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文献詳細

雑誌文献

臨床整形外科46巻10号

2011年10月発行

文献概要

境界領域/知っておきたい

腰背部痛の鑑別診断―急性大動脈解離・瘤破裂を見逃さないために

著者: 鳥畠康充1

所属機関: 1厚生連高岡病院整形外科

ページ範囲:P.930 - P.935

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はじめに

 人口の高齢化や動脈硬化を促進させる環境因子の増加により,急性大動脈解離と急性大動脈瘤破裂を呈する患者は増加の一途をたどっている.診断の遅れがそのまま死亡につながる救急疾患であるため,急性期における迅速かつ的確な診断と治療が重要な課題となっている.近年,急性大動脈解離と急性大動脈瘤破裂を「急性大動脈症候群」と呼称し,診断上の注意を喚起する啓蒙がなされているが,初診時での正診率は驚くほど低い.東京都監察医務院における行政解剖例の検討によれば2),発症から6時間以上生存した171例中105例が医師を受診しているにもかかわらず,63例(61.4%)が不幸な結果を予測できずに帰宅させられ,しかも生前に正しい診断がなされた例はわずか1例のみであったという驚愕の結果が報告されている.また,Spittellら5)は,メイヨークリニックにおける急性大動脈解離236例を検討したところ,すでに診断がついて紹介された59例を除いた159例のうち,初診時の正診率は62%にすぎず,17例(28%)は病理解剖で初めて診断がついた,と報告している.

 診断が困難な最大の理由は,胸痛,腹痛,背部痛,腰痛,呼吸困難,冷汗,意識障害,嘔吐,失禁,下血など,症状が多彩なことにある.整形外科医にとって注目すべきことは,腰痛や背部痛を主訴とする場合が極めて高率なことである.Darling1)は,腹部大動脈瘤が破裂した場合,90%以上で腰痛または背部痛を伴うと述べ,Spittellら5)は,大動脈解離stanford B型(上行大動脈に解離を認めない)において,腰痛・背部痛のみを症状とした例が52%であったと報告している.そのため,運動器プライマリケアにおいて,急性大動脈症候群は,遭遇頻度こそ少ないものの,最も見落としてはならない疾患群のひとつである.

参考文献

1) Darling RC:Ruptured arteriosclerotic abdominal aortic aneurysms:a pathologic and clinical study. Am J Surgery 119:397-401, 1970
2) 村井達哉:大動脈解離と突然死―東京都監察医務院における1320剖検例の統計的研究.日法医誌42:564-577,1988
3) 名古屋地裁平成16年6月25日判決.判例タイムズ1211:207-213,2006
4) Roberts WC, Honig HS:The spectrum of cardiovascular disease in the Marfan syndrome:a clinico-morphologic study of 18 necropsy patients and comparison to 151 previously reported necropsy patients. Am Heart J 104:115-135, 1982
5) Spittell PC, Spittell JA Jr, Joyce JW, et al:Clinical features and differential diagnosis of aortic dissection:experience with 236 cases (1980 through 1990). Mayo Clin Proc 68:642-651, 1993
6) 鳥畠康充:血管性腰・下肢痛.中村耕三,山下敏彦(編集):整形外科臨床パサージュ.腰痛.クリニカルプラクティス.中山書店,東京,pp239-247,2010
7) 鳥畠康充:整形外科診療における動脈性疾患の落とし穴.整形外科59:523-529,2008
8) Yoshioaka K, Toribatake Y, Kawahara N, et al:Acute aortic dissection or ruptured aortic aneurysm associated with back pain and paraplesia. Orthopedics 31:1-6, 2008
9) 由谷親夫,松尾 汎(編):大動脈瘤・大動脈解離の臨床と病理.医学書院,東京,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1286

印刷版ISSN:0557-0433

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