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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科51巻3号

2016年03月発行

雑誌目次

視座

行き過ぎた英語教育

著者: 河野博隆

ページ範囲:P.215 - P.215

 小学校低学年から英語教育が必修化される.国際化に向けた英語重視の傾向が強まり,医師のカンファランスも英語教育の一環として英語で行われることが増えている.

 国際化が進んだ今日,日本人の外国語による表現力やコミュニケーション力が劣るために,十分な内容があるにもかかわらず正当な評価を受けることができず,国際間の競争で不利になることがあるのは事実である.とはいえ,全国民が表層的な挨拶や日常会話ができるようになることよりも,もっと重要なことがあるのではないだろうか.外国語の表現力やコミュニケーション能力を磨くことに意義があることは議論の余地がない.しかし,語るべき中身や母国語の表現力を磨く以前に,道具としての英語を身につけることに忙殺されるのは,まさに本末転倒と感じる.

誌上シンポジウム 半月変性断裂に対する治療

緒言 フリーアクセス

著者: 堀部秀二

ページ範囲:P.216 - P.216

 MRIや鏡視下手術の普及などにより,膝疾患に対する診断・治療は飛躍的に進歩してきた.中でも半月の変性(断裂)は,MRIで比較的容易に診断できるようになってきたが,症状が多彩で,軟骨損傷などを合併していることも多く,変性断裂と診断しても,どのように治療するか悩むことも少なくない.今回の特集では,この分野での第一人者6名の先生方に,半月変性断裂の治療をどう行うかについて,最近の知見も含め,話題提供をしていただいた.

 渡辺淳也先生は,合併する変形性膝関節症(OA)の評価も含め,関節内病変を広く捉えることが可能な撮像法を用いることが必要との立場で,半月変性断裂のMRI評価法および中高年のMRI所見の特徴と症状との関連について,わかりやすく解説していただいた.大森豪先生は,変性断裂に対する治療のゴールは,臨床症状の改善と再発予防と考え,OAとの関連性も考慮して保存治療を第一選択とすべきであるが,一定の効果は期待できるものの十分ではないと述べられている.保存治療で症状が改善しなければ,切除術を選択せざるを得ないが,上松耕太先生は,15年以上経過した内側半月断裂症例の自験例を元に,成績は良好ではあるが,アライメント,切除範囲,スポーツ活動などを考慮して,将来のOAリスクが高い人には,縫合術や再生医療の必要性を述べられている.変性断裂に対する縫合術の適応を拡大して積極的に行っている萩原敬一先生には,手術方法を中心に解説していただいた.若年者には変性断裂は稀だが,中田研先生には,3次元動態MRを用いた診断と縫合術の工夫だけでなく,生体材料などを補填する治療法の可能性についても述べていただいた.中川裕介先生には,東京医科歯科大学で施行されている滑膜由来間葉系幹細胞を用いた治療法について,最近の臨床試験も含めて紹介していただいた.

半月変性断裂のMRI所見

著者: 渡辺淳也

ページ範囲:P.217 - P.221

 近年,膝関節への過剰な負荷などに起因する中高年の半月断裂が問題となっている.中高年の膝MRIでは,半月内の信号強度異常域を認めることが多く,半月変性,断裂を反映するとされる.中高年の半月変性,断裂は加齢や変形性膝関節症に伴って生じる二次的な変化であり,必ずしも臨床症状とは関連しない.より正確な診断と治療のためには,適切なMRI撮像法を用いて半月病変,および合併する膝OAなどに伴うさまざまな病変を検知し,臨床症状との関連を慎重に判断することが重要である.

半月変性断裂に対する保存治療

著者: 大森豪

ページ範囲:P.223 - P.227

 半月変性断裂は複合断裂が多く変形性膝関節症(膝OA)との関連性が指摘されているが,明らかに膝OAになっていない病態があり臨床症状も一定ではない.本症に対する保存治療は治療の第一選択であり,安易に半月切除を行うべきではない.しかし,保存治療は現時点で対処療法が中心であり,一定の効果は期待できるが十分とはいえない.したがって,保存治療に対する患者さんの満足度と希望を踏まえたうえで,次段階の治療も念頭に入れた適切な対応が必要と考えられる.

中高年の半月変性断裂に対する治療:切除術

著者: 上松耕太

ページ範囲:P.229 - P.232

 半月変性断裂において関節症の招来の可能性を考慮すると,できるだけ半月を温存することが望ましいため,保存療法を第一選択とすべきである.症状の改善がなければ鏡視下手術となるが,半月の状態が悪く温存しても再手術の可能性が高いと判断した場合は切除術が施行される.中高年では加齢による半月の変性がみられ,切除術を選択する症例が多い.

 本稿では,中高年の半月変性断裂の対する切除術における長期成績や今後の課題について記述する.

中高年の変性半月断裂に対する治療:縫合術

著者: 萩原敬一 ,   木村雅史 ,   柳澤真也 ,   生越敦子 ,   伊東美栄子 ,   中川智之 ,   片山和洋

ページ範囲:P.233 - P.238

 中高年における半月断裂は基盤に変性があるため,その多くは切除術が選択されてきた.しかし近年,半月の重要性が再認識されるようになり,半月縫合術は変性断裂に対しても適応を拡大しつつある.本稿では中高年の変性半月に特徴的な断裂形態を示し,それぞれに対する当施設における縫合術の実際を概説する.

若年者の半月変性断裂に対する治療

著者: 中田研 ,   前達雄 ,   武靖浩 ,   下村和範 ,   橘優太 ,   横井裕之 ,   大堀智毅 ,   花井達広

ページ範囲:P.239 - P.246

若年者半月変性断裂の病態

 半月は,膝関節内の線維軟骨で,荷重分散,衝撃吸収,滑動,安定性など生体力学的に重要な機能を担う運動器官であり,コラーゲン線維とプロテオグリカンの豊富な細胞外マトリックスを持ち,この細胞外マトリックスが粘弾性体としての力学的特性を持っている.半月損傷は,1回の大きな外力により断裂する場合と,繰り返す比較的小さい外力により損傷を来す場合があるが,変性断裂は繰り返す比較的小さい外力による損傷と考えられている.繰り返す荷重や剪断力の力学的ストレスにより,半月の主要構成成分であるコラーゲン膠原線維の微小断裂や,衝撃吸収機能を果たすプロテオグリカンの減少などを来す1)

 半月の変性は,加齢や微小外力により,肉眼レベル,顕微鏡レベル,分子レベルでさまざまな変化として示されている.細胞外マトリックスの膠原線維の微小断裂やプロテオグリカンの減少や増加を伴い,正常半月でみられる膠原線維の秩序だった線維走行が崩れて乱れた配列となり,細胞外マトリックスの構成,配列に異常がみられる2).さらに,これらの微小損傷に対する修復反応として炎症細胞の浸潤や半月細胞の増殖または減少がみられ,血管や神経の浸潤や増生がみられる.これらの細胞外マトリックスと細胞の分子レベル,マクロ分子レベルの変化から,組織レベルでは線維化,脂肪化,石灰化がみられる.肉眼や関節鏡視では,正常半月は表面平滑な弾力性をもつ白色の滑らかな組織であるが,変性半月は,表面のけば立ちや細かな溝やはがれなどの粗造化がみられ,硬化や軟化,膨化などとともに黄色変色などの外見上の変化がみられる.

半月変性断裂に対する細胞治療の試み

著者: 中川裕介 ,   宗田大 ,   関矢一郎

ページ範囲:P.247 - P.253

 半月は治癒能力が低く,縫合術は適応が限定され,再断裂などの問題もある.特に半月変性断裂では縫合術の成績は悪く,切除術の適応とされる.われわれは滑膜由来間葉系幹細胞(滑膜幹細胞)は増殖・軟骨分化能が高く,移植により半月の再生が促進されることを示してきた.今回,前臨床試験として,ピッグの内側半月無血行野に縦断裂を作製し縫合後,滑膜幹細胞を局所投与し,損傷部の治癒が促進されるか検討した.この結果に基づき,2014年8月から一般的には切除術の適応となる半月変性断裂に対する臨床試験を実施した.安全性を確認し,現在その有効性を検討している.

手術手技

隣接上位神経根障害を呈した頭側転位型腰椎椎間板ヘルニアに対する手術アプローチ法の検討

著者: 上田康博 ,   三崎智範 ,   林雅之 ,   中西宏之 ,   八野田愛 ,   岩永健志 ,   村田淳

ページ範囲:P.255 - P.259

背景:頭側転位型腰椎椎間板ヘルニアに対する手術においてアプローチ法に迷うことがある.

対象と方法:頭側転位型腰椎椎間板ヘルニア28例を対象とし,open法とMED法の術式別に罹患高位とアプローチ法,手術成績を検討した.

結果:Open法ではすべて椎弓間進入が選択され,2椎弓間からの進入が大半を占めたのに対して,MED法では上中位腰椎では経椎弓的あるいは外側進入が,下位腰椎ではヘルニアの局在に応じて椎弓間進入も選択されていた.

まとめ:経椎弓的進入や外側進入は低侵襲で固定術を回避しうるアプローチ法と考えた.

整形外科/知ってるつもり

痛みの可視化と疼痛緩和に必要なリエゾン治療の実際

著者: 林和寛 ,   池本竜則 ,   牛田享宏

ページ範囲:P.260 - P.268

はじめに

 痛みは不快な感覚・情動経験であり,侵害刺激に起因するだけではなく,認知・情動的側面が影響を及ぼすことが知られている.多様な要因がかかわる「痛み」を客観的にとらえるために,脳内神経活動を用いた評価の試みが行われている.本稿では,痛みにかかわる脳内神経活動の知見を紹介するとともに,痛みを遷延させる認知・情動的要因の評価と介入方策を概説し,患者の痛みにかかわる問題を解決するための一助としたい.

ロッキングプレート

著者: 山川泰明 ,   野田知之

ページ範囲:P.270 - P.274

ロッキングプレートとは?

 スクリューとプレートが一体化し,その複合体が高い角度安定性を示すプレートシステムがロッキングプレートである.従来のプレートは,スクリュー挿入によってプレートを骨に押し付け摩擦を生じさせることによって固定性を得ていたが,ロッキングプレートはねじ切りされているスクリューホールを有し,ねじ切りされたスクリューヘッドもしくはロックナットをプレートに挿入することでねじ切り部分同士がロックし,プレートとスクリューが一体化する(図1-a).ロッキングプレートではスクリューとプレートを介して荷重伝達が行われるため,プレートと骨が接触する必要はない(図1-b).ロッキングプレートによる架橋プレートはあたかも創外固定器を体内に入れたかのような固定原理であり,“創内固定(internal fixator)”とも呼ばれる.

Lecture

腫瘍型人工関節の手術部位感染

著者: 森井健司

ページ範囲:P.275 - P.282

はじめに

 腫瘍型人工関節の手術部位感染(surgical site infection,以下SSI)は管理が困難であり,克服すべき合併症の1つであるが,骨軟部腫瘍治療の特性として,①機能よりも救命や確実な切除が優先されること,②手術部位が多様であること,③患者背景が多岐にわたることに加えて,④症例数が少ないことが研究を困難なものとしており,他領域の感染症研究と比べて,解析が遅れがちである.独立変数の多様性と症例の希少性ゆえランダム化比較試験の遂行は困難であり,本分野での知見はいまだ後方視的研究によるところが大きい.筆者は同領域におけるSSIの治療指針を確立することを目標として,多くの骨軟部腫瘍専門施設の先生方の支援のもと,骨軟部悪性腫瘍の周術期感染症の実態を調査しデータ集積を行ってきたが,多くの未解決の問題が残されているのが現状である.本論文では骨軟部肉腫研究会(Japanese Musculoskeletal Oncology Group;JMOG)において得られた研究成果と,同分野で報告されている最新の知見を踏まえて,腫瘍型人工関節SSIの発生頻度・発生時期・危険因子・初期症状および臨床検査データ・感染起因菌などの疫学的データ,腫瘍学的治療成績・患肢機能・患肢温存への影響,予防,治療法,今後の展望などを概説する.

連載 東アフリカ見聞録・3

手術場(Operating Theatre)

著者: 馬場久敏

ページ範囲:P.284 - P.285

 手術場というのは,われわれ整形外科医にとっては生命の次に大事で神聖なところである.自身の知識,技量精神,意志,情熱など極めて崇高なものが凝縮され,寸時もゆるみのない所作が交響詩のごとくに流れていく芸術である.単なる技術ではない.磨き上げられた知識と技量が何の澱みもなく流れていく,神々のなせる技術である.アイザック・ニュートンは“人の手は神々の意志”と評したが,その意志と技術が手術である.一般人には単なる技術であろうが,このような表現は当の本人にしかわからない.

「勘違い」から始める臨床研究—研究の旅で遭難しないために・11

比較すれば問題なし?

著者: 福間真悟 ,   福原俊一

ページ範囲:P.287 - P.291

 リサーチ・クエスチョンの大きな目的は,比較して要因とアウトカムの関連や効果を調べることです.比較を行う際には,科学的に質の高い比較をすることが重要です.今回は比較の質に関する勘違いについて取り上げていきたいと思います.

臨床経験

頚椎および腰椎椎間板ヘルニアに対する椎間板内ステロイド注入療法の効果

著者: 廣瀬裕一郎 ,   鎌田修博

ページ範囲:P.291 - P.295

 椎間板内ステロイド注入療法(以下,SIDT)は椎間板ヘルニアの保存療法の1つである.今回われわれは,1997年以降に当科において頚椎もしくは腰椎椎間板ヘルニアの診断のもとSIDTを施行した98例の治療成績について検討した.疼痛の評価にはDenisのペインスケールを用いた.施行後24週以内に疼痛がペインスケールP3以下に改善し,最終観察時点まで悪化せずに手術を回避できたものを有効とした場合,有効率は37.8%であった.治療効果が早期から現れたこと,強い下肢痛を持つ症例や頚椎例にも高い有効率を示したことから,SIDTは椎間板ヘルニアの有用な保存療法の1つであると考えられた.

症例報告

四肢麻痺を呈した第4頚椎原発の非ホジキン悪性リンパ腫の1例

著者: 福田宏成 ,   白土修 ,   岩渕真澄 ,   高橋直人

ページ範囲:P.297 - P.301

 四肢麻痺を呈した極めて稀な頚椎骨原発非ホジキン悪性リンパ腫を経験した.手術治療の有用性を報告する.症例は70歳の男性で,4カ月前から頚部から両肩甲部にかけての疼痛が出現し,前医を初診した.生検による第4頚椎骨原発非ホジキンリンパ腫の診断のもと,単独での後方固定術を施行した.しかし,術後早期に椎体への直接腫瘍浸潤による麻痺が出現し,当科初診時にはFrankel分類Bの四肢麻痺を呈していた.初診翌日に前方腫瘍摘出・固定術を緊急的に行い,術後2週の時点で化学療法を開始した.術後4週でFrankel分類Dまで麻痺は回復した.頚椎骨原発の悪性リンパ腫は渉猟し得た限り,4例の報告を数えるのみである.悪性リンパ腫の主たる治療法は化学療法であるが,手術療法も選択されうる.頚椎前方に病変がある場合では後方固定術単独では四肢麻痺発生の危険性があり,前方腫瘍摘出・再建術が1つの選択肢である.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.213 - P.213

書評 アスリートを救え スポーツ外傷・障害の画像診断 完全攻略 フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.254 - P.254

 超高齢社会を迎えている今,国民の健康に対する関心が高まっている.EBM(evidence-based medicine)は,健康の獲得や維持に運動が深く関与していることを明らかにした.体を動かすことが寿命,がん,認知症などの健康障害によい影響を与えることが,関係者の地道な啓発活動により,国民の間にも浸透し始めている.

 一方,「体を動かす」ことの象徴としてスポーツ活動がある.近年のスポーツ科学の発達は,トレーニングをはじめ,スポーツのあり方にさまざまな変革をもたらしている.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.303 - P.303

あとがき フリーアクセス

著者: 黒坂昌弘

ページ範囲:P.306 - P.306

 暖冬といわれた今年の冬も,九州などでは異常な積雪を記録し,結局は例年どおりの冬の季節が訪れました.そうかと思うと,事前に予告はあっても突然打ち上げられる某国からのミサイル発射など,世の中何が起こっても不思議な時代ではありません.医療界でも専門医制度の見直しで,多くの施設でバタバタと書類の作成,システム作りに追われています.本来は患者さんに福音をもたらすべき医療制度の改革が,官僚や政治家などの医療現場を知らない人たちの主導で方向付けされるのでは,医療の将来像はどうなることやらと不安な気持ちになります.しかし,根本的には医療従事者の心意気には関係ないことと心せねばならないと思っています.病んで病院を訪れる患者さんには最善を尽くさねばなりません.困っておられる患者さんには,救いの手を差し伸べ,痛みを和らげ,苦しみを取り除き,また病気を根治させるよう努力せねばなりません.そのためには,知識や技術の習得は大原則であり,そのために医療制度の改革もなされるべきでしょう.昨今の専門医制度や,医療の改革などをみるにつけ,苦しむ患者さんの立場を忘れてはいけないと痛感する毎日です.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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