誌上シンポジウム 慢性疼痛と原因療法―どこまで追究が可能か
緒言
フリーアクセス
著者:
山下敏彦1
所属機関:
1札幌医科大学整形外科
ページ範囲:P.1168 - P.1168
文献購入ページに移動
運動器の慢性疼痛には,侵害刺激が持続的・反復的に作用することによる「慢性侵害受容性疼痛」と,末梢・中枢神経システムの傷害・機能異常による「神経障害性疼痛」があります.前者は,侵害刺激の原因となっている炎症組織や不安定性などの要因を除去することにより治癒に導くことが可能です.しかし,後者は神経システムに可塑性変化が生じることにより,痛みの原因がなくなっても痛みが持続する場合があり,しばしば難治性の病態を呈します.したがって,神経障害性疼痛に対しては,疼痛の原因に対する治療ではなく,疼痛の伝達をブロックする治療が試みられているのが現状です.そのために用いられる薬剤には,抗うつ薬,抗てんかん薬,オピオイドなどがあります.これらは脊髄後角におけるシナプス伝達をブロックしたり,下行性疼痛抑制系を賦活することにより鎮痛を図りますが,同時に神経機能・精神状態にも影響するものが多く,臨床上大きな問題となっています.
一方,近年,神経障害性疼痛など難治性慢性疼痛の発生メカニズムに関する基礎研究が急速に進展しています.その中で,慢性疼痛の発現・維持に関わるイオンチャネルや細胞,さらには疼痛性疾患に特異的な分子やタンパク質の同定・分析が行われています.今後,これらをターゲットとした治療,すなわち難治性慢性疼痛に対する原因療法とも言うべき治療法が開発されることが期待されます.