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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科46巻10号

2011年10月発行

雑誌目次

巻頭言

第26回日本整形外科学会基礎学術集会開催にあたって

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.896 - P.897

 第26回日本整形外科学会基礎学術集会を本年10月20日と21日の両日,前橋市のベイシア文化ホール(群馬県民会館)ならびに前橋商工会議所におきまして,開催いたします.この伝統ある学術集会を群馬大学大学院医学系研究科整形外科学専攻で担当させていただくことは誠に光栄に存じます.

 学術集会のテーマは,「知の飛躍と集約―基礎と臨床の融合」としました.基礎科学における発見,検証,発明は知の飛躍をもたらし,さらに,その成果の集約はイノベーションによる新しい価値創造を促して,直接的・間接的に社会の発展に寄与します.わが国の基礎医学研究の特徴は臨床医自らが研究を遂行していることです.臨床医だからこそ持つ疑問や,興味,独特のアイデアが基になって発展した,臨床に則した素晴らしい基礎研究が行われています.整形外科医が行う基礎科学の多くは直接的・間接的に運動器疾患の病態解明や診断法・治療法の発展に大きく寄与してきました.近年,医師卒後研修システムの変化により医学部卒業後に大学で研修するよりも一般病院で研修する医師が多くなり,整形外科領域の基礎研究に触れる医師が少なくなっていることを痛感します.われわれが経験した,基礎研究の結果が出て論文を仕上げた時のあの達成感や,研究成果が臨床へフィードバックできた時の満足感を感じてほしいと思っています.また,この学会で面白さや楽しさが満載の基礎研究の世界へ第一歩を踏み出してほしいと願っています.

論述

Neck Pain and Disability Scale(NPDS)日本語版の開発

著者: 小野玲 ,   大谷晃司 ,   竹上未紗 ,   鈴鴨よしみ ,   ,   菊地臣一 ,   福原俊一 ,   紺野愼一

ページ範囲:P.899 - P.907

 背景:本研究の目的は,頚部痛患者の特異的QOL尺度であるNeck Pain and Disability Scale(NPDS)の日本語版を開発することである.

 対象と方法:順翻訳,逆翻訳,原作者との協議を行い,翻訳版を作成した.外来通院患者20名を対象にパイロットテストを実施し,表現の適切性,内容的妥当性,実施可能性を検討した.

 結果:欠損割合は0~5%であり,回答時間は平均4.7分であった.

 まとめ:原作者の意図を損なわないように配慮しつつ,日本人患者にとって理解しやすいように頚部のイラスト,説明書きを加えるなどの改訂を行い,NPDS日本語版が完成した.

調査報告

良性骨腫瘍手術例における入院期間の検討―現在の診断群分類包括支払制度の問題点

著者: 永澤博幸 ,   岡田恭司 ,   千田秀一 ,   島田洋一

ページ範囲:P.909 - P.912

 目的と対象:良性骨腫瘍手術60例について,入院期間を上肢例と下肢例に分けて比較し,診断群分類包括支払制度(以下,DPC)における特定入院期間超過例の割合や傾向を明らかにすべく検討を行った.

 結果:上肢例の平均入院期間は10.2日,骨巨細胞腫を除く下肢例は18.5日,下肢骨巨細胞腫例は61.2日であり,特定入院期間超過例は上肢例で21.4%,骨巨細胞腫を除く下肢例で38.2%,下肢骨巨細胞腫例で100%であった.

 まとめ:DPCにおいて良性骨腫瘍が含まれる診断群分類は,腫瘍の発生部位に関わらず一定の特定入院期間を設定しているが,腫瘍の発生部位に応じた特定入院期間の設定が望まれる.

茨城県の整形外科専門医の現状と問題点の検討

著者: 矢田部佳久

ページ範囲:P.913 - P.916

 茨城県にある日本整形外科学会が認定する整形外科研修施設(以下,施設)数と,同学会認定整形外科専門医(以下,専門医)数を調査した.茨城県内の施設は45,専門医は272人で,全国の専門医総数は16,392人,全国平均348.8人であった.茨城県を含めた18都道府県の施設数は計1,154で,平均64.1であった.人口10万人当たりの人口比でみると,茨城県内の専門医数は9.1人と全国平均12.8人の約3/4であった.本調査から,茨城県の整形外科診療は改善が急務であると考えられた.

日本における腰痛の有症状割合と腰痛に関連する要因の検討―地域住民を対象とした調査

著者: 竹上未紗 ,   菊地臣一 ,   高橋奈津子 ,   鈴鴨よしみ ,   山崎新 ,   小野玲 ,   大谷晃司 ,   福原俊一 ,   紺野愼一

ページ範囲:P.917 - P.925

 目的:日本における腰痛の有症状割合を明らかにすること,および腰痛に関連する要因を検討することとした.

 対象・方法:日本に居住する20~80歳の住民を標的集団とし,層化二段階無作為抽出法により4,500人を抽出して自記式質問票調査を実施した.

 結果:腰痛の有症状割合は,男性29.2%,女性31.8%であった.腰痛は,併存疾患の数が多いこと,腰痛の家族歴があること,短い教育歴,ストレスが強いこと,抑うつ症状があることと関連がみられた.

 結語:日本の一般集団における腰痛の基礎的なエビデンスを示した.

整形外科/知ってるつもり

股関節インピンジメント Femoroacetabular impingement(FAI)

著者: 内田宗志

ページ範囲:P.926 - P.929

 股関節インピンジメントは英語ではfemoroacetabular impingement(以下,FAI)と呼ばれ,直訳すると大腿骨寛骨臼挟み込み症という.一般的に患者が理解しやすいように,本稿では股関節インピンジメントと呼ぶこととする.

 FAIとは,股関節を構成する2つの寛骨臼および大腿骨がお互いに挟み合わさっている状態のことである.スポーツなど激しい動きをするときに衝突し合うことで,関節軟骨や関節唇が損傷されている状態のことをいう.

境界領域/知っておきたい

腰背部痛の鑑別診断―急性大動脈解離・瘤破裂を見逃さないために

著者: 鳥畠康充

ページ範囲:P.930 - P.935

はじめに

 人口の高齢化や動脈硬化を促進させる環境因子の増加により,急性大動脈解離と急性大動脈瘤破裂を呈する患者は増加の一途をたどっている.診断の遅れがそのまま死亡につながる救急疾患であるため,急性期における迅速かつ的確な診断と治療が重要な課題となっている.近年,急性大動脈解離と急性大動脈瘤破裂を「急性大動脈症候群」と呼称し,診断上の注意を喚起する啓蒙がなされているが,初診時での正診率は驚くほど低い.東京都監察医務院における行政解剖例の検討によれば2),発症から6時間以上生存した171例中105例が医師を受診しているにもかかわらず,63例(61.4%)が不幸な結果を予測できずに帰宅させられ,しかも生前に正しい診断がなされた例はわずか1例のみであったという驚愕の結果が報告されている.また,Spittellら5)は,メイヨークリニックにおける急性大動脈解離236例を検討したところ,すでに診断がついて紹介された59例を除いた159例のうち,初診時の正診率は62%にすぎず,17例(28%)は病理解剖で初めて診断がついた,と報告している.

 診断が困難な最大の理由は,胸痛,腹痛,背部痛,腰痛,呼吸困難,冷汗,意識障害,嘔吐,失禁,下血など,症状が多彩なことにある.整形外科医にとって注目すべきことは,腰痛や背部痛を主訴とする場合が極めて高率なことである.Darling1)は,腹部大動脈瘤が破裂した場合,90%以上で腰痛または背部痛を伴うと述べ,Spittellら5)は,大動脈解離stanford B型(上行大動脈に解離を認めない)において,腰痛・背部痛のみを症状とした例が52%であったと報告している.そのため,運動器プライマリケアにおいて,急性大動脈症候群は,遭遇頻度こそ少ないものの,最も見落としてはならない疾患群のひとつである.

最新基礎科学/知っておきたい

凍結免疫療法

著者: 西田英司 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.936 - P.941

■はじめに

 凍結免疫療法とは悪性腫瘍に対する治療方法で,腫瘍組織を低温処理して死滅させるとともに,死滅した腫瘍組織を生体の免疫細胞が貪食し,腫瘍抗原を認識して腫瘍特異的な免疫反応が引き起こされ,腫瘍の再発・転移を軽減させるものである.低温処理に用いる物質には液体窒素(-195.8℃),アルゴン(-185.7℃),二酸化炭素(-78.5℃)などがあり,このような物質を用いて低温で腫瘍を治療する方法を凍結手術“cryosurgery”と呼ばれている.

 1999年にTsuchiyaら11)は,液体窒素を用いて悪性骨腫瘍切除後の腫瘍罹患骨を凍結処理して腫瘍切除後の再建に利用する液体窒素処理自家骨移植術を開発し,臨床応用を行い良好な結果を報告してきた.このような凍結手術を行った中で腫瘍の縮小した症例を経験している.このことから凍結手術と腫瘍抑制として働く腫瘍免疫の活性の関連を調べてきた.

 本稿では整形外科領域の凍結手術と,凍結免疫のしくみ,われわれが行ってきた液体窒素処理方法に基づく免疫活性の基礎実験を含め,凍結免疫療法の現状と展望を紹介する.

連載 成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴・12

股関節

著者: 田島卓也 ,   帖佐悦男

ページ範囲:P.943 - P.945

診断のポイント

 診断のポイントとして,問診による詳細な病歴や自覚症状(安静時痛の有無など)および運動時の痛みの出現状況の聴取は重要である.次いで,歩容,下肢アライメントを確認し,動作時またはストレス時痛などをチェックする.特に痛みが誘発される姿位の確認は重要である.また股関節周囲の筋力低下や筋委縮・筋拘縮そして隣接関節,とくに膝関節や腰部のチェックも重要である.次いで,画像検査として単純X線およびMRIなどで順次診断を進める.

臨床経験

腰椎後方進入椎体間固定術後ケージ脱転例の検討

著者: 木村浩明 ,   四方實彦 ,   尾立征一 ,   山村知 ,   添田恒光

ページ範囲:P.947 - P.953

 当院で腰椎変性疾患に対して腰椎後方進入椎体間固定術を施行した1,070例中,ケージが脱転した9例(男性7例,女性2例)から,そのリスクファクターについて検討した.平均年齢は68歳,後側方固定術も併用した固定椎間数は平均3.9椎間,術前の平均椎間板高は11.9mm,平均椎体間可動域は10.7°で,9例中6例がL5/S脱転例であった.L5/S,椎間板高が高く椎間可動域の大きい洋梨状の椎間板形状,多椎間固定の末端椎間がリスクファクターと考えられ,これらを有する症例にはケージ選択も含めて注意を要する.

腰下肢痛に対するプロスタグランディンI2製剤のQuality of Life改善効果

著者: 中村正生

ページ範囲:P.955 - P.961

 経口プロスタサイクリン誘導体製剤は,慢性動脈閉塞症の症状を改善する.本研究では腰部脊柱管狭窄症66例に本剤を投与し,腰下肢痛・関連するQOL・跛行出現距離につき,12週間の推移を評価した.疼痛とQOLレベルをVisual Analogue Scale,日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準,日本語版ロランド・モリス問診票で,跛行出現距離を問診で評価した.疼痛・QOLレベル・跛行出現距離のいずれもが投与12週後までに有意に改善した.本剤は腰部脊柱管狭窄症に対する効果的な保存的療法の一つである.

腰部脊柱管狭窄症に対する棘突起縦割式後方除圧術の治療成績

著者: 金村在哲 ,   鷲見正敏 ,   松崎時夫 ,   笠原孝一 ,   高畑正人 ,   矢野智則 ,   金山修一

ページ範囲:P.963 - P.969

 棘突起縦割進入により後方除圧術を施行した腰部脊柱管狭窄症52例の治療成績を調査した.本術式では開窓術を第一選択とした除圧の後,縦割された棘突起と基部を締結するため,傍脊柱筋に対し愛護的で遺残性腰痛も軽く,術後成績も良好であった.しかし,変性側弯や多椎間除圧例,椎弓切除術施行例の成績は軽度劣っていた.ただし,変性すべり症では術後にすべりが増大して再狭窄する可能性があり,除圧を椎弓切除術とする必要がある.

症例報告

大腿神経麻痺を合併した股関節ガングリオンの1例

著者: 田中智史 ,   三矢聡 ,   水野正昇 ,   山田知史 ,   山賀篤 ,   宮本健太郎 ,   宮津優

ページ範囲:P.971 - P.974

 症例は69歳の女性である.右大腿に疼痛が出現し,右下肢筋力低下を来した.MRIで右股関節前方にT1強調で低信号,T2強調で高信号の内部均一な腫瘤を認め,これが大腿神経を圧迫していると考え,摘出術を行った.術後,右大腿の痛みと筋力低下は軽快し,病理検査でガングリオンと診断された.股関節ガングリオンは非常に稀であり,さらに大腿神経麻痺を合併していた.股関節ガングリオンの治療は経過観察,穿刺吸引,摘出術があるが,本症例のように筋力低下を来す場合,摘出術による根治的治療が有用であると考える.

左膝蓋下脂肪体内に発生したガングリオンの1例

著者: 高橋恒存 ,   大澤貴志 ,   上村民子 ,   小林保一 ,   木村雅史

ページ範囲:P.975 - P.977

 患者は22歳の女性で,左膝痛を訴えて受診した.腫脹,可動域制限および動揺性なく,McMurrayテストは陰性であった.MRI上膝蓋腱後面の膝蓋下脂肪体内にT1強調像で低信号,T2強調像で高信号の多房性腫瘤影を認めたため,膝蓋下脂肪体内ガングリオンを疑った.鏡視では腫瘤は関節内侵入しておらず,半月板は内外側ともに断裂なく正常であった.膝蓋腱外側から展開したところ,腫瘤は関節包外の膝蓋腱後面に存在しており,半月板とは癒着していなかった.病理検査)
で滑膜細胞の壁構造を認めずガングリオンと確定診断された.膝痛は消失し,再発を認めていない.

舟状骨結節部偽関節の2例

著者: 福岡昌利 ,   岡崎真人 ,   斎藤憲太 ,   別所祐貴 ,   佐藤和毅 ,   中村俊康 ,   戸山芳昭 ,   池上博泰

ページ範囲:P.979 - P.982

 舟状骨結節部は血流が豊富で,骨癒合が得られやすいとされる.今回,観血的治療を要した舟状骨結節部偽関節の2症例を経験したので報告する.2例とも初期治療を受けておらず,それぞれ受傷後4カ月,2年で疼痛が残存するため手術療法を選択した.骨片が大きく,また舟状大菱形骨関節面を含むため,骨片切除ではなく骨接合術を行った.1例目は海綿骨移植を併用したが,2例目は骨移植をしなかった.2例とも骨癒合が得られ,術前の症状は軽快した.

馬尾に発生したclear cell meningiomaの1例

著者: 山﨑義人 ,   小野睦 ,   沼沢拓也 ,   和田簡一郎 ,   藤哲

ページ範囲:P.983 - P.987

 馬尾に発生したclear cell meningiomaの1例を経験したので報告する.症例は23歳の男性で,両下肢筋力低下があり,MRIでL1からL5にかけて脊柱管内を占拠する腫瘍を認めた.腫瘍と硬膜との付着は認めず,全摘可能だった.病理診断はclear cell meningiomaでMIB-1 indexは15~18%だった.術後,症状は改善したが,再発の可能性を考え放射線治療を追加した.Clear cell meningiomaは再発の可能性があり,今後の経過観察が必要である.

INFORMATION

第15回超音波骨折治療研究会 フリーアクセス

ページ範囲:P.935 - P.935

会期:2012(平成24)年1月21日(土) 13時~18時(予定)

会場:東京ステーションコンファレンス サピアタワー6階 601号室

   (東京駅八重洲北口直結)

   〒100-0005 東京都千代田区丸の内1丁目7-12

   TEL:03-6888-8080

第17回スポーツ傷害フォーラム フリーアクセス

ページ範囲:P.941 - P.941

日時:2012年1月28日(土)

場所:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)特別会議室

   大阪市北区中之島5-3-51

第2回臼蓋形成術研究会 フリーアクセス

ページ範囲:P.953 - P.953

日時:2012年1月14日(土)

   終了後,懇親会あり

会場:大阪国際会議場(グランキューブ大阪)8階(801~802会議室)

第10回日本フットケア学会年次学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.969 - P.969

会期:2012年3月17日(土)・18日(日)

会場:大阪国際会議場

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.989 - P.989

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.990 - P.990

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.991 - P.991

あとがき フリーアクセス

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.992 - P.992

 厚生労働省(厚労省)は,がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の4疾病に対して,医療法第34条内に省令として定めて重点的に疾病対策事業を展開してきた.その概要は,4疾病については厚労省主導による事業として医療計画を明示し,それらに対応した医療連携体制を構築して広範かつ縦断的な医療を提供し,国民の健康保持を図ろうというものである.これら4疾病は,患者数が多く,直接の死亡率が高いか,または限りなく死因に影響するもので,緊急性の高い疾患群とされている.ところが最近,この4疾病に加えて新たに精神疾患が取り上げられ,5疾病が今後の重点的対策事業となった.実際,平成21年のデータによれば,死因順位別の死亡数は,第1位が悪性新生物(がん)で34.4万人,2位が心疾患で18.1万人,以下,3位脳血管疾患12.2万人,4位肺炎11.2万人,5位老衰3.9万人,6位不慮の事故3.8万人,そして7位が自殺で3.1万人となっている.何と,自殺による死亡数は糖尿病による死亡数1.4万人の約2倍とのことである.また,平成20年の患者調査では,その患者数が悪性新生物152万人,脳血管疾患134万人,心疾患81万人,糖尿病237万人に対し,精神疾患は323万人となっている.確かに,私どもの一般整形外科診療においても,そして一般社会を見回しても,年齢を問わず精神疾患の患者さんは明らかに増加しているように思える.実際,慢性腰痛なども精神的要因が大きく関与していることがエビデンスとして示されている.今後は,認知症やうつ病などを中心に,厚労省主導による大規模な対策事業が行われるはずである.当然,莫大な研究費が投入され,全国規模での調査・介入研究,基礎研究が展開されるであろう.

 では,われわれ整形外科が扱う運動器疾患はどうなのであろうか.介護予防対策として,新健康フロンティア戦略の中で運動器疾患対策事業が展開されているが,本当は高血圧や糖尿病と同じくらい,いや,それ以上に運動器は健康維持に重要なはずである.しかしながら,それを証明するような確固たるデータが明らかに不足している.ぜひとも,次の機会には運動器疾患を厚労省の重要疾病に加えていただき,6大疾病の一つとして運動器疾患対策事業がスタートすることを願っている.そのためにも,2万3千人の大組織である整形外科学会主導で,厚労省や国民から認められるようなデータを構築していく必要がある.運動器疾患により,どのような経過で,どのような病態で,どれだけが真に要支援・要介護に繋がるのか,また,どの程度,どのように生命予後に影響を及ぼすのか,しっかりしたエビデンスを示す必要がある.メタボリック・ドミノでは,最終的に透析や失明,下肢切断,脳卒中,心不全へと進むことが証明されている.では,ロコモティブ・ドミノによる場合はどのような経過をたどるのであろうか.それらのデータを基に,運動器疾患に対する診断基準の明確化と治療法の標準化を進め,しっかりした専門医制度の構築を行い,患者さん中心の医療を展開すれば,必ずや行政と国民から大きな信頼が得られるはずである.今後に期待したい.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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