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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科45巻4号

2010年04月発行

雑誌目次

視座

感情の記憶

著者: 大友克之

ページ範囲:P.301 - P.302

 整形外科医の道を歩み始め,多くの師と巡り合うことができた.平成3年,順天堂大学整形外科学教室に入局した.山内裕雄教授が持っておられた幅広い知識と国際的な視野に憧れその門を叩いた.2年間の研修医,それに続く4年間の大学院生活では,教授の下を訪れる多くの海外からの客人を接待する機会を得た.東京出身ということで任命されたのであろうが,浅学の身としては教授が与えてくださった,まさにOJTであったと思っている.ホテルへお迎えに上がり皇居から浅草見学,そして同伴される奥様が喜ぶデパートでの「お買い物」がお決まりのコースであった.米国の先生をご案内した時のことだった.道中「君は骨折の教科書は何を使っているのか?」と尋ねられ,新版が出たという理由から当時の指導医から譲り受けた「Fractures」を使っていると答えた.すると「誰が書いたものだ?」との質問に「ロックッドグリーンです」と返した(その発音は極めてひらがなに近かったと思う).先生は笑みを浮かべながら訪日のために作った名刺を取り出し「I am David P Green.」と.意味がわからずぽかんとしていると,今度はゆっくりとした口調で「Dr. Rockwood」,そして少し間をおいて「and Green」とおっしゃり,その時初めて,自分がFracturesの著者であるGreen先生を案内していることに気付いた.それまで同書は「ロックッドグリーン」という名前のお一人の先生が書いたものだと信じていた.顔から火が出るほどはずかしい思いをした.以来,人と会う際には事前の情報収集を欠かさないという社会人としての基本的なマナーを身に付けた.

論述

棘突起正中縦割進入腰椎後方除圧術後の傍脊柱筋変性のMRI画像評価

著者: 櫻庭康司 ,   野村裕 ,   東野修 ,   有馬準一 ,   中野壮一郎 ,   田中孝幸 ,   佐々木宏介 ,   屋良卓郎 ,   大賀正義

ページ範囲:P.303 - P.310

 顕微鏡視下腰椎後方除圧術において,進入経路や開創器の種類による傍脊柱筋変性をMRI画像で評価し,比較・検討した.変性はMRIのT2強調画像で輝度変化があった範囲と定義した.変性は棘突起正中縦割進入後方除圧(MSp)では1/12椎間,傍脊柱筋進入後方除圧(PV)では9/12椎間に認めた.また,MSp下で,チューブラーレトラクター使用例の変性は1/35椎間,トリムライン使用例では10/10椎間に認めた.以上から,チューブラーレトラクターを使用したMSpが傍脊柱筋に最も低侵襲であることが示唆された.

第5腰神経のダブルクラッシュ症候群

著者: 山田宏 ,   吉田宗人 ,   南出晃人 ,   中川幸洋 ,   河合将紀 ,   岩﨑博 ,   延與良夫 ,   遠藤徹 ,   中尾慎一

ページ範囲:P.311 - P.316

 第4-5腰椎(L4-5)高位の脊柱管内の除圧で,ある一定の症状の改善がみられるも,完治にはいたらず,L5-S1高位の椎間孔外狭窄病変に対して,サルベージ手術を追加し,遺残する下肢の根性坐骨神経痛および間欠跛行が消失した15例の臨床経過について報告した.このような症例が存在するという事実は,腰部神経根症においても上肢と同様に,ダブルクラッシュ症候群が存在する可能性を示唆している.今後,第5腰神経根症の手術成績向上のためには,脊柱管内だけでなく,脊柱管外も含めたすべての神経圧迫部位を考慮に入れた手術計画を立案すべきである.

調査報告

結核性脊椎炎および関節結核に関する疫学的調査

著者: 井澤一隆 ,   町田正文 ,   井本一彦 ,   米延策雄

ページ範囲:P.317 - P.322

 結核性脊椎炎および関節結核に関する整形外科医に対する全国的なアンケート調査を行い,治療の現状と問題点について検討した.アンケートの結果,都市部の施設での治療例が多くみられたが,結核発生率の地域差と手術治療ができる施設の偏在を反映したものと考えられた.診断に関しては,初期診断が困難・誤診率が高いとする意見が大半を占めていた.治療に関しては脊椎前方固定術単独が最も多く,インストゥルメンテーションの適応については慎重である傾向が伺えた.調査を通じて診断,治療,施設などの問題点が浮き彫りになったと言える.

Lecture

骨組織の多光子励起顕微鏡によるライブイメージング

著者: 石井優

ページ範囲:P.324 - P.329

 破骨細胞は単球系細胞から分化して骨を吸収する特殊な細胞である.単球系破骨前駆細胞がいかにして骨表面に到達するか,その遊走がどう制御されているかは長い間不明であった.筆者は最近,多光子励起顕微鏡という,生体深部の観察が可能な特殊な顕微鏡を用いて,生きたままのマウス骨組織内を可視化することに成功し,破骨前駆細胞の遊走・接着が,脂質メディエーターの一種であるスフィンゴシン1リン酸や種々のケモカインによって動的に制御されていることを解明した.本稿ではこの研究成果に加え,われわれが開発した骨組織のライブイメージングの方法論や応用について概説する.

最新基礎科学/知っておきたい

破骨細胞と骨芽細胞の極性

著者: 及川司

ページ範囲:P.330 - P.334

■はじめに

 骨形成の場においては,細胞同士がダイナミックな相互作用により常に破壊と形成が行われている.例えば骨芽細胞は常に同じ方向に骨を作り続け,破骨細胞は骨と接する面にのみシーリングリングと呼ばれる線維状アクチンに富んだリング構造を形成し,この中でのみ酸や基質分解酵素を分泌することで骨基質を分解する.このように骨形成の場では空間認識という意味での極性制御が細胞の機能に直結し,非常に重要だと思われるが,細胞レベルでみた極性制御のメカニズムについては,まだ不明な点が多く残されている.本稿では極性の制御因子として細胞膜上のイノシトールリン脂質に注目し,主に破骨細胞の機能との関連について最新の知見とともに概説する.

連載 医者も知りたい【医者のはなし】・39

硬骨の蘭方医・関寛斎(1830-1912)その1

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.338 - P.341

■はじめに

 関寛斎(せきかんさい)の生誕地,千葉県東金市で先日,平成22年2月13日~3月4日にかけて彼の生誕180周年記念展示会が催された.私は2月12日と14日に東京で栄養学の勉強会に出席し,幸い2月13日に行くことができた.東京駅から京葉線と外房線に乗って,東金市に行った.大変にタイムリーなことに東京への出張前に,私が医学史に興味を持っていることを知る千葉在住の高校同級生がメールで,関寛斎生誕180周年記念展に関する新聞記事を送ってくれた.

 数年前に私が鳴門の大塚国際美術館に行ったとき,徳島藩の藩医であった関寛斎の足跡を訪ねたことがある.寛斎は明治維新の戊辰戦争で,官軍の奥羽出張病院長として,蘭方医学・外科学を駆使し,敵味方の差別なく治療に当った.維新後,彼は徳島の地で30年間以上にわたって,一町医者として庶民の診療に従事し,徳島の種痘普及に奉仕した.金持ちから診察料をとり,貧者には無償で医療を行った仁徳振りから,「関大明神」と慕われた.明治35年(1902),寛斎は72歳のときに,北海道に渡り厳寒の地「陸別」に入り,子供とともに開墾を始めた.10年後の82歳のとき,波乱万丈の生涯を自ら絶った.なぜ72歳になって,北海道に行ったか,私には長い間の「謎」であった.第2回に私なりの答えを書いてみたい.生誕180年を記念して,今回は「硬骨の蘭方医」や,「最後の蘭方医」と呼ばれる「関寛斎」を書いてみることにした.

臨床経験

腰椎固定術後の仙腸関節性疼痛の検討

著者: 鵜木栄樹 ,   阿部栄二 ,   村井肇 ,   小林孝 ,   鈴木哲哉 ,   阿部利樹 ,   若林育子

ページ範囲:P.343 - P.348

 腰椎固定術後に発症した仙腸関節性疼痛について検討した.対象は2006年6月から2008年6月まで腰椎固定術を行った167例中,14例である.14例中12例が術後1年以内の発症であった.仙腸関節性疼痛の発症率の比較では1椎間固定が4.1%,多椎間固定が14.3%で有意に多椎間固定に多かった.また仙椎を含まない固定(floating fusion)で6.1%,仙椎を含む固定(fixed fusion)16.7%で,仙椎を含む固定(fixed fusion)で有意に発症率が高かった.

大腿骨頭回転骨切り術後に行った人工股関節全置換術の問題点とその対策

著者: 仲宗根哲 ,   大湾一郎 ,   新垣薫 ,   池間康成 ,   新城宏隆 ,   久保田徹也 ,   金谷文則

ページ範囲:P.349 - P.353

 特発性大腿骨頭壊死症に対して大腿骨頭前方回転骨切り術(ARO)を行い,その後に人工股関節置換術(THA)に至った10症例についてTHA施行時の問題点を検討した.全例とも骨切りの併用や特殊なステムを使用することなく,通常のセメントレスステムを使用することができた.しかし,ARO後のTHAに際しては,大腿骨近位の変形や骨硬化のため髄腔リーマーの挿入やラスプが困難となるため,初回のTHAよりもステムが内反設置になりやすい点に注意が必要であると思われた.

関節リウマチによる中足骨趾節間関節症患者の足底分圧に対する足関節吊り下げ型アーチパッドの効果について

著者: 戸田佳孝 ,   月村規子 ,   槻浩司

ページ範囲:P.355 - P.360

 中足骨趾節間関節(MTP関節)症を有する15例の関節リウマチ(RA)患者群と,年齢や性の分布を一致させた15例の健常群を対象に,吊り下げ型アーチパッドを装着した場合のMTP関節を含めた前足部への減圧効果を,装具装着前や従来の中敷き型アーチパッド装着による変化と比較した.装具装着による前足部分圧の減少および中足部分圧の増加する割合は,吊り下げ型アーチパッド装着時のほうが従来型アーチパッド装着時よりも有意に高値を示した.このため,RAによるMTP関節痛を有する患者には,従来型アーチパッドよりも新型アーチパッドのほうが前足部荷重減少効果が強いと結論した.

小児化膿性股関節炎と単純性股関節炎の鑑別

著者: 金井宏幸 ,   佐々木哲也 ,   小林篤樹 ,   大科将人 ,   高本康史 ,   八倉巻徹 ,   中村洋

ページ範囲:P.361 - P.365

 小児化膿性股関節炎と単純性股関節炎の鑑別診断において有用な予測因子を知ることが目的である.対象は化膿性股関節炎6例と単純性股関節炎30例である.この2群において,年齢,男女比,有症状期間,発熱,先行感染,歩行不能の有無,採血データ(WBC,CRP)およびCaird予測因子5項目の該当率を比較した.有意差があった項目は,発熱,WBC,CRP,Caird予測因子5項目の該当率であった.両股関節炎に対しては,個々の因子では鑑別診断が困難であるが,いくつかの因子を組み合わせることで優れた予想が可能となる.

小骨発生の骨巨細胞腫の臨床病理学的検討

著者: 柳澤道朗 ,   岡田恭司 ,   田地野崇宏 ,   鳥越知明 ,   川井章 ,   西田淳 ,   柿崎寛 ,   楠美智己 ,   長谷川匡

ページ範囲:P.367 - P.371

 小骨発生の骨巨細胞腫11例の臨床病理学的特徴について検討した.約半数が20歳以下の発症で,若年発症の傾向がみられた.画像上,骨皮質の著明な膨隆が特徴的であった.再発2例,肺転移1例が認められ,初回手術にen block切除以上の手術が5例存在することから,小骨発生の巨細胞腫の活動性の高さが示唆された.P63免疫染色は骨巨細胞腫と巨細胞修復性肉芽腫との鑑別に有用であることに加え,陽性細胞数,染色性の強度は,予後予測因子としての価値を持つ可能性も示唆された.

症例報告

小児膝骨関節結核の治療経験

著者: 金澤知之進 ,   副島崇 ,   村上秀孝 ,   永田見生 ,   中村英智

ページ範囲:P.373 - P.377

 今回,2歳の幼児の膝関節に発生した結核性骨関節炎を経験したので報告する.症例は2歳の男児で,誘因なく歩かなくなったとのことで近医を受診した.初診時に膝関節の軽度腫脹を認め経過観察されていたが,発症後3カ月の関節液PCR検査で結核菌が検出され結核性骨関節炎と診断,抗結核薬の投与と病巣掻爬を行った.術後約6年において,関節炎の再発や可動域制限,内外反変形,脚長差は認めていない.結核性骨関節炎は若年者においては成長障害の可能性も考え,膝関節炎の鑑別診断の1つとして考慮せねばならない.

腱板広範囲断裂術後再断裂例に対して人工骨頭置換術と同時に腱板の再建術を施行した1例

著者: 水城安尋 ,   玉井幹人

ページ範囲:P.379 - P.382

 腱板広範囲断裂術後再断裂例では,腱板の縫合を行っても再断裂を来す可能性が高く,疼痛の残存,筋力回復不良,関節症の進行などのため治療法に難渋する場合が多い.今回われわれは,腱板広範囲断裂に鏡視下腱板修復術施行後に転倒し再断裂を来した症例に対し,保存療法および鏡視下滑膜切除を行うも改善しなかったため,人工骨頭置換術と同時に腱板の再建術を行い,短期ではあるが良好な成績が得られた1例を経験したので報告する.関節症を伴う一次縫合不能な広範囲断裂例や再断裂例などに対しては,人工骨頭置換術は有用な治療法の選択の一つであると考えた.

アレンドロネート長期服用例に発生した大腿骨転子下骨折の1例

著者: 山内健輔 ,   松井貴至 ,   三崎智範 ,   上田康博 ,   尾崎厚志 ,   野村一世 ,   村田淳

ページ範囲:P.385 - P.388

 アレンドロネート内服期間3年の76歳の女性が非外傷性大腿骨転子下骨折を来したので報告する.発症1年半前から左下肢痛を認め,翌年に単純X線像で大腿骨転子下外側に骨性隆起,MRIのT2強調画像で転子下に高信号領域を認めた.その後,突然に大腿骨転子下での斜骨折を来した.自家骨移植と骨接合術を施行して骨癒合を得た.アレンドロネート内服でリモデリングが抑制され,生理的弯曲部での転子下での微小骨折が治癒されずに完全骨折に至ったと考えられた.定期的に疼痛の有無を確認し,画像検査で異常を見落とさないことが重要である.

書評

『人口膝関節置換術―手技と論点』―松野誠夫,龍順之助,勝呂 徹,秋月 章,星野明穂,王寺享弘●編 フリーアクセス

著者: 津村弘

ページ範囲:P.371 - P.371

 まず,大変面白い本である.

 ここ10年ほど,人工膝関節置換術を巡っては,基礎研究,臨床研究,新機種の発表など話題に事欠かない.人工膝関節置換術の進歩に対して,日本の整形外科医が大きく貢献しているのは周知の事実である.この本は,同じ編集者たちで作成された『人工膝関節置換術―基礎と臨床』(文光堂)と対をなすものであり,主として手術手技に焦点を当てたものである.人工膝関節置換術の手術手技においては,現在はまさに百家争鳴の時代であり,多くの学会でディベートやクロスファイヤが企画され,呼び物となっている.このようなディベートを書物にしたものが本書である.

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あとがき フリーアクセス

著者: 富田勝郎

ページ範囲:P.394 - P.394

 20年前に編集委員のお誘いを受けてから19年,いよいよ退職を目前にして,この「あとがき」が最後の仕事となった.

 今,私の胸の内には正直なところ,「任務を終える」という到達感・解放感とともに,去りゆく者に共通の寂しさ・喪失感が交錯している.「蛍の光,窓の雪…」の意味もよくわからずに歌っていた幼い頃とは違い,今の自分は世の掟に従って,「いつしか年も過ぎ(杉)の戸を,開けてぞ今朝は別れ往く」という意味深長なフレーズに人一倍感慨深くなっている.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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