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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科45巻12号

2010年12月発行

雑誌目次

視座

X線美学のススメ

著者: 三浦裕正

ページ範囲:P.1075 - P.1075

 X線美学.これは整形外科手術の術後X線の美しさを感じ取り,その美を追求することを意味する造語である.術後X線像を見た時,美しいと感じることができる場合と,そうでない場合がある.どのような時に美しいと感じるのであろうか.また,その美しさは一般人にも共通した感覚であろうか.以前,人工膝関節置換術(TKA)の術後X線像をコンピュータ上で画像処理して,脛骨コンポーネントの内反角度を0°,3°,5°と変化させたものをわが家の高校生の娘に見せて,どの写真が美しいかと尋ねたことがある.娘は「0°と3°はきれいに見えるけど,5°は歪んで見えるわね」と即答した.どうも人間は本能的に美しいものとそうでないものを峻別する能力を持ち合わせているようだ.

 そして,機能美という言葉があるように,一般的に美しいものは機能的にも優れている.チータの体くの繊細でしなやかな美しさと,あの俊敏な走りとは明らかに連動している.TKAも然りである.3°という角度は,臨床的にも長期成績を左右する分岐点となっており,見かけだけでなく長期成績のうえでもクリティカルポイントになっている.TKAの術後X線像が美しくなければ,不均一な荷重分布を来し,ポリエチレンの摩耗やインプラントのゆるみが発生するのである.しかし,TKAの術後X線像の美しさを左右する因子は何であろうか.最も重要な要素はコンポーネントの設置角度であることは言うまでもないが,サイズの適合性や,十分な骨棘の除去,良好な靱帯バランスなども無視できない要素であろう.

誌上シンポジウム 小児の肩関節疾患

緒言 フリーアクセス

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.1076 - P.1076

 小児が肩関節の疼痛や変形を主訴に医療機関を訪れることは多くはない.小児整形外科疾患の代表的な教科書である「Tachdjian's Pediatric Orthopaedics」をみても,小児の肩関節疾患の記載は一部の疾患に限られており,その全体を記載した項目はない.

 一方,肩関節外科の代表的な教科書であるRockwood and Matsenの「The Shoulder」の本をみると,肩の先天異常の項目の記述はあるもの,小児の肩関節疾患全体についてのまとまった記述はない.このことは小児の肩関節疾患の頻度が高いものではないことを示唆しているように思われる.

肩先天異常の機能障害とその治療

著者: 川端秀彦 ,   田村太資 ,   杉田淳 ,   松村宣政

ページ範囲:P.1077 - P.1082

 1991年から2009年までの19年間に当科で手術加療した先天性疾患から,先天性内反足などのいわゆる足部疾患および先天性股関節脱臼を除いた症例は1,686例あり,その中で肩の先天異常は14例0.8%を占めていた.このように肩の先天異常は比較的稀なものではあるが,小児の上肢の異常を評価するときには忘れてはならないものである.この項では主な疾患について概説した.

Sprengel変形―肩甲骨周囲筋の形成不全と治療成績について

著者: 池上博泰 ,   小川清久 ,   高山真一郎

ページ範囲:P.1083 - P.1088

 Sprengel変形は,単に肩甲骨が高位にあるだけでなく,肩甲骨周囲の筋肉の形成不全を合併している例が多い.この肩甲骨周囲筋の形成不全がWoodward変法の治療成績に及ぼす影響を調査するため,14症例について調査した.術前のCT,MRIで肩甲骨周囲の筋肉の低形成がみられた例では,術後引き下げた肩甲骨が再度高位になっている例があり,逆に低形成が軽度な例では術後に肩甲骨が再び高位になる例はほとんどなかった.手術前に患側肩甲骨の軟部組織の低形成を評価することは,Sprengel変形に対する手術治療成績を予測するうえで重要である.

Sprengel変形に対する肩甲骨骨切り術について

著者: 瀬川裕子 ,   西須孝

ページ範囲:P.1089 - P.1094

 当科におけるSprengel変形に対するWilkinson法の手術成績を調査した.肩関節屈曲および外転可動域,Cavendish gradeは術前にくらべ最終観察時に有意に改善した.最終観察時に11肩中10肩に肩甲骨の下方回旋を認めた.術前後の回旋角を比較したところ,術後のほうが下方へ回旋している傾向はあったが,有意差はなかった.経過観察中に肩関節不安定性症状を呈した症例が2肩あり,いずれも最終観察時に肩甲骨は下方回旋していたが,肩甲骨下方回旋と症状の関連は明らかではなかった.最近の症例では術式に若干の変更を加えている.

学童の非外傷性肩関節不安定症

著者: 黒田重史

ページ範囲:P.1095 - P.1098

 動揺性肩関節,随意性肩関節脱臼,習慣性肩関節脱臼および持続性肩関節脱臼は互いに移行しうる病態であり,非外傷性肩関節不安定症と総称される.肩の愁訴で来院する12歳以下の学童の20.7%が非外傷性不安定症であった.肩関節不安定性は流動的に変化しており,病態変化には至らない不安定性の変化6%,病態変化20%,自然治癒14%,計40%に不安定性の変化がみられた.発症年齢が低いほど自然治癒率は高いが,オーバーヘッドスポーツは自然治癒を阻害する.姿勢矯正と理学療法が有効で96.3%で症状改善が得られた.

小児化膿性肩関節炎の診断と治療

著者: 高村和幸

ページ範囲:P.1099 - P.1103

 発熱を伴う乳幼児の上肢の運動障害は,感染が最も考えられる.最も有用な画像診断はMRIであり,T2強調脂肪抑制像やガドリニウム造影T1強調像で,関節液の貯留,骨髄炎や膿瘍の有無などが確認できる.

 関節炎の診断がなされれば,早期に切開排膿,可能であれば持続洗浄を行い外科的治療を行う.抗生物質は菌が同定されていない時はempiric therapyとしてカルバペネム系抗生物質を最大投与量点滴静注し,菌が同定されれば,最小発育阻止濃度(MIC)が最も低く抗菌スペクトラムの最も狭い抗生物質に変更する.

小児肩周囲の骨腫瘍

著者: 和田卓郎 ,   加谷光規 ,   佐々木幹人

ページ範囲:P.1105 - P.1109

 小児の肩関節周囲は悪性・良性骨腫瘍の好発部位である.悪性腫瘍では骨肉腫やEwing肉腫が,良性腫瘍では孤立性骨囊腫,骨軟骨腫,好酸球肉芽腫などが好発する.悪性腫瘍を見逃さないためには,単純X線像を適切に読影すること,稀であっても鑑別診断として悪性骨腫瘍を念頭に置くことが重要である.

論述

高度椎体圧潰を呈した胸腰椎破裂骨折に対する後方short segment pedicle screw法―前方再建術併用に関する検討

著者: 森英治 ,   弓削至 ,   芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   前田健 ,   河野修 ,   高尾恒彰 ,   坂井宏旭 ,   宿利知之 ,   久保勝裕 ,   益田宗彰 ,   林哲生 ,   樽角清志

ページ範囲:P.1111 - P.1118

 椎体圧潰率50%以上の高度圧潰を呈する胸腰椎破裂骨折に対して,後方short segment pedicle screwのみで対応した後方法群19例と,これに前方再建術を併用した前後合併法群27例を対象として,手術高位矢状面アライメントを中心に術後成績を比較検討した.観察時の局所後弯角および矯正損失は前後合併法群1.3°,5.4°,後方法群7.7°,10.4°であり,後方法群では術直後の矯正は比較的良好であっても経過中に後弯変形が出現していた.後方法群では観察時局所後弯角5°未満の非後弯群7例と5°以上の後弯群12例に分かれたが,良好な椎体高復元と3椎間固定が後弯変形防止に関与している可能性が示唆された.

整形外科基礎

座位における腰椎骨盤矢状面アライメントの特徴

著者: 遠藤健司 ,   鈴木秀和 ,   木村大 ,   水落順 ,   ,   田中英俊 ,   山本謙吾

ページ範囲:P.1119 - P.1123

 姿勢の変化は,腰痛疾患の発生と深く関わっていることが知られているが,座位における脊椎アライメントの検討は少ない.今回われわれは,立位,座位の脊椎矢状面アライメントを計測し,座位における腰椎・骨盤アライメントの特徴を検討した.対象は,健常成人ボランティア53人(男性25人,女性28人,平均年齢31.4±7.2歳)で,単純X線腰椎側面を立位,背もたれ付きの座位で撮影し,腰椎前弯角(LLA),仙骨傾斜角(SS),骨盤回旋角(PA),骨盤形態角(PRS1),L1椎体中央から垂直におろしたプラムラインと骨頭中心との距離(L1-hip offset)について検討した.立位,座位で,LLA;33.4±10.0°,15.5±13.2°,SS;37.4±7.3°,19.1±11.4°,PA;14.9±6.8°,34.2±11.1°,PRS1;37.0±8.7°,36.9±9.1°,L1-hip offset;34.0±20.0mm,67.5±29.3mmであった.PRS1は,個人固有の骨盤形態を示す角度であるため,立位,座位で変化はなかったが,LLAは,平均17.2°(51.5%),SSは平均18.0°(48.1%)座位で減少し,PAは平均18.6°(124.8%)増加した(p<0.01).L1-hip offsetは座位で拡大し,LLAと負の相関関係(r=-0.29,p=0.03),PAと正の相関(r=0.54,p<0.01)を呈していた.立位では荷重中心が可動性を有する股関節であり腰椎前弯は強く骨盤は前傾していたが,座位では荷重中心が坐骨に後方移動して,骨盤は後傾化していた.座位腰椎アライメントは,立位に比較して,骨盤は後傾し腰椎前弯は減少していた.立位,座位における腰椎,骨盤アライメントの変化についての理解は,姿勢の変化に随伴する腰痛症の解明に重要であると考える.

整形外科/知ってるつもり

強直性脊椎炎(AS)の新知見

著者: 森幹士

ページ範囲:P.1124 - P.1127

 はじめに

 強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis,以下AS)は血清反応陰性脊椎関節症の代表的疾患である.脊椎や仙腸関節などの付着部を中心とした慢性炎症を起こし,さらにはsyndesmophyteと呼ばれる骨新生を伴う病変を来す.進行すると,その病名が示すように脊柱の靱帯骨化・強直による“bamboo spine”と呼ばれる特徴的な状態へと至る.同じ慢性炎症性疾患の代表である関節リウマチ(rheumatoid arthritis,以下RA)が,骨・関節破壊の一途をたどるのとは大きく異なる.

 Tumor necrosis factor-α(TNF-α)やinterleukin 6(IL6)などを標的とした生物学的製剤の登場で,RAの治療は大きな転換期を迎え,炎症だけではなく骨・関節破壊までもが治療ターゲットとなった.

最新基礎科学/知っておきたい

腰椎椎間板再生遺伝子の発見

著者: 津留美智代 ,   永田見生

ページ範囲:P.1128 - P.1132

■はじめに

 ヒトは約700万年前,直立二足交互歩行(バイペダリズム)を獲得し,行動範囲を広げ,空いた手で,物を掴むことができる曲がる指を獲得した.その指で道具を使い,道具を作る歴史が始まり,大脳が発達する.大きな犬歯は戦いのためにもっていたとされ,植物の根や茎,果物を食べるために,臼歯やエナメル質が厚くなり,犬歯は退化してゆく.ヒトは,脊柱の上に重くなった頭骨を効率よく真下から支持するように大後頭孔が前方に移動し,脊柱S字状カーブでバランスをとり,強大な筋肉を使わずに立つことができるようになる.ゴリラやチンパンジーも二足で立つが,膝を伸ばすと下肢を動かすことができないため,歩く時は膝を曲げ,全体重を交互に下肢にかける.そして,ヒトは農耕作業を開始し(図1),腰椎部分への屈曲作業などの物理的負荷のために,腰痛を発症するようになったと考えられる.

 われわれは,変性した椎間板を再建することで腰痛をなくす治療方法を考えた.全椎間板組織の遺伝子解析を行ったところ,椎間板組織は頚椎,胸椎,腰椎それぞれに特徴があり,かつ,それぞれの椎間板にも違いがみられた.

境界領域/知っておきたい

転移リアルタイムイメージング

著者: 林克洋

ページ範囲:P.1134 - P.1138

 はじめに

 「がんをマッサージするとよくない」と言われるが,なぜだろうか?あるいは,がんの手術中に腫瘍に圧を加えると何が起こるだろうか.一般には「腫瘍を撒き散らす」「転移を誘発する」という答えになるかと思われる.今回のテーマである,リアルタイムイメージングでこの問題を検証したいと思う.

連載 成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴・2

足部(1)

著者: 園田典生 ,   帖佐悦男

ページ範囲:P.1139 - P.1142

診断方法

診断のポイント

 1) 足関節内果下方に触れる骨性隆起

 2) 1)と同部に限局した圧痛,運動時や体重負荷時の疼痛

 3) X線像による過剰骨の証明

鑑別診断

 疲労骨折,扁平足障害,足根骨癒合症,捻挫など

臨床経験

高齢者腰椎変性疾患に対する片側進入両側除圧術の成績

著者: 守屋秀一 ,   青木保親 ,   池田義和 ,   中島文毅 ,   牧聡 ,   山縣正庸

ページ範囲:P.1147 - P.1152

 不安定性のない腰椎変性疾患に対し片側進入両側除圧術を行った症例を75歳以上の高齢者群22例(平均79歳:75~87歳)と,70歳以下の非高齢者群46例(平均61歳:33~69歳)に分け,各群の治療成績を比較検討した.高齢者は非高齢者と比べ治療成績が若干不良な傾向があり,術後のせん妄も有意に頻回であった.しかし手術時間や出血量,術中合併症といった手術関連項目では両群間で有意差がなく,術前後の歩行能力や症状といった治療効果についても全項目で有意に改善しており,本術式は高齢者に対しても有用な術式と考えられた.

症例報告

Scheuermann病を合併した胸椎すべり症の1例

著者: 西村空也 ,   石川雅之 ,   藤田順之 ,   原藤健吾 ,   朝本俊司 ,   西山誠 ,   福井康之

ページ範囲:P.1153 - P.1157

 Scheuermann病を合併した胸椎すべり症の1例を経験した.胸椎単純X線側面像でT11/12高位に前方すべりならびにT12,L1,L2椎体の楔状化とT11-L3間の後弯変形を認めた.すべり高位に明らかな不安定性を認めなかったが,除圧単独のみを行った場合にはScheuermann病による脊柱変形が術後の脊柱後弯変形を進行させることが危惧され,T11,12,L2,3の椎弓切除術にT10-L3の後方固定術を追加し,良好な術後成績を得た.後弯変形を有する胸椎すべり症に対しては,除圧術と後方固定術を行うことが有用であると考えられた.

全脊柱に波及した脊椎硬膜外膿瘍の1例

著者: 岩井信太郎 ,   勝尾信一 ,   水野勝則 ,   荒川仁 ,   尾島朋宏 ,   山門浩太郎 ,   林正岳

ページ範囲:P.1159 - P.1163

 症例はくも膜囊胞で囊胞腹腔(C-P)シャントの既往のある51歳の男性であった.腰痛,頚部痛,両上肢のしびれで受診した.初診時,発熱,軽度の意識障害,血液検査で著明な炎症反応の上昇を認めた.髄膜炎を疑い脳神経外科に入院となったが,全脊椎MRIでC1から仙骨にかけての脊椎硬膜外膿瘍を認めた.上肢で徒手筋力テスト(MMT)2~3,下肢でMMT3~4と四肢麻痺を認めたため,手術を施行した.頚・胸・腰椎に単椎間の開窓術を行い,脊柱管内全レベルに到達するように2本のドレーンを留置した.術後,四肢の筋力は改善し,術後1年,感染の再燃はなかった.

書評

『今日の整形外科治療指針 第6版』―国分正一,岩谷 力,落合直之,佛淵孝夫●編 フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.1082 - P.1082

 『今日の整形外科治療指針』の初版が出版されたのは,23年前である.当時,医学書院から毎年『今日の治療指針』が出版されていたが,整形外科関連の項目は少数に限られていた.待望の整形外科版が出版され,豊富な項目からなる整形外科の治療指針が示されており,病棟や当直室で,よく頁を開いたのを記憶している.この間,整形外科学は急速な進歩を遂げ,それに伴い本書も改訂を重ね,このたび,待望の第6版が出版された.主な改訂点は,新たな診断法・治療法の追加,項目の統合・廃止などである.今回は第一線で活躍中の314名の著者が,597項目を執筆しており,前版と比べると,第1章の「診断と治療総論」に大幅な改訂がみられる.整形外科技術の進歩と整形外科医療を取り巻く環境の変化に対応すべく,「整形外科におけるナビゲーションとロボット」「運動器不安定症」「EBMを正しく理解するために」「ガイドラインの考え方」「安全管理(リスクマネジメント)」「インフォームド・コンセント」などの新鮮な項目の記述が目につく.

 本書の初版からのキャッチフレーズである“整形外科疾患の診療事典”が構成のベースであるが,現代的にビジュアル感覚を重視し,記述は2色刷りで,シェーマ,写真をふんだんに盛り込んだ内容になっている.診断・治療のみならず,「後療法のポイント」「患者説明のポイント」「看護ケアとリハビリテーション上の注意」「ナース,PT・OTへの指示」など,臨床現場で生じる疑問に対し,即座に解決できるように構成されており,病棟勤務を始めた研修医や研修指導医にも心強い.また,本書のユニークな点は,随所に,経験豊富な大先輩からのコラム「私のノートから/My Suggestion」が掲載されていることであり,いずれのノートも一般の整形外科教科書からは得られない貴重な示唆に富んだ内容になっている.

『AO法骨折治療[英語版DVD-ROM付] 第2版』―Thomas P Ruedi, Richard E Buckley, Christopher G Moran●原書編集 糸満盛憲●日本語版総編集 田中 正●日本語版編集代表 フリーアクセス

著者: 永田見生

ページ範囲:P.1133 - P.1133

 医学書院発刊の『AO法骨折治療 第2版』の書評の依頼があり,運命的と感じ執筆を引き受けました.その理由は,私が1981年4月から,当時,Otto Russe教授が主催されていたオーストリアのインスブルック大学病院災害外科に留学し,当時はわが国での普及がまだ不十分であったAO法を1年間研修したからです.当時,久留米大学は九州大学出身の宮城成圭教授が主催され,骨折治療は神中,天児式でした.骨接合術の固定器具には天児式プレートなどを使い,AOが提唱する解剖学的整復と頑丈な器具による強固な固定法には批判的でした.インスブルック大学病院着任時は手術助手を数例務め,早々に執刀医を命じられましたが,AO器具の使用経験がなく困りました.スクリュー刺入時にタップを切るなど初体験でしたので,学内の書店で『Manual der Osteosynthese, AO-Technik』を購入し,AOのコンセプトを必死に勉強したのが昨日のことのようです.この本は,日本で翻訳され『図説骨折の手術AO法』として1970年に医学書院から発刊されています.当地で200例を越す手術に携わる中で,AOの原点は,骨折のみを治すのではなく患者を適切に治すことにあるのだと学びました.これは,ヨーロッパの人達の運動器障害と生命とは同等,すなわち,命があっても行動ができなければ生きている意味がないとの考えが根底にあるからであると感じました.したがって,このような国民性に応えなければならない災害外科医の心構えがわが国とは異なることを実感しました.

 さて,『AO法骨折治療 第2版』はAOグループ骨折治療マニュアルとして世界に発信されたシリーズの第4弾で,世界展開中のAOコースの内容をさらに学術的に深く掘り下げたものです.本書の冒頭に,糸満北里大学名誉教授をはじめAO Alumni Association Japan Chapterの役員一同が,21世紀の外傷治療学のバイブルともいえる第4弾の翻訳を受け持ち,興奮を覚えながら完成させたと述べられています.

『X線像でみる 股関節手術症例アトラス[CD-ROM付]』―佛淵孝夫●著 フリーアクセス

著者: 内藤正俊

ページ範囲:P.1143 - P.1143

 このたび発行された『X線像でみる 股関節手術症例アトラス CD-ROM付』をパノラマ風に捲り終えると30年前に初めてグランドキャニオンを眼前にした時の感動が蘇りました.著者が執刀した膨大な症例の幅広さと奥行きの深さに圧倒され,機能が回復した偉観とも言うべき股関節の群れに“あっぱれ”と感嘆の声をあげました.

 本書は約6000例の中から厳選された症例の両股関節正面像を用い,術前から術後までの長期経過が1頁で一目瞭然にわかる画期的な構成になっています.手術方法によりAからCまでの3部に分けられており,Aは各種股関節骨切り術,Bではさまざまな症例に対する初回セメントレス人工股関節置換術(THA),Cは主にセメントレスTHAによる再置換術です.各部をさらに術式ごとに細分類し,その代表症例ごとに手術適応,術前の準備,治療法選択の因子,手術のコツ,ピットフォール,後療法,合併症と対策などが箇条書きで簡潔に記載されています.各症例には細分類に応じたタイトル,性別,年齢,手術の難易度とともに手術方法の秘訣が“COMMENT”の数行に詰まっています.付録のCD-ROMには書籍に提示されていない症例を含め合計600例が収載されており,コード番号は本書の症例のタイトルと呼応するようになっています.細分類ごとの自動的なスライドショーのon,offや画像の拡大機能もあります.使い勝手がとても便利で,全体を眺めることや手術の細部のチェックが容易です.

『超音波でわかる運動器疾患―診断のテクニック』―皆川洋至●著 フリーアクセス

著者: 史野根生

ページ範囲:P.1157 - P.1157

 小生がスポーツ整形外科を志して,30余年の歳月が流れた.その間の画像診断上最大の衝撃はMRIであった.1980年代の中頃,米国の学会で観たMRI画像は驚きであった.関節切開や関節鏡を施行しなければ分からなかった十字靱帯や半月などの膝関節構成体が鮮明に描出されていた.現在でも,MRIが筋骨格組織深部を描写する最良の画像診断装置と断言できる.しからば,MRIですべて事足りるのか.答えは否である.大規模な装置とかなりの時間の被検者静止が必要であり,機動性がなく,リアルタイムの動態観察は不可能である.

 超音波画像診断は,リアルタイムの生体内組織観察が可能で,無侵襲であり,容易に反対側正常画像が得られるので,病的画像の解釈が容易である.以前より,スポーツ整形外科分野においても肩腱板損傷など浅層部位診断に用いられてきた.しかしながら,画像が不鮮明で,具体的表現力に乏しかった.想像力不足の小生などは,全く理解できず,興味をなくしてしまっていた.ところが,2008年に,とあるスポーツ医学の学会の展示ブースで某社の超音波診断装置の作り出した画像に目が釘付けになった.それまでの漠然とした超音波画像と全く違い,鮮明な画像が呈示されていた.センサーの精度向上とコンピューターの演算技術の進歩・普及を考慮すれば,当然の成果と説明を伺った.問題なく診断に使用できるレベルに達していた.その場で,著者の皆川先生とも初めてお会いし,先生の超音波画像診断に対する造詣の深さに感心した.その先生が運動器疾患のための超音波画像診断の本を出版された.

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あとがき フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.1168 - P.1168

 さる10月6日,鈴木章先生(北大名誉教授),根岸英一先生(米パデュー大特別教授)のノーベル化学賞受賞に日本中が沸きました.「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング技術の開発・実用化」によるものです.パラジウムは,昨今話題になっているレアメタルの一つですが,ロシアと南アフリカが世界の約90%を産出しており中国産は少ないようです.日本人の授賞は,研究者にとって大変励みになりましたが,両先生のインタビュー記事は,われわれ整形外科医にとっても大変示唆に富んでいますので,ここに紹介いたします.「教科書に載るような研究をせよ(鈴木)」「画期的な発見をするには,現象や自然を直視する謙虚な心と,小さな光も見逃さない注意力と旺盛な研究意欲が必要だ.神が与える幸運もあるが,手を抜いては決して幸運はやってこない(鈴木)」「世の中の役に立たなければならない.つまり,利益を生まなければならないということ(根岸)」.

 また,大変興味深いのは,両氏とも本技術の特許化を意図的に行わなかったと述べています.経済的なメリットは逃したかもしれませんが,特許を取らなかったことで技術は世界へ広く普及し,研究者最高の栄誉へと道を開く一因になったとも考えられます.特許取得については,時代の変化にも影響され,賛否両論があります.現在では,特許取得がないと,研究の推進や臨床試験そのものが困難になるという状況となっております.おりしも,再生医療の切り札として期待されるヒトiPS細胞を臨床応用するため,世界初の臨床研究指針(厚生労働省)が作成され,11月1日から施行されました.日本整形外科学会会員である山中伸弥先生が近い将来,鈴木先生,根岸先生に続くことを期待しています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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