大腿骨転子部骨折術後両下肢壊疽に陥った1例

著者: 大野一幸 ,   井内良 ,   小橋潤己 ,   行方雅人 ,   世古宗仁 ,   篠田経博

ページ範囲:P.511 - P.514

 症例は83歳の女性で,大腿骨転子部骨折の術後から右下肢の麻痺,両下肢の冷感が出現した.MRアンギオグラフィで右は大腿動脈分岐部で,左は外腸骨動脈で閉塞していた.合併症に心房細動,心不全があり,骨折と手術侵襲による脱水,血液凝固能の亢進により,血栓・塞栓が生じたものと推定される.診断時には右下肢は麻痺しており血行再建の適応はなかった.筋腎代謝症候群は生じなかったが,右の股関節離断を行わざるを得なかった.大腿骨転子部骨折後における急性動脈閉塞症の発症はこれまで報告がなく,下肢の血行不良例に対しては術前評価を行い,術後血行動態の変化時には急性動脈閉塞症の合併も考慮に入れるべきと考えられた.

脛骨および大腿骨の骨軟骨腫による膝関節ロッキングの2例

著者: 中谷創 ,   三尾健介 ,   金子大毅 ,   河野友紀 ,   小林龍生 ,   根本孝一

ページ範囲:P.515 - P.519

 大腿骨遠位内側と脛骨近位内側の骨軟骨腫各1例による膝関節のロッキングを経験した.いずれも保存的治療で改善せず,ハムストリングが骨軟骨腫に嵌頓していると診断し,手術を施行した.術中,用手的に嵌頓を解除することはできず,さらにハムストリング腱周囲の腱膜損傷を誘発する可能性があったため,腫瘍摘出を行った.術後,ロッキングは消失した.骨軟骨腫による膝関節ロッキングは無理な屈伸により腱の嵌頓や腱膜損傷が悪化する可能性があるため,治療には腫瘍摘出術が必要であると考えた.

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あとがき フリーアクセス

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.526 - P.526

 アメリカの話で恐縮ですが,アメリカの大統領がブッシュ氏からオバマ氏に代わってだいぶ経ちました.リーダーが代わって大きく政治が変化するのではないかと思って見ていた私たちにわかるような大きな変化はいまだ起きていないようにみえます.しかし,種々の問題に対する反応は早く,多くの問題への対応が少しずつ変化しているのが報道を通じて伝わってきます.国内では,総理大臣の失言や,問題に向かう姿勢の不確定さなどが取りざたされ,支持率が低下してきているようです.対する野党も献金問題などで揺れて,問題解決にはいまだ時間がかかる印象を持っているのは私だけではないように思います.

 あとがきを書くことになり,掲載論文を読ませていただきました.プレート骨接合術で,従来型かlocking compression plateかの誌上シンポジウムは興味深いものです.プレートと螺子の間がしっかり固定されているものの他に,ある程度の自由度を持って螺子の方向を決めた後にプレートと螺子の間が固定される便利なシステムもあります.Locking plateが開発された時,これで多くの問題が解決すると思った人は少なくないと思います.いまだ使ったことのない先生方もおられるでしょうし,従来型がよいと思っている方もおられると思います.万能な骨接合器具は残念ながらありません.Locking plateにも欠点があり,使っていると不都合な面もありますし,予想しなかった合併症が出たりすることもあります.本シンポジウムはそのような疑問に答えてくれていると思います.緒言で糸満盛憲先生が書かれているように『どのようなプレートを使うかではなく,どのように使うか』が大切である点は,その他の整形外科手術にも共通する大切な点ではないかと思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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