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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科45巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第83回日本整形外科学会学術総会を開催するにあたって

著者: 四宮謙一

ページ範囲:P.2 - P.3

 第83回日本整形外科学会学術総会を2010年5月27日(木)~30日(日),東京国際フォーラム・よみうりホールで開催いたします.

 いま,世の中は安心で安全な医療が要求されており,一方で高度な医療も渇望されています.このような変革と発展の時期に第83回日本整形外科学会学術総会を開催することの重大さに,身も心も引き締まる思いで準備をしています.

誌上シンポジウム 慢性腰痛症の保存的治療

緒言 フリーアクセス

著者: 宮本雅史

ページ範囲:P.4 - P.4

 近年の慢性腰痛症に関するガイドライン,システマティックレビューでは保存的治療としての運動療法は有効な治療法であることが示されているが,現状の認識では単独の方法のみですべての腰痛症を治療することは困難であり,病態に応じた選択や組合せでの有効性が検討されている.本編では慢性腰痛症の治療に積極的に取り組み,良好な成績をあげている6人の先生にご執筆を依頼した.

 中村英一郎先生には勤労者における腰痛の横断調査の結果から作業関連要因や生活習慣要因と慢性腰痛症との関連について概説していただいた.また肥満で腰痛のあるものに腹筋殿筋運動と体重減量を促す指導を合わせて行うことで腰痛やQOLの改善が得られるとの介入調査の結果も紹介していただいた.

慢性腰痛症の治療としての生活習慣指導

著者: 中村英一郎 ,   中村利孝

ページ範囲:P.5 - P.8

 某企業の20~60歳の男性従業員の中でbody mass index(BMI)25以上かつ腰痛のある者43名を,介入群と非介入群の2群にランダムに分けて介入調査を行った.調査項目はBMI,腹囲,visual analogue scale(VAS),SF-36である.介入群には自己記入式体重測定と腹筋,殿筋運動各20回×2を毎日実施するよう指導した.2カ月後,介入群にのみ腹囲,BMI,VAS,SF-36の「痛み」,「全体的健康感」,「活力」と「社会生活機能」に改善がみられた.肥満者の腰痛に対して体重減量と運動という介入は,腰痛を軽減しQOLを改善することがわかった.

慢性腰痛症に対するストレッチ療法

著者: 鈴木重行

ページ範囲:P.9 - P.14

 慢性腰痛症に対するストレッチ療法について,ストレッチするまでの評価内容および軟部組織由来の疼痛抑制法ならびに筆者が提唱するIDストレッチング(個別的筋伸張法)について述べた.ストレッチは疼痛が強く残存している場合には効果が期待できないため,疼痛を発現している部位を特定し,痛みが軽減した後に,その筋が最も効率よい方向,強度,時間で施行することが求められる.

慢性腰痛症,腰下肢痛に対するコルセット筋の座位エクササイズと筋力の即時数値的評価

著者: 浜西千秋

ページ範囲:P.15 - P.20

 腰痛患者の腰背筋の筋力低下が数値的に評価されることは少ない.筆者は7年前からマイクロフェット2TMを用いて体幹支持筋(コルセット筋)力を測定しているが,男女ともに患者群で筋力は有意に低下していた.患者は自分の低い値に驚き,エクササイズへの動機が高まる.そこで座位で行える安全なエクササイズを指導し,次回診察時の目標値を提示してきた.その結果,比較的短期間に筋力の増強と臨床症状の改善をみた.改善には不安からの解放感が加味されており,腰痛治療に必須である心療的アプローチの有効性も示している.

慢性腰痛症者に対するセルフエクササイズ

著者: 伊藤俊一 ,   隈元庸夫 ,   久保田健太 ,   森山秀樹 ,   菊本東陽

ページ範囲:P.21 - P.28

 慢性腰痛に対する保存療法(運動療法)の効果に関して検討した.痛みに対する短期効果やQOL改善に対する効果として,ストレッチング,McKenzie法などの腰椎特異的治療法,体幹筋力強化,エアロビックエクササイズ,モビライゼーション,モーターコントロールエクササイズなどが推奨されている.考察を加えるとともに,段階的漸増法による介入に関して論述した.

慢性腰痛症に対するMcKenzie法

著者: 豊田耕一郎

ページ範囲:P.29 - P.33

 McKenzie法は力学的作用を利用した筋骨格系疾患の診断と治療法である.慢性腰痛に対しては,短期成績は良好であるが,長期の有効性は報告されていない.しかしながら,McKenzie法は単なる運動療法ではなく,自己マネジメント,患者教育,再発の予防にも重点を置いており,適切な運動方向が処方できる.疼痛の中央化が生じる慢性腰痛に関しては,社会心理学的因子の関与を除外でき,安全に行うことのできる有効な治療法であると考える.

慢性腰痛症に対する運動療法と効果

著者: 酒井義人

ページ範囲:P.35 - P.40

 慢性腰痛症における運動療法については,今日エビデンスの高い治療法として認識されつつある.しかしその主たる目的が筋力増強と体幹可SAK01性の改善であるものの,すべての腰痛に対して有効であるわけではなく,運動療法のよい適応となる腰痛については報告が少ない.本稿では腰背筋酸素動態に注目し,近赤外分光法を用いて筋酸素化を評価し,腰痛を腰椎屈曲,伸展による誘発の違いから分類し,筋血流改善の点から運動療法の効果について論じた.前屈障害型腰痛において運動療法後の筋酸素化が良好なものは治療成績も良好であり,このような腰痛には運動療法のよい適応となる.

論述

運動器に関する疫学調査―南会津スタディ第6報:下肢深部反射の疫学的検討

著者: 二階堂琢也 ,   菊地臣一 ,   矢吹省司 ,   大谷晃司 ,   五十嵐環 ,   恩田啓 ,   山内一矢 ,   竹谷内克彰 ,   高橋一朗 ,   立原久義 ,   高山文治 ,   渡辺和之 ,   紺野愼一

ページ範囲:P.43 - P.49

 高齢者で下肢深部反射の低下や消失,あるいは左右差が認められる場合には,それが病的意義をもつのか,加齢による変化なのかについての判断が困難な場合がある.本報告では,下肢深部反射の左右差と加齢による変化に着目して,調査した.対象は,同年代の人口の20.3%にあたる地域住民1,750名である(最多年代層は70歳代).本調査により,下肢症状の既往がなく,腰仙椎部神経障害の既往の可能性が低い症例でも,膝蓋腱反射は5.3%,アキレス腱反射は8.9%の頻度で左右差が認められ,その頻度は,50歳代を境に増加することが明らかとなった.

検査法

腰下肢痛の鑑別診断における坐骨神経ブロックの有用性と限界―梨状筋症候群の診断に主眼を置いて

著者: 尾鷲和也 ,   原田幹生 ,   内海秀明 ,   菅原裕史 ,   尾山かおり ,   武居功

ページ範囲:P.51 - P.57

 腰下肢痛患者で,臨床所見と腰椎MRI所見が典型的に一致せず梨状筋症候群(PS)が否定できない188例に対して坐骨神経ブロック(SNB)を行った.効果を著効,有効,無効に分け,最終診断を有効度別に調査し,またPSに対する梨状筋切除術と腰椎疾患除圧術後に症状改善が得られた各群における術前のSNB効果を評価した.最終診断はPS(疑い含む)が56%,腰椎疾患23%で,SNB著効中PS(疑い含む)は81%であった.SNBはPS手術有効群で100%の有効性を示したが,腰椎手術有効群の66%にも有効性があり,PSの確定診断法とは言えなかった.

器械

大転子先端から挿入する新しい大腿骨用円筒型髄内釘Madonna

著者: 糸満盛憲 ,   内野正隆 ,   中村光伸 ,   山谷健治

ページ範囲:P.59 - P.67

 高窒素ステンレス鋼を用いた新しい大腿骨用髄内釘“Madonna釘”を開発した.その曲げ強度は従来のSUS316Lステンレス鋼の約40%高いため,より細い髄内釘の使用が可能となり,骨損傷を最小限にすることができる.また早期の荷重歩行を許可することや,日常生活を営みながら生物学的骨癒合を待つことが可能となり,fracture disease(骨折病)の予防が期待できる.釘の近位部を8°外反位とすることによって,大転子の先端から挿入することが可能となった.これによって従来の梨状筋窩から挿入する際に危惧される後被膜動脈損傷の危険がなくなった.さらに137°の頚体角で骨頭にラグスクリューを挿入することによって転子部骨折,転子下骨折の固定にも使用可能である.

整形外科/知ってるつもり

ジストニア

著者: 酒井直隆

ページ範囲:P.68 - P.71

■はじめに

 ジストニアは疾患の概念が不明瞭で,診断基準も定かなものがなかった.これは病態に定説がないうえに,定義自体が変更を繰り返した歴史的背景も影響している.

 整形外科の臨床で多く直面するのは書家や音楽家などにみられる職業性の,動作特異性ジストニアtask specific dystoniaである.ここではまずジストニア全体の概念について解説し,特に動作特異性ジストニアについて述べる.

最新基礎科学/知っておきたい

骨治癒を促進させるケモカイン分子Stromal cell-derived factor 1 (SDF-1)

著者: 北折俊之 ,   伊藤宣 ,   吉富啓之 ,   中村孝志

ページ範囲:P.72 - P.75

■はじめに

 整形外科領域の手術は,骨折の整復固定術はもちろん,骨切り術,骨再建を伴う人工関節や脊椎固定術といった多く手術において骨癒合が得られることを前提として施行される.しかし骨腫瘍切除術や近年増加傾向にある人工関節の再置換術においては手術で生じた骨欠損を再建するために巨大な骨移植が必要となり,ときに手術治療の前提となる骨癒合が得られず遷延癒合する症例や移植骨が吸収される症例を経験する.このような症例は今後も増加することが予想され,骨移植手術の骨治癒を促進するような治療法の開発,確立が期待される.

 移植骨には自家骨と同種骨があり,その特性が異なる.すなわち自家骨は生物学的足場となる骨器質と間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells:MSCs)など骨形成能をもつ細胞成分の両方が備わっていることで骨治癒は比較的良好である.ただ,その採取量に制限があり巨大な骨欠損には対応できない.一方,同種骨は複数の保存骨を使用することで巨大骨欠損への対応も可能であるが,骨器質のみで細胞成分が欠如した,いわゆる“dead bone”であるため骨癒合率が自家骨に劣ることが知られている8).実際,長管骨の骨腫瘍切除後の骨欠損を同種骨で再建した場合の癒合率は60%以下6)で成績はよくない.したがって,このようなdead boneの骨治癒といった困難な条件においても骨癒合が促進される治療法が開発されれば骨再建の手術成績の飛躍的な進歩が期待できる.われわれはこの課題を解決すべくケモカイン分子stromal cell-derived factor 1(SDF-1)とその受容体CXC receptor 4(CXCR4)に注目し,マウスの自家骨移植および同種骨移植モデルの骨治癒を比較することで骨治癒メカニズムを研究した.

 本稿ではわれわれの研究結果12)とあわせて骨治癒におけるケモカインSDF-1の役割とその治療展望を概説したい.

連載 手術部位感染の基本・10【最終回】

Q&A

著者: 毛利靖彦 ,   小林美奈子 ,   大北喜基 ,   楠正人

ページ範囲:P.76 - P.78

はじめに

 「手術部位感染の基本」と題して44巻4号より10回に渡る連載も,今回で最終回となりました.

 最終回では,今までにいただいた質問に答えるQ&A形式とします.

臨床経験

経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術の経椎間孔アプローチと椎弓間アプローチ併用によるL4/5 down-migrateヘルニア摘出

著者: 中村周

ページ範囲:P.83 - P.86

 大きく移動しているヘルニアは経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(PELD)経椎間孔アプローチの適応外であるが,L4/5の大きく尾側移動しているヘルニアをL4/5の経椎間孔アプローチとL5/Sからの椎弓間アプローチを併用することでPELDで摘出し得た.腰仙前屈位で2つのアプローチの併用で,L5背側のほとんどの範囲に到達でき,また,ヘルニア基部を断っているので,容易に移動部分を摘出できる.MEDと比べ今回の方法は,非常に小さい侵襲で遂行できるため,有用であると考える.

症例報告

手術的に治療した腸骨稜裂離骨折の1例

著者: 宇都宮啓 ,   岡村良久

ページ範囲:P.87 - P.91

 患者は15歳の男性で柔道の試合中に背負い投げを試みて,相手に押しつぶされて受傷した.CT上,骨折部は外後方へ転位していた.整復・骨癒合が困難と考えて吸収性材料で骨接合術を行った.術後3カ月で柔道へ復帰した.術後1年の最終観察時,整復位で骨癒合を得ており,柔道も支障なく続けている.腸骨稜部における裂離骨折は腹筋群の張力により発生するとされてきたが,本例では,殿筋,大腿筋群の張力の影響が大きいと思われた.骨片の転位が大きく,保存的には骨癒合が困難であると判断して手術を行い,早期にスポーツ復帰が可能であった.

手根骨尺側長軸脱臼の1例

著者: 大歳憲一 ,   菊地臣一 ,   伊藤恵康 ,   古島弘三 ,   紺野愼一

ページ範囲:P.93 - P.97

 手の圧挫による手根骨尺側長軸脱臼の1例を経験した.症例は,18歳の男性である.作業中に右手をプレス機にはさみ受傷した.手指は中指-環指間で離開し,環指と小指は回内位をとっていた.明らかな神経脱落所見は認められなかった.画像所見では,手根骨は有頭骨-有鉤骨間で離開しており,有鉤骨が掌側へ回内転位していた.手根骨尺側長軸脱臼と診断して,有頭骨-有鉤骨固定術を施行した.術後経過は良好で,術後3カ月で現職に復帰した.本損傷は極めて稀な外傷であるが,良好な機能的予後を獲得するためには早期の適切な診断と治療が重要である.

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あとがき フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.102 - P.102

 師走に入ったところでこの原稿を書いています.激動というよりは混迷の2009年(平成21年)でした.2010年はそれに輪を掛けたような年になると覚悟しています.

 今という時代,教育や医療制度は私が研鑽を積んでいた時期のそれとは異なり,大幅に変更されてきています.FDとかチュートリアルとか,カタカナ言葉が氾濫しています.より良き教育のために,われわれ自身が変わることが求められています.時代のパラダイムシフトに対応するには,We must change to remain the same,その通りです.ただ,私にはいまだに違和感が残ります.教育とは,教える者の熱い心と学ぶ者のひたむきな姿勢があって初めて成立します.卒後研修制度の発足以来,学ぶ者に受け身の姿勢が目立ちます.一方,教える側にも教える技術を学ぶ機会がなかったためもあって,戸惑いとともに,距離を置いて相手を傷つけないように気を遣っているようにみえます.このような環境では師弟の絆は成立しにくくなっているような気がします.「教育とは一緒に動くこと」という私の考えは古いのでしょうか.こんなことを考えるのは,私の周囲で想定を越える若者の不祥事が続出しているからです.「楽観主義者は,すべての困難の中に好機を見出す(チャーチル)」のだそうですが,とてもそんな心境には至りません.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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