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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科44巻6号

2009年06月発行

雑誌目次

論述

結核性脊椎炎における麻痺発症因子の検討

著者: 北田祐紀 ,   井澤一隆 ,   井本一彦 ,   米延策雄

ページ範囲:P.529 - P.533

 結核性脊椎炎のPott麻痺発症関連因子を検討した.結核性脊椎炎症例49例(麻痺群22例,非麻痺群27例)に対し,患者背景については性別・年齢・肺結核の有無・標準的化学療法の可否・CRP・栄養状態・罹病期間を,画像については病巣脊柱管内占拠率,圧迫要素,最狭窄高位,罹患椎体数,椎体周囲膿瘍の範囲,MRI髄内輝度変化,後弯角,不安定性を群間で比較したところ,麻痺群は栄養状態不良で,画像的に病巣脊柱管内占拠率が高く,MRI髄内輝度変化を多く認めた.麻痺の重症度を決定する因子は明らかでなかった.

大腿骨近位部骨折手術後の歩行能力に対する入院時予測チャート(prospective study)

著者: 藤田英彦 ,   伊藤淳

ページ範囲:P.535 - P.540

 われわれは大腿骨近位部骨折患者が入院した際に,簡易知能評価を中心とした簡単な問診を行い,予測チャートを用いて手術後の歩行能力予測を立てている.本予測チャートを使い始めた2002年6月から2007年8月までに当院において手術を行った474例のうち345例(平均年齢:84.2歳,65~98歳)(男性:47例,女性:298例)に対しprospective studyを行った.本予測チャートの感受性は92%,特異性は91%であった.本予測チャートは入院時の簡単な問診だけで術後の歩行能力予測を立てられる有効な手段と考える

検査法

腰椎部3D MRミエログラフィにおけるmaximum intensity projection画像表示法の検討―神経根の描出

著者: 服部真澄 ,   岩越孝恭

ページ範囲:P.541 - P.547

 腰部神経根症状を呈する患者で,腰椎MRIを行っても責任病巣が特定できない症例では診断のため神経根造影や神経根ブロックが行われる.これらは神経に直接針を刺すため侵襲も強く,また一度で診断がつかない場合はレベルを変え繰り返して行う必要があり,患者には苦痛を強いる検査である.そこでわれわれは苦痛を伴わず,神経根の情報を得る試みとして3D MRミエログラフィに注目し,独自の画像処理を加え神経根の描出を試みた.正常例および腰椎疾患のある症例で撮影を行い,良好な神経根の描出が得られたので有用性を検討し報告する.

調査報告

非骨傷性頚髄損傷患者に対する多施設後ろ向き調査

著者: 熊谷玄太郎 ,   小野睦 ,   田中大 ,   澤田利匡 ,   青木恵 ,   八重垣誠 ,   陳俊輔 ,   木村由佳 ,   沼沢拓也 ,   和田簡一郎 ,   横山徹 ,   植山和正 ,   藤哲

ページ範囲:P.549 - P.554

 高齢化に伴って非骨傷性頚髄損傷(頚損)は増加傾向にあるが,その病態,治療に関して一定のコンセンサスは得られていない.われわれは多施設後ろ向き調査により,受傷時の特徴や麻痺に影響を与える因子について検討した.対象は2006年に弘前大学関連病院19施設において非骨傷性頚損で入院治療した78例(男性60例,女性18例)である.受傷時の特徴としては年齢が平均62.6歳と高齢であり,男性に多く発生していた.北国での調査を反映して12月に多く発生し,雪や凍結による転倒・転落が原因として多かった.受傷時に24%(男性の31.7%)の症例が飲酒していた.受傷時麻痺の重症度に影響を与える因子として年齢が高齢であること,予後不良因子として男性と脊髄圧迫率が高いことが統計学的に有意に関係していた.

論点

関節機能温存法―人工関節置換術か代替法か

著者: 上田孝文 ,   土屋弘行 ,   岩本幸英

ページ範囲:P.555 - P.565

人工関節置換の立場から―腫瘍用人工関節の適応と今後の展望

上田 孝文

 

はじめに

 骨肉腫を代表とする四肢原発の骨・軟部悪性腫瘍(肉腫)に対する患肢温存療法は,1970年代に始まる全身補助化学療法の進歩に伴い,確立されてきた.当初は,腫瘍広範切除術後に人工骨スペーサーを挿入し,二期的にカスタムメイドの腫瘍用人工関節を用いて患肢再建することからスタートしたが(図1),その後より利便性の高いモジュラー型の腫瘍用人工関節システムが開発されるようになり,現在では患肢再建法の主流となっている.一方で,腫瘍用人工関節よりも安価でかつ腫瘍広範切除後の骨関節欠損部の形状・部位への適合性のよい,同種骨関節移植(massive bone allograft)が欧米ではかなり広く用いられており,また本邦などallograftの手に入りにくい地域では,その代替法としての各種術中自家処理骨移植術が患肢再建法として応用されている.さらには,血管柄付自家腓骨移植を用いた“living bone”による患肢再建法や,関節温存を目的とした創外固定器を用いての骨延長術による再建法なども適応症例を選んで用いられている.いずれの方法にも利点と欠点があり,一概に最適の方法といえるようなものは存在しないが,下肢荷重関節部の再建には腫瘍用人工関節が最も安定した長期成績を示している.ここでは,腫瘍用人工関節側の立場から各種自家処理骨など他の代替再建法と対比させながら,骨・軟部悪性腫瘍に対する患肢温存術における双方の得失を議論し,その適応と問題点を明らかにし,さらに今後の展望についても考察したい.

境界領域/知っておきたい

生体アパタイト配向性による骨質評価

著者: 中野貴由

ページ範囲:P.566 - P.572

■はじめに

 超高齢化社会に突入し,骨粗鬆症や変形性関節症といった老齢化に関連した骨疾患が急増している23).こうした疾患は寝たきりを含むQOLの低下を招くことから,その防止策の検討や治療薬の開発が強く進められている.欠損した骨組織に対する再生医療の展開もその一つである.一方で疾患骨や再生骨の骨折リスクと関連し,骨強度の正確な評価の重要性が高まり,骨質(bone quality)指標の解明が急がれている7,18,19)

 “骨質”とは,米国国立衛生研究所(NIH)により提唱された概念であり,“骨密度”以外の骨強度を支配する因子を意味している17).当時,骨質の有力な候補として,海綿骨の骨梁構造に代表される骨微細構造やマイクロクラックの形成・修復,コラーゲンの状態,骨代謝回転,細胞機能などが提案されたが,本質的な骨質制御因子の解明はいまだ十分ではない.

 こうした背景に基づき,われわれの研究グループでは,整形外科を中心とした医学系研究者との医工連携に基づく境界領域研究により,材料学的手法を用いた骨組織の質的評価と骨質改善を目指した骨代替材料の設計に取り組んでいる.とりわけ,生体アパタイト(biological apatite,以下BAp)の配向性を骨質指標の有力候補の一つとして注目している.本稿では,BAp配向性の骨質指標としての有効性と配向性を決定,制御するパラメータについて,われわれのグループで見出した成果を中心にご紹介する.

連載 手術部位感染の基本・3

術前の対策2

著者: 大北喜基 ,   楠正人 ,   毛利靖彦 ,   小林美奈子

ページ範囲:P.574 - P.576

 術前から適切な手術部位感染(SSI)予防を行うためには,SSI発生のリスクに関連した患者および手術の特性を理解する必要がある.前回,低栄養および高血糖の患者への対策として栄養管理および血糖管理について述べたが,連載3回目の今回は,術前入院期間,遠隔部位感染,喫煙,MRSA保菌者への対策について述べる.また手術に関連した術前のSSI予防対策として術前の入浴および除毛について述べる.

小児の整形外科疾患をどう診るか?―実際にあった家族からの相談事例に答えて・26

シャルコー・マリー・トゥース病

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.578 - P.579

相談例「シャルコー・マリー・トゥース病」

 はじめまして.私には中学1年の息子がおります.小学1年の時にシャルコー・マリー・トゥース病と診断されました.これは母親である私からの遺伝です.某病院の神経内科で毎年,神経伝達速度検査を受けています.整形外科では今まで何度も相談してきましたが,「まだいいでしょう」と,レントゲンすら撮ってもらえません.ここ2,3年で一気に右足踵が地面に着かなくなり,小指の付け根だけでの歩行となってしまいました.姿勢も悪くなり,足に痛みも出てきたようで,本人も自分から手術を受けたいと言うようになり,よほど辛いのだと思います.

 先生はシャルコー・マリー・トゥース病による筋萎縮の手術はなさったことがありますか? どのような流れで行われるのでしょうか? 経験のお有りになる先生に診ていただきたいと思って探しております.その神経内科の先生は子供の患者を診るのは初めてだとおっしゃっていたので,整形外科でも子供の手術経験はないと思います.一度息子の足を診察していただけないでしょうか? どうかよろしくお願いします.

医者も知りたい【医者のはなし】・34

蘭学の華を咲かせた医師・その3 備前蘭学の祖・児玉順蔵(1805-1861)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.582 - P.585

■まえがき

 今回はシーボルトの来日初期からの弟子であった備前(岡山県)出身の医師 児玉順蔵について述べる.彼は晩年大坂で開業し,緒方洪庵と交流しているが,残念ながら大坂の名医伝の中にその名を発見できない.彼はシーボルトが来日した文政6年(1823)より1年早い,文政5年(1822)にすでに長崎に遊学していたので,来日後しばらくしてシーボルトの弟子にしてもらった.彼は17歳で長崎に行ったので,シーボルトの弟子になったときは18歳であった.しかし2年後の文政8年(1825)には,不思議にも長崎を去っている.黒田藩における4人のシーボルトの弟子たちのことを調べてみると,この児玉順蔵が重要な役目をしていることがわかる.彼が黒田藩鞍手郡若宮高野に滞在した間のことは福岡県医報に書いたので,岡山と大坂でのことを含めて彼のライフ・ストーリーを述べてみたい.

臨床経験

転移性骨腫瘍に対する大腿骨腫瘍用人工骨頭置換術の治療成績

著者: 王谷英達 ,   濱田健一郎 ,   田宮大也 ,   藤本哲穂 ,   中紀文 ,   荒木信人

ページ範囲:P.587 - P.592

 大腿骨近位部転移性骨腫瘍患者で2000~2007年の間に当院で腫瘍用人工骨頭置換術を施行した14例の手術成績を検討しその適応を考察した.原発巣は乳癌4例,肺癌3例,大腸癌2例,腎癌2例,食道癌1例,胃癌1例,直腸癌1例であった.経過観察中全例で局所再発を認めなかった.1年生存率は64.3%で,術後9例が片松葉杖以上の歩行能を獲得できた.本術式は,症例を選べば大腿骨近位部転移性骨腫瘍で病的骨折を起こした患者や局所制御が困難な患者に有用であり,積極的に考慮すべきと考えられる.

いわゆるFar-out syndrome(腰仙椎移行部の椎間孔外狭窄)の臨床所見

著者: 山田宏 ,   吉田宗人 ,   南出晃人 ,   中川幸洋 ,   河合将紀 ,   岩﨑博 ,   遠藤徹 ,   延與良夫 ,   中尾慎一

ページ範囲:P.593 - P.598

 一般的にFar-out syndromeと呼称される腰仙椎移行部の椎間孔外狭窄の臨床所見について調査した.対象は椎弓根外縁から外側の領域に主たる狭窄病変を有する第5腰神経根症に対し後方除圧のみを行った結果,症状の寛解が得られた19例である.他覚的には神経麻痺が軽微なものが多く,従来報告されてきたような安静時の下肢痛や異常知覚が著しく強い傾向はみられなかった.高度な下肢痛など特異的な臨床徴候を呈することが多いと考えられてきた椎間孔部狭窄の概念は,本疾患には必ずしも該当しないことが判明した.

症例報告

Spondylolisthesis reduction instrumentによる後方経路椎体間固定術を施行した形成不全性脊椎すべり症の1例

著者: 岡田英次朗 ,   八木満 ,   二宮研 ,   木原未知也 ,   叶内平 ,   西村空也 ,   長谷川貴之 ,   武田健太郎 ,   越智健介 ,   森田晃造 ,   關美世香 ,   堀内行雄

ページ範囲:P.599 - P.603

 形成不全性脊椎すべり症は仙椎の形成不全により腰仙関節前方亜脱臼を来す稀な疾患であるが,神経損傷や術後偽関節などのため治療に難渋することが多い.症例は31歳の女性で,腰痛および両下肢痛が増悪し受診した.入院時現症は,腰椎単純X線像で第5腰椎形成不全すべり症を認めた.手術所見は,手術は後方より進入し,イメージ下に椎弓根スクリューを挿入した.椎弓および椎間関節まで切除し脊髄モニタリングを併用したうえで,直視下にSRIを使用して慎重にイメージで確認しながら整復操作を行った.整復位となった後に椎体間にcageを挿入して固定した.術前のslip angle 22°,% slip 75.0%は,術後slip angle 7°,% slip 33.3%に矯正された.術前の腰痛・両下肢痛は消失した.

ステロイド長期投与中のベーチェット病患者に生じた立方骨脆弱性骨折の1例

著者: 小林勇人 ,   加藤紀彦 ,   櫻井雅和

ページ範囲:P.605 - P.607

 ベーチェット病患者に生じた立方骨脆弱性骨折の1例を報告する.症例は41歳の女性で,6年前から継続的にコルヒチン0.5mg/日とプレドニゾロン10mg/日の投与を受けていた.明らかな外傷なく歩行時の右足痛が出現し,歩行困難となるも,初診時のX線像では明らかな異常は認めなかった.MRIのSTIR像で長腓骨筋腱溝に沿った線状高信号を認めたため,ステロイドによる立方骨脆弱性骨折と診断し,4週間のギプス固定と免荷後,足底装具を装着し部分荷重を開始した.発症後2カ月で疼痛は消失し,全荷重可能となった.

大結節高位が肩関節挙上困難を来した人工肩関節置換術後の1例

著者: 藪田健太郎 ,   後藤晃 ,   平尾眞 ,   南平昭豪 ,   橋本淳 ,   吉川秀樹 ,   菅本一臣

ページ範囲:P.609 - P.613

 人工肩関節置換術で上腕骨コンポーネント(以下,stemと略す)の設置不良に伴う,大結節高位が術後可動域(以下,ROM)制限を生じたと考えられる関節リウマチの1症例を経験し,再手術で大結節の短縮骨切り術を行い良好な成績を得たので報告する.症例は34歳の女性で,関節リウマチによる右肩痛とROM制限に対して人工肩関節置換術を施行した.しかしstem設置が低位となったため,相対的に大結節部が骨頭直上に比し7mm高位となった.それに伴う著しい上肢挙上制限を認めた.本症例に対し,大結節短縮骨切り術を行い10mm引き下げることによってROMの著明な改善を認めた.

急性頚部痛で発症し,自然消退した環椎石灰沈着症の1例

著者: 中谷匡登 ,   中川幸洋 ,   木岡雅彦 ,   山田宏 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.615 - P.618

 急性の頚部痛を来し,保存療法で石灰化の消退をみた環椎石灰沈着症の1例を経験した.症例は61歳の女性で,誘因なく急性頚部痛を発症し当院を受診した.CTで環椎脊柱管内に孤立性の涙痕様の石灰陰影を認めた.NSAIDsの内服のみで症状は軽快し,4カ月後のCTで石灰化は消失した.脊柱管内に石灰化を来す疾患では偽痛風関連疾患の報告が散見されるが,今回のように比較的大きな石灰化巣が孤立性に存在し,自然消失することは稀である.急性頚部痛の鑑別には多くの疾患が挙げられるが,偽痛風関連病態でも生じることを銘記しておく必要がある.

新薬紹介

下肢整形外科手術施行患者におけるエノキサパリンナトリウムの有用性

著者: 冨士武史 ,   藤田悟

ページ範囲:P.619 - P.625

 エノキサパリンは,アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)と複合体を形成し,ATⅢの第Xa因子活性と第Ⅱa因子活性を阻害することにより抗凝固作用を発現する低分子量ヘパリンである.日本人の下肢整形外科手術施行患者の静脈血栓塞栓症予防に対するエノキサパリンの効果を確認するために,ランダム化二重盲検比較試験3試験と単一群非盲検試験1試験を実施し,エノキサパリン20mg 1日2回投与(術後24~36時間に投与開始)の有効性および安全性が示された.

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あとがき フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.632 - P.632

 山野では木々が一斉に開花し,旅立ちと出会いのこの季節,4月中旬にこの原稿を書いています.

 卒業式は「過去の呈示と未来への覚悟」を,入学式は「未来への覚悟」を表明する場と言われています.入学式の式辞の後,午後一番での学長講話で,開始後遅れて入場してきた一団の女子学生に一喝を浴びせてしまいました.式辞を聞いていなかったのかと,砂を噛む想いをしました.自分の昔はどうだったかを考えるとあまり大きな事は言えませんが.こんなことが少しでも曲解されると“パワハラ”問題です.世の中,イデオロギー不在といいながら,ハラスメントなど様々のカタカナ文字を目にすると,イデオロギーそのものではないかと,大学紛争を経験している人間には,少し不安になります.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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