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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科48巻2号

2013年02月発行

雑誌目次

視座

科学者としての整形外科医―自己の確立と国際化

著者: 名越智

ページ範囲:P.103 - P.104

 昨今の論文あるいは学会発表などで,ときどき考え込んでしまうのは,この結果からよくぞここまで結論が飛躍できるなあ,である.科学的な根拠に基づかず,自分の感想や思い込み,どこかで得た他人の意見を平気で結論にするような暴挙である.科学者である医師は,自分が呈示したデータをもって,どこまで論理を展開すべきか,さらに,どこまでそれが許されるかを判断しなければならない.昨今,iPS細胞をめぐる虚偽の発表が問題視された.これは極端な例かも知れないが,そこまで至らない大風呂敷的発表があるのも事実である.科学者である整形外科医に求められるのは,たったひとつのことを証明することの難しさ,大変さ,その重要性を認識することと,科学的な論理展開のできる範囲を見極められる自己の確立であると思う.そうでなければ,整形外科の学術雑誌は,週刊誌の域を出ないだろう.

誌上シンポジウム 高齢者の腱板断裂

緒言 フリーアクセス

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.106 - P.106

 日本は世界のどの国も経験したことがない超高齢社会となり,肩関節に症状を訴えて自立した日常生活が困難となる国民も増加してきた.腱板断裂は重要な疼痛性肩疾患であるが,高齢者の腱板断裂に対する治療法はエビデンスの蓄積がなく,専門家の間でも意見が分かれている.近年,画像診断の進歩により腱板断裂の診断が比較的容易となり,高齢者の腱板断裂についても多くのことがわかってきた.

 この誌上シンポジウムで山本敦史先生は「健診からみた高齢者の腱板断裂」の中で,75歳以上の高齢者の半数以上に腱板断裂が存在すること,永井英先生は「高齢者の腱板断裂に対する運動療法」の中で,単に疼痛を軽減するだけでなく,残存腱板や周囲筋の機能を引き出し,肩甲胸郭機能を改善させ,無症候性の状態とし,二次的な障害を予防する目的と述べている.北村歳男先生は「高齢者の腱板断裂の続発症」の中で,比較的稀であった「三角筋皮下断裂」,「関節血腫」,肩峰・鎖骨遠位前縁と関節窩上方部の摩耗欠損/上腕骨頭の上方脱臼である「cuff tear arthropathy」が多くみられるようになっていること,およびその対応についても言及し,相澤利武先生は「高齢者の腱板断裂に対する手術成績」の中で,高齢者であっても鏡視下手術で対応できれば良好な成績が期待できるが,変性が進行すると疼痛の改善は望めるが,機能の回復は困難と述べている.濱田一壽先生は「腱板広範囲断裂症例のX線分類と臨床的特徴」で広範囲腱板断裂のX線分類を表し,手術例の術後再断裂率はgrade 2がgrade 1よりも高かったことを述べ,腱板断裂手術は肩峰骨頭間距離が狭小化する前に行うべきと述べている.高齢者であっても腱板断裂の手術を行う場合には,修復が困難になる前に行ったほうがよい.

健診からみた高齢者の腱板断裂

著者: 山本敦史 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.107 - P.110

 無症候性断裂を含めた腱板断裂の全体像については,いまだに不明な点が多い.今回われわれは肩に関する症状の有無にかかわらない腱板断裂の疫学を調査するため,一般住民を対象とした地域健診を行い,高齢者における腱板断裂の特徴を明らかにするために検討を行った.402人804肩の対象のうち,75歳以上の高齢者の約半数に腱板断裂が存在し,非高齢者と比べその頻度が高かった.高齢者における腱板断裂例は外転筋力および外旋筋力低下例が多く,超音波検査所見で断裂範囲が棘上筋腱のみならず棘下筋腱まで至る例が多く,上腕二頭筋長頭腱断裂を合併する例が多かった.

高齢者の腱板断裂に対する運動療法

著者: 永井英 ,   鈴木一秀

ページ範囲:P.111 - P.117

 腱板断裂は加齢とともに増加する疾患であるが,高齢者の治療では保存療法を選択することも多い.われわれは,高齢者の腱板断裂症例に対し原則的に保存療法を治療の第一選択としている.高齢者では関節や脊柱の変形,全身の筋力低下など若年者では認められない特徴がある.保存療法の目的は単に疼痛を軽減するだけでなく,残存腱板や周囲筋の機能を引き出し,肩甲胸郭機能を改善させ,無症候性の腱板断裂の状態とし,二次的な障害を予防することである.このためには運動療法は不可欠といえる.ここではわれわれが行っている高齢者に対する運動療法のアプローチ方法とその実際について紹介する.

高齢者の腱板断裂の続発症

著者: 北村歳男

ページ範囲:P.119 - P.124

 比較的稀な疾患であった腱板断裂の続発症が,高齢化社会に伴い増加傾向にある.腱板断裂の続発症とは広範囲腱板断裂後に長期間の慢性的刺激状況によって惹起される,本来の疾患とは異なる病状への症候である.広範囲腱板断裂の高齢者に自然経過で増悪し生じることが多い.続発症はすべての症例に発症するわけではないが,どの症例にどのような状態が発生するのか,予防と治療が可能なのか,腱板断裂より進行した病態ではあるが続発症の詳細はいまだ十分ではない.腱板断裂の続発症はその最終病態であり,高齢者の広範囲腱板断裂の際に注意が必要である.

高齢者の腱板断裂に対する手術成績

著者: 相澤利武

ページ範囲:P.125 - P.130

 腱板断裂の治療において高齢者は若年者とは病態が異なり,それに対応した手法が求められる.今回70歳以上の症例の手術成績を検討した.症例は47例であり,断裂型は不全断裂が6例,小断裂が6例,中断裂が7例,大断裂が15例,広範囲断裂が13例であった.手術術式は鏡視下腱板修復術(ARCR)が37例,直視下腱板再建術が3例,腱板断裂性関節症(CTA)型人工骨頭置換術が7例であった.それぞれのJOAスコアはARCR群では術前平均62.9点から術後85.8点,直視下再建術群では59.0点から86.0点,CTA型人工骨頭群は47.6点から平均71.9点に改善していたが他群より低値であった.高齢者であっても鏡視下手術で対応できれば良好な成績が期待できるが,変性が進行すると疼痛の改善は望めるが機能の回復は困難である.

腱板広範囲断裂症例のX線分類と臨床的特徴

著者: 濱田一壽 ,   山中芳 ,   内山善康 ,   三笠貴彦 ,   三笠元彦

ページ範囲:P.131 - P.140

 腱板広範囲断裂のX線分類(grade 1-5)改訂版に沿って75症例(うち41例は手術例)の腱板広範囲断裂症例を検討した.初診時年齢,肩甲下筋の脂肪変性の程度,肩甲下筋腱断裂・棘下筋腱断裂の合併率はgrade 3-5がgrade 1,2よりも有意に高かった.発症から最終経過観察期間までの長さが,grade 1,2症例のgrade 3以上への進行のリスクファクターであった.手術例の術後再断裂率はgrade 2がgrade 1よりも高かった.以上から,腱板修復手術は肩峰骨頭間距離が狭小化する前に行うべきである.本研究はBurkhart,Hansen,von Eisenhart-Rotheらの提唱した腱板広範囲断裂の肩関節自動挙上メカニズムを支持する.

最新基礎科学/知っておきたい

Blimp1,Aldh2―骨代謝との関連

著者: 宮本健史

ページ範囲:P.142 - P.145

■はじめに

 骨の恒常性は,骨を形成する骨芽細胞と,骨を吸収する破骨細胞との絶妙なバランスの上に制御されており,どちらの細胞に異常が生じても骨の恒常性は破綻する.

 筆者らは近年,破骨細胞および骨芽細胞それぞれの分化を制御する新たな分子機構を発見した.1つは,転写抑制因子であるB lymphocyte induced maturation protein 1(Blimp1)で,破骨細胞分化を抑制する転写抑制因子であるB cell lymphoma 6(Bcl6)を抑制することで,結果的に破骨細胞分化を正に制御し,生理的な骨量に対しては負に機能するものである.もう1つは,アルデヒド脱水素酵素の1つであるaldehyde dehydrogenase 2(Aldh2)で,アセトアルデヒドの分解を介して,骨芽細胞をアセトアルデヒドによる酸化ストレスから保護することで分化と骨量を正に制御していることを見出した.本稿ではこれら最近の知見について解説したい.

境界領域/知っておきたい

生活習慣病と運動器の障害―メタボとロコモ

著者: 吉村典子

ページ範囲:P.146 - P.149

はじめに

 運動器の障害は,歩行障害を介して高齢者の生活の質(quality of life:QOL)を著しく損なう.そのため,超高齢社会に突入したわが国においては,高齢者のQOLの維持増進や健康寿命の延伸,医療費の低減のためには,運動器疾患の予防対策は喫緊の課題である.そこで日本整形外科学会は,運動器の障害のために要介護となる危険の高い状態をロコモティブシンドローム(locomotive syndrome,以下,ロコモ)と定義し7),要介護予防の立場から疾患横断的に運動器疾患をとらえ,その予防対策に乗り出している.

 一方,生活習慣病とは,食習慣,運動習慣,休養,喫煙,飲酒などの生活習慣が,その発症・進行に関与する疾患群である.わが国にはもともと加齢に伴って発生率が高くなる疾患群という意味合いの「成人病」という概念があり,昭和30年代から日本人の死亡率で上位を占めるようになったがん,脳卒中,心臓病は「三大成人病」とされ,集団検診による早期発見,早期治療の体制が整えられていた.しかしこれらの成人病には,生活習慣が影響していることが知られているのと同時に,成人だけではなく未成年者にも糖尿病をはじめとする「成人病」を発症する例が増えてきた.1996年,「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について」とする公衆衛生審議会意見具申2)がまとめられ,従来の「成人病」の概念にかわって,生活習慣に着目した疾病概念とする「生活習慣病(life-style related diseases)」という呼称が提唱された.現在,代表的な生活習慣病として,高脂血症・高血圧・糖尿病・心筋梗塞・動脈硬化・脳梗塞・がん(悪性腫瘍)・痛風・歯周病・メタボリックシンドロームなどが挙げられる.

 メタボリックシンドローム(metabolic syndrome,以下,メタボ)は,内臓脂肪型肥満を共通の要因として耐糖能異常,脂質異常,高血圧が引き起こされる状態である.さらにこれらの要因が重積すると,相乗的に動脈硬化性疾患の発生頻度が高まることから,メタボの頻度を把握し,生活習慣の改善により動脈硬化性疾患発症を予防することは,介護予防の面からも医療経済学的にも焦眉の課題である.

 すなわち,ロコモもメタボもいずれも要介護予防においては重要な疾患であり,それらの予防対策は重複している点も多いと推定される.しかしながらロコモとメタボの関連についての報告は多いとは言えない.

 筆者らは,わが国の運動器疾患とそれによる運動障害,要介護予防のために,変形性関節症(osteoarthritis:OA)と骨粗鬆症(osteoporosis:OP)を中心とした運動器疾患の基本的疫学指標を明らかにし,その危険因子を同定することを主たる目的として,2005年から大規模住民コホートROAD(Research on Osteoarthritis/osteoporosis Against Disability)プロジェクトを開始した8,9).本稿では,一般住民におけるロコモとメタボの関連をみるために,ROADデータベースの結果を用いて,ロコモ原因疾患の中でも特に肥満と関連が深い膝OA(以下,KOA)と,メタボの構成要素である肥満,耐糖能異常,脂質異常,高血圧との関連について検討した.

連載 知ってますか?整形外科手術の変遷・11

頚椎後方除圧手術

著者: 浜西千秋

ページ範囲:P.150 - P.157

はじめに

 頚椎症(CSM)や頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)による圧迫性頚髄症に対する後方除圧術として,この半世紀の間に「椎弓切除術」から,椎弓をできるだけ温存したさまざまな「椎弓形成術」への変遷がみられた.「椎弓形成術」は,広範囲椎弓切除した後の頚椎後弯変形を防ぐために,後方の骨性要素をできるだけ温存し再建すべきと考えられ開発されてきた術式である.しかし最近は,骨性要素の温存よりもむしろダイナミックにアライメントを維持する靱帯や筋肉要素の温存と,速やかな項筋機能回復が最も重要であることが学会で主張されるようになった.また術後に神経症状は回復しても,かえって高頻度で発生してきた頑固な項部痛が,変性した項筋由来であることも理解されるようになり,従来の棘突起の両側を一気に剝離し,長時間レトラクターにより圧排されることによる筋肉組織の阻血性のダメージを防ぐ必要性も,はっきりと主張されるようになった.そして最小侵襲手術法(MIS)の概念や内視鏡の使用により,除圧も「領域除圧」ではなく「ピンポイント除圧」が言われ,軟部組織や後方要素の極端な温存手術がもてはやされるようになっている.

 現在行われている各種の頚椎椎弓形成術に関しては,病院や大学それぞれに上記の理念を理解しつつ独自の術式の変遷を経ているために,それぞれに言及することは不適当である.また個々の脊椎外科医は自分の行っている椎弓形成術が独自の治療理論と経験に裏付けられ,患者の負担も少なく,成績も優れているという自負を持っておられるはずであり,それらの甲乙を論述する立場にもない.

 そこで,ここでは筆者が京都大学における研修医時代から経験した順に,①桐田式観音開き椎弓切除術(以下,桐田法),②桐田-宮崎式観音開き椎弓形成術(以下,桐田-宮崎法),③近畿大学式観音開き椎弓形成術(以下,近大法),④筆者が近畿大学着任後に導入した項靱帯温存椎弓形成術(以下,浜西アプローチ)に至る,1つの流れとしての術式変遷を述べるにとどめたいと思う.

医者も知りたい【医者のはなし】・55

日本整形外科の祖・田代義徳(1864-1938) その1・養父・田代基徳のこと

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.158 - P.162

■はじめに

 本誌「臨床整形外科」に,日本の整形外科の祖であり,“Die Orthopädie”なるドイツ語に「整形外科」と命名したご本尊の「田代義徳」について書く機会を与えられたのは,非常に名誉なことである.古くは新潟大学整形外科名誉教授で日本医史学会の理事長を歴任された蒲原宏先生,私の学生時代の恩師である九州大学整形外科名誉教授で医学史の泰斗,「整形外科を育てた人々」の著者である天児民和先生,そして私の友人である大分県中津医史学の生き字引であり,たくさんの著書を発表している川嶌整形外科理事長・川嶌眞人先生らの有名な整形外科医が,すでに田代義徳の伝記を書かれている.筆者は約9年前から,本誌に「医者も知りたい医者のはなし」を連載しているので,整形外科の生みの親である田代義徳について一度書きたいと思っていた.上記の先生方の著作や他の資料を参考に,義徳の生まれ故郷である栃木県足利市に足をのばし,また義徳の養父・田代基徳の故郷・福岡県中津に行き,基徳の父・松川北渚の住まいがあった福岡県豊前市赤熊を訪れ,そして中津近辺で基徳に関する唯一の医跡が残る中津市内自性寺の北渚を掃苔(図1)した.そして基徳と義徳の親子が並んで眠っている東京都台東区谷中墓地の中にある天王寺墓地のお墓にもお参りした.

整形外科最前線 あなたならどうする?・14

整形外科最前線 あなたならどうする?

著者: 難波二郎 ,   正富隆 ,   邉見俊一

ページ範囲:P.163 - P.166

症例

患者:32歳,女性

主訴:右肘関節強直

既往歴:関節リウマチ(RA)〔16歳時発症,越智分類9)MES(more erosive disease),Steinbrocker機能分類Class Ⅲ〕

手術歴:なし

職業:家事手伝い

現病歴:RAのため抗リウマチ薬(DMARDs)による投薬療法を受けていたが,27歳時に右肘関節が強直に至り放置していた.29歳時,生物学的製剤エタネルセプト使用を開始し全身関節の腫脹や関節痛が改善したため,ADLが向上していた.32歳時,利き手である右上肢のリーチ機能の向上を目的に,右肘関節の関節可動域の拡大を希望された.同時期での投薬はエタネルセプト50mg/週とメトトレキサート6mg/週であった.

成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴・27

手指

著者: 大田智美 ,   帖佐悦男

ページ範囲:P.167 - P.169

診断のポイント

1) 左手環指・小指のしびれ,手内在筋の萎縮

2) 相手と組み合った際の脱力(肘屈曲が強くなると脱力)

3) 肘の受傷歴(もしくは繰り返し肘を屈曲するスポーツ)

 →しびれや脱力の症状から,神経障害が疑われる.問診で病歴,症状を誘発する肢位などを聴取する.診察では肘のアライメントの観察,しびれの範囲・Tinel徴候の部位・神経の各種誘発テストから神経障害の高位を決定する.画像検査,電気生理学的検査などで順次診断を進める.

臨床経験

上膝蓋アプローチを用いた新しい脛骨髄内釘の治療経験

著者: 松本卓二 ,   西山大介 ,   寺口真年 ,   濵崎広洋

ページ範囲:P.171 - P.178

 背景:脛骨骨折に対する上膝蓋アプローチを用いた新しい脛骨髄内釘手術と,膝蓋靱帯切開による従来法との比較検討の報告はみられない.

 方法と対象:脛骨骨折に対して手術的加療を加えた30例を対象とした.膝蓋靱帯切開による従来法10例,上膝蓋アプローチ法20例について比較検討した.

 結果:手術時間,術後平均短縮は上膝蓋アプローチ法で有意に少ない結果であった.

 まとめ:従来法での深屈曲位での挿入に伴う挿入困難や骨折部の整復保持困難は,上膝蓋アプローチ法では回避可能であり,軟部組織損傷も少ない有用な術式であると考えられた.

褥瘡から発生した脊髄損傷患者の化膿性股関節炎に対する股関節切除術

著者: 渡辺偉二 ,   吉野正昭 ,   青木千恵

ページ範囲:P.179 - P.183

 背景:脊髄損傷患者では褥瘡から化膿性股関節炎を発症することがあり,治療に難渋することがある.これらの症例の手術成績を調査した.

 対象と方法:褥瘡から発症した脊髄損傷患者の化膿性股関節炎に対して股関節切除術を施行した16例19股を対象とした.

 結果:19股のうち13股(68%)は初回手術で治癒した.残りの6股は再手術を要した.大腿骨頚部での股関節切除例よりも大腿骨転子下での切除例のほうが初回手術での治癒率が高かった.

 まとめ:転子下での股関節切除が望ましいが,術後の座位バランス・車椅子移乗動作への影響を考慮する必要がある.

症例報告

軸椎歯突起後方偽腫瘍により頚髄症を呈した1例

著者: 栄利昌 ,   奥山邦昌 ,   福田慎介 ,   大原邦仁 ,   大矢昭仁 ,   菊池謙太郎 ,   丹治敦

ページ範囲:P.185 - P.189

 非関節リウマチの軸椎歯突起後方偽腫瘍により頚髄症を呈した1例を経験したので報告する.症例は77歳の男性で,主訴は四肢不全麻痺であった.単純X線写真で第2頚椎以下が骨性に癒合し,環軸椎の不安定性を認めた.MRIでは腫瘤を歯突起後方に認め,脊髄が腫瘤と環椎後弓で圧迫されていた.後方除圧固定術を施行し,術後10カ月現在,腫瘤は縮小し症状は改善している.過去の歯突起後方偽腫瘍の報告の検討と今回のわれわれの経験から,歯突起後方偽腫瘍の手術には後方除圧固定が望ましいと考えられた.

術後血栓予防として抗凝固療法開始に伴い発症した腰部硬膜外血腫の1例

著者: 瓦井裕也 ,   山下正臣 ,   阿部幸喜 ,   後藤瑞穂 ,   後藤俊二 ,   山下桂志 ,   桜井康良 ,   山岡昭義

ページ範囲:P.191 - P.194

 帝王切開術後に静脈血栓塞栓症に対する予防的抗凝固療法としてエノキサパリンナトリウムを投与した患者が,腰部硬膜外血腫を発症し急速な下肢筋力低下と排尿障害を来したので報告する.投薬の中止,椎弓切除・血腫除去術により,肛門周囲に軽度のしびれを残すものの筋力低下・排尿障害は軽快した.抗凝固療法を行う際は,患者背景や硬膜外麻酔との併用に十分注意を払わなければならない.

多房性腸恥滑液包炎を伴った急速破壊型股関節症の1例

著者: 加藤充孝 ,   大野義幸 ,   安良興 ,   青戸寿之 ,   清水孝志 ,   平川明弘 ,   村尾浩樹 ,   京仁寿

ページ範囲:P.195 - P.198

 急速破壊型股関節症に伴った,囊胞壁に石灰化を認める多房性の腸恥滑液包炎と思われる稀な症例を経験したので報告する.症例は59歳の女性である.関節リウマチが基礎疾患として存在した.左股関節痛が出現し8カ月で左大腿骨頭の破壊を認め,急速破壊型股関節症と思われた.MRIで左股関節と連続し左腸骨内板に接する大きな多房性囊胞性病変(腸恥滑液包炎)を,CTでは囊包壁に石灰化を認めた.多房性囊胞性病変は処置せず左急速破壊型股関節症に対しセメント人工股関節置換術を施行した.人工股関節置換術後3年のCTでは多房性囊胞性病変の消失を確認した.

40年間排膿が持続した結核性脊椎炎に二期的手術が有効であった1例

著者: 中村寛 ,   清水克時 ,   日置暁 ,   細江英夫 ,   宮本敬

ページ範囲:P.199 - P.203

 症例は57歳の男性で,慢性難治性の結核性脊椎炎で当科に紹介された.背部の瘻孔から40年間排膿が持続し骨破壊による高度の後弯変形および腰下肢痛を認めた.手術は,まず後方固定術を行った.後方固定術を行うことにより強固な固定が得られるとともに除痛と全身状態の改善が得られた.ついで6週後に前方病巣廓清と血管柄付き有茎肋骨移植による前方再建術を施行した.前方廓清術後から排膿は消失,治癒し,術後9年の現在,再燃なく後弯変形の進行も認めていない.

お詫びと訂正

誌上シンポジウム■橈骨遠位端骨折の治療 緒言 フリーアクセス

ページ範囲:P.204 - P.205

 本誌47巻11号の誌上シンポジウム「橈骨遠位端骨折の治療」の「橈骨遠位端骨折に対する治療戦略」(1043-1052)は,原稿授受の手違いから,「整形外科」誌(発行=南江堂)63巻12号と同じ内容の論文を掲載いたしました.本誌掲載の同論文は取り消すとともに,次ページに本来の原稿を掲載いたします.
 本誌読者ならびに関係者各位に多大なご迷惑をおかけしましたことを深くお詫びし,ここに訂正いたします. 「臨床整形外科」編集室
 
 
誌上シンポジウム■橈骨遠位端骨折の治療
緒言  金谷文則  琉球大学大学院医学研究科整形外科学講座
 
 昨年(2012年3月)に日本整形外科学会・日本手外科学会監修「橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2012」が上梓された.関係各位のご尽力により,科学的なエビデンスに基づき診断・治療法が検討されており,ぜひご一読をおすすめする.

書評

『―シリーズ:臨床力up!Refresher Course 2―脊椎装具に強くなる!Basics & Tips』 フリーアクセス

著者: 清水克時

ページ範囲:P.124 - P.124

 先日,日本小児整形外科学会の中央研修会で初めて,ハンズオンセッションを開催しました.2つのセッションを開いたのですが,いずれも満員でした.1つはインプラントを使う手術手技,もう1つは先天股脱(DDH)の治療に用いるリーメンビューゲル(RB)のセッションでした.私がRBに触れるのは,じつに30年ぶりで,新しい発見がありました.まず,RBにはディーテールについて,たくさんの変種があることです.現在使われているRBを一堂に集めることによって,ヴァリエーションを相互に比較しながらRBを深く理解することができました.同時に,ハンズオンセッションの前のミニレクチャーで,RBの歴史を教えていただいたことも,変種の意味を理解するのに大変役に立ちました.先人が加えた改良を時間の軸で概観すると,現在の変種の意味がよく理解できます.

 本書は私がRBのセッションで発見した2つの要素を兼ね備えています.脊椎装具について,いくつかのヴァリエーションを一堂に集め,しかも,コラムとして脊椎装具の歴史的背景が述べられています.できれば,初めから終わりまで通読していただきたい小さな本です.この本をテキストにした脊椎装具のハンズオンセッションを組めば,さらに効果が上がるでしょう.どこかの学会でこれを計画すれば,成功まちがいなしだと思います.

INFORMATION

第14回札幌スポーツ医学セミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.117 - P.117

日時:2013年3月9日(土) 午後3時~午後7時30分

場所:ヒルトンニセコビレッジ(〒048-1592 北海道虻田郡ニセコ町東山温泉)

   Tel:0136-44-1111,Fax:0136-44-3224

第25回日本整形外科超音波学会 フリーアクセス

ページ範囲:P.145 - P.145

テーマ:明日から役立つ運動器超音波医療の最新情報

会長:佐藤公治(名古屋第二赤十字病院 副院長 整形外科・脊椎外科部長)

会期:2013年7月6日(土)

会場:ウェスティンナゴヤキャッスル http://www.castle.co.jp/wnc/

   〒451-8551 愛知県名古屋市西区樋の口町3-19

第38回整形外科エコーセミナー(入門コース) フリーアクセス

ページ範囲:P.149 - P.149

期日:2013年(平成25年)3月10日(日),午前9時~午後5時頃

主催:日本整形外科超音波研究会,教育研修委員会

会場:大正富山医薬品株式会社(〒170-8635 東京都豊島区高田3-25-1)

2013 ICJR (International Congress for Joint Reconstruction) Fukuoka フリーアクセス

ページ範囲:P.157 - P.157

会期:2013年4月12日(金),13日(土)

会場:ヒルトン福岡シーホーク〔〒810-8650 福岡市中央区地行浜2-2-3〕

2013年国際骨代謝学会・日本骨代謝学会 第2回合同国際会議 フリーアクセス

ページ範囲:P.178 - P.178

会長:〈合同国際会議〉Henry Kronenberg(ハーバード大学)

   野田 政樹(東京医科歯科大学難治疾患研究所分子薬理学)

   〈第31回学術集会〉吉川 秀樹(大阪大学)

会期:2013年5月28日(火)~6月1日(土)

会場:神戸ポートピアホテル・神戸国際会議場・神戸国際展示場

第53回関東整形災害外科学会 フリーアクセス

ページ範囲:P.198 - P.198

日時:2013年3月28日・29日

会場:マロニエプラザ(栃木県宇都宮市)

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.207 - P.207

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.208 - P.208

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.209 - P.209

あとがき フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.210 - P.210

 昨年末に,3年ぶりに政権が代わりました.今,日本は,平均寿命,高齢者数,高齢化のスピードという3点において,世界一の高齢化社会となっており,国を挙げての高齢者対策が必要です.2012年9月,日本の高齢者人口(65歳以上)は初めて3,000万人に達し,総人口の約1/4に達しました.25年後には国民全体の約1/3が高齢者になると予測されているほどの,世界一の“超高齢者大国”です.整形外科の日常診療においても,大腿骨頸部骨折,変形性関節症,変形性脊椎症などが急増し,整形外科医は,日々その治療に追われているのが現状です.「介護を必要としない」「自立した生活ができる」生存期間を示す健康寿命についても,男性72.3歳,女性77.7歳,全体75.0歳であり,日本は世界第一位です.今後も,健康寿命のさらなる延伸には,整形外科医の果たす役割が益々大きくなることは間違いありません.健康の維持には,江戸時代の尾張藩の横井也有の健康十訓が有名です.1.少肉多菜 2.少塩多酢 3.少糖多果 4.少食多齟 5.少衣多浴 6.少車多歩 7.少煩多眠 8.少念多笑 9.少言多行 10.少欲多施.現代にもそのまま当てはまる貴重な教訓であると考えます.中でも少肉多菜,少車多歩,少言多行 などは,自警の念を込めて継続したいものです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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