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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科45巻10号

2010年10月発行

雑誌目次

視座

専門医考

著者: 湏藤啓広

ページ範囲:P.877 - P.878

 専門医制度が新たな段階に踏み出そうとしている.専門医とは「5年間以上の専門研修を受け,資格審査ならびに専門医試験に合格して,学会等によって認定された医師である」と日本専門医制評価・認定機構では定義している.日本専門医制評価・認定機構とは,学会相互間の協力と連携・交流を図り,社会に信頼される専門医制度の確立,専門医の育成,認定およびその生涯教育などを行うことを通じて,医療の質の向上をめざすことを目的として,2008年3月に社団法人化された組織である.同機構に加盟している学会は75を数え,基本領域の学会,subspecialtyの学会,多領域に横断的に関連する学会などに分類されている.基本領域の学会は,日本内科学会,日本外科学会,日本整形外科学会など18学会から構成され,subspecialtyの学会は日本消化器病学会,日本胸部外科学会,日本リウマチ学会など26学会から構成されている.

 機構内部の「専門医あり方委員会」で討議された専門医制度基本設計によると,基本領域の専門医(基盤専門医)と専門分化した診療領域別(subspecialty)専門医を養成することが提言されている.基本領域の専門医とは基本領域の学会とlinkしている専門医であり,整形外科専門医がこれに相当する.2010年7月1日現在,日本整形外科学会会員数は22,840名であり,整形外科専門医は16,889名(2009年11月現在)である.会員の約74%が専門医であるという計算になる.一方,診療領域別専門医とは整形外科関連では日本手外科学会専門医,日本リウマチ学会専門医,日本脊椎脊髄病学会指導医などがこれに相当する.

誌上シンポジウム 骨粗鬆症診断・治療の新展開

緒言 フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.880 - P.880

 骨粗鬆症は,人口の高齢化に伴い患者数は急増しつつあり,現在,本邦では1,000万人を越えると推定されている.骨粗鬆症では,脊椎圧迫骨折,大腿骨頚部骨折,前腕骨折などに伴う著しい運動機能の低下,介護の必要性,医療費の高騰など,社会的にも大きな問題になりつつある.いったん,骨折を起こせば,整形外科的な治療が必要となるが,一方では骨折を予防し,骨折のリスクを減少させるという内科的治療が重要である.そのためにも,骨粗鬆症の新しい診断技術や治療薬の開発が急務である.本誌上シンポジウムでは,近年,急速な進歩が見られる骨強度・骨質の定量的評価法の開発,新たな作用機序を有する骨粗鬆症治療薬の開発,その将来展望について,臨床の第一線でご活躍の先生方に解説していただいた.

 診断面では,伊東昌子先生には,三次元データに基づいて任意の断面での再構成画像を解析することが可能なMDCTによる骨質評価と骨折リスクとの相関について解説していただき,大西五三男先生には,有限要素法による構造解析により,患者固有の三次元骨構造,骨量分布,材料特性分布を明らかにし骨強度評価を行う新手法について述べていただいた.一方,斎藤充先生には,材質からみた骨質評価という観点から,骨コラーゲンの過老化と関連の深い血中・尿中ペントシジン値や血中ホモシステイン値と骨折リスクの相関を紹介していただいた.

CTによる骨質評価と骨折リスク

著者: 伊東昌子

ページ範囲:P.881 - P.886

 CTによる骨質評価は構造特性の評価であり,骨ジオメトリーと海綿骨微細構造解析によって,骨折リスク予測や薬物効果評価に用いられるようになってきた.通常のCTが断面画像であるのに対して,多列検出器を有するmulti detector-row CT(MDCT)は容積画像を提供するので,三次元データに基づいて任意の断面での再構成画像を得ることができる.また高い空間分解能を提供するため,海綿骨微細構造解析の臨床における有用性も確認され,研究が進められている.今後テクノロジーの進歩による実用化を期待する.

定量的CTを用いた有限要素法による骨強度評価

著者: 大西五三男

ページ範囲:P.887 - P.892

 骨粗鬆症を的確に診断するためには,骨折のリスクを正確に評価できる診断法が望まれる.二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)によって骨折リスクを予測するには感度・特異度に限界がある.近年では,定量的CTを用いた有限要素法によって骨強度を臨床診断する方法が開発され,臨床応用が始まっている.これは臨床用CTによる定量的CTデータを用い,有限要素法という構造解析法を用いて患者の骨強度を予測評価する方法である.この方法は骨折リスクのある患者をDXAによる骨密度よりよく識別することが臨床研究によって示唆されている.またDXAよりも早期に感度高く薬剤効果の判定ができることが明らかとなっている.

材質からみた骨質評価―骨質マーカーによる骨折リスク評価のエビデンス

著者: 斎藤充 ,   丸毛啓史

ページ範囲:P.893 - P.899

 原発性骨粗鬆症は,骨吸収の亢進により骨密度が低下し,骨折リスクが上昇する疾患とされている.しかし,近年,骨粗鬆症による骨脆弱化の原因として骨コラーゲンの過老化が骨代謝回転の亢進とは独立した機序で骨折リスクを高めることが明らかにされてきた.近年,コラーゲンの過老化を反映する血中あるいは尿中ペントシジン濃度の上昇や,その原因ともなる血中ホモシステイン高値が,骨密度測定では予測し得ない骨折リスクの上昇を予想するとしたエビデンスが蓄積されている.これらのマーカー測定は研究費での検査依託が可能であり,さらなるエビデンスの構築に期待が寄せられている.

ビスフォスフォネート製剤の新展開

著者: 萩野浩

ページ範囲:P.901 - P.906

 ビスフォスフォネート製剤は強力な骨吸収抑制作用を有し,骨折予防の観点から最も信頼されている薬剤である.わが国で使用されている4種類のビスフォスフォネート製剤はいずれも椎体骨折発生を有意に抑制する.大腿骨近位部骨折抑制効果は,アレンドロネート,リセドロネートでは証明されているが,エチドロネートでは認められておらず,ミノドロネートは臨床試験が実施されていない.現在,経口剤の投与間隔のさらなる延長のための臨床試験が試みられており,注射製剤(イバンドロネート,アレンドロネート)も開発中である.

骨吸収阻害薬の新展開

著者: 田中栄

ページ範囲:P.907 - P.910

 わが国では骨粗鬆症および骨粗鬆症を原因とする脆弱性骨折は増加の一途をたどっており,効果的な対策が望まれている.ビスフォスフォネートをはじめとした骨吸収抑制薬は,骨折予防に有効であることが大規模な臨床試験から明らかになっているが,その問題点も浮かび上がっている.このような中で新たな作用機序を有する骨吸収抑制薬の開発が急ピッチで進んでいる.本稿では新たな骨吸収抑制薬開発の現状を紹介する.

骨形成促進薬(PTHなど)の新展開

著者: 酒井昭典

ページ範囲:P.911 - P.916

 わが国の骨粗鬆症治療は現在,骨吸収抑制薬であるビスフォスフォネート製剤とSERM(selective estrogen receptor modulator)が主に用いられている.欧米では骨形成促進薬である副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)も骨粗鬆症治療薬として使用されている.骨密度増加や骨折抑制に対するPTH単剤の効果と骨吸収抑制薬との併用効果についてのエビデンスが欧米から報告されている.骨形成促進薬はPTH以外に,ラネル酸ストロンチウム,抗スクレロスチン抗体などがあるが,いずれもわが国ではいまだ臨床で使用できる状況ではない.様々な病態を含む骨粗鬆症の治療において,骨形成促進薬の登場は革命的な展開をもたらすことが期待される.

論述

頚髄症における上肢筋力の術後変化(定量評価)

著者: 武中章太 ,   細野昇 ,   向井克容 ,   三輪俊格 ,   冨士武史

ページ範囲:P.919 - P.925

 圧迫性頚髄症に対して椎弓形成術を施行した79例158肢(男性58例,女性21例,64.3歳)を対象にhand-held dynamometerを用いて三角筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋の筋力と握力を術前および術後2週間で計測し前向きに検討した.いわゆる術後上肢麻痺(MMT1段階以上低下)は5例(6%)であったが,hand-held dynamometerでは筋力低下は19例(24%)に認め,これはいわゆる術後上肢麻痺の軽症例と考えられた.一方,除圧術後,各筋別に調べた術後筋力の改善は9~18%に認められた.術前MRIにおいてC3/4最大圧迫症例では他の高位に最大圧迫を有する例と比較して三角筋,上腕二頭筋,握力が有意に改善していた.

生物学的製剤はリウマチ頚椎病変を抑制できるか

著者: 海渡貴司 ,   細野昇 ,   大島至郎 ,   大脇肇 ,   武中章太 ,   藤原啓恭 ,   牧野孝洋 ,   米延策雄

ページ範囲:P.927 - P.931

 生物学的製剤を2年以上継続投与された関節リウマチ(RA)患者21例を対象に,頚椎病変(環軸椎亜脱臼,垂直脱臼,軸椎下亜脱臼)の進行の有無および進行に影響を与える因子を検討した.平均X線撮影間隔3.7年で頚椎病変の有病率は48%(10/21例)から52%(11/21例)へとわずかな増加にとどまった.一方,頚椎病変を評価開始時に有した群では60%(6/10例)に進行を認めた.生物学的製剤は,RA頚椎病変の新規出現を抑制できるが,既存の頚椎病変の進行を抑制できない.

手術手技/私のくふう

稀なL5-S1椎間孔部狭窄の両側発生例に対して一対の脊椎内視鏡による同時手術

著者: 前田孝浩 ,   山田宏 ,   河合将紀 ,   筒井俊二 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.933 - P.936

 症例は82歳の男性で,腰部脊柱管狭窄症に対して多椎間の椎弓切除術を受けた既往がある.術後3年が経過した頃から両下肢痛と間欠跛行の再発を自覚するようになった.MRIで脊柱管内病変は認めなかったため,椎間孔部狭窄の関与を疑い3次元MRIを施行した結果,L5-S1高位の右椎間孔外狭窄,左椎間孔内狭窄病変を同定した.本症例は高齢であるうえに,高度の心血管病変を抱えるpoor riskの症例であったため,手術侵襲を可能な限り低減することを意図して一対の脊椎内視鏡による両側同時手術を考案した.実際の手術では,最も危惧された術者間の干渉による手術操作のトラブルはなく,円滑に神経除圧を完了できた.また,周術期合併症も発生せず,手術リスクを無事回避することができた.

ハイブリッド前方除圧固定術―頚椎多椎間病変に対して椎体亜全摘と椎間固定を併用する工夫

著者: 尾立征一 ,   四方實彦

ページ範囲:P.937 - P.941

 頚椎多椎間病変に対して多椎体亜全摘を施行する場合,移植骨・インプラント脱転リスクが高まるとされている.その対策として椎体亜全摘と椎間除圧を併用するハイブリッド前方除圧固定術を行った3椎間以上の頚椎症48例について調査し,その安全性と有用性を検証した.臨床成績は良好で,前方法単独で目的を達成し,術後halo-vest装着も回避できた.頚椎アライメントおよび固定椎間高は良好に維持されていた.本法は複数椎間の高度な狭窄とこれに隣接する中等度の狭窄を有する症例に適用できる安全で有用な術式である.

座談会

ロコモティブシンドローム

著者: 富田勝郎 ,   中村耕三 ,   藤野圭司 ,   帖佐悦男 ,   石橋英明

ページ範囲:P.943 - P.952

■「ロコモ」誕生

富田 今年は「Bone & Joint Decade」最後の年ですが,2000年のスタート時にはまだロコモティブ・シンドローム(ロコモ)という概念はなく,また運動器という言葉さえも馴染みがありませんでした.それが,中村先生が2008年頃から「ロコモ」を提唱され,Bone & Joint Decadeの完成形とされました.とてもうれしいことです.

 まず中村先生に,どうやって「ロコモ」にたどり着いたのかをお話しください.

整形外科/知ってるつもり

頚性めまい

著者: 新井基洋

ページ範囲:P.954 - P.957

■はじめに

 頚性めまいは賛否両論のあるめまい疾患領域である.一番の問題点は,典型的頚性めまいの頻度が少ないため,医師が頚性めまいを見たことがないことである.そのため,その存在を否定,または疑問視している医師が多いことである.教科書的にも,頚性めまいについての記載は少ない.ドイツの神経内科医であるトーマス・ブラント著の『めまい』6)には,頚性めまいの存在については,否定的な見解を述べている.その一方で,アメリカでは頚性めまいを重視する報告も認め,日本めまい平衡医学会では診断基準を設け肯定的な意見である8)

 埼玉医大の伊藤らの報告7)によると,過去17カ月のめまい外来総受診数2,007例のうち頚性めまいは2例のみであった.横浜市立みなと赤十字病院の過去4年間のめまい入院患者総数約2,000例で,そのうち椎骨脳底動脈循環不全症(以下VBI)を除く狭義の頚性めまいの診断は3例のみであり,典型例が少ないのは事実である.

臨床経験

小児環軸関節回旋不安定症の治療困難例に対する手術療法

著者: 村田泰章 ,   久保田元也 ,   金谷幸一 ,   和田啓義 ,   和田圭司 ,   柴正弘 ,   八田哲 ,   加藤義治

ページ範囲:P.961 - P.965

目的:小児環軸関節回旋不安定症の治療困難例を手術的に治療したので,その経過を報告する.

対象と方法:保存的治療で改善が得られなかった小児7例に対し,環軸椎後方固定術を施行した.

結果:3例にBrooks法を,4例にMagerl & Brooks法を施行し,全例で骨癒合が得られ,症状は消失した.術後経過平均7年時,頚椎の可動域は全例正常であった.

結語:Brooks法は3歳以上,Magerl & Brooks法は7歳以上の症例で施行でき,経過観察中,再発や可動域制限などの問題は生じていない.

症例報告

環軸椎亜脱臼に伴う椎骨動脈の頭位性閉塞により多発脳梗塞を呈した関節リウマチの1例

著者: 藤原啓恭 ,   海渡貴司 ,   牧野孝洋 ,   米延策雄

ページ範囲:P.967 - P.971

 比較的稀な関節リウマチ(RA)環軸椎亜脱臼に伴う椎骨動脈頭位性閉塞により脳神経障害を呈し,脳血管造影頚椎動態撮影で確定診断に至った症例を経験した.症例は70歳の男性で,RA歴15年,複視・ふらつきなどの小脳症状を繰り返していた.頚椎単純X線像で整復性環軸椎前方亜脱臼を認め,脳血管造影検査で左椎骨動脈の頚椎左右回旋・後屈時の閉塞を認めた.環軸椎後方固定術を施行し症状の改善を得た.繰り返す小脳症状・脳神経症状を伴う場合は本病態を疑い,不可逆的脳神経障害を生じる前の早期診断・治療が求められる.

書評

『橈骨遠位端骨折―進歩と治療法の選択』―斎藤英彦,森谷浩治●編集 フリーアクセス

著者: 金谷文則

ページ範囲:P.917 - P.917

 このたび,手の外科の第一人者である斎藤英彦先生と森谷浩治先生により「橈骨遠位端骨折―進歩と治療法の選択」が出版された.本著はFernandez D, Jupiter Jの“Fracture of the Distal Radius”に匹敵する名著である.

 斎藤先生は冒頭の「編集に当たり」で田島達也先生に「Colles(カルス)骨折について調べてみませんか」と言われたエピソードを紹介している.Colles骨折は転倒により生じる最も多い骨折であり,以前は橈骨遠位端骨折の総称のように使われたこともある.近年ではColles骨折といえば橈骨遠位端関節外伸展型骨折を指し,屈曲型骨折や関節内骨折を含めて橈骨遠位端骨折Fracture of the distal end of the radiusと呼ばれることが一般的である.最近では橈骨遠位骨折Fracture of the distal radius/Distal radius fractureとも呼ばれることも多い.

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あとがき フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.976 - P.976

 猛暑の夏も先が見えてきて,日常風景の中に秋の到来を感じるようになってきました.秋は学会シーズンのもう一つのピークであり,思索に耽る時期でもあります.

 先日,国際学会での講演のために海外出張しました.学会の発表や展示をみていると,海外の整形外科は文字通り「外科」であることを改めて認識させられました.企画や発表のほとんどは手術に関する問題です.一方,わが国の整形外科は,本号をみても,その守備範囲は広く,かつ深いのがわかります.わが国の先人達が築き上げてきた独自の整形外科が,今まで通り繁栄を続けて行くためには,我々自身に相当な覚悟と努力が求められます.今までの延長線上の次元での努力では,到底,目的を達し得ないのではないかという予感がします.今,わが国の整形外科は,将来に向かっての選択の岐路に立っていることを改めて実感させられました.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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