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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科47巻8号

2012年08月発行

雑誌目次

視座

医学部教育とスポーツ

著者: 大谷俊郎

ページ範囲:P.719 - P.720

 小学校4年で始めたバスケットボールとの関わりが,今年で47年になった.医学部時代6年間はエネルギーの大半をバスケットボール部に注ぎ込んだ思い出がある.卒後31年になる現在も監督として医学部バスケットボール部に関わり,関東医科大学リーグ,医歯薬トーナメント,東日本医科学生総合体育大会(東医体),全日本医科学生体育大会王座決定戦(全医体)などで数回の優勝と無数の敗北を経験してきた.2009年3月からは慶應義塾体育会バスケットボール部長として他学部の学生とも関わるようになり,直近の3年間に関東大学選手権優勝,関東大学リーグ戦準優勝と2部落ち,全日本大学選手権優勝,準優勝,早慶バスケットボール定期戦1勝2敗などのドラマを経験した.

 医師としては膝関節外科とスポーツ医学を専門としてきたので,今まで多くの学生アスリートと医者-患者関係でつき合ってきた.そのうちの数名が,膝を壊すまでは全く想定外だった医学,医療の道へ進んでくれたことは望外の喜びであった.2006年から看護医療学部に移り,2007年からは大学院健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修も担当するようになった.最近は,教育の視点から学生スポーツを考える機会が増えている.

誌上シンポジウム 難治性足部スポーツ傷害の治療

緒言 フリーアクセス

著者: 田中康仁

ページ範囲:P.722 - P.722

 足部は28個の骨が複雑に組み合わさり,どのような地表面にも足底を適合させることができる構造をしている.また,足部には体重を支えるために大きな荷重がかかり,さらに疾走時には全身の筋肉から生じる力の作用点として働く.そのためにオーバーユースに起因するスポーツ傷害が多く,常に荷重がかかる部位であるために,しばしば難治性になる.逆に言えば足部は荷重を分散させることができるために,傷害部位をかばいながらでもスポーツ活動ができてしまうことが多い.そのため足の他部位や膝や腰などに二次的な障害を生じることも少なくない.スポーツ選手は競技レベルが高くなるほど活動を休止することに大きな抵抗があり,スポーツ活動と折り合いを付けながら治療しなければならない.スポーツ整形外科を専門とされている先生は,足部のスポーツ傷害を治療することの難しさを実感されていることと思う.

スポーツによるLisfranc関節損傷の診断と治療

著者: 宮本亘 ,   高尾昌人

ページ範囲:P.723 - P.728

 スポーツによるLisfranc関節損傷は画像所見において変化に乏しいsubtle injuryとなることが多い.そのため,実際の損傷よりも軽傷と判断されがちであるが,正確な不安定性の診断と適切な治療が行われなければスポーツ復帰に大きな支障を来すことになる.

 本稿ではsubtle injuryの一般的な診断法と治療法,さらには筆者らの治療方針アルゴリズムについて解説する.

舟状骨疲労骨折の診断と治療

著者: 杉本和也 ,   磯本慎二 ,   佐本憲宏

ページ範囲:P.729 - P.734

 足部舟状骨疲労骨折は激しいスポーツ活動が誘因となって発症する.単純X線検査では骨折線が描出されない場合が多く,診断にはCTやMRIが有用である.MRIの脂肪抑制像は骨折前段階においても信号異常を示すため,早期の診断に有用である.保存治療により6週間のギプス固定と免荷を行えば骨癒合を高率に得られるが,筋力低下や骨萎縮は避け難い.螺子による内固定を行うと通常,外固定は不要となる.骨折部に骨硬化を伴っている場合には骨癒合の判断が容易ではなく,スポーツへの復帰を許可する時期に迷うことも少なくない.

アキレス腱再建術によるスポーツ復帰

著者: 内山英司

ページ範囲:P.735 - P.740

 アキレス腱再断裂に対し適切な長さ調節と強固な固定を得るため遊離腓腹筋腱膜弁を使用した再建術を行っている.手術後は早期可動域(ROM)訓練,早期荷重が可能で,術後5日で全荷重歩行,術後12日でROM訓練が開始される.アスリートでは片脚ヒールレイズ(以下,HR)達成は平均11.1週,スポーツ復帰の平均は22.7週であった.踵骨から剝離断裂した特殊な断裂形態に対する縫合法や半腱様筋腱を使用した再建方法も解説する.また手術治療効果の判定はアキレス腱本来の機能である片脚HR獲得時期の評価が重要である.

足底腱膜炎の病態と治療戦略

著者: 熊井司

ページ範囲:P.741 - P.747

 足底腱膜炎は,持久系陸上スポーツに多くみられる障害として,治療に難渋する疾患である.その病態は足底腱膜の踵骨付着部における組織変性が基盤とされており,足関節の背屈制限との関係も報告されている.スポーツの現場では,一時的に軽快してもオーバーユースにより再発を繰り返すことが多い難治性障害として認識されている.治療の原則は保存療法であるが,概して消炎鎮痛薬による効果は期待が持てず,ストレッチングとインソールによる初期治療が主体となる.難治性症例に対してわれわれが行っているヒアルロン酸製剤の局所注入療法や,新しい治療法として注目されている腓腹筋退縮術についても言及する.

扁平足に伴う外脛骨障害の診断と治療

著者: 仁木久照

ページ範囲:P.749 - P.755

 外脛骨のVeitch分類 Ⅱ型では,軟骨結合部に滑膜性関節が存在することや,後脛骨筋腱がいったん外脛骨で停止し,さらに外脛骨を起始部として各足根骨の底側に向かうなどの解剖学的特徴を持つ.舟状骨の後脛骨筋腱付着部にはenthesis organとして強大なストレスが集中するので,軟骨結合部がいったん損傷するとその修復は容易ではなく症候性になりやすい.

 外脛骨障害の手術は,外脛骨および舟状骨底側に付着する後脛骨筋腱をできる限り温存することが重要で,腱と外脛骨の組織学的構造を温存できる骨癒合が力学的に有利である.さらに,合併する扁平足には骨・関節手術を併用してアライメントを矯正し,内側アーチ支持組織や舟状骨の後脛骨筋腱付着部への異常な負荷の軽減を図ることが望ましい.

論述

人工股関節置換術が尿失禁に与える影響の検討―国際尿失禁会議質問票を用いた前向き研究

著者: 田巻達也 ,   老沼和弘 ,   白土英明 ,   飯田哲 ,   秋田恵一

ページ範囲:P.757 - P.760

 背景:人工股関節置換術(THA)後に股関節機能の改善に伴い尿失禁症状が改善したと訴える症例を経験することがある.当院におけるTHA前後での尿失禁症状の変化を前向きに調査した.

 対象と方法:当院において前方進入法でTHAを施行した女性133例を対象とし,術前,術後3カ月で,国際尿失禁会議質問票を用いたアンケート調査を行った.

 結果:THA術前に尿失禁症状を認めたのは44例(33%)であり,その大半は腹圧性尿失禁症状であった.術前尿失禁有症者のうち25例(57%)で術後に症状の改善を認めた.

 まとめ:股関節機能の改善に伴い尿失禁症状が改善する症例が存在することが明らかになった.

手術手技/私のくふう

第5腰椎/仙椎高位腰椎椎間板ヘルニア転位例に対する経皮的内視鏡下椎弓間腔テクニック

著者: 伊藤不二夫 ,   三浦恭志 ,   柴山元英 ,   中村周 ,   池田尚司 ,   山田実 ,   山田智彦

ページ範囲:P.761 - P.767

 背景:Interlaminar法による経皮的内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術(percutaneous endoscopic lumbar discectomy)はL5/S高位に適応するが,転位例には可動性の高いカニューレ操作法の開発が必要とされていた.

 対象と方法:手術症例301例のうち,転位のない196例はinterlaminar法で手術した.下方転位42例と上方転位48例には部分椎弓切除術を追加した.L4/5からL5/Sまでの重度下方転位15例にはtransforaminal法とinterlaminar法を合併した.

 結果:術後成績のMacnab評価は満足90%(優163例,良108例),不満足10%(可14例,不可16例)であった.転位別満足率は,転位なし94%,下方転位81%,上方転位83%,L4/5重度下方転位87%であった.

 まとめ:L5/S腰椎椎間板ヘルニア転位例には部分椎弓切除が有用である.

MIS-CPO(Naito)における進入時の腸骨骨切りの工夫

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.769 - P.773

 MIS-CPO(minimum invasive surgery for curved periacetabular osteotomy)では,進入時に大腿筋膜張筋を起始部から剝離して上前腸骨棘を矩形に骨切りするため,閉創の際にこの骨切り部をスクリューで固定し,大腿筋膜張筋を腸骨稜に縫合固定する必要がある.大腿筋膜張筋は下肢伸展挙上(SLR)や膝関節の屈伸運動で緊張するため,術後早期に当該部の疼痛を訴える患者が多い.また骨切り部の固定に用いたスクリューヘッド部の疼痛を訴えることがある.これらを回避するために,腸骨稜から内板に向けて斜めに骨切りし,閉創の際に縫合糸で固定する試みを行って良好な結果を得たので,手術の要点を紹介する.

整形外科/知ってるつもり

ビスホスホネートによる非定型大腿骨骨折

著者: 萩野浩 ,   林原雅子 ,   清水正人

ページ範囲:P.774 - P.777

■はじめに

 最近,長期間にわたるビスホスホネート(BP)治療例で大腿骨転子下から骨幹部にかけての骨折発生が報告され,非定型大腿骨骨折(atypical femoral fracture,AFF)あるいは非定型大腿骨転子下・骨幹部骨折(atypical subtrochanteric and diaphyseal femoral fractures)と呼ばれる.AFFの特徴は,大腿骨の骨皮質幅が厚くなっているにもかかわらず,まったく外傷がないか,屋内での転倒といった軽微な外傷が原因となって骨幹部に横骨折を生じる点である.X線像からは骨折しそうにない骨幹部が簡単に骨折する(simple with thick cortices)ため,“atypical”あるいは“funny”といった冠がつけられる(図1).

連載 知ってますか?整形外科手術の変遷・5

骨折治療―John Hunterからtissue engineeringの時代まで

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.778 - P.791

骨折治療史の概要

 戦傷の治療は,先史時代にさかのぼるものと想像される.Edwin Smith Papyrus(エジプト)には骨折治療の処方があり,開放骨折は治療不可能として遺棄されたと記されている.長い治療の歴史にもかかわらず,骨癒合の日数はHippocratesの時代とさして変わらない(表1,図1)22)

 整復と包帯(リネン,“のり,油脂”を混ぜることも)あるいは副え木による固定法(immobilisation)は中世の西欧のみならず,永い医学の歴史を誇る中国やインドでも共通していた.トルコに起源をもつとされるギプス包帯(包帯に添加した焼石膏の水和による硬化)が普及するのは19世紀である.脱臼整復と骨折の治療を普及させたのは,数少ない外科医よりも,整復師(bone setter)であった.開放骨折でさえなければ,骨折は“寄せておけば,やがて治る”という経験則が稼業として成り立った理由だろうか.英国整形外科の祖とされるThomas(1834~1891)が生涯を通して掲げた骨折の治療原理は“rest, absolute, uninterrupted and prolonged”であった30).下肢や脊椎の骨折治療は安静臥床が原則であったし,骨折した患肢は前後の関節も含めて固定された.

整形外科最前線 あなたならどうする?・8

整形外科最前線 あなたならどうする?

著者: 濱田知

ページ範囲:P.795 - P.797

症例

患者:78歳,男性

主訴:両下肢筋力低下

既往歴:高血圧症

職業:トラック運転手

現病歴:2~3日の長距離運転の後に自宅で休んでいたところ,両上下肢の脱力を自覚した.症状は数時間の間に増悪し起立困難となった.その後,発症時よりやや筋力が戻ってきたが依然として起立が困難であったため,発症から12時間後,当院に救急搬送された.

成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴・21

膝関節

著者: 山口奈美 ,   帖佐悦男

ページ範囲:P.799 - P.801

診断のポイント

1) 活動性の高い10代男子,外傷の既往なし

2) 膝関節の運動時痛

3) 膝外側関節裂げきの圧痛,膝関節可動域制限(屈曲時に疼痛あり),McMurrayテスト陽性

4) 単純X線正面像で外側関節裂げきの開大,顆間窩撮影で大腿骨外顆の骨透亮像

臨床経験

Taylor Spatial Frameの矯正精度―脛骨変形矯正症例での評価

著者: 渡邊孝治 ,   松原秀憲 ,   野村一世 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.803 - P.808

 目的:Taylor Spatial Frameで変形矯正を行った脛骨65肢の矯正精度を調査した.

 対象と方法:変形の原因は,先天性31肢,発達性13肢,外傷性21肢であった.重症度に従い1D群:延長(14肢),2D群:延長+1平面での変形(14肢),3D群:延長+2平面での変形(32肢),4D群:延長+3平面での変形(5肢)に分けて比較した.正確さの評価は目標誤差5°以下を許容した.アライメントをインデックス化し各群間の比較を行った.

 結果:誤差5°以下の矯正は92%の症例で得られた.矯正後のアライメントは各群間に有意差を認めなかった.

 まとめ:Taylor Spatial Frameにより,変形の重症度に関係なく正確な矯正が行われた.

症例報告

椎体腹側と脊柱管内に囊腫を合併した骨粗鬆症性圧迫骨折の1例

著者: 岩森秀樹 ,   内川千恵

ページ範囲:P.809 - P.813

 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折椎体から発生時期を異にして椎体腹側と脊柱管内に囊腫を生じ,脊柱管内囊腫により神経障害を来した稀な症例を経験した.症例は78歳の女性である.第1腰椎圧迫骨折受傷後2カ月で腰臀部痛の悪化とともに椎体前方に囊腫を生じた.その後,椎体前方の囊腫は消退したが骨折部は偽関節となり,骨折受傷後5カ月で脊柱管内囊腫を合併し,右下肢痛・しびれ・筋力低下を訴えて歩行困難となった.脊柱前方再建術を施行し良好な結果が得られた.偽関節部を安定化させることにより囊腫は消退した.

INFORMATION

第4回日本レックリングハウゼン病学会学術大会 フリーアクセス

ページ範囲:P.747 - P.747

会期:2012年11月4日(日) 午前9時50分より

会場:慶応義塾大学 三田キャンパス 北館ホール(〒108-8345 東京都港区三田2-15-45)

第18回日本最小侵襲整形外科学会 フリーアクセス

ページ範囲:P.760 - P.760

テーマ:拡大MIOS―低侵襲治療のすゝめ

会期:2012年11月16日(金)~17日(土)

会場:奈良県新公会堂

第39回関東膝を語る会 フリーアクセス

ページ範囲:P.767 - P.767

日時:2012年11月17日(土) 13:00~18:00

当番世話人:三ツ木直人(横浜市立大学附属市民総合医療センター 整形外科)

会場:大日本住友製薬(株) 東京支社10階ホール 東京都中央区京橋1-13-1

第2回関東地区小児整形外科ベーシックコース講習会 フリーアクセス

ページ範囲:P.773 - P.773

会期:2012年11月3日(土)

会場:大正製薬株式会社 本社1号館9階ホール

   東京都豊島区高田3-24-1

2013 ICJR (International Congress for Joint Reconstruction) Fukuoka フリーアクセス

ページ範囲:P.813 - P.813

会期:2013年4月12日(金),13日(土)

会場:ヒルトン福岡シーホーク〔〒810-8650 福岡市中央区地行浜2-2-3〕

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.815 - P.815

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.816 - P.816

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.817 - P.817

あとがき フリーアクセス

著者: 内藤正俊

ページ範囲:P.818 - P.818

 今月は熱中症のピークで,不帰の転帰をとる年配の犠牲者が増えています.確かにわが国では65歳以上の高齢者の割合が世界に類を見ないスピードで高くなっています.1950年,4.9%であった高齢化率が100年後の2050年には8倍を超える39.4%に達すると推計されています.平均寿命も延びています.1950年では男性58.0歳,女性61.5歳でしたが,2050年の予測は男性83.6歳,女性90.3歳となっています.20歳から64歳までの現役世代と高齢者の比の推移は,1950年では10対1であったのが2005年に3対1となり,2050年には1.2対1になる見込みです.驚くべき勢いで少子超高齢社会に向かっています.

 さて,本号のシンポジウムは,競技レベルのスポーツ選手に起こる「難治性足部スポーツ傷害の治療」です.日本を代表する専門家により,主な足部傷害の解剖学的特徴から術後のリハビリテーションまでわかりやすく解説されています.判断に迷うハイレベルのアスリートでの治療方法のコツや,スポーツへの復帰時期についての知識を得る絶好の機会です.急増している人工股関節置換術の術後の股関節機能の改善と排尿機能との関連を検討した論述も掲載されています.患者の訴えに基づいた斬新な視点での研究成果です.“手術手技 私のくふう”には股関節外科学の泰斗であられる糸満盛憲先生の創意工夫に満ちた論文もあります.「ビスホスホネートによる非定型大腿骨骨折」も“整形外科知っているつもり”で取り上げられています.超高齢社会となっているわが国では必須の知識です.連載,臨床経験,症例報告にも豊富な話題が満載です.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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