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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科46巻2号

2011年02月発行

雑誌目次

視座

Unable to Control

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.101 - P.101

 山本 真教授を慕って九州から上京し,北里大学医学部で整形外科の研修を始めて,はや38年が過ぎ去った.振り返ると38年といえば我が人生の半分に相当する期間である.なんと長い間,北里大学にお世話になったことかと思う一方,矢のように飛び去ってしまったように感じられるのは決して錯覚などではない.山本教授は,教室のボスであると同時に,私にとっては尊敬する親父であった.

 この間,教室の主な研究テーマであった関節外科,外傷外科,骨バンクと同種骨移植のいずれにも積極的に関与させてもらった.股関節外科では末期股関節症に対するBombelliの外反伸展骨切り術を手掛け,亜脱臼性股関節症の進展様式に対する考察から外反屈曲骨切り術を考案し,その理論と臨床成績,その作用機序などを組織学的,生体力学的な手法で明らかにしてきた.骨折の治療においては,ボスから引き継いだ髄内釘の改良,新たな視点に立った新しい鎖骨遠位端専用のプレートやtension band systemをデザインして,広く用いられているようになったのはこの上ない喜びである.大学人として充実した生活を送ってきたと思う.

論述

側弯症手術におけるフリーハンド胸椎椎弓根スクリュー刺入法の検討―PLP(Palpation of Lateral Wall of Pedicle)法を用いて

著者: 大山素彦 ,   清水敬親 ,   笛木敬介 ,   井野正剛 ,   登田尚史 ,   田内徹 ,   多々羅靖則 ,   真鍋和

ページ範囲:P.103 - P.108

 側弯症患者45名に対する後方矯正固定術におけるpalpation of lateral wall of pedicle(PLP)法を用いたフリーハンドによる胸椎椎弓根スクリューの刺入精度,臨床成績を調査した.スクリューの逸脱率は7.5%,刺入角度が原因のものが76.9%であった.逸脱した症例では術前主カーブが有意に大きかったが,矯正率には差がなかった.スクリュー刺入に伴う合併症はなかった.PLP法は刺入位置の決定には有用であるが,刺入角度の決定には今後の検討が必要である.

慢性腰痛患者に対する運動療法が体幹筋筋厚に及ぼす影響

著者: 太田恵 ,   金岡恒治 ,   半谷美夏 ,   宮本渓 ,   小泉圭介 ,   村松俊樹

ページ範囲:P.109 - P.113

 本研究では慢性腰痛患者を対象に運動療法を指導し,自宅での自主トレーニングを行わせ,腰痛および体幹筋の筋厚の変化について調査した.対象者は18名(男性4名,女性14名)で,3カ月間の体幹深部筋に注目した運動療法を実施した.介入前と介入3カ月後を比較した結果,腰痛評価のVASは有意に減少した.体幹筋の筋厚については,腹横筋,第3腰椎高位および第4腰椎高位の多裂筋において有意な増加を認めた.

手術手技/私のくふう

腰椎後弯変形に対する脊椎短縮骨切り術の検討―最近4年間に行われた46例の術後調査から

著者: 尾立征一 ,   四方實彦 ,   木村浩明 ,   山村知

ページ範囲:P.115 - P.120

 腰椎短縮骨切り術を行った46例を調査した.平均年齢は71歳,平均手術時間は190分,平均出血量は883mlであった.骨切り角は平均33°,腰椎前弯は平均21°矯正された.平均26カ月間の観察期間中で続発性骨折が11例,インプラント折損が3例,深部感染が2例発生し,再手術は4例行われた.手術で腰椎アライメントは改善されたが,手術部位以外での後弯進行のため,脊椎全体のアライメント改善は不十分であった.日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準(JOAスコア)の改善率は44%であった.種々の問題を有してはいるが,本法は腰痛やADL障害の改善が得られる患者満足度の高い方法である.

検査法

独自の画像処理を加えた腰椎部3D-MR Myelographyの有用性(続報)

著者: 服部真澄 ,   岩越孝恭

ページ範囲:P.121 - P.125

 われわれは,腰椎3D-MR myelography(3D-MRM)に独自の画像処理を加え神経根の描出を試みてきた中で,神経根遠位部病変が多いことに気付いた.そこで,当院で腰椎MRIを行った患者104人を症状とMRI所見から分類し,その内「下肢症状があり責任病巣を指摘できなかった14例」について3D-MRMを追加して検討した.14例中10例(71.4%)において,独自に画像処理を加えた3D-MRMで責任病巣として矛盾しない所見を指摘でき,それらは全例神経根遠位部病変であった.このことは,通常の腰椎MRIに3D-MRMを追加することで,従来の方法では診断が困難であった神経根遠位部病変の診断率が向上し,従来の報告よりfar-out syndromeや外側型椎間板ヘルニアが多く見つかる可能性を示唆している.

Lecture

軽度外傷性脳損傷

著者: 石橋徹

ページ範囲:P.127 - P.138

 軽度外傷性脳損傷(MTBI)は,現代社会で多発する脳損傷である.WHO報告では毎年全世界で900万人が発症している.日本ではMTBIの疾患概念が認知されていないために,今日までMTBI患者は正しく診断されることがなかった.ところが,現在,筆者の下にはMTBIのWHO定義に則り350名を越えるMTBI患者が顕在化している.そこでの経験を踏まえて,以下,MTBIという脳損傷を解説したい.

最新基礎科学/知っておきたい

肉腫と幹細胞

著者: 中紀文

ページ範囲:P.140 - P.144

■はじめに

 2007年に山中らは,ヒトの皮膚線維芽細胞にOct3/4,Sox2,KLF4,c-Mycの4つの遺伝子を強制発現し,分化した細胞の初期化に成功した13).作製可能となった人工多能性幹細胞(iPS細胞)を再生医療に応用すべく多くの研究が世界中でなされているが,がん化の危険性は完全に払拭されていない.悪性腫瘍と幹細胞の関係をあらためて俯瞰すると,悪性腫瘍の特徴である「無制限の増殖能」と「高い形態可塑性」は,幹細胞の特徴である「自己複製能」と「多分化能」と各々表裏をなしており,悪性腫瘍は幹細胞の能力を受け継ぎ,その能力を利用しているとさえ思える.

連載 成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴・4

膝関節

著者: 田島卓也 ,   帖佐悦男

ページ範囲:P.147 - P.149

診断のポイント

 診断のポイントとして,問診による詳細な病歴や自覚症状(安静時痛の有無など)および運動時の痛みの出現状況の聴取は重要である.次いで,歩容,下肢アライメント,外見上での膝関節およびその周囲の腫れの有無を確認し,動作時またはストレス時痛などをチェックする.特に痛みが誘発される肢位の確認は重要である.また膝関節周囲の筋力低下や筋委縮,隣接関節とくに股関節や足関節のチェックも重要である.次いで,画像検査として単純X線像およびMRIなどで順次診断を進める.

臨床経験

手根管症候群重症例の手根管開放術後2年間における電気生理学的回復の検討

著者: 金谷貴子 ,   藤岡宏幸 ,   黒坂昌弘 ,   鷲見正敏 ,   山崎京子

ページ範囲:P.153 - P.156

 高度な母指球筋萎縮を呈し短母指外転筋終末潜時(DML)および感覚神経伝導速度(SCV)が測定不能な手根管症候群(CTS)重症例を対象とし,手根管開放術(CTR)後の電気生理学的回復をDML,SCV値および重症度分類(1期:DML・SCVともに正常,2期:DMLのみ遅延,3期:DML遅延・SCV低下,4期:DML遅延・SCV測定不能,5期:DML・SCVともに測定不能)で検討した.DML,SCV値はともに術後1年,2年で有意に測定可能となり,重症度分類においても術後1年から2年で有意に軽症例(1,2期)が増加し電気生理学的回復を認めた.CTS重症例のCTR後の電気生理学的検査は回復の客観的評価として有用であった.

人工膝関節再置換術における骨欠損への対処―Anderson Orthopaedic Research Institute(AORI)分類Type3症例

著者: 大井剛太 ,   菊地臣一 ,   沼崎広法 ,   大歳憲一 ,   小林秀男 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.159 - P.165

 人工膝関節再置換術を困難なものにする原因の一つに骨欠損が挙げられる.当科における骨欠損が大きい症例に対する術式と治療成績を報告する.過去5年間に行った再置換術46例のうち,Anderson Orthopaedic Research Institute(AORI)分類Type 3の11例を対象とした.骨欠損への対処は,内外顆を骨残存側と骨欠損側に分けて考え,その欠損の量と差によって,使用機種や補填方法を決定した.最終経過観察時(平均1年6カ月),knee scoreは89±8(術前27±16),functional scoreは56±21(術前13±21)であり,短期ではあるが,比較的良好な成績を収めることができた.

症例報告

造骨性変化と溶骨性変化が混在した多発性骨髄腫の1例

著者: 畠山雄二 ,   島田洋一 ,   宮腰尚久 ,   千馬誠悦 ,   成田裕一郎 ,   宮本誠也 ,   小林志 ,   菊谷祥博 ,   小野巌 ,   東海林琢男

ページ範囲:P.167 - P.174

 症例は71歳の男性で,腰痛を訴え受診した.初診時,低蛋白血症と貧血を呈し,画像上,第2腰椎に溶骨性変化と造骨性変化を示し椎体は圧潰していた.尿中Bence Jones蛋白,血清M蛋白を認めたため多発性骨髄腫が疑われた.胸腰椎後方固定術(第12胸椎-第4腰椎)を行い,病理診断はIgG-κ型の多発性骨髄腫であった.また,左鎖骨病的骨折のため手術を要し,病巣部では仮骨形成と骨芽細胞が認められた.術後化学療法を行い,腰痛と左鎖骨部痛は改善したが,血清M蛋白は継続して認めており経過観察中である.

初回治療から7年後に脊椎転移を来した大腿軟部巨細胞腫の1例

著者: 大塚寛 ,   東條猛 ,   小泉雅裕 ,   祖父江展 ,   工藤尚子 ,   須田健 ,   酒井剛 ,   森田敬知 ,   遠藤久子

ページ範囲:P.175 - P.179

 症例は74歳の女性で,右大腿軟部腫瘍で初診した.生検後,広範切除と術後照射を施行した.患者はこの2年前に他院で肺腫瘍の切除術を受け,組織診断が巨細胞腫であった.大腿軟部病変は術後,局所再発は認めなかったが,7年後に第11胸椎に骨転移を生じ,第11胸椎全摘術を施行した.組織学的所見では悪性変化は認められなかった.しかし,術後全身多発転移で急性増悪し,全経過10年4カ月で腫瘍死した.肺以外への遠隔転移を呈したこと,肺病変の治療が先行したこと,軟部原発,骨原発両者の異次多発の可能性も否定できず,極めて稀な臨床経過を呈した1例を報告する.

画像所見で大腿骨骨腫瘍と診断されたSAPHO症候群の3例

著者: 土田ひとみ ,   篠崎哲也 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.181 - P.185

 大腿骨骨腫瘍との鑑別を要したSAPHO症候群の3例を経験した.性別は全例女性であり,主訴は大腿部痛であった.全例とも特に誘因なく大腿部痛を自覚し,X線撮影で異常所見が認められ,骨腫瘍を疑い当科を紹介され受診した.2例に掌蹠膿疱症の治療歴を認めた.単純X線所見では大腿骨骨幹部に骨皮質の肥厚と不整像を認めた.MRIでは骨皮質の肥厚と骨髄の不整な信号強度変化,および骨皮質周囲組織のびまん性な高輝度変化が見られた.全例非ステロイド性抗炎症薬の服用により症状は軽快した.本疾患の診断には,合併する骨炎の病態を認識することや,MRIにおける骨髄と骨皮質周囲組織の炎症,およびそれに伴う浮腫の存在が重要である.

書評

『Operative Techniquesシリーズ 手の外科』 フリーアクセス

著者: 加藤博之

ページ範囲:P.108 - P.108

 本書の英語版「Hand and wrist surgery」の著者Kevin C. Chung氏は,形成外科医であるが橈骨遠位端骨折などの骨関節外傷の手術も得意であり,研究論文を精力的に執筆している.「Hand and wrist surgery」には,指骨折から先天異常・麻痺手の再建術までの代表的83疾患・外傷の手術手技を1,400点以上の手術写真と明快なシェーマにより簡潔かつ的確に解説されている.Kevin C. Chung氏が全体の約1/3を担当し,残りの2/3は各手術のエキスパートが選ばれて担当し,各執筆者の原稿はKevin C. Chung氏により練り上げられ,臨床に直結するというコンセプトで貫かれている.私は,本書の英語版を早速購入したが,英語版であるため忙しい臨床の場で活用するには至らず書庫に眠っていた.

 その「Hand and wrist surgery」が,日本語版「手の外科」として出版された.訳は本邦手外科医の第一人者である三浪明男先生である.原著の意を汲みとって読みやすく,しかも用語集に記載された医学用語を用いた三浪明男先生の訳により,本書の価値は数段高まっている.速読可能で手術適応,画像所見,手術に際しての局所解剖・体位・アプローチ,そして後療法を数分で確認できる.私は術中に,「これを準備するのを忘れたッ」,「あれをチェックしておけば良かったッ」とほぞを噛むことがある.また思わぬ窮地に陥り慌てることもしばしばである.本書には手術のコツ,落とし穴,用意する機器まで欄外に記載されている.また対立する意見や代表的文献の選択なども公正に紹介されている.術前に,本書「手の外科」を一読することにより,このような「たら」「れば」という事態は回避され,手術に対する万全の技術的・論理的準備が可能となる.

INFORMATION

第50回日本小児股関節研究会 フリーアクセス

ページ範囲:P.165 - P.165

会 期:平成23年(2011年)6月24日(金),25日(土)

会 場:RAKO華乃井ホテル(〒392-0022 長野県諏訪市高島2-1200-3)Tel:0266-54-0555

第11回日仏整形外科合同会議(Congrès AFJO 2011) フリーアクセス

ページ範囲:P.174 - P.174

会期:2011年6月2日(木)~4日(土)

場所:ボルドー(フランス)

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.187 - P.187

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.188 - P.188

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.189 - P.189

あとがき フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.190 - P.190

 昨年2010年はWHOが中心となり日本整形外科学会が推進してきたBone and Joint Decade(2000~2010)の最終年ですが,今後もBone and Joint Decade(2010~2020)として継続されることが決定しています.日本では昭和10年(1935)の高齢化率が4.7%と最低でしたが,1950~1975年は出生率低下によって,それ以降は死亡率の改善により高齢化率が上昇しています.先進諸国の高齢化率を比較してみると,日本は80年代には下位,90年代にはほぼ中位でしたが,2010年(平成22年)には約23%となり,世界に類を見ない水準に到達しています.骨・関節を中心とする運動器分野を担当する整形外科は超高齢化社会を迎え,その重要性がますます高くなってきています.日本整形外科学会が提唱している“骨,関節,筋肉といった運動器の機能が衰えることにより日常生活での自立度が低下し,介護が必要になったり,寝たきりになる可能性の高い状態である”ロコモティブシンドロームも,国民に次第に認知されるようになり,外来で患者さんから質問されることもあります.「“上手に体を使う”ことにより介護を必要とせず,自立した生活ができる『健康寿命』を延ばすようにしましょう.」と答えています.

 「視座」欄で糸満盛憲先生が書かれた「Unable to Control」は大変示唆に富んだ文章であり,関節外科,外傷外科,骨バンクと同種骨移植とそれぞれの分野で日本をリードされてきた仕事が「すべて自分の意志で積極的に取り組んだ結果なのか…,身近な仲間の支援によるものが大きいことは当然であるが,何かもっと別の意志によって動かされたような気がする.」と書いておられます.世の中のニーズに応えて多くの仕事をされてこられた糸満先生には新しい病院でさらにご活躍されることを祈念いたします.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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