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文献詳細

雑誌文献

臨床整形外科48巻12号

2013年12月発行

文献概要

Lecture

関節リウマチとうつ病

著者: 行岡正雄1

所属機関: 1医療法人行岡医学研究会行岡病院

ページ範囲:P.1209 - P.1212

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はじめに

 私が整形外科医として関節リウマチ(RA)患者の診療を始めた頃,当院内科に全身の疼痛と強い疲労感で動けないという救急患者が搬入されてきた.内科から相談を受け,関節の腫脹も多く,血沈,C反応性蛋白(CRP)とも高値であることから,RAのコントロールとともに全身の精査が必要と返答した.入院後,血沈,CRPは改善したが全身の疼痛,易疲労感はあまり改善せず,その後,患者は自殺企図を起こしたが,関節機能障害が強かったため大事には至らなかった.精神病院に転送したが,患者はRAに合併したうつ病であった.このことから,RAに合併したうつ病診断が重要であることを痛感した.

 疼痛の種類としてⅠ)侵害受容性疼痛(nociceptive pain),Ⅱ)神経障害性疼痛(neuropathic pain),Ⅲ)心因性疼痛(psychogenic pain)があり,RAの疼痛は関節炎や関節破壊による侵害受容性疼痛が主なものと思われるが,頚髄症や絞扼性神経障害による神経障害性疼痛や心因性疼痛も含まれていることがある.われわれ整形外科医にとっては特にⅢ)心因性疼痛はなじみがうすく,これに対する配慮が必要である2).心因性疼痛の中で抑うつ状態(うつ病)のRA合併は報告者によりばらつきがあるものの,われわれの調査では,後述する簡易うつ病テストのself-rating depression scale(SDS)で,287例中軽症抑うつ状態を含めて113例,約39%に,また別のcenter for epidemilogic studies scale for depression(CES-D)を用いた調査では,CES-D16点以上を抑うつ状態ありとした場合,190例中45例約24%に抑うつ状態が認められた12-14).このように,心因性疼痛の中でうつ病のRAへの合併は,統合失調や転換性障害に比較してきわめて高い12,14).また最近,RAの治療戦略の中に生物学的製剤(biologics)が組み込まれ,RAの治療は寛解を目標にタイトコントロールやtreat to tagetが推薦されている.この時に用いる寛解基準(例えばBooleanによる評価)や疾患活動性評価法の中に,患者が訴える疼痛や患者の全般評価の項目が入っている場合,RAの炎症が消失していても,なかなかこれらの寛解基準を満足できない場合も多いことが明らかになってきている8).今後,この面からもRAにおける抑うつ状態や心因性疼痛の研究は重要になると思われる.

参考文献

1) Babyak M, Blumenthal J, Herman S, et al:Exercise treatment for depression:Maintenance of therapeutic benefit at 10 months. Psychosomatic Med 62:633-638, 2000
2) 檀健二郎:痛みのメカニズム.痛みの臨床(図説最新麻酔科シリーズ4).メジカルビュー社,東京,p2-18,1996
3) Frank RG, Beck NC, Kay DR, et al:Depression in rheumatoid arthritis. J Rheumatol 15:920-925, 1988
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5) 加藤忠史:双極性障害.第3版.筑摩書房.2011
6) 森田幸代:うつ病の症状評価方法.Mebio24:22-29,2007
7) Nakajima A, Kamitsuji S, Saito A, et al:Disability and patients appraisal of general health contribute to depressed mood in rheumatoid arthritis in a large clinical study in Japan. Mod Rheumatol 16:151-157, 2006
8) Vermeer M, Kuper HH, Bijl AE, et al:The provisional ACR/EULAR definition of remission in RA:a comment on the patient global assessment criterion. Rheumatology (Oxford) 51:1076-1080, 2012
9) 渡辺昌裕,横山茂生:身体症状の種類と頻度.抗うつ剤の選び方と使い方.第2版,新興医学出版,東京,pp10-27,50-57,1994
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11) Wolfe F Michaud K:Predicting depression in rheumatoid arthritis:The signal importance of pain extent and fatigue, and comorbidity. Arthritis Rheum 61:667-673, 2009
12) 行岡正雄,小松原良雄,前田 晃・他:関節リウマチ患者の抑うつ傾向.リウマチ42:584-590,2002
13) 行岡正雄,行岡千佳子:関節リウマチに合併した抑うつ状態の診断・治療 整形外科59:922-927,2008
14) 行岡正雄,行岡千佳子,小松原良雄・他:関節リウマチの疼痛,不安抑うつ状態,睡眠障害の関連性.臨床リウマチ21:32-37,2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1286

印刷版ISSN:0557-0433

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