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視座
「トキメキ」の医者人生を
著者: 赤木將男1
所属機関: 1近畿大学医学部整形外科学教室
ページ範囲:P.1159 - P.1160
文献購入ページに移動縁者に医師を持たない私は,医業というものを全く知らずに,この世界に足を踏み入れました.無知かつ自由であり,卒後10年間の整形外科医としての生活は毎日がワクワク感とトキメキに満ちていました.未知の世界(暗い森のなか)へ分け入り,患者と向き合い手術という技術をもって問題を解決する(カブトムシを採る).苦労も当然あるわけですが,何も考えずとも新米医師として充実した毎日を過ごしていたように思います.しかし,10年目を過ぎた頃から簡単には子供のようにトキメクことができなくなります.病態や治療法に関する歴史と先人の努力を知り,現状の問題点を洗い出し,何とかそれを越える手立てはないか,「不屈の魂」を持って「前を目指さ」なければ,ワクワクできなくなります.トキメクためには途方もない努力が必要になって来るのです.時には疲れ果てて,ぼんやりとすることがあります.そんな時に,悪魔のように耳元で囁くのが「ニヒリズム」です.「そんなに頑張って何になるの? 何が楽しくて,そんなに苦労しているの? 誰かに利用されているだけじゃない?」です.新選国語辞典によると,ニヒリズムとは「真理・実在などを否定」し「道徳や宗教の価値・規範を認めず,すべての権威・制度などを否定し,個人を束縛から解放しようとする立場」となっています.諦めにも似た楽観主義的思考法と考えられます.このニヒリズムの甘い果実を口にすると,確かに前へ進むことの苦痛から解放され自由になります.ニーチェはこの「ニヒリズム」を徹底的に否定しました.
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