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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科44巻7号

2009年07月発行

雑誌目次

視座

医療現場におけるダイバシティ・マネジメント

著者: 佐浦隆一

ページ範囲:P.635 - P.636

 リハビリテーション(以下,リハ)ではチームアプローチが重要であり,医師,看護師,リハ専門職など多様なメンバーが協働,連携しながら目標を達成することが求められる.

 さて,多様という言葉について,最近,「ダイバシティ・マネジメント」という人事用語を目にすることが多くなった.このダイバシティとは多様性の受容を意味するdiversity and inclusionを省略した言葉であり,ダイバシティ・マネジメントとはインターネットがもたらしたグローバリズム(地球主義)が後押しする女性や外国人の活用,すなわち性別や人種にかかわりなく,各自の能力を最大限に発揮できる環境,組織を整えることが,個人だけでなく組織にとっても大きな利益になると考える経営戦略である.これは,男性が多い職場に単に女性を採用したという数合わせではなく,異質で多様なものが集まるからこそ生じる軋轢や衝突をマネジメントし,そのエネルギーを利用して組織を前進させることであり,そのためには「他者の存在の受容」と「自己の客観的観察および感情の統制」が必要であるとされる(早稲田大学教授 谷口真美氏).

論述

重度側弯症に対する矯正手術の治療成績―Hybrid法とpedicle screw法との比較

著者: 松本守雄 ,   渡辺航太 ,   飯塚慎吾 ,   戸山芳昭 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.637 - P.642

 重度側弯症に対する手術成績と問題点について,フック,ワイヤー,椎弓根スクリューを用いたhybrid法(H法)と椎弓根スクリュー単独のPS法とを比較検討した.術前Cobb角80°以上の26例(男3,女23,平均年齢14歳)を対象とした.検討項目は1)術前,術後X線所見,2)周術期・術後の合併症とした.主カーブのCobb角は術前H群平均95.8±11.9°(flexibility 36.2±17.4%),PS群98.2±12.9°(同31.6±20.8%),調査時53.2±18.7°,39.4±17.4°,最終矯正率は45.2±16.6%,60.7±15.0%(p=0.02)であった.手術時間はH群平均512.5±170.8分,PS群359.9±123.7分,出血量922.9±518.6g,706.7±475.8gであった.全体的な合併症発生率はH群45.5%,PS群36.5%であり,PS群で低い傾向であった.重度側弯症に対する手術療法は手術時間,出血量も多く,合併症の頻度も高かったが,両群とも最終的に一定の矯正が得られた.PS法は技術的には困難ではあるが,H法と同等以上の手術成績が得られる重度側弯症に対する有用な方法であると考えられた.

手術手技/私のくふう

高速回転ドリルによる摩擦熱は神経根を傷害しうる

著者: 細野昇 ,   三輪俊格 ,   向井克容 ,   武中章太 ,   牧野孝洋 ,   冨士武史

ページ範囲:P.643 - P.650

 高速回転ドリルによる骨掘削によってどの程度の摩擦熱が出るのかを評価した.新鮮ブタ腰椎の横突起をドリルで掘削したところ対側の温度はダイアモンドバーでは最高174℃,スチールバーでは最高77℃に達しており,前者のほうが有意に高かった.掘削部を540ml/時間で水灌流した場合の温度は無灌流あるいは180ml/時間の水灌流を行った場合より低かった.また骨の厚みと温度は有意な負の相関を示していた.これらの温度は神経根を傷害するのに十分な高さであり,いわゆる頚椎術後上肢麻痺が神経根熱傷害に由来する可能性が示唆された.

境界領域/知っておきたい

CKD-MBD (chronic kidney disease-mineral and bone disorder)

著者: 伊藤純 ,   深川雅史

ページ範囲:P.652 - P.656

■はじめに

 骨は,四肢・体幹の支持組織であると同時に,カルシウム,リンの緩衝作用を担う貯蔵庫である.また,腎臓は,骨・ミネラル代謝において中心的な役割を果たす臓器であり,腎機能が低下すると,その恒常性が大きく障害される.さらに,近年,「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD;chronic kidney disease-mineral and bone disorder)」は,骨折,骨痛などにより患者のQOLを大きく損ねるとともに,それに伴う血管の石灰化が心血管疾患を引き起こし,生命予後にも重大な影響を与えることが明らかにされてきている.

 本稿では,腎機能と骨・ミネラル代謝の関係,疾患概念の変化,治療の進歩,今後の方向性と課題について述べる.

連載 手術部位感染の基本・4

手術時の手洗い・手袋・ドレープ・ガウン

著者: 小林美奈子 ,   毛利靖彦 ,   大北喜基 ,   楠正人

ページ範囲:P.660 - P.662

はじめに

 本邦では1980年代にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌のアウトブレイクが全国的に拡大し,院内感染という概念が広く認識され,感染制御が注目されるようになった.しかし当時は有効な感染制御法が示されておらず,慣習的な方法に頼らざるを得なかった.1996年に米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)が「Guideline for Isolation Precautions in Hospitals」を,1999年には「Guideline for Prevention of Surgical Site Infection」8)を発表したことをきっかけに,日本においても従来から行われてきた外科臨床における感染制御の手法が,科学的根拠に基づいた対策へと転換した.しかし,いまだに慣習的な方法を変えられずにいる施設や対策があることも事実である.

 本稿では,手術時手洗い,ドレープ・ガウン,手術時手袋につき最近の動向を概説する.

小児の整形外科疾患をどう診るか?―実際にあった家族からの相談事例に答えて・27【最終回】

側弯症

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.664 - P.665

相談例「側弯症」

 はじめまして,6歳の娘についてお聞きします.

 先日から風邪が長引いておりましたので『マイコプラズマ肺炎』と思い,近所の内科で胸のレントゲンを撮りました.肺自体はきれいで,問題なかったのですが,背骨が歪んでいると先生から言われました.心配しております.以前から,写真を撮るときなど,片方の肩が上がるのは知っていたのですが,今回改めて見てみると,素人目にですが,明らかに背骨が曲がっており,肩・腰の高さが左右で違います.

 普段,絵や手紙を書くのが好きで,よく書いておりますが,特に姿勢が悪いと感じたことはありません.

 成長過程において,今後背骨の歪みがどうなっていくのでしょうか? 何科を受診してよいのかもわからず,ただ心配しております.ご多忙中とは存じますが,何かよきアドバイスをお願いします.

臨床経験

腰部脊柱管狭窄症に対する保存的治療―Lipo PGE1注射剤の臨床効果

著者: 松山幸弘 ,   酒井義人 ,   今釜史郎 ,   伊藤全哉 ,   若尾典充 ,   石黒直樹

ページ範囲:P.667 - P.674

 腰痛下肢痛を主訴とする腰部脊柱管狭窄症(lumbar canal stenosis;LCS)と下肢閉塞性動脈硬化症(peripheral arterial disease;PAD)がともに症状に関与する「合併型」の存在が報告されており,間欠跛行症状を訴える患者を診察する際には整形外科医でもPADの診断が必要となる.研究目的は,①LCSとPADの合併率と有効なPADの検査法,②リマプロストが無効であったLCS患者に対するLipo PGE1の有効性について検討することである.対象としたLCS患者19例中6例(31.6%)にPADの合併を認めた.検査法としては足関節/上腕血圧比(ABI)・足趾/上腕血圧比(TBI)は低侵襲でPAD検出率も高いが,特にTBIの検出率が優れており,ABIが正常でもTBIが異常な症例が多かった.また経口リマプロスト製剤が無効であったLCS患者において,2週間のLipo PGE1点滴静注により腰痛および下肢痛,患者QOLの有意な改善を得た.

下位腰椎の脊椎腫瘍に対する腫瘍脊椎骨全摘術―後方-前方合併アプローチ

著者: 出村諭 ,   川原範夫 ,   村上英樹 ,   吉岡克人 ,   川口真史 ,   笹川武史 ,   岡本義之 ,   竹内孝之郎 ,   富田勝郎 ,   大竹裕志 ,   木村圭一

ページ範囲:P.675 - P.680

 下位腰椎の周囲には腹大動脈,下大静脈,左右総腸骨動静脈などの大血管群や腰仙骨神経叢が存在するため,同部位の脊椎腫瘍を腫瘍学的に切除するのは難しい.下位腰椎に発生した脊椎腫瘍に対して後方→前方合併アプローチによる腫瘍脊椎骨全摘術を施行した10例を検討した.後方→前方の2段階アプローチ,丁寧な神経根,大血管のはく離操作などを行うことで下位腰椎高位の椎体外に伸展した脊椎腫瘍に対しても,安全に腫瘍脊椎骨全摘術を行うことが可能であった.

腰部脊柱管狭窄症手術例におけるこむら返りの実態調査

著者: 松本守雄 ,   渡辺航太 ,   辻崇 ,   石井賢 ,   高石官成 ,   中村雅也 ,   戸山芳昭 ,   千葉一裕 ,   西脇祐司 ,   道川武紘

ページ範囲:P.681 - P.686

 腰部脊柱管狭窄症(LCS)手術例に対し,こむら返りについてのアンケート調査を行った.

対象および方法:LCS手術例120例(男85例,女35例,平均年齢73.5歳)および関東地区郡部で健康診断に参加したLCSの手術歴のない一般住民370例(男162例,女208例,平均年齢75.6歳;対照)に対し郵送によるアンケート調査を行った.質問項目は 1)こむら返りの有無,2)頻度と生じる時間,3)部位など,さらにLCS群では 4)こむら返りの術前後の比較,5)生活に及ぼす影響,6)手術に対する満足度などとした.結果:1)こむら返りがあると答えたLCS患者は85例(70.8%),対照群137例(37.0%)(Odds比;4.6)で,LCS群で有意に高頻度であった.2)頻度はLCS群では数日に1回が30例(34.9%)と最も多く,対照群では数カ月に1回が61例(44.5%)と最も多かった.こむら返りを生じる時間は就寝時がLCS群63例(73.3%),対照群109例(91.6%)と最も多かった.3)部位は両群ともふくらはぎが最も多かった.4)LCS群でこむら返りがあると答えた人のうち,術前より改善が16例,不変が40例,悪化が23例で,悪化例が改善例より多かった.5)こむら返りのために日常生活が障害されたと答えたLCS患者が47.1%を占めた.6)こむら返りあり群で手術に満足した患者は59例(70.2%),こむら返りなし群で20例(57.1%)であり,両群間に有意差はなかった.

考察:LCS手術患者のこむら返りは対照群と比較して明らかに高率,高頻度に認められ,約半数の患者が生活に困っていた.こむら返りは術後に改善するより,むしろ悪化した患者のほうが多かったことから,術前の患者への説明,何らかの対策が必要である.

腱板広範囲断裂に対する広背筋移行術の術後成績

著者: 大歳憲一 ,   菊地臣一 ,   宍戸裕章 ,   立原久義 ,   長倉栄 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.687 - P.692

 肩関節自動挙上能力が著しく低下し,一次修復が困難な肩腱板広範囲断裂6例6肩に対して広背筋移行術を行い,その治療成績を検討した.術後,肩関節自動屈曲と自動外転,日本整形外科学会肩関節疾患治療判定基準(JOAスコア),および,visual analog pain scale(VAS)は有意に改善した.広背筋移行術は,一次修復不可能な広範囲腱板断裂の症例に対して,良好な除痛効果と自動可動域の改善が得られる有効な治療手段といえる.しかし,三角筋機能が低下した症例に対しては限界がある.

連続型頚胸椎後縦靱帯骨化症に対するposterior expansive cervico-thoracic laminoplastyの適応と限界

著者: 高見正成 ,   山田宏 ,   吉田宗人 ,   中川幸洋 ,   南出晃人

ページ範囲:P.693 - P.698

 当科では胸椎病変を主病巣とする連続型頚胸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)に対して頚椎から胸椎にわたる後方拡大頚胸椎椎弓形成術(posterior extensive cervico-thoracic laminoplasty=PECTL)で対応し,良好な結果を報告してきた.しかしながら,最近,神経症状が悪化した症例を3例経験した.悪化した症例は全例神経麻痺症状が強く独歩不能で,頂椎部に嘴状型OPLLを有していた.このような症例では,PECTLでの対応は症状悪化を来す可能性があり,術式の選択には注意を要すると考えられた.

経皮的レーザー椎間板除圧術(PLDD)成績不良例に対する再治療法の検討―保存的治療の有用性

著者: 町野正明 ,   湯川泰紹 ,   伊藤圭吾 ,   中島宏彰 ,   加藤文彦

ページ範囲:P.699 - P.703

 腰椎椎間板ヘルニアに対して,他院で経皮的レーザー椎間板除圧術(以下PLDD)施行後に成績不良にて,当院で加療を行った34例について調査した.PLDDの成績不良の主な原因の一つである適応の誤りが67.6%(23/34例)に認められた.まず保存的治療を行い,保存的治療無効例に対しては手術を施行した.保存例でもJOAスコアは改善した.他院PLDD後成績不良例でも保存的治療の有効例があり,まず標準的な保存的治療を試みるべきである.

橈骨遠位端関節内粉砕骨折に対するDesmanet変法と掌側ロッキングプレートの併用手術

著者: 大島功生 ,   佐々木伸 ,   小杉雅英 ,   駒形正志 ,   佐藤尚弘 ,   五十嵐環 ,   古舘武士 ,   加藤建 ,   須賀潤

ページ範囲:P.705 - P.711

 単独の手技では整復位保持が困難な橈骨遠位端関節内粉砕骨折に対してDesmanet変法と掌側ロッキングプレートを併用して手術した6例7手の臨床成績を報告した.臨床評価は斎藤らの評価法に準じて評価しexcellent5手,good2手であった.X線計測でも整復は良好で矯正損失はみられなかった.本法は低侵襲に橈骨遠位端の粉砕した骨片を周辺から固定する手技(fragment-specific fixation)である.最初にDesmanet変法を施行することで整復位をほぼ獲得できるため,安全で繊細な掌側でのプレート手技が可能となることが利点である.

骨温存型ステムによるセメントレス大腿骨人工骨頭置換術の中期成績

著者: 片井学 ,   早川満 ,   小林大時 ,   高橋延勝

ページ範囲:P.713 - P.717

 セメントレス大腿骨人工骨頭置換術における骨温存型ステムの有用性を検討した.1996年1月から2005年12月までに,人工骨頭置換術を施行した85例を対象とし,臨床評価としてJOAスコア,大腿部痛および合併症を,X線学的評価としてステム側とカップ側を評価した.最終経過観察時平均JOAスコアは74点,大腿部痛発生は5例であった.合併症は脱臼1例と術中大腿骨骨折各1例であった.全例bone-ingrown fixationが得られ,ステムの沈下は1例にみられた.Stress shieldingは19例(22.4%)に認められた.良好な術後成績を示したと考える.今後の経過観察が重要である.

症例報告

1歳女児の軸椎歯突起骨折―中期経過例の1例

著者: 松本健一郎 ,   矢吹省司 ,   川上亮一 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.719 - P.723

 小児の脊柱は,柔軟で弾力性に富み,生理的可動域が大きい.このため脊椎損傷は成人のそれと比較して少ない.今回,1歳女児の軸椎歯突起骨折の1例を経験して,4年間の経過観察を行った.症例は,1歳4カ月の女児である.自動車の後部座席のチャイルドシートに着座中に,父親の居眠り運転が原因で,水田に転落して受傷した.軸椎歯突起骨折の診断で,当科で入院治療を行った.頚椎伸展位で骨折が整復されることが,単純X線写真で確認された.このため頚椎カラーによる固定と床上安静による保存療法を行った.受傷後10週の単純X線写真の機能撮影で骨癒合が確認された.受傷後4年の時点で特に愁訴なく,日常生活を送っている.小児の歯突起骨折は,愁訴が不明瞭で,かつ神経学的所見が把握しにくい.このため初診時の診断がときに困難である.小児で頚部の姿勢が不自然な場合は,頚椎の損傷を疑う必要がある.さらに,単純X線写真の軟部組織陰影の増大により骨傷の存在を疑うことができる.

口腔内常在菌であるStreptococcus mitisが検出された人工膝関節置換術術後感染の1例

著者: 佐々木知行 ,   赤石孝一 ,   金森茂雄 ,   片野博 ,   植山和正

ページ範囲:P.725 - P.729

 口腔内常在菌の一つであるStreptococcus mitisが検出された人工膝関節置換術(TKA)の術後感染の1例を報告する.症例は73歳の女性で,変形性膝関節症に対しTKAを行った.患者は術後2カ月で抜歯を受け,抜歯後2日目に発熱と嘔吐を呈したが抗菌薬投与によって症状は軽快した.術後8カ月に膝の熱感と腫脹を呈し感染を疑いデブリドマンを行ったが症状の軽減が得られず,術後10カ月でTKA抜去とセメントモールド充てんし,その3カ月後にTKA再置換術を行った.術中の組織からStreptococcus mitisが検出され,抜歯後の菌血症による感染と考えられた.術後1年を経過し再燃は認めない.

パクリタキセル+カルボプラチン併用化学療法でpartial responseが得られた原発不明癌多発骨転移の1例

著者: 二村尚久 ,   中島浩敦 ,   吉田雅博 ,   内堀充敏

ページ範囲:P.731 - P.735

 症例は75歳の女性で,左上腕骨病的骨折で発症した原発不明癌骨転移で,胸骨,大腿骨,肩甲骨にも骨転移を認めた.左上腕骨に36Gyの放射線照射を行い,続いてパクリタキセル(PTX)175mg/m2とカルボプラチン(CBDCA)AUC 6の併用化学療法を開始した.4週に1回,10コース行ったところ,上腕骨病的骨折部に骨形成がみられ,遷延癒合となった.他の転移巣も縮小が認められた.原発不明癌骨転移に対するPTXとCBDCAの併用化学療法は,有害事象も少なく,耐用可能であり有効な治療法の選択枝となり得る.

人工膝関節置換術後急性期に痛風発作を生じた1例

著者: 藤森孝人 ,   小杉祐一 ,   中村吉晴 ,   河野譲二

ページ範囲:P.737 - P.740

 人工膝関節置換術(TKA)において術後感染は最も忌避される合併症の一つである.今回われわれはTKA術後に痛風発作を来し術後感染と鑑別を要した症例を経験したため報告する.症例は70歳の女性で,左TKA術後から発熱,炎症反応が持続した.感染を除外する目的で膝関節の穿刺を行った.関節液培養は陰性で,尿酸ナトリウム結晶が確認され痛風発作と診断した.非ステロイド性抗炎症薬とコルヒチンの内服を行い膝痛は軽快した.TKA後の発熱に対しては痛風発作の可能性も考慮すべきと考えられた.

Charcot肩関節症に対する人工骨頭置換術および腱板再建術

著者: 長濵賢 ,   末永直樹 ,   三浪明男

ページ範囲:P.741 - P.745

 神経病性肩関節症であるCharcot肩関節症は非常に稀な疾患であり,その肩関節機能低下は重度である.これまで種々の治療法が報告されているにもかかわらず中長期の報告はなく,一定の治療見解はいまだ不明である.われわれは脊髄空洞症に伴う3例のCharcot肩関節症に対し人工骨頭置換術と腱板再建術を施行してきた.5年以上の経過観察では,腫脹の軽減に有効であり,有用な機能改善が期待でき,画像上,人工関節の弛みも認めていない.しかし疼痛に関しては残存する可能性もあることを念頭に置く必要がある.

腓腹筋に発生した腫瘤型筋サルコイドーシスの1例

著者: 由浅充崇 ,   甲斐睦章 ,   牧野晋哉 ,   西嶋達也 ,   林透

ページ範囲:P.747 - P.750

 腓腹筋に発生した腫瘤型筋サルコイドーシスの1例を報告する.症例は50歳の女性で,両下腿後面の腫瘤を主訴に来院した.MRIではサルコイドーシスに特徴的なdark star signとthree stripes signsを認めた.しかしながら,診察や諸検査では腫瘤以外には異常を認めなかった.生検で組織学的に非乾酪性類上皮肉芽腫とラングハンス型巨細胞を認め,筋サルコイドーシスの診断に至った.筋サルコイドーシスに関する文献的考察を行った.

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あとがき フリーアクセス

著者: 黒坂昌弘

ページ範囲:P.758 - P.758

 経済危機を筆頭として,世の中何となく暗い話題ばかりで景気のよいお話があまりないことに滅入っておられる読者もおられると思います.今この文章を書いている最中も,神戸では新型インフルエンザ騒動で,どこまで意味があるのかわからないマスクの着用や,監視の体制などが続いていますが,社会の安全のために必要なことではないかと,おとなしく定めや制度に従って行動しています.医療と教育に携わる関係者は,新しい研修制度が始まってからは,制度の問題が大きく影響し大変な現実に直面しています.大学の外科系の医局が懸命に頑張ってきたことも踏みにじられた感じで,また地域医療も崩壊寸前まで進んでいます.過去のあとがきをみても編集委員の多くの先生方が,痛切にこの点を感じておられることをしみじみと感じます.制度や定めがいかに大切であるかと実感し,納得する次第です.

 医療と全く違う話で恐縮ですが,このような社会時勢の中で隣国は,核実験やミサイル発射など一連の行動で世界を牽制しています.国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルにより公表された,世界の人権状況をまとめた年次報告書(2009年度版)では,“1990年代後半以降で最悪”という危機的なレベルの食料難に直面する一方,当局は人々の生存に最低限必要な食料を確保する対策さえ怠っているとの報告もありますが,どこまで本当なのかも定かでありません.また,最大の脅威国の米国のクリントン国務長官が“6カ国協議の合意を無視し,近隣国への挑発的で攻撃的な態度をとっているが,そのような行動は報いを受ける”と警告しても,どこ吹く風に見えます.かえってミサイルがこちらに向かって飛んでくるのではないかと心配になったりします.国の基本的な体制が異なるので無茶苦茶なのですが,その体制に振り回される日本の対応は滑稽にさえ見えてきます.“笛吹けど踊らず”いう言い回しと反対に,制度などは無視して“笛を吹いて国民を踊らせる”極意を備えた組織といえます.もちろん医療の世界がこのようなやり方で成功するとは全く思いません.異質な次元の問題ですが,制度を考えるうえでは否が応でも考えざるを得ない側面を含んでいます.“笛を吹かないでも皆が踊る”,よい方向に歯車が向かう,そして国民がよい医療を受けられるのが医療の世界の理想です.病める患者さんに福音をもたらすのはヒポクラテス以来の医師の使命ですから,笛など吹く必要もないはずですが,よい制度が基盤にないと皆が踊る気にもならないので,よいシステムが構築されていくことを切に期待したいものです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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