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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科49巻8号

2014年08月発行

雑誌目次

視座

海を渡る関節鏡

著者: 織田弘美

ページ範囲:P.673 - P.673

 関節鏡は,膝関節を端緒として各関節に応用され,今や関節内の外傷や疾患の診断・治療には不可欠な医療器械として,広く普及している.日本人は独創性に乏しいと言われているが,関節鏡は日本の整形外科が生んだ最大の独創的業績であると言っても過言ではない.この度,埼玉医大所蔵の関節鏡が,ワシントンDC郊外の米国立健康医学博物館(National Museum of Health and Medicine)に展示されることになったので,その経緯をご紹介する.

 関節鏡は,1931年に高木憲次東大整形外科第二代教授によって考案され,その後は1937年入局の渡辺正毅先生に引き継がれた.渡辺先生は,1949年に東京逓信病院に異動されたが,地道に研究を継続され,1959年に渡辺式21号型関節鏡を完成された.新興光器製作所から発売されたこの関節鏡は,世界初の実用関節鏡であり,現在の関節鏡のプロトタイプとなった.1964年にトロントから東大に留学したRobert Jackson先生が渡辺先生に関節鏡を教わり,帰国後,急速に欧米圏に広まった.その詳細は,Marlene DeMaio先生がClin Orthop Relat Res(471:2443-2448, 2013)に「Giants of Orthopaedic Surgery:Masaki Watanabe MD」と題する一文を書いておられるので,ぜひご一読いただきたい.

論述

頚部脊髄症術前後の各種上肢機能評価(10秒テスト/JOAスコア/JOACMEQ/簡易上肢機能検査:STEF)の相関および経時的変化に関する前向き研究

著者: 藤原啓恭 ,   海渡貴司 ,   牧野孝洋 ,   本田博嗣 ,   米延策雄

ページ範囲:P.675 - P.683

 背景:頚部脊髄症術後の上肢機能評価(10秒テスト/JOAスコア/JOACMEQ/簡易上肢機能検査:STEF)の経時的変化および相関を前向きに検討すること.

 対象と方法:頚部脊髄症手術症例31例を対象とし,各スコアの術後6カ月までの経時的変化を観察し,JOAスコア,10秒テスト,JOACMEQの3項目とSTEFとの相関を検討した.

 結果:JOACMEQはSTEFと有意な相関を認め,STEFの「巧緻要素」は,JOACMEQ上肢機能改善群で非改善群と比し術前後ともに有意に高得点であった.

 まとめ:JOACMEQは神経機能回復を鋭敏に捉えうる有用な評価質問票であり,STEFの「巧緻要素」と強い相関を認めた.

Lecture

人工股関節全置換術後に発生するadverse reactions to metal debris(ARMD)

著者: 湏藤啓広

ページ範囲:P.685 - P.690

はじめに

 表面置換型人工股関節とステムを有する通常型人工股関節からなるMetal-on-Metal人工股関節全置換術(THA)後に,adverse reactions to metal debris(ARMD)が発生することは周知の事実であり,その使用例は激減している.しかし,Metal-on-Polyethylene,Ceramic-on-Ceramic THAなど他の摺動面におけるARMD発生も報告されている.本稿では,日本におけるMetal-on-Metal THA後のARMD発生状況,Metal-on-Metal THA後の対処方法,他の摺動面を有する人工股関節におけるARMDについて最新の文献を中心に概説する.

連載 整形外科最前線 あなたならどうする?・28

整形外科最前線 あなたならどうする?

著者: 川上亮一

ページ範囲:P.691 - P.694

症例

症例:80歳,男性

既往歴:脳梗塞,進行中の認知症

現病歴:耕耘機の刃に右下肢を巻き込まれて,右下腿の開放性骨折を受傷した.受傷後1時間を経て救急車で,家族とともに病院に搬送された.来院時は不穏状態で,ショック状態であったが,循環動態は補液と輸血により安定した.

「勘違い」から始める臨床研究―研究の旅で遭難しないために・3

RCTは常に最強のデザインである?

著者: 福原俊一 ,   福間真悟

ページ範囲:P.695 - P.700

 この20年で,わが国でもEBM(evidence based medicine)が徐々に普及し,定着しました.これは大変よいことだと思われますが,一方でいろいろな勘違いや思い込みも生みました.そのひとつが,「RCTは常に最強のデザインである」という「RCT至上主義」とも言える教条的な考え方です.RCTは,予防や治療の効果を科学的に評価する目的には最強のデザインですが,他の目的には必ずしもそうとは限りません.また同じRCTの研究でも,その質に大きなばらつきがあり,十把一絡げにRCTだからエビデンスレベルが最も高いと盲目的に判断するのは考え物です.

いまこそ知りたい臨床医に必要な放射線の知識Q&A・8

Q8 チェルノブイリ原発事故

著者: 木村悠子

ページ範囲:P.700 - P.702

 1986年4月26日未明,旧ソビエト連邦(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所4号炉が爆発炎上し,大量の放射性物質が放出され,人類史上最悪の放射線災害となりました.事故当時,世界に向けて正確な情報がほとんど発信されず,目にみえない放射線への恐怖と相まって,世界レベルでのパニックが引き起こされました.また,事故当時の避難などの被ばく対策の遅れにより,周辺地域住民に高線量の内部被ばくをもたらしました.

 現在,日本では福島第一原子力発電所事故による内部被ばくとその影響が懸念されています.本稿では,今後,福島第一原子力発電所事故による健康影響を考える際の参考としていただくために,チェルノブイリ原子力発電所事故後の対応と健康影響について概説します.

運動器のサイエンス・5

運動器活動は慢性炎症を抑制する

著者: 半場道子

ページ範囲:P.704 - P.706

自然免疫の分子機構Inflammasome

 いま,ホモ・サピエンス史上初めて飢餓から解放され,病原体との闘いにも多少の終息を得た時代を迎えている.しかし現代は,2型糖尿病,動脈硬化症,脳変性疾患,慢性肺疾患,がんなどの慢性疾患の激増を抱える時代でもある.これらの疾患は慢性炎症を共通基盤とする病態であり5),疾患の元凶を辿ると「身体を動かさない不活発な生活」になるという,大規模疫学調査の結果を前号で紹介した.

 慢性炎症は整形外科領域にも密接に関係しており,変形性膝関節症や腰痛の増加背景として,“metabolic osteoarthritis”が提唱され,痛みの機序に新しい視点が寄せられている11).今号では慢性炎症の分子機構inflammasomeを取り上げ,なぜ現代に慢性疾患が激増しているのか,分子レベルでみて行くことにする.

臨床経験

X線軸位像での臼蓋コンポーネント前方開角の新しい計測法

著者: 松本和章 ,   老沼和弘 ,   田巻達也 ,   白土英明

ページ範囲:P.709 - P.711

 X線軸位像は,人工股関節全置換術(THA)における臼蓋コンポーネント前方開角の測定方法として簡便に施行可能であるが,骨盤傾斜の影響などによる再現性の低さが指摘されている.THA受療者において,大・小坐骨切痕の接線を坐骨軸,坐骨軸と前骨盤平面とのなす角を坐骨軸傾斜角と定義し,これを3次元CT骨盤矢状断像を用いて計測した.坐骨軸は前骨盤平面に対して前傾しており,坐骨軸傾斜角は18.0±3.5°であった.X線軸位像において坐骨軸と坐骨軸傾斜角を指標とし,骨盤傾斜に影響されにくく再現性の高い前方開角の測定が可能と考える.

パルスオキシメータを用いた仙骨硬膜外ブロック後の下肢血行動態評価

著者: 恩田啓 ,   木村雅史

ページ範囲:P.713 - P.718

 背景:腰椎変性疾患による坐骨神経痛に対して硬膜外ブロックは行われているが,ブロック後の下肢血流の変化についての報告は少ない.

 対象と方法:エコーガイド下に仙骨硬膜外ブロックを行い,パルスオキシメータによる灌流指数と表面皮膚温度を下肢で測定し,ブロック前後で比較検討した.

 結果:灌流指数は5分後から増加し,皮膚温は15分後から有意に上昇した.

 まとめ:ブロック後に灌流指数の早期増加と皮膚温上昇が認められた.すなわち,下肢末梢血流の増加がブロック後早期に出現していることが推察された.

男女手根管症候群間での電気生理学的な術前の重症度と術後回復の比較検討

著者: 金谷貴子 ,   名倉一成 ,   鷲見正敏 ,   国分毅 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.719 - P.722

 背景:手根管症候群に対し電気生理学的に男女間を比較した.

 対象と方法:男性58手,女性200手を電気生理学的重症度(1~5期)に基づいて検討した.

 結果:術前は男性:4期41.4%,女性:5期49.5%が最多で,重症(4,5期)は各々81%,80%であった.術後1年で,男性:77.6%,女性:87.5%が1期以上改善し,軽症例(1,2期)が各々51.7%,55.0%と有意に増加した(p<0.0001).

 まとめ:電気生理学的には,性差による術前の重症度,術後の回復に差はない.

症例報告

横紋筋肉腫治療後26年で発症した放射線誘発性軟骨肉腫の1例

著者: 宇髙徹 ,   須佐美知郎 ,   中山ロバート ,   渡部逸央 ,   堀内圭輔 ,   星野健 ,   黒田達夫 ,   佐々木文 ,   向井万起男 ,   戸山芳昭 ,   森岡秀夫

ページ範囲:P.723 - P.728

 患者は26歳の女性である.横紋筋肉腫に対する放射線照射後26年経過して骨盤軟骨肉腫を発症した.片側骨盤切除術を施行し,hip transposition法で再建した.術後1年の現在,局所再発は認めず,装具着用で片松葉杖歩行が可能である.横紋筋肉腫の放射線照射後に軟骨肉腫を生じた報告は,渉猟し得た範囲では2例と極めて稀であった.放射線治療後は肉腫の発生も考慮し長期の経過観察が必要と考えられた.

腱板断裂を伴いlarge Hill-Sachs病変を合併した高齢者反復性肩関節脱臼に対する鏡視下手術の2例

著者: 太田悟 ,   駒井理

ページ範囲:P.729 - P.734

 高齢者の反復性肩関節前方脱臼は,稀ではあるが,疼痛や機能障害を来すことがあり治療に難渋する.今回,腱板断裂を伴いlarge Hill-Sachs病変を合併した高齢者の反復性肩関節脱臼を2例経験した.これらを鏡視下で同時に,Bankart修復,remplissage法,鏡視下腱板修復術(ARCR)を施行し,良好な結果を得たので報告する.

新たな尺骨神経障害のメカニズムが考えられた滑車上肘筋の1例

著者: 仲田紀彦 ,   穂積高弘 ,   山川聖史

ページ範囲:P.735 - P.738

 滑車上肘筋による尺骨神経障害の原因は,肘屈曲時に伸長された筋腹による物理的な神経の圧迫とされているが,今回,同筋の筋収縮が尺骨神経刺激の主原因と考えられる症例を経験した.術中に滑車上肘筋以外に尺骨神経を絞扼する因子はなく,滑車上肘筋の電気刺激に伴う収縮により尺骨神経支配筋群の収縮が確認され,また病歴もこれを支持するものであった.滑車上肘筋を持つ若年者の動的因子による尺骨神経障害の一因として滑車上肘筋の収縮による神経刺激が示唆された.

烏口鎖骨靱帯損傷を伴った鎖骨遠位骨端離開の1例

著者: 畠山雄二 ,   千馬誠悦 ,   成田裕一郎 ,   宮本誠也 ,   小林志 ,   佐々木香奈

ページ範囲:P.739 - P.742

 症例は12歳,女児で,柔道で投げられ左肩から落ちて受傷した.画像上,左肩鎖関節脱臼が疑われたため,受傷後4日目に手術を行った.鎖骨外側端は遠位骨端離開を伴い頭側へ転位し,烏口鎖骨靱帯(菱形靱帯)が完全に断裂していた.肩鎖関節をKirschner鋼線で整復固定し,菱形靱帯を縫合した.術後6週で抜釘し最大挙上を許可した.術後1年,可動域制限もなく鎖骨外側端も良好に整復されている.

 画像上,肩鎖関節脱臼が疑われたが,肩鎖関節靱帯よりもストレスに対して脆弱な骨端離開を呈したと考えられる.

拡張性胸郭形成術を併用せずVEPTR手術を行った重度乳幼児側弯症の2例

著者: 北城雅照 ,   渡辺航太 ,   細金直文 ,   戸山芳昭 ,   松本守雄

ページ範囲:P.743 - P.747

 胸郭不全症候群を伴う早期発症側弯症(EOS)に対し,拡張性胸郭形成術を併用したvertical expandable prosthetic titanium rib(VEPTR)手術がCampbellにより報告された.本手術では術後の呼吸器合併症が高頻度に発生するため,われわれは拡張性胸郭形成術を併用せず,VEPTRによる胸郭および脊柱変形の矯正術を2例のEOSに行った.その結果,術後呼吸器合併症は発生せず,脊柱変形と胸郭の矯正は良好であった.本法はEOSに対する手術法の一選択肢になりうると考えられた.

特発性脛骨内顆骨壊死の3例

著者: 徳武克浩 ,   渡邉健太郎 ,   水野直樹 ,   矢島弘毅 ,   奥井伸幸 ,   佐々木宏 ,   熊谷寛明

ページ範囲:P.749 - P.753

 比較的稀な特発性脛骨内顆骨壊死の3例を経験した.全例高齢の女性で,明らかな誘因はなく安静時痛があった.MRIでLotke分類type C2例,type D1例であり,保存的治療は無効であったため,金属骨補塡材料を併用した人工膝関節置換術を行った.全例とも日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準(JOAスコア)の改善を認め,短期成績は良好であった.病理組織像では,軟骨下骨に骨壊死像や骨新生を認めた.MRIは早期診断に有用であると考えられた.

INFORMATION

第41回関東膝を語る会 フリーアクセス

ページ範囲:P.690 - P.690

日時:平成26年11月15日(土)13:00~18:00

会場:大日本住友製薬(株) 東京本社10階ホール 東京都中央区京橋1-13-1

第39回日本足の外科学会・学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.702 - P.702

会期:2014年11月13日(木)~14日(金)

会長:野口昌彦(至誠会第二病院整形外科 診療部長・足の外科センター長)

会場:シーガイアコンベンションセンター

   (〒880-8545 宮崎県宮崎市山崎町浜山 TEL:0985-21-1111 http://www.seagaia.co.jp/)

第41回整形外科エコーセミナー(入門コース) フリーアクセス

ページ範囲:P.728 - P.728

会期:2014年10月19日(日)午前9時~午後5時頃

会場:大阪医科大学本部キャンパス(医学部) 新講義実習棟 1F(T101教室)

   〒569-8686 大阪府高槻市大学町2番7号 TEL:072-683-1221(代表)

   (阪急高槻市駅 徒歩3分)

第1回セミナー「Bone Cement IBBC Heritage」 フリーアクセス

ページ範囲:P.742 - P.742

日時:2014年11月30日(日)14時~12月1日(月)15時

場所:富永病院 大西啓靖記念人工関節研究センター

   〒556-0017 大阪市浪速区湊町1-4-48

   TEL:06-6568-1601(代)  FAX:06-6568-1608

2015 ICJR Hip Japan フリーアクセス

ページ範囲:P.747 - P.747

会期:2015年1月16日(金)・17(土)

会場:コングレコンベンションセンター

   (〒530-0011 大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪)

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.755 - P.755

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.756 - P.756

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.757 - P.757

あとがき フリーアクセス

著者: 内藤正俊

ページ範囲:P.758 - P.758

 わが国で使用されている医療機器は,診断系はまだしも治療系の大半を輸入に頼っていますが,日本発のシーズであるにも拘わらず臨床試験や開発を先行させ世界へ輸出している欧米の最新機器が少なくありません.先進的な医療機器を創出することは,本邦の患者により早く高度な医療による恩恵を与えるだけでなく,医療技術産業を活性化することに繋がります.医療機器に関する研究開発が今後の経済成長戦略の柱の一つとして注目されています.この目的のために,平成13年の産学官連携による医療技術産業戦略コンソーシアムの設立,平成20年の厚生労働省策定の医療機器審査の合理化,平成23年の医薬品・医療機器薬事戦略相談事業(PMDA)の設置,昨年の薬事法(医薬品医療機器等法)の改正などが実施されてきました.さらに今年5月に研究開発の司令塔機能(日本版NIH)の実現に向けた健康・医療推進法案と行政法人日本医療研究開発機構法案が成立しました.現政権は国際競争を意識した規制・制度改革や海外展開支援の取組みも打ち出しています.整形外科は治療系に医療機器を使用する代表的な診療科です.環境の整備と独創性に満ちた整形外科医とが相俟って世界を席巻する医療機器が続出することを願っています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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