icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科51巻11号

2016年11月発行

雑誌目次

視座

外様から親藩へ,公から私へ

著者: 出家正隆

ページ範囲:P.999 - P.999

 愛知に来て1年が過ぎたところである.生活には,夏の暑さと味噌の味を除けば戸惑いはなくなった感じだが,仕事ではいろいろ戸惑いが続いている.そんな中,突然昔,『医学部教授,3日やったらやめたくなる』という本があったのを思い出した.1992年発刊となっていたので,私が医者になって5年目のことである.当然その当時はあまり関心はなく,まあそうは言ってもきっといいこともあるのだろうと思っていたのではないかと思う.すでに本はどこかに行ってしまっていたのでネット検索すると,書かれた先生は名古屋大学第1外科の教授であったことを初めて知った.なんとなく親しみを感じてしまった.

 では,なぜ辞めたくなる点に共感するのか.

誌上シンポジウム 骨粗鬆症診療—整形外科からの発信

緒言 フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.1000 - P.1000

 整形外科医は,骨,筋肉,神経,脈管系などの身体運動に関わる様々な組織・器官を統合的にマネジメントする運動器のスペシャリストである.その整形外科医が取り組む運動器疾患の重要性については,近年の積極的なロコモティブシンドローム啓発活動などにより,広く認識されるようになってきている.

 骨粗鬆症は,ロコモティブシンドロームを引き起こす主な要因の1つであり,現在,骨粗鬆症の罹患者は全国民の10人に1人ともいわれているが,今後も進行するわが国の高齢者社会では,患者数がより増加することは予想に難しくない.近年の数多くの骨粗鬆症治療薬の登場により,多くの診療科医師が骨粗鬆症の治療にあたっているが,脆弱性骨折に対する予防,投薬,手術,リハビリなど多方面からの総合的なマネジメントを行えるのは,運動器スペシャリストの整形外科医をもって他にはなく,整形外科医が骨粗鬆症治療に積極的に取り組んでいくべきなのは論を俟たないであろう.

骨粗鬆症 総論

著者: 宗圓聰

ページ範囲:P.1001 - P.1006

 健康寿命を延伸するためには,骨粗鬆症に対する積極的な介入によって骨折を予防することが重要である.骨粗鬆症の診断に際しては骨折危険因子に関する検討と鑑別診断が不可欠である.診断基準と別に薬物治療開始基準がガイドラインで示されており,本基準に基づき積極的な治療開始が望まれる.さらに,治療の継続も図っていく必要がある.

FRAX®を用いた骨粗鬆症スクリーニング法の開発と新しい医薬連携モデルの構築

著者: 山本憲男 ,   安田健二 ,   魚谷知佳 ,   杉原信 ,   荒井國三 ,   正源寺美穂 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.1007 - P.1015

 FRAX®はWHOが開発したFracture Risk Assessment Toolであり,無料で誰でも使用することができる.われわれは骨粗鬆症検診受診者において,%YAM値とFRAX®値との関連を検討し,骨粗鬆症スクリーニングのためのFRAX®カットオフ値を各年代で算出した.われわれはこのカットオフ値を用い,保険薬局におけるFRAX®による骨粗鬆症スクリーニングと,新しい骨粗鬆症薬物治療の医薬連携モデルの構築を目指した活動を行っている.このモデルを通じて,医院と調剤薬局とのより積極的な情報共有による医薬連携体制を確立させることは,骨粗鬆症以外のさまざまな疾患においても,医療の安全性を高め,質の高い地域医療を提供するための重要な礎ともなる.

骨粗鬆症マーカー

著者: 斎藤充 ,   丸毛啓史

ページ範囲:P.1017 - P.1025

 骨粗鬆症は骨強度が低下する疾患である.骨石灰化度と骨の微細構造は骨の新陳代謝機構である骨吸収と骨形成のバランスにより規定されるのに対して,骨の主要な骨性成分であるコラーゲンの強度は,骨芽細胞機能やコラーゲン周囲の環境(酸化ストレス,糖化ストレス)に依存する.前者は骨代謝マーカー(骨吸収,形成マーカー)を用いて評価することが可能であるが,後者は,コラーゲンの劣化物質である終末糖化産物(ペントシジン,カルボキシメチルリジン)や,劣化の原因となる生活習慣病関連因子(ホモシステイン,HbA1cなど)を測定することにより評価する.

骨粗鬆症と骨折治療

著者: 酒井昭典 ,   善家雄吉 ,   目貫邦隆 ,   平澤英幸 ,   山中芳亮 ,   田島貴文

ページ範囲:P.1027 - P.1034

 近年,骨粗鬆症を基盤とした高齢者の骨折を治療する機会が増えている.適切な骨折治療を行うためには,骨粗鬆症の病態を理解しておく必要がある.骨密度が低いと骨折部の安定性を獲得するための工夫が必要になる.ロッキングプレートに代表される内固定材料の進歩と低侵襲の手術手技により,骨粗鬆症性骨折であっても積極的に手術を行い,安定した臨床成績を獲得することが可能になってきた.骨粗鬆症で用いる臨床用量の骨吸収抑制剤は,骨折の治癒過程に特段の影響を及ぼさないことから,骨折の連鎖を断つために骨粗鬆症に対する薬物治療を骨折後早期から開始し,そして継続することが大切である.

増加し続ける骨脆弱性骨折に対する「チーム」での取り組み—Fragility Fracture Network

著者: 今井教雄 ,   遠藤直人

ページ範囲:P.1035 - P.1039

 諸外国で大腿骨近位部骨折の発生率が減少に転じている地域があるが,日本では依然増加傾向である.大腿骨近位部骨折を来した者は反対側の大腿骨近位部骨折の高リスク者であり,また,ADLおよびQOLを下げてしまうことからも,この骨折の二次骨折予防を進めることは喫緊の課題である.そのためには病院内の多職種連携,病院-病院,病院-診療所連携を深め,全体として共通の認識を持った「チーム」として連携システムを構築し,シームレスな治療とケアなどの対応を行うことが重要である.

骨粗鬆症と運動療法

著者: 宮腰尚久

ページ範囲:P.1041 - P.1047

 骨粗鬆症に対する運動療法は,主に,骨密度の維持・増加や骨折を防ぐための転倒予防を目的として行われる.骨密度に対しては,骨に刺激が加わりやすい運動が有効であり,転倒予防には,バランス訓練や下肢の筋力訓練が有効であると考えられる.運動療法の一次骨折予防に対する有効性は明らかであるが,二次骨折予防に対する有効性のエビデンスは乏しい.運動療法は,骨粗鬆症患者の慢性腰背部痛の軽減や脊柱後弯の予防にも効果がある.

骨折リエゾンサービス

著者: 萩野浩

ページ範囲:P.1049 - P.1053

 脆弱性骨折後には骨折リスクが高まるにも関わらず,二次骨折予防が適切に実施されていなかった.そこで,英国では1990年代終わりからコーディネータによる二次骨折防止の取り組み,骨折リエゾンサービス(FLS)が開始された.FLSは効率よく骨折を予防することが可能で,大腿骨近位部骨折をはじめとした脆弱性骨折の発生率,生存率の改善がもたらされた.わが国ではコーディネータが介する骨粗鬆症治療を骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS®)と呼び,二次骨折防止のほかに,診療所や地域での一次骨折予防もその活動に包含される.

論述

腰椎変性疾患に対する内視鏡下片側進入両側除圧術の中期成績

著者: 佐々木真一 ,   小森博達 ,   北原建彰 ,   沼野藤希 ,   四宮謙一 ,   大川淳

ページ範囲:P.1055 - P.1059

はじめに:腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡下片側進入両側除圧術(MEL)の術後経過3年の中期臨床成績を調査した.

対象と方法:2005年11月から2012年11月まで当院で腰部脊柱管狭窄症に対しMEL施行後,3年以上の経過観察が可能であった50例を対象とし,臨床成績を評価した.

結果:臨床成績は良好であったが,無症候性の進入側の椎間板楔状化の進行や除圧不足を原因とした成績不良例も一部含まれていた.

まとめ:本術式を行う際,限られた視野の中で,必要十分な範囲の除圧を行うための手技に習熟することが重要である.

最新基礎科学/知っておきたい

筋衛星細胞の制御機構

著者: 堀内圭輔

ページ範囲:P.1060 - P.1064

はじめに

 骨格筋は生体で最大の臓器であり,運動器の原動力となる組織である.骨格筋の大きな特徴として,その高い再生能力と,外的環境に対する優れた適応能力が挙げられる.しかしながら,この骨格筋の特性は加齢とともに低下し,高齢者における運動器機能不全の要因となる.筋組織は,多核の筋線維細胞で主に構成されるが,これまでの研究から様々な細胞種が筋組織中に存在し,その機能維持に重要な機能を担っていることが解明されつつある.本稿では筋衛星細胞(satellite cell,以下SC)を中心に,近年発展が目覚ましい筋代謝学の一端を概説する.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・2

痛みのメカニズムに応じた集学的治療

著者: 牛田享宏

ページ範囲:P.1066 - P.1068

はじめに

 慢性痛とは,治癒するのに要する時間が経過しても何らかの理由で痛みが続く状態を指す.本邦では人口の15%以上が有しているが,慢性痛患者は疼痛部位の問題(器質的要因)以外に精神的な要因や心理社会的な要因も複雑に絡み合って痛みを長引かせていることが多く,有効な治療が行われていないことが考えられる.現在の急性痛の処置・治療方法では改善困難であり,医療経済学的損失や社会損失となっている.このような複雑な痛みの診療は,病態を多面的に分析・治療する必要があるため,多職種が連携し様々な角度から治療にあたる必要がある.その際,レッドフラッグの除外は必須であり,さまざまな検査を行って重大な病変の有無を精査しなければならない.

東アフリカ見聞録・11

ナイルに生きる(Living with the Nile)

著者: 馬場久敏

ページ範囲:P.1070 - P.1072

 19世紀ビクトリア王朝の大英帝国は,アフリカ大陸北端のエジプト王国から英領ケープ植民地(現在の南アフリカ)までのアフリカ大陸を南北に繋ぐ鉄道敷設を企てた.「アフリカのナポレオン」とも呼ばれたケープ植民地政府首相のセシル・ローズ(Cecil John Rhodes,1853〜1902)は,その実現に政治的にも経済的にも画策した.その結果,ローズはローデシアという“ローズの国”を創った(現在のザンビアとジンバブエ).なるほどスーダンから旧英領東アフリカ,旧ローデシアなどは地政学的にほぼ縦直線に英保護領として繋がっている.しかし,7つの海を征しても,ナイル・デルタ(エジプト)から喜望峰まで,鉄路が繋がることは終ぞなかった.

 エジプト奥地(Upper Egypt)のスーダン・サハラでは,ナイルの水利を得て,ブラック・ファラオ治世のヌビア王国などが古代エジプト王国の治世以前に勃興していた.さらにサハラを越えてウガンダまでナイル(白ナイル,ヴィクトリア・ナイル)を上れば,紀元前1,000年頃には西方のカメルーン辺りに興ったバンツー族が東へ遊動(migrate)を開始し,彼らはビクトリア湖周辺に定住しはじめた.しかし,それよりはるか以前の約6,000年前の新石器時代には,もう既にビクトリア湖周辺に狩猟採集文明が興り,下って列強の侵入以前のウガンダでは,最強のブガンダ王国の他にバソウガ,ブニョロ,アンコレなどの高度な文明を持つ諸王国が割拠し繁栄を極めていた.

臨床経験

高齢者の急性腰痛症における痛みの質と骨粗鬆症性椎体骨折の関係—椎体骨折早期診断のための腰痛の質的評価の有用性

著者: 大塚和史 ,   佐藤充彦 ,   武井大輔 ,   柴代紗衣 ,   野尻正憲

ページ範囲:P.1073 - P.1078

背景:骨粗鬆症性椎体骨折に対する保存療法において,四肢骨折と同様,早期診断と適切な保存療法により偽関節は減らせると予想される.

対象と方法:高齢者の急性腰痛の質を評価し,MRI診断による椎体骨折の有無との関係を後ろ向きに調査した.

結果:『歩けるが寝起きでズキッとくる鋭い痛み』を訴える患者の7割に椎体骨折を認めた.初診から平均0.4日で保存療法が行われ,偽関節は1例も発生しなかった.

まとめ:骨粗鬆症性椎体骨折で特徴的にみられる痛みの質に注意し,早期診断を行うことによって偽関節を減らせる可能性がある.

関節リウマチ手関節障害に対する軽度掌屈位での手関節全固定術

著者: 河野慎次郎 ,   大村泰人 ,   川邊保隆 ,   関口浩五郎 ,   織田弘美

ページ範囲:P.1079 - P.1084

 関節リウマチ手関節障害で関節破壊や不安定性が強い症例に対して手関節全固定術は有用であるが,筆者らは5〜10°の軽度掌屈位で固定を行っている.今回筆者らが固定を行った6名8関節の術後調査では,1関節が転位で背屈位となっていたが,手術後も回内外可動域は保たれ,疼痛は軽減し,患者の満足度は高く,掌屈位固定により不具合は生じていなかった.関節リウマチ手関節障害に対する軽度掌屈位固定は有用な方法である.

溝構造でロッキングされるポリエチレンライナーを用いた初回人工股関節置換術後に発見された寛骨臼底骨折

著者: 長谷川真之 ,   中村琢哉 ,   丸箸兆延 ,   上島謙一 ,   笹川武史 ,   舩木清伸 ,   瀬川武司

ページ範囲:P.1085 - P.1089

背景:溝構造でロッキングするポリエチレンライナーを使用したセメントレスの初回人工股関節置換術(THA)後の寛骨臼底骨折を経験した.

対象および結果:初回THAの215例246関節のうち,寛骨臼底骨折を5例6関節(2.4%)に認めた.全例が後日仮骨を認め骨折と判断され,保存的に加療した.

まとめ:溝構造でロッキングするポリエチレンライナーは,打ち込み時の嵌合荷重が大きく,ポリエチレンライナー挿入時に骨折を起こす危険性があり注意が必要である.

低侵襲腰椎後方椎体間固定術(Mini-open TLIF)の中期成績

著者: 佐々木真一 ,   小森博達 ,   沼野藤希 ,   榊経平 ,   四宮謙一 ,   大川淳

ページ範囲:P.1091 - P.1095

目的:低侵襲腰椎後方椎体間固定術の術後5年の中期臨床成績を調査した.

対象と方法:1椎間の腰椎変性疾患に対し本術式施行後,5年以上の経過観察が可能であった46例を対象とし,臨床成績を調査した.

結果:手術時間,出血量ともOpen TLIFと比較し少ない傾向にあり,臨床成績も良好であった.術後MRIでは,経皮椎弓根スクリュー側で特に背筋侵襲が小さかった.

まとめ:本術式は従来法と比較し,出血量,手術時間とも少ない傾向にあり,また背筋侵襲も軽減され,腰椎変性疾患に対する低侵襲腰椎後方椎体間固定術として応用できる.

--------------------

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.997 - P.997

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1097 - P.1097

あとがき フリーアクセス

著者: 山本卓明

ページ範囲:P.1100 - P.1100

 本年8月から,本誌「臨床整形外科」の編集委員を務めることになりました福岡大学整形外科の山本卓明です.これまで,股関節疾患を中心とした臨床・研究を行って参りました.日常臨床に役立ち,そして日々の疑問に対する何らかの方向性を示すことができるよう,微力ではありますが,私自身も勉強しながら務めて参る所存です.どうぞよろしくお願い致します.

 今月号は,他分野が関与している代表的疾患である「骨粗鬆症」に対する整形外科からの発信,という観点で特集が組まれています.非常に興味深く,かつ有意義な内容ばかりです.今の時代,他科から孤立し,整形外科単独で治療を行うことは,非現実的です.整形外科だからできる特徴をしっかりとアピールしつつ,他科と連携し,患者さんに最も恩恵がある治療体系を構築していく必要があると思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら