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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科48巻12号

2013年12月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 慢性疼痛と原因療法―どこまで追究が可能か

緒言 フリーアクセス

著者: 山下敏彦

ページ範囲:P.1168 - P.1168

 運動器の慢性疼痛には,侵害刺激が持続的・反復的に作用することによる「慢性侵害受容性疼痛」と,末梢・中枢神経システムの傷害・機能異常による「神経障害性疼痛」があります.前者は,侵害刺激の原因となっている炎症組織や不安定性などの要因を除去することにより治癒に導くことが可能です.しかし,後者は神経システムに可塑性変化が生じることにより,痛みの原因がなくなっても痛みが持続する場合があり,しばしば難治性の病態を呈します.したがって,神経障害性疼痛に対しては,疼痛の原因に対する治療ではなく,疼痛の伝達をブロックする治療が試みられているのが現状です.そのために用いられる薬剤には,抗うつ薬,抗てんかん薬,オピオイドなどがあります.これらは脊髄後角におけるシナプス伝達をブロックしたり,下行性疼痛抑制系を賦活することにより鎮痛を図りますが,同時に神経機能・精神状態にも影響するものが多く,臨床上大きな問題となっています.

 一方,近年,神経障害性疼痛など難治性慢性疼痛の発生メカニズムに関する基礎研究が急速に進展しています.その中で,慢性疼痛の発現・維持に関わるイオンチャネルや細胞,さらには疼痛性疾患に特異的な分子やタンパク質の同定・分析が行われています.今後,これらをターゲットとした治療,すなわち難治性慢性疼痛に対する原因療法とも言うべき治療法が開発されることが期待されます.

P2X受容体を介した慢性疼痛メカニズムと鎮痛

著者: 谷口亘 ,   吉田宗人 ,   中塚映政

ページ範囲:P.1169 - P.1174

 アデノシン三リン酸(ATP)とそのサブファミリー受容体のP2X受容体は慢性疼痛の形成に関して多彩に影響することが示唆されている.ATPは末梢レベルのP2X受容体に作用することで末梢性感作を引き起こし,脊髄後角レベルにおけるP2X受容体に作用することで中枢性感作を惹起し,さらには脊髄内の活性化グリア細胞に対して作用することでアロディニアの発症に関与している.このようにP2X受容体はさまざまな面で難治性である慢性疼痛の形成に関与しており,今後,P2X受容体を介した鎮痛の臨床応用が期待できる.

TRPチャネル(TRPV1,TRPA1)の慢性疼痛への関与と鎮痛

著者: 富永真琴

ページ範囲:P.1175 - P.1178

 侵害刺激を感知する無髄のC線維に発現する温度感受性TRPチャネルのカプサイシン受容体TRPV1とワサビ受容体TRPA1は,私たちの身体に痛みをもたらすさまざまな侵害刺激によって活性化する.その活性化は急性痛のみならず,慢性の炎症性疼痛,神経障害性疼痛の発生にも関与していることが明らかにされている.TRPV1阻害薬は動物モデルでは慢性疼痛の抑制に有効だが,臨床での効果は今のところ十分ではない.TRPA1も慢性疼痛に関わることが明らかになりつつあるが,ヒトでの知見はいまだ乏しい.

メタロチオネインは神経障害性疼痛の発生を抑制する―CRPS患者の末梢神経を用いたプロテオミクス解析

著者: 大木豪介 ,   和田卓郎 ,   藤田安詞 ,   山下敏彦 ,   今井伸一 ,   小海康夫

ページ範囲:P.1179 - P.1183

 神経障害性疼痛の代表的疾患であるcomplex regional pain syndrome(以下,CRPS)に対する有効な治療方法は確立されていない.さまざまな分子レベルの研究がなされているが,発症要因が複雑であるため,いまだ病態解明には至らない.CRPSの発症には中枢神経系と末梢神経系の双方が関与するとされる.われわれは,末梢神経系に着目し,CRPS患者の末梢神経のタンパク質解析を行うことで,これまでCRPSとの関連が全く示唆されていなかった新しいタンパク質の同定に成功した.本稿では,タンパク質解析の概略および同定されたタンパク質の臨床応用の可能性について言及する.

慢性疼痛におけるグリア細胞の関与と治療応用への可能性

著者: 津田誠 ,   井上和秀

ページ範囲:P.1185 - P.1190

 神経系のダメージにより慢性的な痛み「神経障害性疼痛」が発症するが,その発症・維持メカニズムはわかっていない.従来までは,神経障害性ゆえに,神経での変化のみが注目され,研究が行われてきたが,最近の研究から,神経の損傷後にグリア細胞が著しく活性化し,さまざまな機能分子を発現して,神経障害性疼痛の発症・維持に重要な役割を担っていることが明らかになってきた.本総説では,これらのグリア細胞,特にミクログリアに注目した研究成果を紹介し,それらの知見からみえてきた新しい神経障害性疼痛の細胞分子メカニズムを概説する.

抗サイトカインによる腰痛治療

著者: 大鳥精司 ,   西能健 ,   折田純久 ,   山内かづ代 ,   高橋和久

ページ範囲:P.1191 - P.1198

 ヒトや動物実験から導き出された腰痛,神経根性疼痛の基礎,臨床についてさまざまな報告がある.特に椎間板性腰痛,神経根性疼痛の病態として,サイトカインを中心とした炎症,それに物理的圧迫が作用し,神経障害をもたらすことが報告されている.最近ではこれらの研究結果をもとにさまざまな神経伸長因子や腫瘍壊死因子(TNFα),インターロイキンを抑制するサイトカイン治療が行われつつある.これらの結果についても記載したい.

脊椎脊髄疾患の神経障害性疼痛に対する薬物治療戦略

著者: 井上真輔 ,   牛田享宏 ,   池本竜則 ,   河合隆志

ページ範囲:P.1199 - P.1203

 神経障害性疼痛には,怪我や熱傷などによる侵害受容性疼痛とは異なった治療が必要であり,神経障害性疼痛に有効な薬剤を適切に使用できる知識が求められる.本稿では各種ガイドラインに基づいた薬物治療戦略を紹介したうえで,近年広く用いられるようになった抗てんかん薬(プレガバリン)の脊椎脊髄疾患に対する臨床効果と使用上の注意点について,われわれの成績を交えて述べる.プレガバリンは,副作用の頻度は高いものの,非ステロイド性抗炎症薬でみられるような重篤な副作用は少ないことから,処方用量に注意して副作用への注意喚起を怠らなければ,神経障害性疼痛,特に脊椎の神経根障害に対して極めて有用な治療法となりうる.

神経障害性疼痛に対する生体内再生治療

著者: 稲田有史 ,   諸井慶七朗 ,   中村達雄 ,   森本茂 ,   橋爪圭司

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 2002年から日本でpolyglycolic acid(PGA)-collagen tubeの第一臨床例として複合性局所疼痛症候群(CRPS) type II(causalgia)の根治例を報告して以来,CRPS type II・type Iに至るまで診断基準に合致する数百例単位の症例に,客観的評価から一定の生体内再生治療が行われ,長期経過観察の結果,80%程度の患者がすでに社会復帰を果たした.これまで電気生理学的検討に否定的であった国際疼痛学会(IASP)も一転し,2008年に診断フローチャートでの客観的検査を重要視する見解を示し,病態解明・病因追求から根治治療へと向かう潮流が生まれつつある.現状でわれわれの考えるCRPSの病態ならびに対策,問題点について述べる.

Lecture

関節リウマチとうつ病

著者: 行岡正雄

ページ範囲:P.1209 - P.1212

はじめに

 私が整形外科医として関節リウマチ(RA)患者の診療を始めた頃,当院内科に全身の疼痛と強い疲労感で動けないという救急患者が搬入されてきた.内科から相談を受け,関節の腫脹も多く,血沈,C反応性蛋白(CRP)とも高値であることから,RAのコントロールとともに全身の精査が必要と返答した.入院後,血沈,CRPは改善したが全身の疼痛,易疲労感はあまり改善せず,その後,患者は自殺企図を起こしたが,関節機能障害が強かったため大事には至らなかった.精神病院に転送したが,患者はRAに合併したうつ病であった.このことから,RAに合併したうつ病診断が重要であることを痛感した.

 疼痛の種類としてⅠ)侵害受容性疼痛(nociceptive pain),Ⅱ)神経障害性疼痛(neuropathic pain),Ⅲ)心因性疼痛(psychogenic pain)があり,RAの疼痛は関節炎や関節破壊による侵害受容性疼痛が主なものと思われるが,頚髄症や絞扼性神経障害による神経障害性疼痛や心因性疼痛も含まれていることがある.われわれ整形外科医にとっては特にⅢ)心因性疼痛はなじみがうすく,これに対する配慮が必要である2).心因性疼痛の中で抑うつ状態(うつ病)のRA合併は報告者によりばらつきがあるものの,われわれの調査では,後述する簡易うつ病テストのself-rating depression scale(SDS)で,287例中軽症抑うつ状態を含めて113例,約39%に,また別のcenter for epidemilogic studies scale for depression(CES-D)を用いた調査では,CES-D16点以上を抑うつ状態ありとした場合,190例中45例約24%に抑うつ状態が認められた12-14).このように,心因性疼痛の中でうつ病のRAへの合併は,統合失調や転換性障害に比較してきわめて高い12,14).また最近,RAの治療戦略の中に生物学的製剤(biologics)が組み込まれ,RAの治療は寛解を目標にタイトコントロールやtreat to tagetが推薦されている.この時に用いる寛解基準(例えばBooleanによる評価)や疾患活動性評価法の中に,患者が訴える疼痛や患者の全般評価の項目が入っている場合,RAの炎症が消失していても,なかなかこれらの寛解基準を満足できない場合も多いことが明らかになってきている8).今後,この面からもRAにおける抑うつ状態や心因性疼痛の研究は重要になると思われる.

連載 整形外科最前線 あなたならどうする?・22

整形外科最前線 あなたならどうする?

著者: 吉田史郎 ,   吉田健治 ,   坂井健介

ページ範囲:P.1213 - P.1218

症例

症例:68歳,男性

主訴:右手関節痛

現病歴:自宅階段から転落受傷し,当院へ救急搬送された.

特別講義 整形外科の歴史・8【最終回】

「先天性」股関節脱臼の治療史―CDHからDDHへ

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.1220 - P.1227

新生児~乳幼児の股関節検診と啓発活動が拓いた世界

■新生児検診は意味があるのか?

 新生児検診が普及するにつれ,その功罪を問う議論も高まった.脱臼誘発テストの信頼度,補助診断法としてのX線診断の不確かさと放射線被曝の問題,加えて新生児における脱臼の治療と大腿骨頭の阻血性壊死の結びつき(因果関係)が無視できなくなったからだ.

 欧米で新生児の股関節検診を担当するのは小児科医や家庭医も多いから,スクリーニングをすべきか否か,股関節の異常を発見した新生児に,直ちに厳格な外転装具を装着すべきか否か,ためらう医師が少なくなかった.数日間の観察期間を置く,緩やかな外転装具で様子をみる……多くが3カ月検診,6~7カ月目のX線撮影という安全策に逃れた.

臨床経験

日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)による慢性椎間板性腰痛の手術成績評価

著者: 根本理 ,   北田明良 ,   内藤智子 ,   土原豊一 ,   橘安津子 ,   伊藤雄也

ページ範囲:P.1229 - P.1233

 日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)を用いて慢性椎間板性腰痛患者19例に対する手術成績を評価した.画像診断に加え,整形外科患者に対する精神医学的問題評価のための簡易質問票(BS-POP)を用いて厳密に適応を考慮し固定術を行った結果,JOABPEQ各項目の有効率は,疼痛関連障害100%,腰椎機能障害74%,歩行機能障害68%,社会生活障害63%,心理的障害58%であり,術前の心理的障害の程度により治療効果に差はみられなかった.慢性腰痛においても手術による治療効果が期待できる可能性が示唆されたが,保存治療との比較を行うなどエビデンスレベルの高い検討が今後必要と考えられた.

症例報告

距骨体部が高度圧潰したCharcot足関節に対する脛踵間固定術

著者: 相川敬男 ,   渡邊孝治 ,   松原秀憲 ,   野村一世 ,   米澤幸平 ,   林雅之 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.1235 - P.1239

 背景:治療に難渋することが多い距骨体部が高度圧潰したCharcot足関節に対して,ロッキングプレートを使用した関節固定術を報告する.

 対象と方法:距骨が高度に圧潰したCharcot関節の3例を対象とした.全例にPHILOSプレートを用いた脛踵間固定術を施行した.術後は8週間免荷とし,骨癒合までPTB装具を装着した.

 結果:経過中に皮膚トラブルもなく,全例で骨癒合した.

 まとめ:ロッキングプレートを用いた脛踵間固定術は簡便な手術法で,強固な固定力により骨癒合も良好である.

人工股関節置換術後に大腿骨ステムの頚部折損を来した1例

著者: 三崎智範 ,   上田康博 ,   林雅之 ,   石黒基 ,   濱田博成 ,   中西宏之 ,   吉田泰久 ,   村田淳

ページ範囲:P.1241 - P.1245

 AML(anatomic medullary locking) plusステムを用いた人工股関節置換術後15年でステム頚部に折損を来した1例を経験した.症例は79歳の男性である.自宅の庭で立ち上がろうとして右股関節痛が出現し,単純X線上,ステム頚部での折損を認めた.Extended trochanteric osteotomyを用いた再置換術を施行し,短期間ではあるが術後経過は良好である.本邦におけるAML plusステムの術後頚部折損は,本例で16例目であったが,28mm骨頭,+6mmネックの組み合わせでは明らかに発生頻度が高くなっており,注意が必要である.

糖尿病の経過中に両側の母趾痛を来し鑑別困難な1例

著者: 森康一

ページ範囲:P.1247 - P.1251

 51歳の男性が緩徐発症1型糖尿病の発症後に片側の母趾関節痛を来し,MRI画像で骨髄浮腫および滑膜炎の所見を呈した.1年後に単純X線像は骨びらん像を呈した.さらに1年後,患者は反対側の母趾痛を来した.痛風,関節リウマチなどの膠原病,Charcot関節,Freiberg病,変形性関節症(強剛母趾)などの鑑別が必要であったが確定診断には至っておらず,骨生検などを検討中であり注意深く観察中である.

INFORMATION

第5回 膝OAと運動・装具療法セミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.1174 - P.1174

日時:2014年1月31日(金) 19:00~21:00

会場:ホテルオークラ福岡/平安の間

第27回日本創外固定・骨延長学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.1183 - P.1183

会期:2014(平成26)年3月7日(金),8日(土)

会長:川端 秀彦(大阪府立母子保健総合医療センター整形外科主任部長)

会場:千里ライフサイエンスセンター(〒560-0082 大阪府豊中市新千里東町1-4-2)

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1253 - P.1253

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.1254 - P.1254

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.1255 - P.1255

あとがき フリーアクセス

著者: 内藤正俊

ページ範囲:P.1256 - P.1256

 来年で10年目を迎える卒後臨床研修制度は,「医師としての人格の涵養」,「プライマリ・ケアの基本的な診療能力の修得」,「アルバイトせずに研修に専念できる環境の整備」を基本的な考え方として構築されています.後者の2つについては達成されているようですが,肝心の「医師としての人格の涵養」についてはいかがでしょうか.“鉄は熱いうちに打て”という諺がありますが,研修開始後の数年間が医師としての最も“熱い”時期です.この時期に医学・医療の果たすべき社会的役割や責任感を習得するためには,昼夜を厭わない利他的な生活習慣に慣れる必要がありますが,現在のような形でこれらのことを身に付けられるのか疑問です.また投げ遣りな診療や不誠実な言動を戒めてくれる,親身になった先輩の叱責が欠かせませんが,数カ月後には他の診療科へ移動する研修医に対し愛情を込めた指導は望むべくもありません.医師としての人格的な欠陥を持ったまま冷めた鉄となった専攻医が増えているような気がしています.

 さて,今月号の誌上シンポジウムは“慢性疼痛と原因療法―どこまで追及が可能か”です.整形外科受診者の主訴のほとんどが痛みであり,慢性疼痛で来院される患者も少なくありません.また整形外科の治療後に発症することもあります.いったん慢性疼痛が発症すると,症状が多彩な難治性疾患になります.筆者も術後に複合性局所疼痛症候群を発症させた苦い経験があります.薬物療法,理学療法,神経ブロックのすべてが無効でした.患者の来院時には筆者の胃も痛むようになり,途方に暮れていた時にPolyglycolic acid-collagen tubeによる末梢神経再生を目にしました.失礼を顧みず,その患者を本シンポジウムの最後を飾っておられる稲田有史博士に藁をもすがる思いで紹介しました.完璧に症状が消失して戻ってきた患者の笑顔に接した時の,牢獄から解放されたような安堵感と治療方法の進歩に対する感動を今も覚えています.今月号はこの慢性疼痛と原因療法についての最新の知識を蓄えるのに絶好の機会です.他にも豊富な話題と実際的に役立つ知識が満載されています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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