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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科44巻9号

2009年09月発行

雑誌目次

視座

慢性腰痛とドーパミンシステム

著者: 紺野愼一

ページ範囲:P.875 - P.875

 最近の分子生物学的研究の進歩はめざましい.とくにfunctional MRI(fMRI)やPETを用いた痛み領域の研究により,注目すべき事実が次々と明らかになってきている.その中の一つに,ドーパミンシステムが挙げられる.慢性腰痛にはストレスやうつなどの心理社会的因子が深く関与していることは明白であるが,その機序に関しては明らかではなかった.しかし,最近の分子生物学的研究により,心理社会的因子が慢性腰痛となぜ密接な関係を持つかが解明されつつある.

 人体に痛み刺激が加わると主に側坐核でオピオイドが産生される.このオピオイド産生に関与しているのがドーパミンである.すなわち,痛み刺激が加わると腹側被蓋野からphasicドーパミンが放出される.Phasicドーパミンの放出により,側坐核でμ-オピオイドが産生され,痛みが抑制される.このシステムをドーパミンシステムと呼ぶ.Phasicドーパミンの放出は,痛み刺激のみではなく,快感や報酬の期待によっても起こることが判明している.一方,抑うつや慢性痛が存在するとphasicドーパミンは痛み刺激に十分に反応せず,その結果,μ-オピオイドはきちんと産生されず,痛みの抑制機構が働かない.Phasicドーパミンはtonicドーパミンにより制御されている.Tonicドーパミンは,細胞外シナプス間隙に常に一定の濃度を保って分泌され,phasicドーパミンの反応性を制御している.すなわち,tonicドーパミンが増加するとphasicドーパミンの放出は減少し,逆にtonicドーパミンが減少すると,phasicドーパミンの放出が刺激される.ストレス,不安,うつなどが存在すると,海馬からtonicドーパミンが放出される.その結果,痛み刺激に対するphasicドーパミンの反応性は低下し,十分なμ-オピオイドが産生されなくなり,痛みが増幅されていく.以上の機序が,心理社会的因子と慢性腰痛との関連性を説明する分子生物学的機序である.線維筋痛症の病態は明らかではないが,線維筋痛症の患者ではこのドーパミンシステムが破綻していることが明らかにされている.同様に,筆者は身体表現性障害の中にはドーパミンシステムが破綻している患者が少なからず存在しているのではないかと考えている.

 今後,fMRIやPETを用いた慢性腰痛の解析により,慢性腰痛に対する新たな治療法の開発が期待される.

誌上シンポジウム 高齢者骨折と転倒予防

緒言 フリーアクセス

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.876 - P.876

 平均寿命が女性で85歳を,男性でも79歳を超える超高齢社会のわが国においても,自ら移動し身の回りの世話ができる健康寿命は75歳以下である.高齢者の転倒・骨折は,医療保険・介護保険費用の増大をもたらし大きな社会問題となってきた.寝たきり・要介護の原因として,脳卒中の25%に次いで骨折・関節疾患を合わせた運動器の障害が21%で第2位と,老衰による13%を大きく上回っている.このうち骨折は10.8%を占め,高齢者の寝たきりの原因として看過できないものである.

 高齢者の骨折の要因として骨粗鬆症と転倒が挙げられる.高齢者の寝たきりを防ぐためには骨折,特に移動能力を大きく妨げる大腿骨近位部骨折を予防する,またそのためにはそのリスクファクタである骨粗鬆症の治療と予防,および転倒予防の2つの面から考えて対処することが求められる.すなわち骨を丈夫にする一方,転倒しにくい環境と体を作ることが要求されるが,この誌上シンポジウムでは「高齢者骨折と転倒予防」を取り上げ,その道の専門家に執筆をお願いした.

高齢者の転倒予防の運動指導法

著者: 上岡洋晴

ページ範囲:P.877 - P.882

 転倒は,内的要因だけでも多様であり,運動介入も含めた総合的な対応が必要である.運動指導を行う際には,エビデンスを正しく理解し,それを活用することが必要である.バランス訓練を含む複合的な運動が効果的であり,とくにステッピング動作(とっさの一歩)が重要である.一方,集団指導において,そうしたエビンデンス要素のみを実施することは困難であり,現実的にはそれ以外の要素も加えることが不可欠である.対象者の心身の特性や状態に応じて処方の質と量を決定し,微調整しながら行う必要がある.動機づけとして,エビデンス要素を含む運動あそびが推奨される.運動指導者には,最大限の効果を導くために情・理を尽くした指導が求められる.

病院における「転倒予防教室」の運営方法

著者: 岡田知佐子 ,   柏口新二 ,   上野勝則 ,   室生祥 ,   紙谷武 ,   田中尚喜 ,   上内哲男 ,   小松泰喜 ,   武藤芳照

ページ範囲:P.883 - P.888

 東京厚生年金病院にわが国初の「転倒予防教室」が誕生してから11年が経過し,約530名が教室を修了した.教室の内容は健診(内科・整形外科健診,健脚度®測定など)および個別的な運動・生活指導である.教室参加により運動機能の有意な改善がみられ,また転倒・骨折数を減らすことができた.「教室」は手厚い人員配置により効果的で,無理なく楽しい運動を実践しているが,リスク管理,人件費の費用効率,教室修了後の機能維持などの課題がある.

高齢者の易転倒性評価法

著者: 奥泉宏康

ページ範囲:P.889 - P.893

 高齢者の易転倒性を評価するためには,集団検診スクリーニングや問診,自己記入アンケートなどに用いられる質問法と身体機能を測定する方法がある.身体機能は,歩行・転回・座り立ちなどの基本的な運動機能を単独または組み合わせた運動機能評価とバランス能力の評価がある.バランス機能は,片脚立位時間や椅子の座り立ち検査などの診察室でも可能な検査と,Timed Up and Go TestやFunctional Reachなどのリハビリテーション室などが適している検査があり,使用目的や測定者,計測にかかるスペースや時間などを考慮して選択される.

高齢者骨折の受傷原因としての転倒の特徴と手術時期

著者: 渡部欣忍 ,   小林誠 ,   松下隆

ページ範囲:P.895 - P.898

 転倒は,高齢者脆弱性骨折の受傷原因の多くを占める.転倒方向としては,上腕骨近位部骨折は斜め前方か側方への転倒,橈骨遠位部骨折は斜め前方または後方への転倒で発生することが多い.視力低下・年間転倒回数などがリスク因子である.大腿骨近位部骨折は後側方への転倒が引き金となり,転倒中に衝撃力を緩和するような動作をとらなかった結果,大転子後方が地面にぶつかり骨折を生じる.大腿骨近位部骨折では,入院後48時間以内の早期手術が死亡率を下げることがmeta-analysisで示されているが,日本人を対象とした研究では,48時間以内の早期手術による死亡率低下・機能予後改善への影響は明らかでない.

転倒による高齢者骨折術後の健康寿命―高齢者大腿骨近位部骨折の追跡調査をもとに

著者: 市村和徳

ページ範囲:P.899 - P.902

 65歳以上の大腿骨近位部骨折の予後を分析した.Kaplan-Meier法による累積生存率は,5年目で50%,10年目で18%であった.期待生存率に比べ,術後1年目の低下が著しく,さらに,1年目以降もより急峻な低下を示していた.自宅退院群では,施設・病院転院群に比べ,生命予後は良好であったが,それでも期待生存率と比較すると,術後5年目以降の低下が著しかった.5年以上生存した227例で,歩行能の維持,自宅生活の維持を検討した.5年目で歩行能を維持していたのは57%,5年目で自宅生活を維持していたのは51%であった.

論述

原発性軟部肉腫に対するアクリジンオレンジ治療法の治療成績

著者: 中村知樹 ,   楠崎克之 ,   里中東彦 ,   松原孝夫 ,   松峯昭彦 ,   内田淳正

ページ範囲:P.903 - P.909

 われわれは軟部肉腫に対し腫瘍切除後の患肢機能温存を目指してアクリジンオレンジ(acridine orange,以下AO)を用いた治療(以下AOT)を行っている.今回その方法と治療成績について報告した.AOTは光線力学的手術(photodynamic surgery;PDS),光線力学的治療(photodynamic therapy;PDT),放射線力学的治療(radiodynamic therapy;RDT)からなる.今回はAOTを行った,原発性軟部肉腫26症例(男性13例,女性13例.平均年齢42歳,平均経過観察期間37カ月)を対象とした.なお,10cm以上の腫瘍,後腹膜・脊椎・脊髄発生腫瘍は適応外とした.PDS/PDTを6例に行い,PDS/PDT/RDTを20例に対して行った.その結果,腫瘍学的転帰はcontinuous disease free20例,no evidence of disease4例,died on disease2例であり,5年生存率は92.1%であった.AOT後の局所再発は2例であり,7.7%の再発率であった.また,局所制御率は88%であった.患肢機能はISOLS評価で100%であり,患者の満足度も非常に良好であった.今回の結果から,AOTは広範切除術に劣らず良好な局所制御が得られ,患肢機能も温存可能な治療方法であることがわかった.そのため,重要な神経血管を合併切除し術後患肢機能障害が予想される場合,AOTは局所再発を抑制し,かつ機能を温存する治療方法として有効であると考えられた.

運動器に関する疫学調査―南会津スタディ第4報:腰部脊柱管狭窄と腰痛関連QOLとの関係(縦断研究)

著者: 大谷晃司 ,   菊地臣一 ,   紺野愼一 ,   矢吹省司 ,   恩田啓 ,   二階堂琢也 ,   立原久義 ,   高山文治 ,   渡辺和之

ページ範囲:P.911 - P.917

 地域住民における腰部脊柱管狭窄による症状の経時的推移とそれに伴う腰痛関連QOLの変化を検討した.腰部脊柱管狭窄の診断は,東北腰部脊柱管狭窄研究会で作成した腰部脊柱管狭窄診断用質問表を用いた.また,腰痛関連QOLは,Roland-Morris Disability Questionnaire日本語版(以下RDQ)を用いた.その結果,腰部脊柱管狭窄が軽快すると腰痛関連QOLは向上し,腰部脊柱管狭窄が出現すると腰痛関連QOLが低下することが明らかになった.この事実は,以前の横断研究において明らかになった“腰部脊柱管狭窄の存在は腰痛関連QOLを低下させる”を支持する結果であった.

座談会

スポーツ選手の腰痛への対応

著者: 中川泰彰 ,   吉田宗人 ,   向井直樹 ,   森北育宏 ,   山本利春 ,   加藤一人 ,   清水克時

ページ範囲:P.919 - P.928

スポーツ選手の腰痛の特徴

清水 スポーツ選手にとって腰痛は,頻度の高い大きな問題ですが,「腰痛はスポーツ傷害である」という認識がまだまだ低いという印象があります.スポーツ傷害というと,上肢・下肢ばかりが強調されている点も否めません.また日本のスポーツ選手は怪我を根性論で治すのが当たり前のような空気が残っていて,適切な治療を受けずに頑張ってしまい,予後のよくないケースも見受けられます.

 本日はそのような問題に答えるため,スポーツ選手の腰痛への対応というテーマでお話いただきます.

 まず,スポーツ選手の腰痛とはどのようなものかについてからはじめましょう.スポーツ選手の腰痛と一般の人の腰痛に違いはあるでしょうか.

中川 腰痛そのものの原因・種類に関しては,スポーツ選手と一般国民とでそれほど違う要素はないと思います,しかしスポーツ選手の場合は,日常生活レベルでは回復といえず,そのスポーツの動作ができてはじめて「治療できた」ことになり,その意味では復帰のレベルが違います.

 たとえば,相撲では腰椎分離症(以下,分離症)が大きな問題になりますが,相撲が取れるまでに回復するとなると,すぐには解決しません.治療の最終ゴールが大きく違うことが1つのポイントと思います.

整形外科/知ってるつもり

線維筋痛症

著者: 三木健司 ,   行岡正雄

ページ範囲:P.930 - P.933

■はじめに

 線維筋痛症は,1970年代半ばに欧米でその存在が確認され,1980年代に本邦でも確認された,全身に耐えがたい痛みがある疾患である.この聞きなれない疾患は,古くからリウマトロジーの中で結合組織炎症候群や七川らが提唱した多発性付着部炎などを含んだ全身性慢性疼痛症候群として一部のリウマチ科医師の間では知られていた.2004年に厚生労働省線維筋痛症研究班が発足し,日本での研究が進み,班長である西岡らにより2007年に本邦での始めての医師向けのテキスト8)が完成した.

境界領域/知っておきたい

ビスフォスフォネートと顎骨壊死

著者: 米田俊之

ページ範囲:P.934 - P.938

■はじめに

 ビスフォスフォネート(BP)は石灰化抑制作用を有する生理活性物質ピロリン酸と類似の化学構造を持つ薬剤である4).BPは破骨細胞に特異的に取り込まれ,アポトーシスの誘導により骨吸収を抑制する.近年,長期間にわたってBPを投与されているがん患者,あるいは骨粗鬆症治療のためにBPを服用している患者が,抜歯などの歯科治療を受けたあとに顎骨壊死(bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw, BRONJ)が発症するとの報告がみられるようになった3,5)

 ここでは,BPの薬剤としての有用性について述べ,次いでBRONJの現状,その発症メカニズムに関する考察,ならびに経験に基づく予防策および対応策について述べる.

連載 手術部位感染の基本・6

予防的抗菌薬

著者: 毛利靖彦 ,   小林美奈子 ,   大北喜基 ,   楠正人

ページ範囲:P.940 - P.943

はじめに

 適切な予防的抗菌薬を使用すれば,手術部位感染を減少することができることは明らかである.1999年の米国のガイドライン11)の発表以来10年が経過し,本邦でも,予防的抗菌薬使用に対する意識は,多くの外科医にとっても高まっていると考えられる.人工関節などのように大きな生体材料を使用する整形外科手術においては,わずかな細菌数でも感染して難治性となり,これらのインプラントを抜去せざるを得ないことが多く,生じる機能障害は大きい.今回は,予防的抗菌薬使用に関する基本的事項と整形外科領域における予防的抗菌薬の特殊な使用について述べる.

臨床経験

腰部脊柱管狭窄症患者における足関節背屈筋力を用いた手術・保存療法の評価

著者: 池田光正 ,   西野仁 ,   浜西千秋 ,   福田寛二

ページ範囲:P.947 - P.950

 脊柱管狭窄症患者61名(男28名,女33名)に対し手術・保存治療の客観的評価に足関節背屈筋力が有益であるかを検討した.等速運動機器を用いて,経時的に背屈筋力を測定した.提唱した筋力低下境界値は徒手筋力テスト(MMT)と85%以上の一致を認め有効な指標であった.4領域以上の筋力であれば回復の見込みが期待でき,MMTで筋力低下がないと診断された症例にも潜在的筋力低下が認められた.手術群は保存群よりも早期に改善し,1年後の改善率も優れていた.等速運動機器を用いた筋力評価が治療効果の客観的評価に有益であった.

症例報告

肩関節の内転制限を主訴とした腱板部分断裂の1例

著者: 山口さおり ,   佐藤英樹 ,   久木田裕史 ,   油川修一 ,   工藤祐喜

ページ範囲:P.953 - P.956

 症例は54歳の男性で,誘因なく右肩の運動時痛および挙上時のひっかかりを自覚した.初診時の右肩の自動関節可動域は内転-40°と制限されていた.MRI T2強調画像で棘上筋腱に一致して高信号領域が認められ,右肩腱板断裂と診断した.術中所見では,棘上筋に一致して変性肥厚した断裂部が認められ,腱板修復術を行った.術後8カ月で自動関節可動域は内転0°に改善していた.肥厚翻転した棘上筋腱の断端が,肩峰骨棘にひっかかることで疼痛を誘発し,内転障害を来したと推察された.

大腸癌転移による両大腿骨近位部病的骨折に対して髄内釘により骨接合術を施行した1例

著者: 阿部幸喜 ,   三束武司 ,   山下桂志 ,   山岡昭義 ,   小笠原猛

ページ範囲:P.957 - P.961

 症例は再発大腸癌多発骨転移の48歳の女性で,化学療法を施行中であったが,転倒し両大腿骨近位部病的骨折を受傷した.髄内釘による両側同時骨接合術により,車椅子での生活を再獲得し得た.術後約半年で骨癒合を認めたが,大腿骨遠位への転移は認めなかった.化学療法の進歩で大腸癌の生命予後が改善しているため,大腸癌骨転移例の手術適応は拡大するものと思われた.また,大腸癌骨転移の病的骨折において,髄内釘と化学療法により骨癒合が得られる可能性が示唆された.

書評

『研修医のための整形外科診療「これだけは!」』―高橋正明(編) フリーアクセス

著者: 河野友祐

ページ範囲:P.943 - P.943

 私が高橋正明先生に初めてお会いしたのは研修医2年目のときでした.3年目以降の研修について,研修先はおろか専門科に関しても決められず迷っていた私を,とても熱心に,優しく誘ってくださいました.整形外科医として高橋先生の下で研修をスタートしてしばらくの時間がたったころ,先輩の先生方が雑誌『臨床整形外科』に連載を執筆されることになり,夜遅くまで原稿の準備をされる姿を目にしておりました.われわれ後輩医師への指導の後,連載を読むであろうたくさんの若手医師に,少しでもわかりやすく説明をするために丁寧に時間をかけて作業をされていた姿を今でも鮮明に覚えています.

 当時の整形外科医は高橋先生を部長とする7人.高橋先生の座右の銘(?)である「愛とチームワーク」をモットーに,緊張感の中にも和やかな雰囲気のある職場でした.高橋先生をはじめ,照屋徹先生,林俊吉先生に,当時整形外科医になりたての私は手術室や外来で,時にはお酒を交えながらたくさんのことを教わりました.その内容がこの本の中にびっしり詰め込まれています.

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あとがき フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.968 - P.968

 総選挙も終わり,日本政府の混乱,世界的な経済不安が継続し,明るい話題がありませんが,このような内外ともに混乱,動揺し,不確かな時代にこそ,『個人の生き方』,『組織のあり方』が最も試される時ではないかと考えます.経済界では,世の中の主な価値基準には,『損か得か』『好きか嫌いか』『本物か偽物か』『善か悪か』の四つが共存しており,それらが循環して,時代の価値観を主導しているといわれております.この四つの価値基準は,景気の動向に伴って循環してきたようです.景気がよくなってくると『損か得か』,景気が天井を打つ時期には『好きか嫌いか』という概念が支配的になるようです.景気が下り坂になると,『本物か偽物か』の概念が出て来て,現在のように景気が低迷し続けると『善か悪か』の論理が台頭して来るようです.過去に善悪が主流であった時期は,昭和初期から太平洋戦争が終わるまでの時期です.各々が自己の正当性を主張して独善に走る傾向が強くなり,軍部が暴走したと考えられています.善悪の概念が主流になるのは,非常に危険な時代であると言えます.

 一方,名門企業が軒並み不振に陥っている中,いくつかの新規ベンチャー企業の中には,急成長を遂げている会社があります.この理由のひとつに企業のオープン性が重要視されています.日本人は,元来オープンにすることが好きでなく,大学講座もその例外ではありません.整形外科領域でも,いまだに大学間や病院間で成績を競う傾向があり,他の組織のよい点,優れた点を評価・採用しないという閉鎖性がありました.他大学が開発した人工関節は使わないなどは,その一例であります.しかし時代は,全く新しい局面に入ったと考えられ,医学界もその例外ではなく,『いいものはいい』という謙虚な姿勢が必要であると考えます.今後は個人も教室も『オープン』というものに耐え,研究面でも臨床面でも,産学連携や,他学部,他病院,他大学との多施設共同研究を組むなど,新たな戦略を立てていくことが重要になってくると考えます.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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