誌上シンポジウム 創傷処置に関する最近の進歩
緒言
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著者:
荻野利彦1
所属機関:
1山形大学医学部整形外科学講座
ページ範囲:P.762 - P.762
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整形外科の教科書を読んでも創傷治癒やその処置に関する記載は多くない.私が整形外科の研修を始めた頃は,子供が手足を擦りむいてきた(擦過創を受傷した)時には,よく洗い,異物や明らかな壊死組織を取り除いて,消毒してガーゼを当てるように覚えた.指導医が教えてくれたわけではなく,見よう見まねで覚えたものである.初期の処置時にガーゼを当てた後,滲出液が出ればガーゼを取り替えて,創が乾燥し痂皮が形成されると,感染の心配がなくなった気がして,痂皮がとれるまで経過を見ることになる.このような経験をした医師は私だけではないと思う.しかし,近年,創が治癒するためには,創面の湿潤状態が大切であり,この湿潤状態で作られた環境で表皮が良好に再生することがわかってきている.同時に以前私たちが期待していた創面の乾燥は創傷の表面の壊死を増す危険があることが明らかになっている.これらの知見を基に創傷を湿潤環境に保つ創傷被覆材の開発が行われ,広く用いられるようになった.一方で,私たちが繰り返し使用してきた消毒薬やある種の軟膏による創処置は創傷の局所をさらに傷害することも明らかになってきた.このような創傷治癒に関する新しい知見を基に適切な創傷処置の方法も大きく変化してきている.同時に手術時の皮膚の縫合法,術後の創の管理や術後の創離開後の対処法も変化してきている.手術時の創では,術後の創痕をきれいにすることも大切なことであり,そのための工夫も種々行われてる.
外傷性の指尖部損傷には,爪のみの損傷と尖部指切断がある.前者には爪下血腫や爪甲はく離などがある.爪甲はく離では過去には爪を切除していた時期もある.尖部指切断では,切断高位により治療法は異なるが,鋭利な切断であればultramicrosurgeryと呼ばれる技術により血管縫合を行い再接着も可能である.また,composite graft,植皮や開放療法による断端形成や各種皮弁を利用した指尖部再建法が考えられている.一方,指以外の外傷性皮膚欠損の創閉鎖に対しては,植皮術,回転皮弁,有茎皮弁や遊離皮弁などを選択できるが,実際の治療に当たっては,創の部位,深度,汚染の程度,複合損傷の有無とその種類や程度を考え,手術術式を選択する必要がある.同時に麻酔や,手術を行うために十分な器機や人が準備されているかも問題になる.