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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科45巻7号

2010年07月発行

雑誌目次

論述

腰部脊柱管狭窄の診断における歩行負荷試験の有用性の検討

著者: 高山文治 ,   菊地臣一 ,   大谷晃司 ,   関口美穂 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.587 - P.595

 本研究の目的は,腰部脊柱管狭窄の診断における歩行負荷試験の有用性を前向きコホート研究により検証することである.当科で腰部脊柱管狭窄の診断で手術を行った109例(男67例,女42例)を対象とした.術前の歩行負荷試験前後での自覚症状と他覚所見の変化から神経障害型式と責任高位の判定について検討した.その結果,自覚症状の変化を全例に,他覚所見の変化を77例(71%)に認めた.神経障害型式判定が変化した症例が11例(10%)存在した.また,新たな責任高位が判明した症例が11例(10%)存在した.神経障害型式と責任高位がともに変化した症例は1例であった.以上の結果から,歩行負荷試験は腰部脊柱管狭窄の神経障害型式と責任高位の判定に必要な手技の一つであるといえる.

調査報告

地域住民における運動器不安定性の疫学調査

著者: 細川高史 ,   山本敦史 ,   大澤敏久 ,   小林勉 ,   飯塚伯 ,   佐藤直樹 ,   佐藤貴久 ,   西野目昌宏 ,   米本由木夫 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.597 - P.601

 地域住民525人(男性193人,女性332人,平均年齢61.9歳)を対象とし,運動器不安定症の診断基準に基づき「開眼片脚起立試験」,「3m timed up and go test」を施行した.いずれか1項目を満たす者を「運動器不安定性」ありと定義し,運動器不安定性の有無で2群に分け比較検討を行った.運動器不安定性は全体の21.7%に認められ,65歳未満の4.5%,65歳以上の42.4%に該当した.性差はなく,整形外科的愁訴,内科疾患との関連性を認めた.

紹介

静脈血栓塞栓症予防のためのリスクレベルに応じた予防調査票

著者: 高平尚伸 ,   内山勝文 ,   高相晶士 ,   藤田護 ,   内野正隆 ,   岡田貴充 ,   福島健介 ,   河村直 ,   中澤俊之 ,   井村貴之 ,   相川淳 ,   占部憲 ,   糸満盛憲

ページ範囲:P.603 - P.607

 われわれは当診療科の術式から勘案されたリスクレベルに応じて推奨予防法が呈示される予防調査票を作成し,静脈血栓塞栓症(VTE)対策に取り組んでいる.利点は,全入院患者に対してVTEリスクを漏れなく評価することが可能で,結果的にVTE予防の実施率の向上が期待できる.また,臨床の現場における混乱を回避できる.さらに,個々の患者ごとに適正なVTE予防法を選択できる可能性がある.しかし,各患者に対して最適な予防法が実施されているかは不明であり,今後得られたデータを分析するとともに,システムを改変していく必要がある.

連載 工学からみた整形外科・1【新連載】

整形外科を支える工学

著者: 馬渕清資

ページ範囲:P.608 - P.612

■再建外科における医工の出会い

 同じ臨床医学でも,内科系と外科系では,その方法論に大きな隔たりがあって,それを支える基礎医学の色合いに明らかな相違がある.内科は,生物学やその応用学である生理学や薬学に大きく依存するので,もともとサイエンス(理学)との結びつきが深かった.一方,外科は,患部の切除を主要技術とするいわば職人芸として発祥しており,英語の内科医doctorに対する外科医surgeonという差別表現からもわかるように,「学」として体裁が整えられたのは最近のことである.

 外科系の基礎科学に,学としての体裁をもたらしたのは,20世紀後半における切除外科から再建外科への進化である.患部を切除した組織や臓器の機能再建を目指すには,その機能についての深い理解が必要である.そこに,基礎科学の活躍する場面が登場したからである.そして,ひとたびそうした機会が与えられると,その範囲は,生物学関連分野に止まらず,広大なものとなっていった.機能再建技術の柱である代用臓器として,移植組織や再生組織に加えて,人工材料すなわちインプラント材料が用いられるようになったためである.インプラント材料,つまり人工臓器や人工器官は,工業製品である.その開発や設計製作には,材料学,電子工学,機械工学など,工学の多くの分野が関与する.その分,外科系の基礎科学の範囲が広がったのである.

臨床経験

頚椎後方拡大術後ハイドロキシアパタイトスペーサーの骨癒合評価

著者: 畠山雄二 ,   島田洋一 ,   宮腰尚久 ,   本郷道生 ,   粕川雄司 ,   千馬誠悦 ,   成田裕一郎 ,   宮本誠也 ,   小林志 ,   白幡毅士

ページ範囲:P.613 - P.618

 ハイドロキシアパタイト(HA)スペーサーを用いて頚椎後方拡大術を施行した26例を対象に,HAスペーサーの骨新生率と骨癒合率を評価した.術後平均3年でのHAスペーサーの骨新生率は97.1%,骨癒合率は64.4%であった.2回以上CTを施行できた群(9例)では,術後1年では骨新生率91.4%,骨癒合率28.6%であったが,術後3年では骨新生率97.1%,骨癒合率71.4%に増加していた.また,平均脊柱管拡大率は44.0~59.3%で,できる限り椎弓基部にHAスペーサーを設置することで,良好な骨癒合を獲得できた.

骨粗鬆症性脊椎椎体骨折後に生じた遅発性神経根症

著者: 石元優々 ,   山田宏 ,   橋爪洋 ,   南出晃人 ,   中川幸洋 ,   河合将紀 ,   岩崎博 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.619 - P.623

 骨粗鬆症性脊椎椎体骨折後に生じた腰神経根症の4例を経験した.いずれも骨折部痛が軽快した後で椎間孔部狭窄症が発生していた.一般に同部の診断は難しく,本症例においても高度な下肢痛の原因を特定できなかった.この臨床上の問題点の解決策としてわれわれが着目したのが以下の3つの共通のエピソードである.1.骨粗鬆症性脊椎椎体骨折として保存的治療を受けた.2.骨折部痛が軽快後に歩行時の腰下肢痛が出現する.3.MRIや脊髄造影では明らかな病変を認めない.今回われわれは臨床の現場における注意を喚起する目的で骨粗鬆症性脊椎椎体骨折後の遅発性神経根症という新しい疾患概念を提唱したい.

転移性大腿骨骨幹部骨腫瘍に対する人工骨幹置換の有用性

著者: 濱田健一郎 ,   中紀文 ,   大森信介 ,   江森誠人 ,   城山晋 ,   荒木信人

ページ範囲:P.625 - P.629

目的:大腿骨幹部に発生した転移性骨腫瘍に対する治療方法として大腿人工骨幹(K-MAX. Japan Medical Materials)を用いる再建法の有用性について検討した.対象・結果:症例は7例(男性3例,女性4例),年齢は平均67歳,手術は大腿骨幹部骨腫瘍を骨幹部の腫瘍のみ切除後に人工骨幹で再建した.術後小脳転移で歩行できなかった1例を除いたMusculoskeletal Tumor Society(MSTS) scoreは79%であった.転帰はdead of disease 3例,alive with disease 3例,no evidence of disease 1例,経過観察中に4例は独歩,2例は杖歩行が可能となった.結語:大腿骨幹部に生じた悪性骨腫瘍に対する本法は,術後早期に荷重が可能であり,局所コントロールに優れ,予後予測が長い場合には有用である.

骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節による胸腰椎後弯変形のflexibility評価―仰臥位ストレス撮影の有用性

著者: 勝見敬一 ,   山崎昭義 ,   渡辺慶 ,   佐野敦樹

ページ範囲:P.631 - P.635

 骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節における脊柱後弯変形のflexibility評価と,術中・術後アライメント予測について検討した.対象は,後方固定併用椎体形成術を施行した23例27椎体であり,X線中間位,伸展位,術前CT,MRI,仰臥位ストレス撮影(後弯頂椎部に枕を置きX線側面像を撮影),術中体位,術後X線像の局所後弯角を測定した.局所後弯角は,X線中間位,伸展位,CT,MRI,術中体位,仰臥位ストレス,術後X線像の順に矯正され(すべてp<0.05),仰臥位ストレス撮影が術前画像で最もflexibility評価に有用で,仰臥位ストレス撮影から術中・術後アライメントも予測可能であった.

症例報告

手指以外の部位に発生したグロムス腫瘍の2例

著者: 今村仁 ,   岩本卓士 ,   望月猛 ,   西本和正 ,   白旗敏克

ページ範囲:P.637 - P.641

 前腕および下腿に発生し,診断に難渋したグロムス腫瘍2例を経験したので報告する.症例1は41歳の男性で,4年前から右前腕に自発痛を自覚し,前医を受診したが確定診断には至らなかった.当科を受診し軟部腫瘍の診断で腫瘍切除術を施行した.症例2は37歳の男性で,約6カ月前から下腿に痛みを伴う小腫瘤を自覚したため,当科を受診した.軟部腫瘍の診断で腫瘍切除術を施行した.両症例の病理診断はグロムス腫瘍であった.術後症状は消失し良好な経過が得られている.爪下以外に発生したグロムス腫瘍は術前診断が困難であり,しばしば治療が遅れることがある.自発痛・圧痛を伴う小腫瘤の鑑別診断としてグロムス腫瘍を考慮することが重要である.

慢性経過により腫瘤化した腰椎黄色靱帯内血腫の1例

著者: 久保井勇樹 ,   中川幸洋 ,   吉田宗人 ,   南晋司 ,   山田宏 ,   北裏清剛

ページ範囲:P.643 - P.647

 腰椎黄色靱帯内血腫が慢性経過を経て器質化し腫瘤状となった1例を経験した.症例は55歳の男性で,約1年間の硬膜外ブロックによる治療の既往があった.MRI上L3-L4高位の硬膜管背側にT1等輝度,T2高輝度の輝度変化を示す腫瘤性病変を認め,後方内視鏡手術で腫瘤の摘出を行った.この腫瘤は病理組織学的には赤血球とフィブリンの析出を認めることから血腫と考えられ,壊死組織の周囲を肉芽組織・硝子組織が被っている所見により,血腫が慢性経過をたどることで器質化し腫瘤様となったものと推察された.そのうえ,黄色靱帯と腫瘤の組織学的連続性を認めたことから黄色靱帯内に発生したものと考えられた.血腫の原因としては,頻回の硬膜外ブロックによる影響が考えられた.

大腿骨近位部に発生したliposclerosing myxofibrous tumorの1例

著者: 小倉浩一 ,   五嶋孝博 ,   根本哲生 ,   今西淳悟 ,   津田祐輔 ,   船田信顕

ページ範囲:P.651 - P.654

 大腿骨近位部に発生した稀なliposclerosing myxofibrous tumor(以下LSMFT)の1例を経験した.症例は63歳の女性で右股関節痛を主訴に当院を受診した.単純X線像で腫瘍は右大腿骨近位部の辺縁硬化を伴う溶骨性病変で内部に骨化がみられた.病的骨折が危惧されたため骨腫瘍掻爬および人工骨充塡術を施行した.掻爬検体の組織像で線維性骨異形成様の幼若骨を伴う線維増生,モザイク状のセメントラインを持つ骨形成など多彩な像を呈しており,LSMFTと診断した.LSMFTは良性の線維性骨性病変であるが10~16%の症例で悪性転化を生じるため,切除検体の組織像の詳細な検索や長期に及ぶ経過観察が必要である.

ゴルフ愛好家に発生した豆状三角関節内遊離体の1例

著者: 佐竹寛史 ,   高原政利 ,   中島拓 ,   渡邊忠良 ,   荻野利彦

ページ範囲:P.655 - P.658

 豆状三角関節内に発生した遊離体により疼痛を生じた稀な症例を経験した.症例は49歳の男性であった.ゴルフのスイングの時に地面を叩いてから左手関節尺側に疼痛と前腕回内時の引っかかり感が出現した.左手関節尺屈と前腕回内動作で疼痛が誘発され,単純X線像では左尺骨手根間隙遠位に骨片を認めた.手関節部尺側皮切による豆状・三角関節の切開により,遊離体が摘出された.遊離体摘出により引っかかり感と痛みが消失し,1カ月でゴルフを再開した.手関節尺掌側部痛を生じる疾患として豆状三角関節内遊離体も鑑別に置く必要がある.

大腿骨転子部骨折後早期に発症した大腿骨頭壊死症の1例

著者: 中村結香子 ,   茂呂貴知 ,   加藤欽志 ,   鈴木幹夫

ページ範囲:P.659 - P.664

 大腿転子部骨折術後に大腿頭壊死を発症した非常に稀な1例を経験したので報告する.症例は52歳の男性で,アルコール多飲歴を認めた.単純X線像で左大腿転子部骨折を認め,骨接合術を施行した.術後3カ月の単純X線およびMRI像で大腿頭壊死を認め,人工骨頭置換術を施行した.大腿転子部骨折術後の骨頭壊死の原因はこれまで,様々な要因が挙げられているが,本症例はアルコール多飲歴の関与が疑われた.大腿頭壊死を来す因子を有する症例が大腿転子部骨折を受傷した場合,術前にMRIでの壊死の有無の判定が必要であると考える.

脊髄腫瘍と鑑別を要したアトピー性脊髄炎の1例

著者: 寺下浩平 ,   南出晃人 ,   吉田宗人 ,   村田顕也 ,   近藤智善

ページ範囲:P.665 - P.669

 症例は26歳の女性で,主訴は両上肢の感覚障害,巧緻運動障害,排尿障害であった.画像上,脊髄腫瘍に加え脊髄炎,脊髄変性疾患なども疑われ神経内科医より紹介された.検査で高IgE血症,ダニ,ハウスダストのアレルゲン特異性IgE抗体の高値を認め,アトピー性脊髄炎が疑われた.そのためステロイド療法が開始され,症状,画像の改善を認めた.このように脊髄内病変で診断に難渋する場合,神経内科医と連携するとともに,ステロイド投与での経過観察が診断の一助となることがある.

第2中手骨基部骨折に伴った長母指伸筋腱皮下断裂の1例

著者: 斉藤敬 ,   関口昌之 ,   網野浩 ,   奥秋保 ,   園部正人 ,   勝呂徹

ページ範囲:P.671 - P.675

 第2中手骨骨折を伴った長母指伸筋腱(以下EPL)皮下断裂の1例を経験した.患者はオートバイで転倒し受傷した.X線画像では右第2中手骨基部骨折を認め前腕シーネ固定を4週行った.受傷後4週で右母指IP関節が伸展不能となり,EPLの皮下断裂と診断し,固有示指伸筋腱を用いた腱移行術を行った.受傷機転として手関節の橈背屈強制により第2中手骨基部と橈骨にEPLがインピンジされたために不全断裂をし,さらに母指の運動により完全断裂に至ったと推察された.

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あとがき フリーアクセス

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.680 - P.680

 世界中が熱狂し,夏季オリンピック大会よりも注目され,国の威信を懸けて戦うワールドカップ・サッカーが6月11日の地元南アフリカ対メキシコ戦を皮切りに,約1カ月間熱い戦いが繰り広げられる.わが日本はE組で6月14日のカメルーン戦が初戦である.「頑張れ 日本! 日本! チャ・チャ・チャ!」.本号が発刊される頃は,優勝が決まっている頃か,熱戦の真っ直中であるか? 素晴らしい試合を期待したい.しかし,世界ランキングからみても,日本は厳しい戦いになることは間違いなさそうである.一次予選突破はかなり難しいと見るのが妥当であろう.しかし,2002年の日韓共同開催,そして前回2006年のドイツ開催の時がそうであったように,今回も国民が一つとなって応援する姿が見られるはずである.政治・経済,そして医療までが大きな曲がり角,変革期を迎えている現在,スポーツの祭典は国民1人1人に活力,満足感,清々しさ……などを与えてくれる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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