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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科49巻5号

2014年05月発行

雑誌目次

視座

宮大工の技と整形外科手術

著者: 松永俊二

ページ範囲:P.409 - P.409

 整形外科の手術を飛躍的に発展させたのは,人工関節と各種内固定材料の開発であることは言うまでもない.整形外科における手術の研修もこれら人工物を利用した手術の習熟が必須になっている.これは時代の流れであり,異議を唱える気持ちは毛頭ない.しかし,このような人工物の助けを借りた治療が,将来においても究極の手段であると言い切れるであろうか.適切な例えではないかもしれないが,名工と呼ばれる宮大工はその仕事に釘や座金などのような金物は一切使用しないそうである.それは宮大工に求められる建造物は国宝級であり,その美しさもさることながら,何より数百年~千年以上の耐久性を必要とされるからでる.当時の名工と呼ばれる宮大工が建築した国宝と呼ばれる建造物は,千年以上も見事なまでの美しさを維持して保存されている.そのような建築物を鑑賞してみると,確かに釘一本も使用されていない.使用する木材を巧妙に寸分の狂いなく組み合わせ結合させている.釘で木材を固定するのは宮大工でなくても並みの大工でもなせる業であるが,釘なしで木材を強固に組み立てるのには宮大工ならでの鍛えられた巧の技が必要である.経験の成せる技と言えばそれまでであるが,絶賛に値する.名工と呼ばれる宮大工は誰に教えられたというわけではなく,素材である木材を材質の異なる金物で無理やり結合しても,一見強固にみえても長持ちはしないことを熟知していたのであろう.この知恵はすべてに通じる究極の真理である.

論述

周術期総腓骨神経麻痺―下肢手術での予防と対策

著者: 玉置康之 ,   百名克文 ,   田中康之 ,   井上悟史 ,   川井康嗣 ,   打越顕 ,   丸山征爾 ,   馬谷直樹 ,   坂口雅彦 ,   中村賢司 ,   古川剛 ,   岩井輝修 ,   光澤定己 ,   仲谷健次

ページ範囲:P.411 - P.414

 目的:周術期総腓骨神経麻痺予防の新たな対策の効果を検討した.

 対象と方法:対策として,パンフレット作成,総腓骨神経のマーキング,チェックリスト作成,下肢枕の工夫を行った.対象は全身麻酔または腰椎麻酔の下肢手術症例で,対策前の987例をBefore群,対策後の1,196例をAfter群とし,総腓骨神経麻痺発生率を検討した.

 結果:麻痺発生率は,Before群0.4%(4例),After群0%(0例)で,有意差を認めた.

 まとめ:周術期総腓骨神経麻痺は,医療者側の観察の具体化,患者側への働きかけ,下肢枕の工夫を行うことで予防が可能である.

最新基礎科学/知っておきたい

Fibroblast growth factor 23(FGF23)産生腫瘍と骨軟化症

著者: 河野博隆

ページ範囲:P.416 - P.418

 線維芽細胞増殖因子23(FGF23)はリン酸制御ホルモンである.腫瘍性骨軟化症(tumor induced osteomalacia;TIO)の原因物質としてFGF23がクローニングされて以来,腫瘍性骨軟化症の病態解明が進み,診断例が増加している.本稿では,腫瘍性骨軟化症の臨床像,原因腫瘍の診断と治療,そして今後の展望について概説する.

連載 運動器のサイエンス・2

運動器活動が脳を健康にする

著者: 半場道子

ページ範囲:P.420 - P.422

運動習慣と認知機能

 前号ではEricksonグループの高齢者に関する研究成果3)から,有酸素運動を日常的に継続することによって海馬萎縮が防止され,記憶力が向上し,血清中の脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)量の増加が図られることを取り上げた.

 筋運動習慣が認知機能低下を防ぐことに関しては,数多くの例証4,5)が寄せられており,米国医療機関では大規模疫学調査も行われている.Mayo大学では7),1,324人の男女〔70~93歳,平均80歳,認知機能の健常な市民1,126人,軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI,198人)〕を対象に,運動習慣の有無がMCIの発生にどの程度関係するか,調査が行われた.

整形外科最前線 あなたならどうする?・25

整形外科最前線 あなたならどうする?

著者: 加畑多文 ,   井上大輔 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.423 - P.426

症例:69歳,女性

主訴:右股関節痛,殿部痛,歩行困難

既往歴:両側DDH(developmental dysplasia of the hip)

現病歴:1994年6月にDDHに伴う右末期変形性股関節症のため,他院でTHAを施行されている.以後,右股関節痛はなく経過し,特に外来受診はしていなかった.2013年6月に誘因なく右股関節痛が生じ歩行困難となったため,近医を受診した.精査の結果,カップの無菌性弛みに伴うmigrationと広範な骨溶解を認め,精査加療目的のため同年7月に当院を紹介され受診した.

いまこそ知りたい臨床医に必要な放射線の知識Q&A・5

Q5 医療被ばくについて 2.世界の趨勢

著者: 鈴木啓司 ,   山下俊一

ページ範囲:P.428 - P.431

世界の医療被ばく統計の概要

 日本における放射線診療機器の設置数は,諸外国と比較しても突出して多く,医療被ばくへの懸念につながっていますが,世界ではどの程度の医療被ばくがあるのでしょうか.原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)がまとめた2008年報告書に,放射線医療にかかわる最新の統計がまとめられていますので,その実態を日本の現状と比較してみましょう.

 まず,年間の1人あたりの平均被ばく線量ですが,日本国内では,自然放射線によるものが約2.1mSv,医療被ばくによるものがおおよそ3.8mSv程度と言われています.これに対し,世界平均では,自然放射線が約2.4mSv,医療被ばくはおおよそ0.66mSv程度でした.しかし,この平均値は,各国の放射線診療の実態と合わせて理解する必要があります.ちなみに,2006年の統計では,米国内での自然放射線は平均でおおよそ3.1mSvで,医療被ばくは平均で約3.0mSvでした.たとえば,人口1,000人あたりの医師数で区分されたUNSCEARの報告書では,区分レベル1(人口1,000人あたり医師数1人以上で,日本はこの区分に含まれる)の1人あたりの平均医療被ばく量は年間で1.19mSvであるのに対し,3,000人あたり医師数1人以下のレベル(レベル3および4)の国々では,その値がわずか0.3mSvと大きな違いがあります.これは,異なるレベルの国ごとの人口1,000人あたりの放射線診療数の違いを反映しており,レベル1の国々では年平均1,332回の放射線診断が行われているのに対し,レベル3および4の国々では年平均で20回でした.

アドバンスコース 整形外科 超音波診断・治療 どこが・どれだけ・どのように・7

オーバーユースに伴う膝前方の痛み“anterior knee pain”―(1):骨の過労性障害

著者: 皆川洋至

ページ範囲:P.433 - P.442

はじめに

 スポーツ選手が訴える膝痛で最も多いのは,学会で話題になる半月板や十字靱帯,側副靱帯の損傷ではない.オーバーユースに伴う膝前方の痛み“anterior knee pain:AKP”である.臨床現場で遭遇するAKPには,現在大きく分けて3つの病態が考えられている.膝蓋大腿関節の圧迫・摩擦による膝蓋大腿関節障害,大腿四頭筋の牽引ストレスによる骨や腱の過労性障害,そして膝蓋下脂肪体や滑液包由来の痛みである.今回から3回にわたり,AKPに対する超音波診断について解説していく.オーバーユースに伴うAKPの第1回は「過労性骨障害overuse bone injuries」である.

臨床経験

抗凝固薬内服患者の人工膝関節全置換術におけるヘパリン置換の安全性

著者: 大岩美奈子 ,   塚田幸行 ,   涌井元博

ページ範囲:P.445 - P.448

 背景:抗凝固薬内服患者の人工膝関節全置換術(TKA)におけるヘパリン置換の安全性を検討した.

 対象と方法:ヘパリン置換を行った28例を対象とし,無作為抽出されたヘパリン置換を行わなかった30例と後向きに比較した.

 結果:血栓性合併症・出血性合併症の発生は両群とも認めなかった.その他の合併症も発生率に差はなかった(p=0.33).輸血回避率,総出血量にも差はなかった(p=0.74,p=0.23).

 まとめ:当院のヘパリン置換プロトコルにより,出血性合併症および血栓性合併症を認めることなく,抗凝固薬内服患者のTKAは安全に施行されていた.

中高年者に対する解剖学的二重束前十字靱帯再建術の臨床成績―若年群との比較検討

著者: 前川勝彦 ,   高木博 ,   古屋貴之 ,   加藤慎 ,   佐藤敦 ,   浅井聡司 ,   中田規之

ページ範囲:P.449 - P.454

 背景:近年,スポーツ人口の高齢化とともに中高年者の解剖学的二重束前十字靱帯再建術が施行されるようになった.

 対象と方法:解剖学的二重束前十字靱帯再建術を施行した40歳以上である中高年群(19例)と若年群(72例)との間で,術前の臨床評価,合併損傷,術後成績について比較検討を行った.

 結果:術後膝前方安定性,pivot shift test陽性率,Lysholm score,伸展・屈曲筋力患健比は各群間で有意差はなかった.

 まとめ:中高年群の解剖学的二重束前十字靱帯再建術の臨床成績は若年群と比較して遜色なく良好であると考えられた.

原発性骨粗鬆症患者における長期ビスホスホネート治療一時休止後のエルデカルシトール投与の効果

著者: 金谷幸一 ,   島本周治 ,   青木千春 ,   児玉泰輝 ,   加藤義治

ページ範囲:P.455 - P.461

 背景:歯科治療を要するビスホスホネート(BP)内服患者が,中止か継続かで困惑し代替薬が望まれている.本研究はBPからエルデカルシトール(ELD)切り替え時の影響を検討した.

 対象・方法:対象は3年以上BPを内服した17例である.切り替え6カ後の骨密度:腰椎と大腿骨total(H-BMD),骨代謝マーカー:TRACP-5b,P1NP,TRACP-5b/P1NPの変化を検討した.

 結果:有意な変化は,TRAP-5b/P1NPの低下のみだった.骨密度は維持され,骨代謝回転は骨形成が上昇した.しかし,H-BMD YAM<70%の症例では,骨密度が大きく減少していた.

 まとめ:H-BMD YAM70%未満を除外すれば,ELDは,短期のBP代替薬となる可能性がある.

症例報告

易感染性疾患既往のない患者に発症した稀な化膿性大胸筋炎の2例

著者: 近藤祐一 ,   伏見一成 ,   川島健志 ,   宮川貴樹 ,   金森茂雄 ,   仁枝祐一 ,   高澤真 ,   坂井聡美 ,   高見和久

ページ範囲:P.463 - P.466

 われわれは易感染性疾患の既往のない患者に発症した化膿性大胸筋炎の2例を経験した.症例1は78歳の男性で,主訴は発熱であった.自発痛はないが左前胸部の軽度腫脹,発赤を認めた.症例2は29歳の女性で,主訴は発熱,後頚部・右上肢痛,右手のしびれであった.2例とも発症翌日に,胸部CT,MRIで化膿性大胸筋炎と診断され,抗菌薬投与で保存的に治癒した.化膿性大胸筋炎は本邦では非常に稀であり,診断が遅れることがある.過去の報告では手術を要した症例が多かったが,早期に診断,治療を行えば保存的に治癒する可能性があると考えられる.

骨粗鬆症性脊椎椎体骨折後,椎弓根骨折による遅発性神経根症を生じた1例

著者: 杉浦宏祐 ,   酒井紀典 ,   手束文威 ,   合田有一郎 ,   高田洋一郎 ,   東野恒作 ,   加藤真介 ,   西良浩一

ページ範囲:P.467 - P.471

 近年,石元らは骨粗鬆症性脊椎椎体骨折後に生じた遅発性神経根症の4例を報告し,①椎弓根下での後壁の膨隆,②上関節突起の変性肥厚,③膨隆椎間板による3つの病態を提唱した.今回われわれは,骨粗鬆症性脊椎椎体骨折に続発する椎弓根骨折により遅発性神経根症を呈した症例を経験した.神経根ブロックなどの保存的治療には抵抗性であり,後方除圧固定術により症状の改善がみられた.骨粗鬆症性脊椎椎体骨折後に生じる遅発性神経根症の病態として椎弓根骨折を疑う必要性を提唱する.

原発不明で脊椎転移を来した印環細胞癌の2例

著者: 本定和也 ,   内田研造 ,   中嶋秀明 ,   坂本拓己 ,   馬場久敏

ページ範囲:P.473 - P.477

 原発不明癌で脊椎転移を生じた印環細胞癌の2症例を経験した.2症例とも術前のCT,18F-FDG-PETなどの各種検査で原発巣は特定できず,経過中に急速に進行する麻痺症状が出現したため,緊急手術を行った.術後2症例とも麻痺症状の改善を認め,ADLの向上が得られた.また転移椎体組織の病理学的検査で2症例ともに印環細胞癌の確定診断が得られ,1例で原発巣が胃であることを特定でき,その後の治療方針の決定に非常に有用であった.

腫瘍脊椎骨全摘術後の髄液漏に小脳出血を合併した1例

著者: 石井孝佳 ,   村上英樹 ,   出村諭 ,   加藤仁志 ,   吉岡克人 ,   林寛之 ,   横川文彬 ,   五十嵐峻 ,   方向 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.479 - P.483

 腫瘍脊椎骨全摘術後の髄液漏に続発して小脳出血を来した1例を経験した.症例は73歳の男性で膀胱癌の第6-8胸椎転移に対し,放射線療法が奏効しなかったため手術を行った.術中に硬膜と壁側胸膜を損傷した.術後,ドレーンから漿液性の排液が持続し髄液漏が疑われた.また,胸部X線像では右胸水の貯留に伴う無気肺を認めた.術後3日目から意識障害を認め,頭部CTで小脳出血を認めた.髄液漏により低髄液圧が持続し,小脳出血に至ったと推察した.髄液漏に伴う小脳出血は重篤な合併症の1つであり注意が必要である.

INFORMATION

第48回日本側弯症学会 フリーアクセス

ページ範囲:P.414 - P.414

会期:2014年10月30日(木)・31日(金)・11月1日(土)

会場:盛岡市民文化ホール(マリオス)

   〒020-0045 盛岡市盛岡駅西通二丁目9番1号

   TEL:0196-621-5100  FAX:019-621-5101

第7回セメントTHAセミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.426 - P.426

日時:2014年8月21日(木)・22日(金)

場所:関西医科大学附属枚方病院

   大阪府枚方市新町2丁目3番1号 TEL:072-804-0101(代表)

第41回日本肩関節学会 合同開催:第11回 肩の運動機能研究会 フリーアクセス

ページ範囲:P.454 - P.454

会期:2014年10月24日(金)・25日(土)

会場:佐賀市文化会館,佐賀県総合体育館

2014 ICJR Pan Pacific Congress フリーアクセス

ページ範囲:P.461 - P.461

会期:2014年7月16~19日

会場:Hilton Waikoloa Village, Kona, Hawaii

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.485 - P.485

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.486 - P.486

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.487 - P.487

あとがき フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.488 - P.488

 東日本大震災から3年を過ぎた月末の早朝,この原稿の筆を執っています.本県は,誰も経験していない人口密集地での原発事故に見舞われました.

 未曾有の混乱のなか,人々は死生観を問われました.如何に生きるか,です.人生を終える時,心の裡に問い掛けなければなりません.「あの時,自分は逃げずに,ぶれずに,踏みとどまったのか」と.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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