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『ナラティブ・メディスン―物語能力が医療を変える』 フリーアクセス
著者: 江口重幸1
所属機関: 1東京武蔵野病院精神医学
ページ範囲:P.165 - P.165
文献購入ページに移動患者や家族の経験にさらに近づくために,こうした「語り」に注目したアプローチが医療やケア領域に本格的に現れるようになったのは,1980年代からである.本書はその最前線からもたらされた最良の贈り物である.医師でもあり文学者でもある著者のリタ・シャロンは,さまざまな文学作品や人文科学の概念を駆使しながら「物語能力(narrative competence)」の重要さを説く.それは医療者が患者に適切に説明したり,事例検討の場で上手にプレゼンしたりする能力のことではない.病いや苦しみや医療にはそれらがストーリー化されているという本性があり,その部分にどれだけ注意を払い,正確に把握し,具体的に対処できるかという能力のことである.それに向けて著者が長年心を砕き,文学作品や「パラレルチャート」を含む多様な臨床教材を使用しながら医学教育の場でも教えてきた成果のすべてが,惜しげもなくここに示されている.
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