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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科45巻11号

2010年11月発行

雑誌目次

視座

いつも笑って前向きに

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.979 - P.980

 人は気持ち次第で幸福にも不幸にもなれます.たとえ損をしても「いい授業料を払った」と思えばいいんです.「人生苦労や失敗はあたりまえ.ならばいつも笑顔で柔軟に生きて行こう」斎藤茂太先生,人生の達人は楽ラク人生術を「しあわせ講話集」として語られている.「100%を望まなくていい」「なんとかなるさ」の言葉もそうであるが,なんだか自分の人生を肯定してくれているようで,心がホッとし,なんともいえぬ安心感を与えてくれる.斎藤先生は,大正5年東京生まれで,父親は歌人で精神科医であり,さぞかし幸せな人生を送ってこられたかのように思えるが,どうもそうではなく,29歳時に戦争で病院,家族を失い,借金だけ残った波瀾万丈の人生だったようだ.

 私たち脊椎脊髄外科医も決して楽ではない.患者さんは痛みで苦しみ,治療で改善すればよいが,結果が伴わず慢性の難治性疼痛が残ってしまう場合もある.このような痛みが半年,1年,さらにはもっと長期にわたって継続していけば,身体表現性の精神障害が生じてもおかしくはない.このような患者さんにたずさわることは,特に脊椎脊髄外科医を継続している限り避けては通れない.どのように対応するのがよいのであろうか?

調査報告

外傷性頚部症候群の治療終了後における臨床調査

著者: 小泉宗久 ,   竹嶋俊近 ,   飯田仁 ,   松森裕昭 ,   田中誠人 ,   加藤宜伸 ,   市居幸彦 ,   田中康仁

ページ範囲:P.981 - P.985

 わが国では交通外傷による外傷性頚部症候群は,自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)をはじめとする保険制度によって診療が行われるが,補償が打ち切られた後の経過については不明な点が多い.外傷性頚部症候群患者の予後を明らかにするため,賠償保険による治療が終了した患者の残存愁訴の有無やその内容に関して調査を行った.対象は51例で,電話あるいは直接問診によるインタビューを行い,33名(男性18例,女性15例)から回答を得た.症状が残存していたのは7例(21%),消失は26例(79%)であった.残存群,消失群で頚椎アライメント,可動域,総治療費,通院日数,損害保険に対する満足度に有意差はなかった.残存群に行った1年後の再調査では,多くの症例でなんらかの愁訴が遺残していた.慢性化させないための治療方針の確立と同時に遷延例に対する対応の検討も重要である.

Lecture

骨強度と骨質

著者: 斎藤充 ,   丸毛啓史

ページ範囲:P.986 - P.993

 骨強度は骨密度と骨質で規定されている.臨床的にも高い骨密度で骨折することや,薬剤により骨密度を高めても新たに骨折を起こす症例がある.こうした症例は,決して稀ではなく,骨の材質劣化が強い場合に,骨密度非依存性に骨折リスクが高まる.骨は材質学的には,鉄筋コンクリートに例えられる.鉄筋がコラーゲンであり,コンクリートはハイドロキシアパタイトである.コラーゲンは骨の重量当たりでは20%であるが,体積当たりに換算すると骨の50%はコラーゲンで占められている.コラーゲンの分子間をつなぎ止める架橋には,骨にしなやかさを与える酵素依存性の生理的架橋(善玉架橋)と,酸化や糖化といった老化や生活習慣病に関わる要因によって誘導される非生理的架橋(悪玉架橋)とが存在する.非生理的架橋の本体は,終末糖化産物(advanced glycation end products:AGEs)である.ペントシジンはAGEs架橋の代表的構造体であり,骨質を評価するマーカーとしてエビデンスが集積されてきた.コラーゲン架橋の異常は骨粗鬆症のみならず,加齢や生活習慣病,ステロイド投与,関節リウマチなどで誘導され,骨の代謝回転の亢進とは独立した機序で骨強度を低下させる.

最新基礎科学/知っておきたい

関節リウマチ新規関連遺伝子CCR6

著者: 高地雄太 ,   山本一彦

ページ範囲:P.994 - P.997

■はじめに

 ヒトゲノム全体を探索するゲノムワイド関連解析(genome-wide association study;GWAS)が可能になったことにより,疾患感受性遺伝子研究は飛躍的に進歩したといえる3).整形外科領域においても,関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA),変形性関節症,強直性脊椎炎などの疾患でGWASが行われ,その遺伝的背景の概要が明らかになりつつある.われわれは日本人RAにおけるGWASを行い,ケモカインレセプターをコードするC-C chemokine receptor type 6(CCR6)遺伝子を新規RA関連遺伝子として同定した6).CCR6は,自己免疫疾患の病態で近年注目されているT細胞のサブセット,Th17細胞で高発現している1).本稿では,CCR6遺伝子の多型が遺伝子発現に与える影響を示すとともに,RAにおけるTh17細胞の役割についても述べる.

境界領域/知っておきたい

炎症性腸疾患による関節炎

著者: 今村仁 ,   桃原茂樹

ページ範囲:P.998 - P.1002

はじめに

 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)である潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)とクローン病(Crohn's disease:CD)は,近年日本人の食生活の変化に伴い増加傾向にある疾患群である.しかし,いまだ原因が不明の難治性の疾患であり,様々な腸管外合併症を来すことが知られている.なかでも,整形外科医が扱う脊椎,関節症状は腸管外合併症として比較的頻度が高いとされており,日常診療においてわれわれが遭遇する可能性は決して少なくはない.本稿ではIBDによる関節炎について,その診断と治療を中心に最新の知見も含めて概説する.

連載 成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴・1【新連載】

総論

著者: 帖佐悦男

ページ範囲:P.1004 - P.1009

 本連載では,成長期のスポーツや運動に関わる整形外科医にとって必要な知識や落とし穴について概説する.今回は書き出しとして,スポーツの目的や成長期のスポーツ傷害(外傷・障害)の特徴について概説する.

医者も知りたい【医者のはなし】・42

お玉ヶ池種痘所を助けた2人の物語

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1010 - P.1014

■まえがき

 1980年5月に「天然痘撲滅」が宣言された.昔から恐れられ,インフルエンザやエイズ以上に恐い伝染病がこの世界から消滅している.1796年5月14日に英国の医師 エドワード・ジェンナーが牛痘を開始して,その撲滅の可能性を述べてまだ200年も経っていない.さて,日本では嘉永2年(1849)年8月に,長崎で牛痘摂取が成功し,全国に次第に普及していったが,残念なことに「蘭方禁止令」のために,江戸だけが「種痘の普及」から20年近く取り残されている.これは驚きである.その江戸にできた種痘所の開設と存続に尽力した幕府旗本と豪商の2人の物語を書いてみたい.

臨床経験

高齢者の第4腰椎変性すべり症に対する低侵襲腰椎棘間切除式椎弓間除圧術の2年以上成績

著者: 沼沢拓也 ,   小野睦 ,   和田簡一郎 ,   山﨑義人 ,   藤哲

ページ範囲:P.1019 - P.1023

 目的:高齢者の第4腰椎すべり症に対し棘間切除による低侵襲除圧術の2年以上成績を調査した.方法:対象はMeyerding分類Ⅰ度で椎間可動域20°以下あるいは後方開大5°以下の60歳以上のL4/5単椎間の腰椎変性すべり症で,本術式を施行し術後2年以上追跡した23(男11,女12)例であった.結果:臨床的に術後1年および最終観察時までJOAスコア,腰痛VASおよび腰痛関連ADLは維持されていた.画像的には立位腰椎前弯角,L4/5椎間可動域は術前後で有意な変化はなかったが,L4/5椎間板高および%slipの有意な変化がみられた.結論:今回の結果からは,60歳以上の高齢者で25%以下の軽度不安定性の第4腰椎変性すべり症では,棘間切除の除圧法により椎間板高低下に伴う前方すべりの進行を伴うものの,術後2年以上経過しても臨床的に症状の改善,維持が可能であることが示された.

リウマチ膝に対する後十字靱帯温存型人工膝関節の術後可動域について―深屈曲獲得群,非獲得群における比較

著者: 北川篤 ,   石田一成 ,   津村暢宏 ,   陳隆明 ,   井口哲弘

ページ範囲:P.1025 - P.1030

 リウマチ膝に対する深屈曲対応後十字靱帯温存型膝人工関節置換術(20膝)の術後可動域に影響を与える因子について検討した.術前後の屈曲角度は相関していたが,深屈曲が獲得できたのは6膝(30%)のみであった.これらと非獲得群(14膝)との間における,罹病期間,大腿下腿周径,body mass index,CRP値,コンポーネント設置角度などに差を認めなかった.また術後キネマティクスは正常膝パターンと異なるものであったが,深屈曲獲得群,非獲得群における差は認めなかった.深屈曲獲得のためには,術前の屈曲角度が重要と考えられた.

腰椎変性すべり症の椎間板ヘルニア合併例に関する検討―椎間板ヘルニアを摘出すべきか?―日本整形外科学会腰痛評価質問票を用いた解析

著者: 粟飯原孝人 ,   大内純太郎 ,   斎藤康文 ,   真田孝裕 ,   畠山健次

ページ範囲:P.1031 - P.1037

 腰椎変性すべり症に椎間板ヘルニアが合併し,内視鏡下除圧術(以下MED)に椎間板ヘルニア摘出術を併用したH群と,椎間板ヘルニア合併がないか軽度でMEDのみで神経根と硬膜の緊張がなくなったC群を比較した.H群はC群よりも術前の重症度スコアが低かったが,摘出術併用により,椎間板腔の狭小化とともにすべりや椎間可動域も減少し,C群と同等の術後成績が得られた.以上から,腰椎変性すべり症に対してMEDのみで神経根または硬膜の緊張が残存した場合,椎間板ヘルニア摘出術を併用することにより良好な手術成績が得られる可能性が示唆された.

症例報告

手指凍傷に対して高気圧酸素療法を用いた2例

著者: 近藤高弘 ,   牧野仁美 ,   申正樹

ページ範囲:P.1039 - P.1043

 手指凍傷に対して高気圧酸素療法を用いた2例について報告する.症例1は59歳の男性で,家庭用消火器のガス漏出を手で押さえた際に凍傷を負った.重度の水疱形成と腫脹を呈したが,プロスタグランジンE1の投与および高気圧酸素療法で軽快した.症例2は62歳の男性で,自殺企図で業務用冷凍庫に入り受傷した.プロスタグランジンE1の投与と高気圧酸素療法を行い,右示・中指,左中指は切断したもののその他の手指は切断をまぬがれ可動域も改善した.高気圧酸素療法は組織壊死範囲の縮小,組織再生の促進に有用と考えられる.

転倒による胸髄損傷を来したneurenteric cyst(神経腸管囊腫)の1例

著者: 大山素彦 ,   登田尚史 ,   清水敬親 ,   笛木敬介 ,   井野正剛 ,   田内徹 ,   多々羅靖則 ,   真鍋和

ページ範囲:P.1045 - P.1048

 成人には稀なneurenteric cystに胸髄損傷を合併した症例を経験した.症例は57歳の男性で,誘因なく肩甲背部痛,両下肢の痛み,しびれが出現し歩行困難となり,転倒により両下肢完全麻痺となった.手術は後方から右片側椎弓切除後,椎弓根を完全に切除することで硬膜管の側方を十分に展開し,良好な視野を得ることができた.囊腫は脊髄腹側と強固に癒着しており亜全摘となった.術後麻痺の改善はみられないものの,肩甲背部痛は消失した.

大腿骨遠位開放骨折による骨欠損に対して骨移動術で再建を行った1例

著者: 大野一幸 ,   生田研祐 ,   大澤良之 ,   行方雅人 ,   篠田経博 ,   樋口周久

ページ範囲:P.1049 - P.1053

 全周性骨欠損を伴う大腿骨顆上部開放骨折をIlizarov創外固定器による骨移動術で再建した.Distraction indexは13.6日/cm,external fixation indexは36.6日/cmで良好な骨癒合が得られたが,膝関節拘縮を生じたため観血的関節授動術を行った.骨欠損に対する骨移動術は健常組織の犠牲なく組織新生により同径の骨を再生することができる.骨移動術の合併症で関節可動域制限が知られており,創外固定器の固定方法の工夫や装着直後からの積極的な理学療法が必要であると考えられる.

びまん性特発性骨増殖症に伴った胸腰椎過伸展損傷の2例

著者: 白澤英之 ,   岡田英次朗 ,   二宮研 ,   金子康仁 ,   山下太郎 ,   叶内平 ,   長谷川貴之 ,   武田健太郎 ,   越智健介 ,   森田晃造 ,   中道憲明 ,   木原未知也 ,   堀内行雄

ページ範囲:P.1055 - P.1059

 びまん性特発性骨増殖症に伴った胸腰椎過伸展損傷を来した2例を経験したので報告する.症例1は61歳の男性で,窓から転落し受傷した.第1腰椎に椎体前面から棘突起にかけて骨折を認めた.保存治療ののちに腰痛,両下肢筋力低下が出現したため後方から脊椎除圧固定術を行った.術後早期に症状は改善した.症例2は75歳の男性で自宅で転倒した.3週間後から腰痛,両下肢筋力低下が増悪し,第10-11胸椎の椎体から椎弓にかけて骨折を認めた.家族の希望により手術は選択せず保存治療を行った.

 本損傷においては保存治療では神経症状の改善は得られず,早期の診断,可及的早期の手術による除圧と強固な内固定が必要であると考えた.

髄内腫瘍が疑われた脊髄梗塞の1例

著者: 黒田一成 ,   川原範夫 ,   村上英樹 ,   出村諭 ,   岡山忠樹 ,   菊池豊 ,   徳海裕史 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1061 - P.1064

 当初髄内腫瘍と診断した脊髄梗塞の1例を経験した.症例は79歳の男性で,特に誘因なく右上下肢の筋力低下が出現した.MRIでC3レベルにT1低信号,T2高信号で造影効果を呈する病変を認め,当初出血を合併した頚髄髄内腫瘍と診断した.高齢で心疾患の合併があり,抗凝固療法中のため,手術は除圧術のみを施行した.しかし,術後MRIで髄内病変はMRIの信号変化がないまま小さくなり,造影効果の減弱も認めた.このMRI所見から,本症例は髄内腫瘍ではなく脊髄梗塞であると診断した.髄内腫瘍が疑われる脊髄病変を認めた場合,脊髄梗塞も鑑別に挙げる必要があり,その診断には経時的なMRIの評価が有用である.

上腕二頭筋腱膜の絞扼による前骨間神経麻痺の1例

著者: 鈴木拓 ,   山中一良 ,   宮崎馨 ,   佐々木孝

ページ範囲:P.1065 - P.1067

 上腕二頭筋腱膜による絞扼が発症の要因となった前骨間神経麻痺の1例を報告する.患者は43歳の女性で,左上肢の運動の際に上肢の激痛が出現した.数日で疼痛は軽快したが,母指,示指の屈曲障害が出現した.前骨間神経麻痺の診断で保存的に加療していたが症状の改善を認めなかったため,発症4カ月後に手術を行った.上腕二頭筋腱膜の一部が索状に硬化しており前骨間神経の神経束を圧迫していたため,この腱膜を切離した.術後3カ月で筋力は正常に回復した.前骨間神経麻痺の要因として上腕二頭筋腱膜が関与していた症例は稀である.

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あとがき フリーアクセス

著者: 黒坂昌弘

ページ範囲:P.1072 - P.1072

 永遠に続くのではないかと思われるような猛暑の夏もようやく終わり,さわやかな秋空を迎えることができました.「臨床整形外科」誌への投稿論文も増加の傾向にあり,様々な分野で活躍されている先生方からの投稿論文を査読することになります.

 論文を書くということは,多大なエネルギーを必要とすることで,論文を書いた者にしかわからない苦しみと,発表された時の喜びがあります.本誌に投稿される論文の中には,英文雑誌に掲載されている論文より,科学的な価値が高い論文も多くあると思います.論文や学会の発表の大前提は,新しい知見を紹介することにあるのは,研究者の意見が一致するところです.日本語で書く論文にも査読のシステムが導入され,論文の価値を高めるために査読者が多大な労力と時間を費やしています.査読をするという仕事の責任と,義務,それに費やす時間など,この仕事をしたことのある研究者にしかわからない労力とエネルギーが必要であると痛感します.本号には1編の調査報告,3編の臨床経験,6編の症例報告が掲載されており,多くの貴重な論文から学びとれる情報が満載になっています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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