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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科48巻11号

2013年11月発行

雑誌目次

視座

腰痛診療ガイドラインについて思う

著者: 土井田稔

ページ範囲:P.1069 - P.1069

 日本整形外科学会では,整形外科診療において日常で頻繁に遭遇する疾患や重要度が高いと考えられる疾患を選び,科学論文のエビデンスに基づいた診療ガイドラインの作成を平成14年度(2002)にスタートさせました.これは,整形外科専門医が,進んだ診療情報をいち早く共有して,治療成績の「ばらつき」を少なくし,質のよい診療を提供できることを目的としています.現在までに14の診療ガイドラインが発刊されています.昨年の秋には,腰痛診療ガイドラインが出版されました.ほとんどの診療ガイドラインが“疾患単位”を対象とし作成されているのに対し,腰痛は“症状”の総称である点が大きく異なっています.本ガイドラインは白土修委員長の強いリーダーシップのもと,約5年間の年月をかけ作成されました.私もその委員の一員としてガイドライン作成に参加させていただいた経験から,診療ガイドラインについて私感を述べてみたいと思います.

論述

棘突起縦割式頚椎椎弓形成術における連通孔性高気孔率ハイドロキシアパタイトスペーサーの吸収過程

著者: 石部達也 ,   千束福司 ,   池田登 ,   川合準 ,   石坂直也 ,   神庭悠介 ,   三河義弘

ページ範囲:P.1071 - P.1078

 背景:棘突起縦割式頚椎椎弓形成術に用いた連通孔性高気孔率ハイドロキシアパタイトスペーサーの吸収過程を調査した.

 対象と方法:術後2年以上経過し,単純X線像と日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準による評価を行った脊髄症患者41例である.

 結果:スペーサーは面よりも角から吸収される例が多く,方向別では背側からの吸収が高度で,平均39カ月では41%のスペーサーが痕跡化あるいは消失した.スペーサーの遅発性脱転はなく,脊髄症状の悪化例もなかった.

 まとめ:本スペーサーは経時的に吸収されたが,それゆえに遅発性脱転は皆無であった.

MRI矢状断像による椎間孔狭窄の分類

著者: 村田泰章 ,   柴正弘 ,   金谷幸一 ,   和田啓義 ,   和田圭司 ,   八田哲 ,   加藤建 ,   加藤義治

ページ範囲:P.1079 - P.1083

 背景:椎間孔部での狭窄が下肢痛の原因となることがあるが,MRI画像上では,脊柱管内での狭窄と比べると診断が難しく,画像上の狭窄が有意なものかわかりにくい.

 対象と方法:MRI矢状断像での椎間孔内の椎間板の形態に着目して,椎間孔部での狭窄による神経圧迫の有無を検討した.

 結果:椎間孔が椎間板頭側端から近位まで椎間板により占拠されている場合では36%の症例に,さらにL5/Sであれば54%の症例に椎間孔狭窄による症状がみられた.

 まとめ:電気生理学的診断よりも簡便に行えるMRI矢状断像を用いることにより,椎間孔狭窄のスクリーニングがある程度可能であると考えられた.

高齢者手根管症候群における電気生理学的重症度と手根管開放術後1年での電気生理学的回復について

著者: 金谷貴子 ,   名倉一成 ,   鷲見正敏 ,   国分毅 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.1085 - P.1089

 背景:高齢者の手根管症候群(CTS)は臨床的に母指球筋萎縮を呈する重症例が多いが,手根管開放術(CTR)による成績は比較的良好とされている.しかし,客観的に電気生理学的評価を用いて高齢者CTSの術前の重症度およびCTR後の回復を検討した報告はない.

 対象と方法:高齢者(≧70歳)のCTR症例95手を対象に,電気生理学的重症度分類(1~5期)に基づいて術前の重症度の評価を行い,術後1年での回復を統計学的に検討した.1,2期;軽症,3期;中程度,4,5期;重症とした.

 結果:術前は重症例が91.6%(87手)を占めた.術後1年では,ほとんどが電気生理学的に改善を示し,軽症例は術前2%(2手)から40%(38手)へと有意に増加した(p<0.0001).

 まとめ:高齢者の手根管症候群は臨床的に重症例が多いと報告されており,電気生理学的にも術前は重症例が多かったが,術後の回復は良好で,高齢者に対するCTRの効果は期待できると考えられた.

調査報告

秋田県における雪下ろし外傷の現況

著者: 畠山雄二 ,   千馬誠悦 ,   成田裕一郎 ,   宮本誠也 ,   小林志 ,   佐々木香奈 ,   小原信宏 ,   清野洋一

ページ範囲:P.1091 - P.1094

 目的:この研究の目的は秋田県の雪下ろし外傷の現況を報告することである.

 対象と方法:対象は2009年12月から2012年3月までに雪下ろし外傷で救急搬送された352例である.

 結果:発生時期は1月が最も多く(200人;56.8%),県南内陸部での受傷が最多(202人;57.4%)であった.年齢別では65歳以上が約半数を占めていた.受傷原因は223人が屋根からの転落で,梯子からの転落が112人であった.134人(38.1%)が脊椎損傷を伴い,16人が亡くなっていた.

 まとめ:降雪量が10cm以上で真冬日に多く発生する傾向にあった.

手術手技/私のくふう

低侵襲頚椎後方固定術―TEMPEST(TEchnique for Muscle-PrEserving STabilization)

著者: 青山龍馬 ,   白石建 ,   山根淳一 ,   二宮研 ,   北村和也

ページ範囲:P.1095 - P.1099

 頚椎棘突起に付着する伸筋群を温存したまま頚椎固定術を行うテクニックTEMPESTを開発した.本法は2つの異なるアプローチを使用する.1つは頭尾側の頚半棘筋と棘間筋間のすき間から進入する傍正中アプローチで,本アプローチによりinstrumentationを行う.他方は棘突起を縦割する正中アプローチで,除圧が必要な場合に選択的椎弓切除を行う.TEMPESTでは筋肉への障害を抑え,死腔を減少させる可能性がある.このため,疼痛や感染の減少と骨癒合の促進に有利と思われた.

Lecture

症例から学ぶ慢性疼痛

著者: 篠原仁 ,   北原雅樹

ページ範囲:P.1101 - P.1106

 まず,この症例をみて考えていただきたい.

症例:40歳,女性.身長157cm,体重65kg

主訴:腰痛,両側臀部から下肢の痛みや重だるさ

ビタミンDと転倒

著者: 湏藤啓広

ページ範囲:P.1107 - P.1112

はじめに

 人は年を重ねるにつれて筋肉量が減少し,それとともに筋力が低下し,転倒しやすくなる.10歳ごとに10%転倒率が増加し,65歳までに毎年3人に1人,80歳までに毎年2人に1人が転倒する.転倒した人の20~30%は中等度~重度の外傷を負い,その中の少なくとも半数は骨折する12).言うまでもなく,骨折を予防するためには,転倒を予防することも必要である.

 本稿では,ビタミンDと転倒に関する最近のメタ解析を中心に概説する.

最新基礎科学/知っておきたい

iPS細胞による脊髄損傷治療

著者: 海苔聡 ,   戸山芳昭 ,   岡野栄之 ,   中村雅也

ページ範囲:P.1114 - P.1118

■はじめに

 中枢神経系である脊髄に損傷を起こすと,損傷部以下の知覚・運動・自律神経系の麻痺を呈する.集学的医療の進歩により脊髄損傷患者の平均余命は健常人と変わらなくなってきているが,損傷された脊髄を直接治療する方法がないのが医療の現状である.しかし,幹細胞研究の急速な進歩により,動物実験レベルでは細胞移植をはじめ,損傷脊髄の修復を促す治療法が多数報告されるようになった.基礎研究で得られた結果を臨床の現場で応用できれば,脊髄損傷に対する新たな治療法を確立することが可能となる.

 近年,中枢神経系の再生医療の戦略として神経幹/前駆細胞(neural stem/progenitor cells:NS/PCs),胚性幹(embryonic stem:ES)細胞,人工多能性幹(induced pluripotent stem:iPS)細胞などを用いた細胞移植療法に世界的な注目が集まっている.特に,iPS細胞を用いた細胞移植療法の研究は急速に進んでおり,iPS細胞から種々の細胞への分化誘導法の開発や,疾患モデル動物への移植に関する研究が相次いで報告されている.

 本稿では,われわれがこれまで行ってきたNS/PCs・ES細胞を用いた細胞移植研究に触れながら,現在,再生医療分野で最も注目されているiPS細胞を用いた脊髄損傷治療の現状と今後の展望について概説する.

連載 アドバンスコース 整形外科 超音波診断・治療 どこが・どれだけ・どのように・3

股関節の超音波診断と治療

著者: 扇谷浩文

ページ範囲:P.1119 - P.1126

Abstruct

 股関節の超音波としてよく利用される2疾患に対する検査方法と,その後の治療について述べる.先天性股関節脱臼においては,検査時の重要ポイントと,Type Ⅱa+とType Ⅱa-の簡単な判断基準を,表ではなく数値で解説する.またType ⅢとType Ⅳで治療に対する反応の違いに注目した結果,Type Ⅳの中でどのような症例がリーメンビュゲルで整復されやすいかについても述べる.次いで股関節炎に対する検査法のポイントと,ガイド下穿刺法についても述べる.

成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴・36【最終回】

足関節

著者: 小島岳史 ,   帖佐悦男

ページ範囲:P.1127 - P.1129

診断のポイント

 問診により内返しか外返しか,受傷状況の聴取を行う.次いで外見上での腫脹の有無を確認し,局所の圧痛位置を調べる.次いで画像検査を実施する.当院では成長期における内返し受傷の場合は,単純X線の正面,側面,両斜位像の基本撮影法に加え半軸位撮影(図2)を行っている.

特別講義 整形外科の歴史・7

「先天性」股関節脱臼の治療史―CDHからDDHへ

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.1130 - P.1135

新生児~乳幼児の股関節検診ならびに啓発活動が拓いた世界

1.無脱臼地帯をつくる努力:飯野・赤林・今田から石田へ

 先天性股関節脱臼の検診と早期治療により無脱臼地帯をつくろうと提唱したのは飯野・今田らの東北大学整形外科医グループ1,28-34)であった(1950~1963).「予防体制さえ確立されれば,先天性股関節脱臼の治療ということが,今日,整形外科学会で問題になっているような大問題でなくなってくる.ペルテス様変化がどうの,骨切り角度がどうの,関節形成がどうのと学会ではむしろこのへんの議論に花が咲いている現況であるが,かかる問題を汗水流して議論する前にその予防体制を整えよと言いたい……予防体制さえ確立されれば,骨頭変形などは全く症例報告的価値を有するぐらい少なくなるのではあるまいか……」34),これが当時のこのグループの意気込みであった.

整形外科最前線 あなたならどうする?・21

整形外科最前線 あなたならどうする?

著者: 副島修

ページ範囲:P.1137 - P.1140

症例

症例:45歳,男性,右利き,土木作業員

主訴:左手関節痛・可動域制限,左手指のしびれ

現病歴:仕事中に5mの高さから転落して受傷した.脳挫傷,頭蓋骨骨折,骨盤骨折,外傷性血気胸に対して救命センターで初期治療を受ける.全身状態が落ち着いた後も左手関節の症状が改善せず,受傷後5週目に受診となる.

臨床経験

頚椎椎弓形成術における頚半棘筋C2棘突起付着部温存の臨床的意義

著者: 村上剛史 ,   生田光 ,   馬場省次 ,   小宮紀宏 ,   北村貴弘 ,   仙波英之 ,   志田原哲

ページ範囲:P.1141 - P.1145

 背景:頚椎椎弓形成術後の軸性疼痛や頚椎アライメント悪化の予防には,頚部深層伸筋である頚半棘筋のC2棘突起付着部を温存することが重要であると報告されている.

 対象と方法:術後1年以上経過観察可能であった28例を対象に,C2棘突起付着部を完全に温存した10例とC2棘突起付着部を骨片付きで切離後再建した18例を比較検討した.

 結果:術後1年時の臨床成績,軸性疼痛の発生率,矢状面アライメントの変化に2群間で有意差はなかった.

 まとめ:頚椎椎弓形成術におけるC2棘突起付着部温存の臨床的意義は認められなかった.

Hansson pinを用いた大腿骨頚部骨折の治療成績

著者: 青戸寿之 ,   加藤充孝 ,   大野義幸 ,   安良興 ,   清水孝志 ,   平川明弘 ,   村尾浩樹 ,   京仁寿

ページ範囲:P.1147 - P.1150

 背景:大腿骨頚部骨折に対してHansson pinを用いて治療を行った.

 対象と方法:平成21年(2009)1月から平成23年(2011)12月の間に治療を行い,6カ月以上の経過観察が可能であった24例を対象とした.臨床所見と画像所見で評価を行った.

 結果:全例,歩行能力は維持あるいは1段階までの低下で保たれた.骨癒合は83%,再手術は5例であった.

 まとめ:骨癒合は良好であったが,再手術は比較的多く認めた.Hansson pinの設置位置の再確認が必要と考える.

症例報告

Chiari I型奇形に頭蓋底陥入症を合併した1例

著者: 藤井武 ,   奥山邦昌 ,   張哲源 ,   吉岡淳思 ,   栄利昌 ,   菊池謙太郎 ,   丹治敦 ,   朝妻孝仁

ページ範囲:P.1151 - P.1155

 Chiari I型奇形に頭蓋底陥入症を合併した1例の治療経験を報告する.症例は59歳の女性で,主訴は後頚部痛,歩行障害,嚥下障害だった.単純X線像で環軸椎不安定性を,MRIおよびCTで小脳扁桃の下垂および歯突起の頭蓋内への陥入を認め,頭蓋底陥入症を合併したChiari I型奇形と診断した.大後頭孔減圧術に加えて後方固定術を施行し,術後臨床症状は著明に改善した.頭蓋底陥入症を合併したChiari I型奇形の治療に関して確立した見解はないが,大後頭孔減圧術および後方固定を行うことは有効な治療であると考える.

化膿性脊椎炎に対して持続洗浄ドレナージを行った2例

著者: 若林正和 ,   稲生秀文 ,   中野智則 ,   浦田士郎

ページ範囲:P.1157 - P.1161

 保存的治療に抵抗したcompromised hostの化膿性脊椎炎に対して外科的なドレナージを行い奏効した症例を経験した.症例1は86歳の女性で,第1腰椎椎体膿瘍に対して経椎弓根的にドレーンチューブを留置し持続洗浄を行うことで感染を鎮静化することができた.症例2は73歳の女性で,第7胸椎椎体周囲膿瘍に対して保存的治療を行い,治療中に対麻痺を発症したため緊急で膿瘍の掻爬と後方固定術を行い,持続洗浄ドレナージを追加することで感染の鎮静化と麻痺の改善を得ることができた.

INFORMATION

第6回THA再置換セミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.1089 - P.1089

日時:2014年(平成26年)3月13日(木)・14日(金)

場所:関西医科大学附属枚方病院 13階 講堂

   大阪府枚方市新町2丁目3番1号 TEL:072-804-0101(代表)

第27回日本創外固定・骨延長学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.1099 - P.1099

会期:2014(平成26)年3月7日(金),8日(土)

会長:川端 秀彦(大阪府立母子保健総合医療センター整形外科主任部長)

会場:千里ライフサイエンスセンター(〒560-0082 大阪府豊中市新千里東町1-4-2)

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1163 - P.1163

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.1164 - P.1164

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.1165 - P.1165

あとがき フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.1166 - P.1166

 9月8日に,2020年東京オリンピック開催が決定いたしました.前回の東京開催は1964年でしたので,日本での夏季オリンピックは,実に56年ぶりとなります.わが国にとっては,経済効果(3~150兆円以上)はもちろんのこと,国民に誇りと喜び,夢と感動を与えるという点での精神的効果が多大であると考えます.すでに開催決定前の8月に公表されていた,安倍内閣の平成26年度文部科学省概算要求では,主要事項として「スポーツ立国の実現を目指したスポーツの振興」に490億円の予算が計上されていました.この計画の中には,「スポーツアカデミー形成支援事業」(スポーツ医科学研究の推進のための中核拠点形成など),「メダル獲得に向けたマルチサポート戦略事業」(トレーニング機器の開発,コンディショニング・疲労回復法の研究開発,バイオマテリアルの開発など)が含まれています.開催が正式に決定しましたので,今後さらに,補正予算などの大型予算が,これらの事業に予算配分される可能性が強いと考えます.われわれ整形外科医は,スポーツ医学に最も近い位置に立っていますので,大きな活躍の機会を得たと思います.一方では,国民の整形外科医への期待が益々大きくなることが予想され,スポーツ医学のさらなる発展,2020年東京オリンピックの成功に大いに貢献する責務があると考えます.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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