icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科50巻2号

2015年02月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 関節リウマチ—生物学的製剤使用で変化したこと

緒言 フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.96 - P.96

 関節リウマチの治療は,生物学的製剤が導入されたことにより,明らかな変貌を遂げた.現在,TNF関連製剤,IL-6関連製剤,T細胞制御製剤の臨床使用が可能となっている.これらの薬剤の使用により,関節破壊の抑制効果が示され,患者の疾患活動性も制御可能となりつつある.すなわち,短期的QOL改善を目的とする治療から,長期予後の改善を目指す治療へとパラダイムシフトが起きたのである.本邦では,生物学的製剤が臨床使用されて約12年が経過し,疾患そのものへの有効性が示された一方,重篤な合併症の出現や,整形外科手術の変化が認められるのも事実である.実際に,整形外科手術が減少しつつあるのか,整形外科手術のタイミングをどう決定すればよいのかなど,新たな検討課題が現れてきた.本誌上シンポジウムでは,生物学的製剤の使用により,関節リウマチの病態,整形外科手術,合併症がいかに変化したか,臨床の第一線でご活躍の先生方に,多方面から解説していただいた.

 門野先生には,関節病変と寛解率の変化を,主としてMTX併用,非併用で比較検討していただいた.桃原先生には,生物学的製剤使用による病勢安定化に伴い,整形外科手術の適応の変化や,小関節手術の需要が増していることなどを報告していただいた.宮原先生には,生物学的製剤使用下での整形外科手術における局所的合併症としての,感染や創傷の遷延治癒などについて検討していただいた.海渡先生には,生物学的製剤の登場により,RA頚椎病変の新規発症の抑制がみられる一方,その進行の抑制には限界があることなどを解説していただいた.最後に,藤田先生には,生物学的製剤の内科的合併症としての結核,B型肝炎,間質性肺炎などの診断・治療について,わかりやすく解説していただいた.

関節病変・寛解率の変化

著者: 門野夕峰

ページ範囲:P.97 - P.104

 生物学的製剤の登場により関節リウマチの診療は劇的に変化した.臨床的寛解ならびに関節破壊進行抑制が治療目標となり,本邦の実臨床で寛解達成率はBoolean基準でみても25%を超えている.メトトレキサート(MTX)と同等以上の有効性を示し,MTX併用でより有効性が高くなる生物学的製剤だが,効果不十分例に比べて,ナイーブ例で使用するほうが有効性が高い.寛解達成率の上昇とともに関節破壊抑制効果が上昇することも明らかとなり,より早期から導入することで高い臨床的寛解ならびに構造的寛解を達成できることも明らかとなっている.

最近の関節リウマチに対する関節外科手術の変化

著者: 桃原茂樹

ページ範囲:P.105 - P.111

 現在の関節リウマチ治療において薬物療法だけではどうしても炎症の鎮静化のみに主眼が置かれる.しかし,治療の最終目標はあくまでも日常生活の質的向上であり,薬物療法だけでカバーできないところは外科的治療により補完する必要がある.そのためには,今後も薬物療法を中心に外科的治療による併用療法を治療のオプションとして考える姿勢が求められる.また,生物学的製剤などにより病勢が安定化することで,手指や足趾など小関節に対してよりきめ細やかな外科治療の需要も増えてくると予想されており,これからは薬物療法の進歩に伴い外科的治療の変化も求められているのである.

局所感染・創傷治癒の変化

著者: 宮原寿明

ページ範囲:P.113 - P.118

 関節リウマチ(RA)治療に生物学的製剤が広く使用されるようになった現在,整形外科手術後の手術部位感染と創傷治癒遅延に対する対策が必要である.生物学的製剤投与RA患者の整形外科手術における手術部位感染発生率は0〜20%であり,非投与RA患者の発生率と比較して,同等か軽度上昇すると推測される.特に人工関節置換術での感染率上昇の可能性が高く,注意を要する.基礎研究では生物学的製剤の創傷治癒遅延作用が示されているが,臨床的エビデンスは不十分である.トシリズマブについては創傷治癒遅延がやや高率に発生した報告があり,注意を要する.

脊椎病変・脊椎手術の変化

著者: 海渡貴司 ,   米延策雄 ,   柏井将文 ,   牧野孝洋 ,   杉浦剛 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.121 - P.124

 生物学的製剤を中心とした関節リウマチ(RA)薬物治療体系の革新的な進歩による疾患活動性制御は,RA頚椎病変の新規発症を抑制する作用も有することが確認された.一方で,既存の頚椎病変を認める場合,生物学的製剤はその進行を完全には抑制できないことも明らかとなった.手術治療では,広範囲脊柱不安定性や高度骨破壊を伴う症例が減少傾向にあることを反映して,環軸椎固定単独の比率が増加し,手術件数も減少傾向にある.しかし,近年発症したRA症例においても有病率は30%以上と高率であり,頚椎病変評価の重要性に変わりはない.

内科的合併症の変化

著者: 藤田次郎

ページ範囲:P.125 - P.133

 関節リウマチの治療は多くの生物学的製剤が導入され,一変したといっても過言ではない.生物学的製剤の副作用として,感染症,結核,B型肝炎,および間質性肺炎に留意する必要がある.感染症は全身に発症しうるので内科的疾患全般に関する知識が求められ,専門医との連携が重要である.中でもB型肝炎のスクリーニングは重要である.また抗酸菌感染症として,肺結核と,非結核性抗酸菌症とを留意する.さらに重要な肺病変として,関節リウマチに伴う間質性肺炎,薬剤性肺障害,および感染症による間質性肺炎を鑑別することが重要である.

整形外科/知ってるつもり

リバース型人工肩関節置換術

著者: 高岸憲二

ページ範囲:P.134 - P.136

 2014年4月からリバース型人工肩関節が本邦で使用できるようになった.整形外科医が以前から使用したいとの要望を持っていた,整形外科領域のデバイスラグの代表であった本人工肩関節について,医療品医療機器総合機構(PMDA)での審査,日本整形外科学会リバース型人工肩関節ガイドライン策定委員会(インプラント委員会担当松末吉隆理事,米田稔委員,菅谷啓之委員,中川泰彰委員,高岸憲二委員長)によるガイドライン作成,厚生労働省での認可,日本整形外科学会および群馬大学倫理委員会での承認,日本人工関節学会による登録制度,日本肩関節学会リバース型人工肩関節運用委員会などに関与してきた整形外科医として,ガイドラインを中心にして本人工関節を紹介する.なお,本人工関節は本邦で治験が行われずにPMDAにより認可された最初の人工関節であり,使用に際して日本整形外科学会が作成したガイドラインを遵守することが必要で,かつ,5年間の全例調査を行うことが定められている.

連載 運動器のサイエンス・11

慢性疼痛増加の機序を探る

著者: 半場道子

ページ範囲:P.138 - P.140

神経障害性の慢性疼痛

 慢性疼痛は発生機序の上から,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,非器質性(心因性)疼痛の3つに分けられるが,第9,10回では,侵害受容性の慢性疼痛の例として変形性関節症を取り上げた.本稿では神経障害性疼痛の例として,慢性腰痛について痛みの慢性化の機序を探る試みを続けたい.

 慢性疼痛は,国際疼痛学会によって「組織損傷の通常の治癒期間を過ぎても持続する,明らかな生物学的意義のない痛み」と定義され11),神経障害性疼痛は「体性感覚系に影響を与える損傷や疾患の直接的結果として生じる疼痛」と定義されている8).末梢神経が圧迫,絞扼,切断されたり,熱/化学的刺激,ウイルス感染,高血糖によって傷つけられた場合,中枢神経系が脳梗塞,脳出血,頭部外傷などにより損傷された場合,などに生ずる痛みである.

整形外科の歴史・2

リウマチ外科の歴史

著者: 井上一 ,   西田圭一郎

ページ範囲:P.142 - P.146

はじめに

 関節リウマチ(RA)の治療において,外科的治療は当然,薬物治療による疾患活動性のコントロールと大きく連動する.また,RAの関節病変は慢性炎症に伴う高度の関節破壊であり,患者の主訴が疼痛,不安定性,機能障害,美容的外観など多岐にわたるため,個々の関節において適応とタイミングを決めることは大変難しい.最近の生物学的(Bio)製剤の登場による炎症のコントロールによって,外科的治療の位置付けは徐々に変化しつつあり,その価値はなお存続している.RAの外科的治療の歴史的背景から先人の苦労とその時々の価値を振り返りながら,今後の外科的治療の対応のありかたを考えてみた.

 RAの薬物療法としてアスピリンをはじめとする消炎鎮痛薬が用いられ始めたのは19世紀末からである.以後多くの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が開発されたが,いずれも疼痛を軽減する対症療法であり,RAの治療薬にはなりえなかった.1930年代に金製剤が有効とする報告がなされて多くの臨床試験が行われたが,これも副作用が多く,また薬効も低かったため下火になった.続いて1940年代に副腎皮質ステロイド剤がRA治療に用いられたが副作用が多く,現在では基本的にRA早期に期間を限って用いることが推奨されており,疾患の根本的な治療薬とはならないこともわかっている.RAの病態解明が進むにつれ,その病態に直接薬効を示す製剤としてD-ペニシラミン,メトトレキサート(MTX)など疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)が次々と開発・使用されてきた.2000年代に入ってから生物学的製剤の有効性が高く評価され,特にMTXとの併用による優れたRAの疾患活動性コントロールが可能となり,早期例の一部においては寛解もみられるようになった.こうした薬物治療の発展を背景に,外科的治療も大きく変遷してきた13)

整形外科の歴史

関節形成術を中心とした股関節手術の歴史②

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.147 - P.153

股関節のクリアランス,潤滑と支持性(耐荷重能)

 成長期以後,股関節機能の鍵が支持性(耐荷重能,weight-bearing capacity)と潤滑(lubrication)であるとわかったのは,20世紀も半ばを過ぎた頃ではなかったろうか? Charnleyが切り拓いた全人工股関節置換術(THR)は,完璧とまではいかなくとも,成長期以後のヒトの股関節機能のうちで最も尊重すべき要件がこの2つであることを明確に教えた.支持性と潤滑のいずれが欠けても機能しないこと,良好な潤滑が優れた耐荷重能を保証する仕組みでもあることが,20世紀の半ば過ぎにようやく理解されたのだ.

 考えてみると,それはまことに不思議である.重量物の運搬にすべりをよくする工夫や,コロを利用した歴史は古い(エジプトやバビロニアの古代史にその記録がある).軸受けの工夫は数千年も前からある.しかし医学の歴史を辿っても,その優れた軸受け構造が自分たちの足元(股関節をはじめとして)に,生まれながらにあったという事実には目が向かなかったのではあるまいか.

「勘違い」から始める臨床研究—研究の旅で遭難しないために・6

新規性=良い研究?

著者: 福原俊一 ,   福間真悟

ページ範囲:P.155 - P.159

 今回は,新規性を含む,リサーチ・クエスチョンの判断基準「FIRM2NESS」について解説します.

整形外科最前線 あなたならどうする?・34

整形外科最前線 あなたならどうする?

著者: 渡邉和之 ,   紺野愼一

ページ範囲:P.161 - P.165

症例

症例:51歳,男性

主訴:左鼠径部痛,両胸部痛,腰背部痛

既往歴:特になし

現病歴:当科初診時の2年3カ月前から左鼠径部痛を自覚していた.その後,徐々に痛みの範囲が胸部や背部に拡大した.近医で保存療法を施行されたが,症状は改善せず,徐々に痛みが増強し,歩行困難となったため当科へ紹介された.

臨床経験

腰痛患者の疼痛知覚部位における圧痛点—出現率と他臨床所見との関連性

著者: 高橋弦

ページ範囲:P.167 - P.174

 背景:腰痛の多くは診断法の少なさゆえに非特異的腰痛とされる.本研究では腰痛部位における圧痛の特性を調べた.

 対象と方法:腰痛症例372例,4kgfの圧迫力で痛みが知覚された点を圧痛点とし,疼痛知覚部位に圧痛点が存在した場合を圧痛陽性とした.圧痛点出現率と他の臨床データとの関連性を検討した.

 結果:圧痛点は全症例の18.8%に認められた.圧痛と相関性が認められたのは日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)疼痛関連障害と腰痛強度尺度ランク値であった.圧痛と性別,罹病期間,疼痛強度(VAS),JOABPEQ腰椎機能障害点数には相関性を認めなかった.

 まとめ:腰痛患者の圧痛は腰痛の客観的な重症度に相関して現れる徴候であることが示唆された.

症例報告

小児の頚椎に生じたランゲルハンス細胞組織球症に対し保存加療を施行した2例

著者: 中井隆彰 ,   王谷英達 ,   濱田健一郎 ,   竹中聡 ,   田中太晶 ,   中紀文 ,   岩崎幹季 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.175 - P.179

 小児の頚椎に発生したランゲルハンス細胞組織球症(以下,LCH)と考えられる症例に対し,ステロイド加療を行い奏効した2例を経験したので報告する.症例は6歳および13歳の男児で,主訴はともに頚部痛であり,画像検査で頚椎の溶骨性病変を認めた.LCHの可能性を考え入院管理下にステロイド加療を施行し,症状の消失および骨形成を認め軽快退院となった.小児の頚椎に生じた腫瘍様病変でLCHを強く疑う際は,ステロイド加療を試みるのも1つの選択肢と考えられた.

腰椎黄色靱帯内血腫に対し内視鏡下手術を行った1例

著者: 上田康博 ,   三崎智範 ,   林雅之 ,   石黒基 ,   中西宏之 ,   上野琢郎 ,   村田淳 ,   山内茂樹

ページ範囲:P.181 - P.184

 症例は63歳の男性で,2カ月前からの腰痛と両大腿部痛を主訴に受診した.発症1カ月後のMRI上,L3/L4椎間板高位で硬膜管右背側の占拠性病変による硬膜管の圧迫を認めた.発症2カ月後のMRIで病変の信号強度の経時的変化を認め,黄色靱帯内血腫と診断した.内視鏡下に黄色靱帯内から血腫の排出を確認し靱帯を切除した.術後,腰下肢痛は軽快した.病理組織像で靱帯内の出血像を認め,黄色靱帯内血腫と確定診断した.MRIで血腫の信号強度は時期によりさまざまで術前診断は難しいが,黄色靱帯内血腫と診断できれば内視鏡下手術が可能と考えた.

健常成人に発生したサルモネラによる膝関節周囲膿瘍の1例

著者: 安藤友樹 ,   中島浩敦 ,   高津哲郎 ,   山本拓也 ,   大野徹二郎 ,   酒井康臣 ,   伊藤茂彦 ,   中野健二

ページ範囲:P.185 - P.189

 われわれは健常成人の膝関節周囲に発生したサルモネラ膿瘍の1例を経験した.症例は25歳男性で,38℃台の発熱と膝関節痛および周囲の腫脹があった.MRIで大腿内側広筋内から膝窩部に多房性の腫瘤像を認め,膿瘍を疑い穿刺で白色の膿を吸引した.培養で非チフス性サルモネラ菌が検出された.切開排膿ドレナージと抗菌薬投与で治癒した.

頚椎前方固定術施行後17年でプレートが食道穿孔を来した1例

著者: 山下一太 ,   生熊久敬 ,   村岡聡介 ,   清野正普 ,   渡嘉敷卓也 ,   前原孝 ,   横山良樹

ページ範囲:P.191 - P.194

 患者は76歳の男性で,59歳時に頚椎骨折を受傷し,頚椎前方固定術を施行した(プレート使用C4-6).術後17年で嚥下障害を自覚していた.内視鏡でインプラントが食道を穿孔しているのを確認し,外科・耳鼻科と合同で手術を施行した(プレート抜釘,食道瘻閉鎖,Tチューブ留置,胃瘻造設).合併症なく経過し,嚥下障害は消失した.術後長期の経過観察に加え,骨癒合後の抜釘の必要性について検討する必要があると思われる.

--------------------

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.197 - P.197

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.198 - P.198

文献の書き方 フリーアクセス

ページ範囲:P.199 - P.199

あとがき フリーアクセス

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.200 - P.200

 今月号は誌上シンポジウムとして「関節リウマチ—生物学的製剤使用で変化したこと」が取り上げられた.このテーマは読者の皆様方が待ちに待った内容であろう.2000年代以降多くの生物学的製剤が出現し,リウマチの治療は症状緩和治療から臨床的寛解治療へ大きく変化した.すでに本邦でも寛解率は25%を越えてきており,関節破壊抑制効果が顕著となった.この生物学的製剤が保存的治療効果のみならず,リウマチ外科,特に関節外科と脊椎外科へ与えた影響は大きいと思われるが,製剤発売後10年を超えた現在,実際にどのような功罪が起こったのかを評価すべき時期にきていると思う.

 リウマチ関節外科,脊椎外科領域のトップランナーにその詳細を誌上討論していただいている.なるほどと思われる読者や,意外な感じを受ける読者もいらっしゃると思うが,今回のシンポジウムでは非常に興味深い内容となっており読み応えがあると思う.私たちが生物学的製剤の功罪を考えるうえで,最も重要な点は「罪」も忘れてはならないことである.今回の誌上シンポジウムでは,手術後の局所感染や創治癒へ与える変化,そして間質性肺炎,結核などの感染性疾患を含んだ内科的合併症の変化も取り上げられている.特に整形外科医として,術後感染の頻度や薬剤開始時期の問題,そしてその対処方法などは是非知りたい内容である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら