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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科44巻8号

2009年08月発行

雑誌目次

巻頭言

第24回日本整形外科学会基礎学術集会の開催にあたって

著者: 伊藤博元

ページ範囲:P.760 - P.761

 本年の11月5日(木),6日(金)の両日,パシフィコ横浜で第24回日本整形外科学会基礎学術集会を開催いたします.本学会は,昭和58年に社団法人日本整形外科学会の主催事業となり,本年度からは5月の学術総会,7月の骨・軟部腫瘍学術集会とともに,運営面からも日整会の主催学会となりました.

 基礎学術集会に課せられた使命は,日整会として運動器領域における基礎研究の発展と醸成を推進することであるのは言うまでもありません.具体的には,国際的に価値のある研究を促進させ,先端的基礎研究の創出の機会を提供し,世界に発信させることであろうと思います.さらに,若い研究者の育成を目的として発表の場を提供するばかりでなく,近年臨床研修制度の導入に伴う,基礎研究離れの風潮を転換させて,研究に向かう興味の発芽機会を提供することでもあろうと考えます.

誌上シンポジウム 創傷処置に関する最近の進歩

緒言 フリーアクセス

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.762 - P.762

 整形外科の教科書を読んでも創傷治癒やその処置に関する記載は多くない.私が整形外科の研修を始めた頃は,子供が手足を擦りむいてきた(擦過創を受傷した)時には,よく洗い,異物や明らかな壊死組織を取り除いて,消毒してガーゼを当てるように覚えた.指導医が教えてくれたわけではなく,見よう見まねで覚えたものである.初期の処置時にガーゼを当てた後,滲出液が出ればガーゼを取り替えて,創が乾燥し痂皮が形成されると,感染の心配がなくなった気がして,痂皮がとれるまで経過を見ることになる.このような経験をした医師は私だけではないと思う.しかし,近年,創が治癒するためには,創面の湿潤状態が大切であり,この湿潤状態で作られた環境で表皮が良好に再生することがわかってきている.同時に以前私たちが期待していた創面の乾燥は創傷の表面の壊死を増す危険があることが明らかになっている.これらの知見を基に創傷を湿潤環境に保つ創傷被覆材の開発が行われ,広く用いられるようになった.一方で,私たちが繰り返し使用してきた消毒薬やある種の軟膏による創処置は創傷の局所をさらに傷害することも明らかになってきた.このような創傷治癒に関する新しい知見を基に適切な創傷処置の方法も大きく変化してきている.同時に手術時の皮膚の縫合法,術後の創の管理や術後の創離開後の対処法も変化してきている.手術時の創では,術後の創痕をきれいにすることも大切なことであり,そのための工夫も種々行われてる.

 外傷性の指尖部損傷には,爪のみの損傷と尖部指切断がある.前者には爪下血腫や爪甲はく離などがある.爪甲はく離では過去には爪を切除していた時期もある.尖部指切断では,切断高位により治療法は異なるが,鋭利な切断であればultramicrosurgeryと呼ばれる技術により血管縫合を行い再接着も可能である.また,composite graft,植皮や開放療法による断端形成や各種皮弁を利用した指尖部再建法が考えられている.一方,指以外の外傷性皮膚欠損の創閉鎖に対しては,植皮術,回転皮弁,有茎皮弁や遊離皮弁などを選択できるが,実際の治療に当たっては,創の部位,深度,汚染の程度,複合損傷の有無とその種類や程度を考え,手術術式を選択する必要がある.同時に麻酔や,手術を行うために十分な器機や人が準備されているかも問題になる.

創傷治癒の基礎知識

著者: 夏井睦

ページ範囲:P.763 - P.766

 創面では欠損した組織の細胞の増殖で組織修復が得られるが,その際に重要なことは創面の乾燥を防ぎ湿潤状態を維持することである.さらに消毒薬などの創傷治癒を妨害する薬剤も使用してはならない.消毒薬は蛋白質変性作用で殺菌するが,人体細胞と細菌では細胞壁に守られている細菌のほうが消毒薬に強い抵抗力を持っているためである.さらに創感染のメカニズムから創感染の治療と予防において細菌の除去ではなく感染源の除去が本質であることを説明する.創面からメシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出される細菌学的・生物学的理由も明らかにする.

創傷被覆材

著者: 後藤孝浩 ,   館正弘

ページ範囲:P.767 - P.771

 近年の創傷管理学の進歩は,創傷被覆材の開発とともにあったと言っても過言ではない.1980年代にハイドロコロイド製品が市販されて以降,アルギネート,ポリウレタンフォーム,ハイドロファイバーなど様々な材質,材形,特徴をもった創傷被覆材が製品化され,現在ではそれらに抗菌成分や成長因子などを加えたものの開発も進んでいる.創傷被覆材の第一の目的は,創傷を湿潤環境にして創傷治癒を促進させることであるが,創傷には損傷組織の種類・深さ,壊死組織や感染の有無,発生からの時間経過など,様々な状況や治癒過程におけるいくつかの段階があり,創の状態により適した創傷被覆材の選択(適材適所)が重要となる.

創縫合とテーピング―ドレッシング,術後創管理,術後創離開

著者: 林利彦 ,   山本有平

ページ範囲:P.773 - P.777

 創縫合は皮下縫合と真皮縫合で死腔を作らないように筋肉および脂肪層の各層が合わさり,かつ創縁が密着した状態であることが理想的である.表皮縫合は最後に創縁を正確に合わせるための最終補正を目的としており,糸は強く結ばない.抜糸後にテーピングを行うことは瘢痕幅の拡大や肥厚性瘢痕/ケロイドの予防に有効である.術後に創離開した場合は創傷管理の3原則,すなわち 1)壊死組織の除去,2)感染予防,3)湿潤環境の維持の原則に従って処置することで創傷治癒を促進するための環境づくりが重要である.

指尖部損傷―爪甲剥離を含む

著者: 平瀬雄一

ページ範囲:P.779 - P.782

 指尖は細かいものをつまむ精緻動作を担う一方で,常に露出して使うため,その再建には機能的だけでなく,整容的にも配慮した再建がなされなければならない.したがって安易な断端形成が行われるべきではない.痛みがなく,形のよい指尖を再建するには,一つの皮弁で指尖全体を再建するのではなく,掌側は十分な組織を持つ局所皮弁で再建し,背側(爪側)には爪床移植を行うのがよい.

外傷性皮膚欠損の治療

著者: 土田芳彦

ページ範囲:P.783 - P.789

 外傷性皮膚欠損は,損傷部の大きさや状態を鑑みて,reconstructive ladder(再建のはしご)に則り再建の方法を考えるが,それは単純創閉鎖あるいは保存治療から,植皮術,局所皮弁,区域皮弁,遠隔皮弁,遊離皮弁の順に考慮する.それぞれの方法には利点,欠点があるため,理想的な治療法選択のためには,多くの術式に精通している必要がある.さらに外傷性皮膚欠損は,時に骨折や腱損傷,血管・神経損傷を伴うことがあり,総合的管理が理想的な再建のためには必要である.

熱傷創の処置

著者: 川上重彦 ,   山元康徳 ,   岸邊美幸

ページ範囲:P.791 - P.794

 熱傷の重症度は作用する熱の温度,作用時間,作用範囲で決まり,損傷の深さによってⅠ~Ⅲ度熱傷に大別される.Ⅰ度熱傷では,炎症を治める目的でステロイド含有軟膏を用いる.浅達性Ⅱ度熱傷では,自然上皮化(再生治癒)を阻害しないことが重要で,近年では湿潤環境を維持する創傷被覆材が汎用されている.深達性Ⅱ度熱傷では,創傷治癒を促進する薬剤の併用が有用である.Ⅲ度熱傷では,小範囲であれば抗菌外用剤などによる保存的治療も可能だが,体表面積の1%を超える場合は手術(壊死組織除去と植皮術)が必要となる.

難治性潰瘍

著者: 菊地憲明 ,   佐竹寛史 ,   佐藤大介 ,   高原政利 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.795 - P.802

 難治性潰瘍の発生原因は様々であり,同様な発生部位で同様な外観を呈する潰瘍であっても,個々の潰瘍の病態を把握して,その病態に適した治療法を症例ごとに考慮,検討していくことが大切である.本稿では四肢にみられる難治性潰瘍について限定して,原因の異なる代表的な症例を提示し,それぞれの症例の病態の特徴と治療法について述べる.また,最新の創傷治療の概念(wound bed preparation:創床準備,TIME:組織,感染または炎症,湿潤,創縁)も紹介して,創傷治癒の捉え方,治療の実際について述べる.

褥創

著者: 塚田邦夫

ページ範囲:P.803 - P.807

 褥創が一般の創傷と違う点は「圧迫」と「ズレ」という創傷原因が持続することであり,この対策をしない局所療法は意味をなさない.また,ほとんどの褥創において栄養障害が併存するが,栄養障害の改善は困難で,管理栄養士や言語聴覚士,あるいは歯科医などと連携し,できるだけ経口からの栄養補給に努める.褥創は創治癒にとり悪条件下の局所療法であり,創傷治癒理論に則った方法が必須である.感染のコントロールと壊死組織の除去,湿潤環境の維持が重要で,創の乾燥化を避け創面を消毒せず,十分な創洗浄が基本であり,これは一般の創傷と何ら変わることはない.

総説

臨床研究・論文作成にあたっての倫理的配慮

著者: 齋藤有紀子

ページ範囲:P.811 - P.817

 改訂「臨床研究に関する倫理指針」が2009年4月から施行された.2003年の指針制定から2度目の改訂だが,今回の改訂では,健康被害の補償,研究の事前登録,研究者への教育の機会保障,有害事象などの報告義務,研究の進捗状況・終了報告,倫理委員会整備など,治験実施体制に近い規定がさまざま盛り込まれた.本稿では,改訂臨床研究指針および疫学研究指針の内容を踏まえ,計画書作成,用語の解釈,患者の同意を得る方針など,倫理申請・論文作成にあたっての手引きを例示する.

整形外科/知ってるつもり

TRAP-5b(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ5b分画)

著者: 正木秀樹 ,   三木隆己

ページ範囲:P.818 - P.821

■はじめに

 骨疾患における骨代謝の評価や骨粗鬆症の病態診断や治療の効果判定には,骨代謝マーカーの測定が有用であり10),健康保険でも認められている.骨代謝マーカーは,骨吸収マーカーと骨形成マーカーに大別され,骨吸収マーカーは破骨細胞による骨の破壊(吸収)の指標となり,骨形成マーカーは骨芽細胞により骨の作られる指標となる.Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド(NTX)や,デオキシピリジノリン(DPD)は,骨吸収状態をよく反映し,また臨床データも豊富なことから,臨床の場で最もよく用いられている骨吸収マーカーである.しかしながら,これらの骨吸収マーカーは主に尿中に排出されたコラーゲンの分解産物を測定したものであり,直接,破骨細胞の機能を見たものではなく,測定上,日内変動や腎機能の影響を強く受けることになる.

 一方,古典的な骨吸収マーカーである酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRAP)は,破骨細胞から直接分泌されている酸フォスファターゼであり,破骨細胞の機能や骨吸収の状態を直接示していると考えられている.しかし,血液中にはマクロファージに由来するTRAPもあり,特異度に問題があるため,骨吸収マーカーとしてあまり注目はされていなかった2,9).ところが,最近になり,TRAPの分画の内,破骨細胞に特異的な5b型(TRAP-5b)のみを測定する系が開発されたことから12,13),TRAP(-5b)が骨吸収マーカーとして再評価され,また,直接,破骨細胞の機能を測定できるのではないかと期待されるようになった.

連載 手術部位感染の基本・5

手術室の管理・空調

著者: 小林美奈子 ,   毛利靖彦 ,   大北喜基 ,   楠正人

ページ範囲:P.822 - P.824

はじめに

 質の高い信頼される医療を構築するために,手術部位感染(SSI)を含めた感染の問題は大きな課題となっている.これからの感染制御は,科学的あるいは臨床的論拠のある合理的でかつ経済性も考慮された対策を採用し,実践的な感染制御を行っていく必要がある.

 感染制御の観点から病院設備に言及している主なガイドラインは,日本医療福祉設備協会から出されている「病院空調設備設計・管理指針」,米国からは「結核菌伝播予防のためのガイドライン」,「環境感染制御のガイドライン」などがある.

 今回は,病院感染を防止する上で大切な手術室設備と環境につき概説する.

医者も知りたい【医者のはなし】・35

炎の眼科医 土生玄碩(1762-1848)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.826 - P.829

 土生玄碩(はぶげんせき)は江戸後期の眼科医で,宝暦12年(1762),安芸吉田(現在・広島県安芸高田市)に生まれた.土生家は安芸郡山藩吉田で代々の眼科医として開業していた.広島浅野家の教姫の眼疾を治療したことを契機に,徳川幕府の御殿医に登用された.文政9年(1826)に,玄碩は江戸・長崎屋にとう留中の長崎・出島の蘭館医・シーボルトを訪ね,瞳孔を散大させる薬の情報と交換に,着ていた葵の御紋の入った紋服を差し出した.シーボルトが持参していたのはベラドンナ(学名Atropa belladonna L.)であり,シーボルトが教えた日本の植物は「ハシリドコロ」(走野老)であった.ヨーロッパ原産のベラドンナと日本のハシリドコロ〔原産:日本・ロウトウコン(莨トウ根),学名Scopolia japonica Maxim.〕は,アトロピンやスコポラミンなどのアルカロイドを含み,瞳孔を散大させる作用があるので,使えば白内障の手術などに多大な威力を発揮した.

 ところで,玄碩がシーボルトに与えた葵の紋服は,もとより将軍家拝領品である.後に,玄碩は,文政11年(1828)のシーボルト事件でこの件の責を問われ,晩年の大半を刑に服することになる.すでに,幕府御殿医という地位・名声・富を得ていた玄碩が,敢えて国禁を犯してまで薬を入手しようとしたのは何故であろうか.常に新しい手術法を考案するために,あらゆることを貪欲に学ぼうという意欲にあふれる玄碩にとって,手術を容易にする散瞳剤を見逃すことができなかったのであろう.ひとえに,万人を救うことを最優先したと考えたい.それで題も「炎の眼科医」とした.

臨床経験

不安定型鎖骨遠位端骨折に対する烏口鎖骨靱帯再建術

著者: 山下文治 ,   船越登 ,   山下琢

ページ範囲:P.831 - P.838

 われわれは烏口鎖骨靱帯(CCL)断裂を伴う不安定型鎖骨遠位端骨折に対して,人工靱帯と金属ボタンを用いてCCLを再建する手術法を,1999年以降24例に施行した.追跡期間は平均16カ月であった.骨癒合は,術後3週から重労働に復帰した1例を除いた23例,96%に得られた.軽度の肩関節の可動域制限が2例に認められた.肩関節痛を訴える症例が6例にあった.うち2例に軽度のADL障害を来したが,残りの22例にはADL障害はなかった.以上の結果から,不安定型鎖骨遠位端骨折に対するCCL再建術は有用な手術法と考える.

骨粗鬆症症例に対するアレンドロネートとリセドロネートの短期薬効比較―尿中骨代謝吸収マーカー(NTX)・踵骨広帯領域超音波減衰率(BUA)の変化

著者: 石井義則 ,   野口英雄 ,   武田光宏 ,   鳥谷部真一

ページ範囲:P.839 - P.843

 臨床所見および胸腰椎X線像,骨代謝吸収マーカー(尿中NTX/Cre),広帯領域超音波減衰率(BUA)所見を総合的に勘案し,骨粗鬆症の薬物療法の開発基準に従いビスホスホネートが必要と判断した骨粗鬆症症例100例を対象に,処方後6カ月の尿中NTX/Cre,BUAを比較検討した.使用薬剤はアクトネル(RIS17.5mg/週),ベネット(RIS17.5mg/週),フォサマック(ALN35mg/週)である.投与後,RISおよびALNは尿中NTX/Creを有意に低下させた.3薬剤間の比較では尿中NTX/Cre,BUA,MSCに有意差はないが,減少率はALNが有意に高かった.しかし,RISでは尿中NTX/Creが35~40%減少で骨折発症率が最低になることを考慮すれば,短期成績はほぼ同等の薬剤であると推察された.

脊椎硬膜外膿瘍―単独に発症した硬膜外膿瘍と化膿性脊椎炎に併発した硬膜外膿瘍の比較

著者: 杉田誠 ,   武井寛 ,   寒河江正明 ,   橋本淳一 ,   長谷川浩士 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.845 - P.849

 脊椎硬膜外膿瘍と診断された31例を,単独に発症した硬膜外膿瘍(単独群)と化膿性脊椎炎に併発した硬膜外膿瘍(併発群)に分け比較検討した.患者背景,初発症状,血液検査所見は両群に差がなかった.単独群では併発群に比べて麻痺の発生率が有意に高く,症状を自覚してから麻痺が発症するまでの期間が短い傾向にあり,さらには全例に手術治療が必要であった.単独群では病期に関わらず手術治療を選択してもよいと考えられた.

症例報告

硬膜外血腫を生じた外傷性腰動脈損傷の1例

著者: 岩田栄一朗 ,   飯田仁 ,   荻田恭也 ,   福井直人 ,   市川泰崇 ,   茅野修二 ,   倉知彦 ,   鍜冶大祐 ,   鈴木大介

ページ範囲:P.851 - P.854

 今回われわれは,比較的軽微な外傷による腰椎椎体骨折に腰動脈損傷を合併した1例を経験したので報告する.血管造影で腰動脈損傷を認め,同部位からの出血は脊柱管内にまで及んだ.このような症例はわれわれが渉猟し得た範囲では,他に報告例がない.選択的腰動脈造影を施行し塞栓術を施行した.受傷8カ月の現在,経過良好である.

治療に難渋した先天性多発性関節拘縮症に伴う脊柱後側弯症の1例

著者: 小倉洋二 ,   渡辺航太 ,   辻崇 ,   石井賢 ,   高石官成 ,   中村雅也 ,   戸山芳昭 ,   千葉一裕 ,   松本守雄

ページ範囲:P.855 - P.860

 患者は14歳の女児で,先天性多発性関節拘縮症に併発した側弯111°,後弯90°の進行性脊柱変形を認めた.術前矯正目的でhalo gravity牽引を予定した.Haloリング装着時に,2度の心肺停止を来したが蘇生した.手術は椎弓根スクリューを用いた後方矯正固定術を行ったが,カーブの可撓性が低いこと,骨が脆弱であったことから側弯は86°,後弯は75°までの矯正にとどまった.本疾患による側弯症は進行性で可撓性に乏しいため,早期の手術を考慮する必要がある.また,拘束性肺機能障害,顎関節硬化と頚椎可動域低下があるため,術前に呼吸機能の十分な評価を要する.

膝蓋骨非置換人工膝関節置換術を施行後5カ月で膝蓋骨の置換手術が行われた1例

著者: 森山一郎 ,   中村光一

ページ範囲:P.861 - P.864

 膝蓋骨非置換人工膝関節置換術(TKA)施行後,術前から持続する膝蓋骨周囲の疼痛のため,5カ月で膝蓋骨の置換手術が行われた症例を経験した.症例は63歳の女性で,mid-vastus approachで膝蓋骨を置換せずTKAが行われた.術後,階段昇降,椅子から立ち上がるときなどの膝前面の痛みが続き,初回手術後5カ月で膝蓋骨の置換術を行った.再手術後右膝前面の疼痛は消失し,日常生活にほぼ支障はない.膝蓋骨置換の適応に関する明確な基準はない.整形外科医が共通した膝蓋骨置換の適応基準を持つことが望ましいと考えた.

書評

『研修医のための整形外科診療「これだけは!」』―高橋正明(編) フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.824 - P.824

 厚生労働省が報告している国民生活基礎調査の有訴者率では「腰痛」および「肩こり」が男女ともに1位および2位を占めていますし,女性では3位に「手足の関節が痛む」が入っていることでわかるように,外来診療では,この種の訴えを持った多くの患者が整形外科外来を訪れています.また,救急外来では救急車で運ばれてくる外傷患者の9割以上が整形外科関連という病院もあります.平成16年に始まった卒後臨床研修システムでは整形外科は残念ながら必修科には選ばれませんでしたが,一般病院では,整形外科医がかかわる機会が数多くあります.多くの研修医が一般病院で研修を受けるようになり,指導医が十分いない病院でどのようにして彼らを一定のレベルまで引き上げることができるか,また,研修医向けの良い整形外科入門書がないかと思っておりました.

 このたび医学書院から『研修医のための整形外科診療「これだけは!」』が出版されました.この本は雑誌『臨床整形外科』に2007年1月から2008年6月までの1年半,全18回にわたり掲載された連載企画「臨床研修医のための整形外科」を1冊の書籍にまとめたものです.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.872 - P.872

 今年も自宅の庭では見ごろを迎えたアジサイの花が雨に濡れています.日本には四季の移り変わりもありますが,南北や高低差による差があります.6月28日に沖縄地方が梅雨明けしたとみられ,南国は夏本番目前です.別のニュースでは富士山の山梨県側登山道では6月に積雪があったため,最高2メートルにもなる残雪を山小屋関係者らが雪かきをして7月1日の山開きに備えています.今年の梅雨は雨が少なく,6月として最も高い気温を記録した都市もありましたが,今日のニュースでは梅雨前線の活発化で九州北部は29日夜から30日朝にかけて大雨が降り,高速道路が通行止めになるなど,市民生活に影響が出ています.土砂災害や川の氾濫などが起こらないよう祈っています.

 2009年4月,厚生労働省の改訂「臨床研究に関する倫理指針」が施行され,日本においては人の身体・情報・試料を対象とした研究を行うためには,今後,この「臨床研究に関する倫理指針」と「疫学研究に関する倫理指針」をあわせて活用することが求められてきます.北里大学医学教育研究開発センター・医学原論研究部門の齋藤有紀子先生に「臨床研究・論文作成にあたっての倫理的配慮」と題して改訂臨床研究指針のポイントを確認しながら,研究者と研究責任者が臨床研究を倫理的に実施する際の留意点について解説していただきました.読者の皆さんには熟読されることをお勧めします.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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