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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科45巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

視座

「鬼手仏心」について

著者: 赤木將男

ページ範囲:P.105 - P.106

 多くの外科医は「鬼手仏心」という言葉をどこかで耳にしたことがあろう.座右の銘として紹介されたり,あるいは診察室の壁に額装された書として掛けられたりしているのに気づくことがある.私の場合は,卒後2,3年目の臨床研修を送った京都市立病院整形外科部長(後に同病院院長)の森英吾先生にこの言葉を教えていただいた.前期臨床研修が終了し,これから執刀医として地方の医療機関に赴任する若い医師に,恩師は「鬼手仏心」と自書された革製ケースに持針器を納め,送別会の席でこれを手渡して私達を送り出したのである.その際,言葉の意味を簡単に説明される.「外科医は鬼のようにメスで患者を切るわけだが,その背景には仏のように慈悲深い心がなければならない」「持針器は自分が切った部位を罪償いの気持ちをもって縫合するよう差し上げる」と.手術手技の修練に日々務めるよう激励するとともに,功名心にはやる若い外科医を諫め,医師としての基本的な心構えを諭す親心で,この言葉を伝えられたのだろうと思う.たものでなければ,到底医療行為と言える代物ではない.このように「鬼手仏心」は医療の本質に触れた言葉で興味深い.

誌上シンポジウム 肩腱板不全断裂

緒言 フリーアクセス

著者: 米田稔

ページ範囲:P.108 - P.108

 肩の痛みと機能障害を主訴とした疾患のなかでも診断,治療ともに非常に難しいのが腱板不全断裂(partial rotator cuff tear:PRCT)です.近年では,三,四十代の肩にみられる交通外傷や労災後の後遺症としてだけでなく,野球肩をはじめとする肩を酷使する若年者のスポーツ障害肩においても重要な病態として認識されるようになってきました.最近の画像診断技術や関節鏡技術の格段の進歩によるところが大きいわけです.果たしてPRCTは単なる腱板断裂の小型版なのでしょうか? 先人の偉業を受け継いで,本誌上シンポジウムではこの古くて新しい疾患を再訪し,新しい観点からその診療の指針を明らかにしたいと思います.臨床の第一線でご活躍の新進気鋭の先生方に登場していただきました.

腱板不全断裂を伴う投球障害肩の肩周囲筋力―重症度と疼痛の影響

著者: 中川滋人

ページ範囲:P.109 - P.113

 投球障害肩において腱板不全断裂の重症度を筋力で評価できるかを検討した.手術症例81肩のうち51肩に関節面不全断裂を認めた.棘上筋,棘下筋,肩外転筋力の患健側比を求め,断裂の有無や深さなど関節鏡所見との関連性を調査したが,いずれも差はみられなかった.しかしながら,測定時に疼痛を訴えた場合,断裂の深さがGrade1以下で棘上筋の平均患健側比が85.6%であったのに対し,Grade2以上で61.6%と差がみられた.棘下筋でも同様で,疼痛を伴う筋力低下がみられる場合,重度の不全断裂が疑われることがわかった.

前方関節包のゆるみがインターナルインピンジメントに及ぼす影響―屍体肩を用いた研究

著者: 三幡輝久 ,  

ページ範囲:P.115 - P.118

 野球選手にみられる前方肩関節包のゆるみがインターナルインピンジメントに及ぼす影響を,屍体肩を用いて生体力学的に検討した.水平外転角度とインターナルインピンジメントによって腱板に加わる圧力は,前方関節包を弛緩させることで有意に増大し,縫縮することで有意に減少した.このことから,野球選手における前方関節包のゆるみがインターナルインピンジメントによる腱板損傷や関節唇損傷を助長する可能性があると思われた.

腱板不全断裂の予後を予測し得るか―MRI上の経時変化

著者: 松浦恒明

ページ範囲:P.119 - P.126

 腱板不全断裂はその成因,経時変化に関して諸説あるがいまだ十分には解明されていない.したがって治療法も腱板損傷部位,欠損の深さ,随伴病変,患者の症状やプロフィールなどにより,その選択は様々である.今回われわれは腱板不全断裂をMRIで4群(タイプ1;信号異常型,タイプ2;信号異常膨化型,タイプ3;断端ぶつ切り型,タイプ4;断端先細り型)に分類し,各群における経時的なMRI画像上の変化,臨床症状の変化を追跡調査した結果,これらのMRI画像上の分類が患者の予後をある程度予測するヒントとなりうることが判明したので報告する.

腱板不全断裂に対する保存療法の効果

著者: 牧内大輔

ページ範囲:P.127 - P.131

 当院では腱板不全断裂に対し,基本的に運動療法を中心とした保存療法を第一選択とし,症状の寛解が得られない症例に対し手術療法を行っている.今回,その治療効果を評価する目的で,治療成績の検討や腱板完全断裂に対する保存療法の治療成績との比較を行った.その結果,日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOAスコア)が最終診察時83.7点と改善し,成績良好群も全体の80%を占め,良好な治療成績が得られた.しかし,腱板完全断裂に対する保存療法の治療成績と比較すると,疼痛スコアが有意に劣っており,完全断裂群にはみられなかった悪化例を2例に認めた.

腱板不全断裂の臨床的特徴と鏡視下修復術の治療成績

著者: 塩崎浩之 ,   近良明

ページ範囲:P.133 - P.137

 関節鏡で確認した腱板関節面不全断裂と腱板滑液包面不全断裂の患者の臨床的特徴の差を調べることで,病因について検討した.その結果,関節面断裂の病因として外傷が,滑液包面断裂の病因として肩峰下インピンジメントが大きく関与していると考えられた.手術を施行する場合には,鏡視で断裂の深さが「やや深め」であれば,鏡視下修復術を第一選択とすることで良好な成績が得られる.

腱板不全断裂に対する修復術の治療成績―術式間の比較

著者: 菊川和彦

ページ範囲:P.139 - P.144

 保存療法が無効な腱板不全断裂に対する直視下腱板修復術(O法)26肩〔滑液包面断裂(BST)17肩,関節包面断裂(AST)9肩〕,残存腱板を切開し,完全断裂形成後に修復する鏡視下修復術(AC法)8肩(BST3肩,AST5肩),残存腱板を温存した鏡視下修復術(AP法)20肩(BST9肩,AST11肩)の治療成績を検討した.術後JOAスコアは,O法91.3点,AC法94.3点,AP法92.3点で,3群とも術前より有意に改善し,3群間の有意差はなかった.断裂形態別の術後JOAスコアも,BSTでAP法94.2点,AC法93.3点,O法92.1点,ASTでAP法90.8点,AC法94.9点,O法90.9点と3術式間に有意差を認めなかった.腱板不全断裂に対する修復術の治療成績は断裂形態や術式にかかわらず良好で,保存療法が無効な腱板不全断裂においては積極的に修復術を行うべきと考える.

関節拘縮を伴う腱板不全断裂に対する鏡視下腱板修復・関節包解離術

著者: 橋口宏 ,   岩下哲 ,   伊藤博元

ページ範囲:P.145 - P.149

 腱板断裂に対する治療は保存的治療が第一選択とされており,拘縮を伴う腱板不全断裂に対しても同様とされている.しかし,高度の拘縮を伴う症例では保存的治療が奏効せず手術的治療を要する場合がある.拘縮に対する手術方法として従来は徒手的授動術や観血的授動術が行われていたが,近年では鏡視下関節包解離術が低侵襲かつ良好な成績が期待できる方法として推奨されている.拘縮を伴う腱板不全断裂に対しても鏡視下腱板修復・関節包解離同時手術は腱板断裂部の修復に影響を与えず,早期機能改善が得られる有用な手術方法である.

論述

大腿骨近位部骨折術後における相対的ビタミンK不足

著者: 山口徹 ,   小倉洋二 ,   辻秀一郎 ,   家田友樹 ,   吉川寿一 ,   浦部忠久

ページ範囲:P.151 - P.156

 高齢化社会に伴い大腿骨近位部骨折は増加している.術後に必要な骨粗鬆症治療を明らかとすべく,当院で手術加療した大腿骨近位部骨折患者の骨代謝マーカーを経時的に測定した.人工骨頭置換術群は骨代謝亢進を認めなかった.一方,骨接合術群では骨代謝は亢進しており,相対的ビタミンK不足を呈した.ビタミンK投与群では相対的ビタミンK不足は改善されていた.術後のビタミンK投与が相対的ビタミンK不足に有効であると考えられた.

悪性骨軟部腫瘍の治療効果判定における99mTc-MIBIシンチグラムの有用性の検討―201Tlシンチグラム,血管造影との比較

著者: 三輪真嗣 ,   土屋弘行 ,   白井寿治 ,   林克洋 ,   大成一誓 ,   富田勝郎 ,   滝淳一

ページ範囲:P.157 - P.163

 悪性骨軟部腫瘍の64例に対し,99mTc-MIBI,201Tl,血管造影を施行し,化学療法の効果を判定した.99mTc-MIBI,201Tlのuptake ratioの%reductionと血管造影での評価を病理組織学的評価と比較した.血管造影像で新生血管を消失(CR),減少(PR),不変(NC),増大(PD)に分類し,CRとPRを反応群とした.99mTc-MIBIでは%reduction25%以上を反応群,201Tlでは%reduction30%以上を反応群とした.すべての症例において切除標本を病理組織学的に評価し,壊死率90%以上を反応群とした.感度,特異度,正確度は99mTc-MIBIで86.7%,91.2%,89.1%,201Tlで80.0%,70.6%,75.0%,血管造影で86.7%,38.2%,60.9%であった.悪性骨軟部腫瘍に対する化学療法の効果判定において99mTc-MIBIは最も有用な検査であると考えた.

整形外科/知ってるつもり

高強度ベータリン酸3カルシウム(β-TCP)

著者: 坂野裕昭

ページ範囲:P.164 - P.166

■はじめに

 整形外科手術において骨移植は時として非常に重要な選択肢の一つである.本邦においては,日本整形外科学会の調査でわかるように,1985年から1989年の4年間と比較して2000年から2004年の間の骨移植数は約1.5倍に増加している4).さらにその内訳を自家骨,人工骨,保存同種骨で比較すると自家骨比率が94%から56%に減少している一方で,人工骨比率が3%から40%へと著しく増加している(表1).ここでは,人工骨の歴史,種類と特性を紹介すると同時に,臨床使用が可能になった高強度のベータリン酸3カルシウム(β-TCP)について紹介する.

最新基礎科学/知っておきたい

SSX(synovial sarcoma X chromosome breakpoint)遺伝子

著者: 吉岡潔子 ,   中紀文 ,   竹中聡 ,   伊藤和幸

ページ範囲:P.168 - P.171

■はじめに

 悪性軟部腫瘍は頻度は少ない(全悪性腫瘍の0.14%,1995~1999年日本病理剖検輯報)が若年にも認められ,化学療法に抵抗性を示し肺転移を来して予後の悪いものも少なくない.滑膜肉腫(synovial sarcoma)は若年者(15~40歳)に発生することが多く,大腿,膝関節部など,主として四肢の関節近傍に好発する比較的頻度の高い肉腫(全軟部肉腫の5~10%)16)の一つである.滑膜肉腫の組織が滑膜(関節の内側を覆っている膜様組織で,関節液を産生したり異物を取り込んだりして関節軟骨を保護する)とよく似た形態のため当初「滑膜肉腫」と命名されたが,滑膜由来の腫瘍ではなく,misnomer(誤称)であることが病理学的に明らかになった12).1994年に滑膜肉腫の中に染色体相互転座t(X;18)(p11.2;q11.2)によって生じる融合遺伝子(染色体の一部がちぎれて他の染色体と融合してできた遺伝子)SS18-SSXが同定された4).さらに1995年にはSSX(synovial sarcoma X chromosome breakpoint)遺伝子が滑膜肉腫に特異的な融合遺伝子SS18-SSXを形成する遺伝子として単離された5)

 ここでは滑膜肉腫とSSX遺伝子,免疫療法の分子標的としてのSSX遺伝子,軟部腫瘍におけるSSX遺伝子の発現,SSX蛋白の機能と標的治療について概説する.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】・38

打診法の創始者 アウエンブルガー(1722-1809)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.172 - P.175

■はじめに

 われわれが診断学を習った医学部3年生(今のM5に当たる)のとき,問診,視診,触診,打診,聴診をきちんと習った.机の台の表面を打診して,音の違いと指先の感触を習熟したものである.アウエンブルガー(Joseph Leopold Auenbrugger)が打診法を編み出した1761年ころは,ブールハーフェの脈診と体温を測る習慣がヨーロッパに広まり始まったばかりで,まだ血圧測定や聴診器もない時代であり,診断根拠は問診と視診と触診などの一番原始的な方法に頼っていた.驚くことに,ブールハーフェ以前の内科医は,患者に触るのは身分の低い床屋外科のすることで,まともな内科医のすることではなかったと言われている.

症例報告

脊柱管内・外側にガス像を伴った腰椎椎間孔狭窄症の1例

著者: 畠山雄二 ,   島田洋一 ,   宮腰尚久 ,   粕川雄司 ,   千馬誠悦 ,   成田裕一郎 ,   宮本誠也 ,   小林志 ,   白幡毅士

ページ範囲:P.179 - P.183

 症例は,L5/S1左外側狭窄によるL5神経根症の70歳の女性である.腰椎単純X線像で多椎間に真空現象を呈し,MRIではL5/S1左側椎間孔入口部から外側にT1,T2強調画像低輝度の円形の陰影を認めた.ミエロ後CTでも同部位に椎間板内ガス像と同輝度の陰影を示していたことから,脊柱管内および外側にガス像を伴った椎間孔狭窄症として,L5/S1 monoportal PLIF(後方椎体間固定)を施行した.術後左下肢痛は消失した.

G群溶連菌による壊死性筋膜炎の1例

著者: 平井伸幸

ページ範囲:P.185 - P.188

 症例は78歳の男で,前立腺癌,骨転移を有する.発熱および左下肢の発赤腫脹で受診した.左下腿に皮膚の壊死を伴い切開により漿液性の米のとぎ汁様の膿汁が多量に排出した.培養でG群溶連菌が検出された.局所のデブリドマンおよびペニシリン系抗生剤とクリンダマイシンの投与で全身状態は改善した.G群溶連菌は従来,病原性が弱いとされてきたが,近年,易感染性宿主に対する重篤な感染症の報告が増加している.過去10年間のG群溶連菌による壊死性筋膜炎の本邦報告例の検討では,基礎疾患を有する患者や高齢者に多く,致死率は28.5%と高率であった.

神経内から発生したガングリオンの2例

著者: 池田和夫 ,   納村直希

ページ範囲:P.189 - P.191

 神経内発生ガングリオンの2例を経験したので報告する.症例は51歳の女性で,尺骨神経運動枝麻痺を呈し,MRIでギヨン管内にガングリオンを認めた.2例目は60歳の男性で左手背に腫瘤が出現し,触ると橈骨神経浅枝領域への放散痛を自覚した.2例とも神経内ガングリオンであり,ガングリオンの可及的摘出を行った.神経損傷の可能性があったために,神経内の操作は施行しなかった.術後には,神経麻痺や放散痛は消失したが,1例目でガングリオンの再発があった.

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あとがき フリーアクセス

著者: 黒坂昌弘

ページ範囲:P.196 - P.196

 民主党の政権となり,政権交代後に国家予算の見直しで事業仕分けが公開のうえに行われたのは記憶に新しい.事業仕分けに関連して,整形外科という診療科も話題になり,開業しておられる先生方の収入がよいであるとか,仕事が比較的楽であるとか,整形外科医の数が増え続けているなどの批判を浴びている.

 どのコメントも正当性という点では問題のある批判ばかりであり,決して正しく現状を分析しているとは言い難い.教育機関で若い先生を指導する立場にある者としてはいい加減な批判には飽き飽きする.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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