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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科46巻6号

2011年06月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 腰部脊柱管狭窄[症]に対する手術戦略

緒言 フリーアクセス

著者: 高橋和久

ページ範囲:P.494 - P.494

 高齢社会を迎えたわが国において,腰部脊柱管狭窄[症]は高齢者の日常生活動作や生活の質を左右する運動器疾患のひとつである.本症に対しては,様々な保存治療が行われるが,それらが無効な場合,手術治療が考慮される.今回,誌上シンポジウム「腰部脊柱管狭窄[症]に対する手術戦略」として,第一線でご活躍の先生方に腰部脊柱管狭窄[症]の手術治療に関する最新のトピックスについて,ご執筆を依頼した.

 その結果,中川幸洋先生,吉田宗人先生には「内視鏡下後方除圧術」,二階堂琢也先生,紺野愼一先生には「選択的除圧術」,渡辺航太先生,千葉一裕先生には「腰椎棘突起縦割式椎弓切除術」,大鳥精司先生には「椎弓根スクリュー使用の後側方固定術」,村田泰章先生らには「後方椎体間固定術―椎間孔部での狭窄を伴う腰部脊柱管狭窄症に対する有用性」という題にて論文原稿を頂戴した.大変お忙しい中,ご執筆を賜った先生方に心より御礼申し上げる.

内視鏡下後方除圧術

著者: 中川幸洋 ,   吉田宗人

ページ範囲:P.495 - P.502

 腰部脊柱管狭窄[症]に対する内視鏡下後方除圧術は,円筒形レトラクターと斜視鏡を用いた低侵襲除圧手技である.軟部組織への侵襲や椎間関節への侵襲が少なく,早期回復,早期社会復帰を可能とする.しかし一方,手術手技獲得のためのlearning curveや特有の合併症がしばしば問題となる.腰部脊柱管狭窄[症]に対する内視鏡下片側進入両側除圧はとくにその手術手技ルーティン,つまり片側進入後に最初に棘突起基部を切除して視野を獲得し,両側同時に骨性除圧を行っていくという手術手技の理解が重要である.

選択的除圧術

著者: 二階堂琢也 ,   紺野愼一

ページ範囲:P.503 - P.506

 腰部脊柱管狭窄に対する選択的除圧術の長所は,後方骨性要素を最小限の切除にとどめたうえで,神経症状の改善に必要な除圧が達成できることである.解剖学的事実から,脊柱管の最狭窄部位は,articular segmentに存在する.また,黄色靱帯の尾側付着部はintraosseous segmentの最狭小部に存在する.すなわち,黄色靱帯の頭尾側完全切離によって神経圧迫因子の存在するarticular segmentでの硬膜管の除圧が得られる.黄色靱帯の隣接組織への付着は,頭側は上位椎弓の中央1/3部,尾側は下位椎弓の上縁であることから,頭尾側完全切離には,laminectomyを必要とせず,laminotomyでその目的が達成でき,椎弓の温存が可能である.

腰椎棘突起縦割式椎弓切除術

著者: 渡辺航太 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.507 - P.513

 腰椎棘突起縦割式椎弓切除術(縦割術)は,脊柱管内に病変を有する腰部脊柱管狭窄[症]に適応される.変性すべり症に対しても1)当該椎間の%slipが20%以下,2)側方すべりを認めない,3)後方開大10°以下を満たす症例では縦割術が適応される.縦割術の長所は①術後創部痛の軽減,②傍脊柱筋の温存,③良好な視野と十分なworking space,④椎間関節の温存,⑤後方正中支持組織(棘突起,棘上/棘間靱帯)の温存が挙げられる.問題点としては,縦割した棘突起が椎弓から遊離するため脊柱の安定性が減少する懸念がある.また,死腔の減少による硬膜外血腫の発生が懸念されるため,閉創前の十分な止血操作,ドレーンの硬膜外への確実な設置が必要である.

椎弓根スクリュー使用の後側方固定術

著者: 大鳥精司 ,   高橋和久

ページ範囲:P.515 - P.519

 腰部脊柱管狭窄[症]に対しては保存療法が第一選択であるが,軽快しない場合,手術療法が選択される.本稿では,まず手術適応について述べる.次に,手術療法は大別して除圧術,除圧固定術に分類されるが,その中でも固定術,特に後側方固定術(PLF)の適応について論ずる.最後に,PLFの手術手技のポイント,限界,合併症などを記載する.

後方椎体間固定術―椎間孔部での狭窄を伴う腰部脊柱管狭窄[症]に対する有用性

著者: 村田泰章 ,   柴正弘 ,   八田哲 ,   金谷幸一 ,   和田啓義 ,   和田圭司 ,   加藤義治

ページ範囲:P.521 - P.527

 腰部脊柱管狭窄[症]の手術療法の1つに後方椎体間固定術(PLIF,TLIF)がある.この術式の長所として,後方除圧と椎間の固定ができること,椎間の拡大ができること,そして椎間関節を切除することにより展開がよいことなどが挙げられる.これらは,椎間孔部での狭窄を伴う腰部脊柱管狭窄[症]に対しても有用である.本稿では,自験例の第5腰椎/第1仙椎(L5/S)椎間孔部での狭窄をMRI画像および電気生理学的手法を用いて診断後,後方椎体間固定術で対処し,その有用性を検討した.

最新基礎科学/知っておきたい

腱の形成と再生―Tenomodulin

著者: 宿南知佐

ページ範囲:P.528 - P.532

■はじめに

 骨と筋肉を連結する腱は,筋収縮によって生じた力を骨格に伝達し,運動器が一体となって機能するために欠かせない役割を果たしている.腱は強靱結合組織に分類され,縦に規則正しく1列に並ぶ腱細胞が産生した太いⅠ型コラーゲンの線維が平行に走向し,強靱な抗張力性を保持している.間葉系組織の中では,軟骨は例外的に無血管であることが知られているが,腱もまた靱帯とともに血管網の非常に乏しい組織である.したがって,いったん,腱が損傷されると瘢痕修復に移行し,機能的,生体力学的に十分に再生させることは困難で,運動器の中でも組織再生の重要な標的の1つであると考えられている.しかしながら,長い間,組織特異的分子マーカーが知られていなかったので,腱形成や再生の分子機序に関する研究は進んでいなかった.近年,筆者らは,Ⅱ型膜貫通糖蛋白質であるtenomodulin(Tnmd)をクローニングし,腱・靱帯などの強靱結合組織に特異的に発現することを報告した20).本稿では,成熟した腱細胞の分子マーカーであるTnmd分子の機能,発現局在,腱形成と再生における役割について最近の知見を概説する.

境界領域/知っておきたい

悪性骨・軟部腫瘍におけるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)

著者: 藤本卓也 ,   鈴木実 ,   市川秀喜

ページ範囲:P.534 - P.541

はじめに

 近年の科学技術の発展は,悪性腫瘍に対する診断・治療技術にも様々な恩恵をもたらしている.優れた抗腫瘍効果を示す重粒子線などの粒子線による放射線療法もそのひとつであり,手術による切除が治療の基本となっている悪性骨・軟部腫瘍では,身体深部に発生した腫瘍を非侵襲的に加療できる唯一の手段となっている.また,複数の抗癌剤を用いた系統的な化学療法に加え,最近では腫瘍細胞に特異的に作用する分子標的治療薬を導入するなど悪性骨・軟部腫瘍の治療方法にはめざましい進歩がある.実際の臨床現場では腫瘍の発生部位とその組織学的特徴に応じて,これら3つの手術,放射線,および化学療法を駆使して治療が行われる.しかし,治療開始時にすでに遠隔転移を認める症例や,骨盤などの体幹部に発生した手術的に切除困難な腫瘍については,いまだ有効な治療法がなく予後も悪いため,さらなる新たな治療方法が求められているのが現状である.

整形外科/知ってるつもり

患者会を交えた多施設共同研究―遺伝性多発性外骨腫症

著者: 松本和

ページ範囲:P.542 - P.544

■はじめに

 遺伝性多発性外骨腫症(multiple hereditary exostoses;MHE)は,常染色体優性遺伝で,主に長管骨の骨幹端部に多発する骨腫瘍,低身長,上下肢の変形,早期の変形性関節症を特徴とする.また頻度は1%以下とされているが,外骨腫の悪性転化が問題となる症例もある.海外での報告によると,本疾患の頻度は1/50,000とされている6)が,本邦での詳細は不明である.今回,われわれは,厚生労働省の難治性疾患克服研究事業で『遺伝性多発性外骨腫の実態把握と遺伝子多型に関する基盤研究』をスタートした.本稿では,遺伝性多発性外骨腫症の遺伝子学的背景とともに,本研究の概要を紹介する.

連載 成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴・8

腰部

著者: 川添浩史 ,   帖佐悦男

ページ範囲:P.545 - P.548

診断のポイント

 腰痛を訴えるいずれの症例においても詳細な病歴の聴取は重要である.腰痛の発症状況,持続期間など腰痛の状況をしっかりと把握する.次いで姿勢の異常,疼痛の部位,タイトネスの有無,神経症状の有無などをチェックし,画像診断などを実施する.

 

鑑別診断:腰椎すべり症,腰部椎間板ヘルニア,椎体辺縁分離,筋筋膜性腰痛,心因性腰痛など

臨床経験

重症手根管症候群に対する電気生理学的評価―手掌部刺激の有用性について

著者: 金谷貴子 ,   藤岡宏幸 ,   黒坂昌弘 ,   鷲見正敏 ,   山崎京子

ページ範囲:P.551 - P.555

 手掌部刺激による運動神経終末潜時(DML)(P-DML)導出を,母指球筋萎縮を呈し手関節刺激でDML,感覚神経伝導速度(SCV)が測定不能な重症手根管症候群に試みた.43手のうちP-DMLが測定可能であった42手は手根管開放術後1年で母指球筋萎縮は改善し,手関節刺激でDML40手,SCV22手が測定可能となった.一方,P-DMLが測定不能であった1手は術後の母指球筋萎縮は改善しなかった.重症手根管症候群では,ほとんどでP-DMLが測定可能で,術後の母指球筋萎縮改善と電気生理学的回復がみられたことから,病態は脱髄主体と考えられた.

症例報告

術後持続灌流に間欠的局所麻酔剤注入を併用した化膿性屈筋腱腱鞘炎の1例

著者: 篠村友紀 ,   高原政利 ,   荻野利彦 ,   笹木勇人

ページ範囲:P.557 - P.559

 右中指に発生した化膿性屈筋腱腱鞘炎に対して,デブリドマン後の持続灌流に間欠的局所麻酔剤注入を併用し,良好な治療成績を得た.症例は53歳の男性で,ガラスで右中指MP関節掌側基部を切り受傷した.受傷後3日目で当科を初診し同日デブリドマンを行った.術後持続灌流に間欠的局所麻酔剤注入を併用し,疼痛と局所の感染兆候は著明に改善した.術後4日目から自動可動域訓練を開始し,術後1.5カ月で仕事に復帰した.術後5カ月で疼痛はなく,Flynnの機能評価ではGoodであった.

バンコマイシン混入骨セメントビーズによりred man症候群を呈した1例

著者: 奥野栄太 ,   福地綾乃 ,   真玉橋由衣子 ,   渡慶次さやか ,   伊波寛 ,   中原巖

ページ範囲:P.561 - P.563

 72歳,女性.大腿骨頚部骨折術後にMRSAの創部感染を生じ,バンコマイシン(VCM)の点滴投与およびVCM混入骨セメントビーズ(以後VCMビーズ)留置術が行われた.VCM投与16日目から皮膚の発赤・搔痒感が出現した.VCMの投与を中止したが,皮膚所見は増悪し,VCMビーズ抜去術を行った.術中の血圧低下に難渋したが,その後,皮膚症状は改善した.VCMビーズによってもred man症候群を起こすことがあり,注意が必要である.

大腿骨転子部骨折に対するproximal femoral nail antirotation術後に骨頭穿孔を生じた2例

著者: 北村暁子 ,   永井博章 ,   小口武 ,   田中健司 ,   杉浦文昭 ,   鈴木和広 ,   浦田士郎

ページ範囲:P.565 - P.569

 当院では大腿骨転子部骨折に対して2006年2月から全例にproximal femoral nail antirotation(PFNA,SYNTHES社)を使用している.207例中カットアウトや二次的骨折は認めなかったが,稀な合併症である骨頭穿孔を2例経験した.いずれも術後1カ月以降での発生であり,歩行訓練などの負荷によりブレードの中心性転位が生じ,骨頭穿孔に至ったと考えられた.合併症の発生および進行の予防のため,ブレード挿入位置や長さには十分注意し,骨癒合までの慎重な画像評価が望ましい.

胸椎硬膜外に発生した血管脂肪腫の2例―文献的考察を加えて

著者: 藤原啓恭 ,   海渡貴司 ,   武中章太 ,   牧野孝洋 ,   米延策雄

ページ範囲:P.571 - P.576

 血管脂肪腫は四肢末梢皮下組織や筋肉内にしばしば発生するが,脊柱管内発生は稀で全脊髄腫瘍中0.14~1.2%とされる.今回われわれは脊柱管内発生の硬膜外血管脂肪腫を2例経験した.画像診断では,MRI像が特徴的でT1強調像で等信号,T2強調像で高信号,ガドリニウム造影で増強される紡錐状の腫瘤像を呈する.2例とも脊髄症状に対し椎弓形成術および腫瘍全摘出術を施行し経過良好である.硬膜外血管脂肪腫は稀な疾患であるが,胸部脊髄症を来す鑑別疾患として念頭に置く必要性がある.治療は外科的摘出術が原則とされ,全摘・亜全摘ともに予後良好である.

診断に苦慮した膝関節内ガングリオンの1例

著者: 秋山隆行 ,   王寺享弘

ページ範囲:P.577 - P.580

 診断に苦慮した膝関節内ガングリオンの1例を経験したので報告する.患者は52歳の女性で,誘因なく右膝の伸展時痛が出現した.MRI上前十字靱帯(ACL)脛骨付着部に囊胞性病変を認めたが,関節鏡では病変は確認できなかった.鏡視後1年10カ月から再び疼痛が出現した.MRIで病変の増大を認め,関節鏡を施行した.やはり腫瘤は確認できなかったが,ACL前方の正常な軟部組織を切り込むと,ゼリー状の液体流出を認めた.本例では,画像上容易に鏡視できると思われたが,軟部組織下に存在したため,一見してガングリオンは見当たらず,診断に苦慮した.

INFORMATION

第30回新潟手の外科セミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.519 - P.519

期日:2011年(平成23年)8月4日(木)~8月6日(土)

第19回日本腰痛学会 フリーアクセス

ページ範囲:P.548 - P.548

会   期:2011年(平成23年)9月2日(金)・3日(土)

会   場:さっぽろ芸文館(札幌市中央区北1条西12丁目 TEL:011-231-9551)

第51回乳児股関節エコーセミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.555 - P.555

期日:2011年(平成23年)8月26日(金),8月27日(土)

主催:日本整形外科超音波研究会,教育研修委員会

会場:信濃医療福祉センター(〒393-0093 長野県諏訪郡下諏訪町社字花田6525-1)

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.583 - P.583

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.584 - P.584

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.585 - P.585

あとがき フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.586 - P.586

 この時季の,遠目に見える山間(やまあい)の山桜と辛夷が,今年も福島盆地に春が来たことを実感させてくれます.

 東日本大震災では,私の勤務地である福島県は地震と津波に加えて原発事故に見舞われ,それは今もなお,収束の目途が立っていません.風評被害が大人のみならず,子供にまで及んでいます.人心の当て所(あてど)なさに哀しみを覚えます.当初は,医療従事者を含め多くの方が不安で,浮き足立ちました.それにしても,私を含めた医療従事者の“放射線”に対する知識は,とても国民を安心させることができるレベルではありません.これだけ原子力発電所を抱えているわが国では,これを機会に医学教育カリキュラムを再検討する必要があることを痛感しました.この震災に対して,多くの方から御見舞いと御支援を戴きました.紙上を借りて御礼申し上げます.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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