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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科51巻5号

2016年05月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 整形外科と慢性腎不全

緒言 フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.403 - P.404

 皆さんは,CRF(chronic renal failure:慢性腎不全)とCKD(chronic kidney disease:慢性腎臓病)の違いをご存じだろうか.CRFは聞き馴染んでおられても,CKDとの違いを答えられる方は,意外と少ないかもしれない.

 CKDは,2002年に米国腎臓財団から提唱された概念であり,比較的新しいものである.CKDは,基本的には原疾患に関わらず,慢性に経過する腎臓の病気を包括して扱う疾患概念である.GFR(glomerular filtration rate:糸球体濾過量)と蛋白尿(あるいはアルブミン尿)のみからその重症度が評価され,この疾患概念が確立したことにより,腎臓病診療の標準化は大きく進展した.一方CRFとは,慢性的に低下した腎機能状態のことを指す.急性腎不全では,多くの症例で腎機能は回復することが多いが,慢性腎不全では腎機能の回復は望めないため,治療の第一目標は,維持透析や腎移植などが必要となる極度に腎機能が低下したESKD(end-stage kidney disease:末期腎不全)へ至ることを阻止すること,あるいはその時間を可能な限り遅らせることとなる.現在,本邦における維持透析患者数は30万人を超えている.これは,日本人全体の約425人に1人が維持透析を受けている状態であり,いまだその数は増加している.国民総医療費の4%弱が透析医療に投入されており,医療財源を圧迫する大きな問題となっている.そのため,生活習慣病との関連も深いこのCKDは,内科などの分野で既に広く取り組まれており,今や整形外科の一般診療においてもCKDを理解し,治療や投薬を行うことが重要となってきている.

慢性腎不全患者の周術期マネジメント

著者: 安藤智洋 ,   佐藤公治

ページ範囲:P.405 - P.409

 腎不全患者では,術前から高血圧,糖尿病,貧血などの合併症が多くみられる.周術期には,手術侵襲により腎機能の悪化,術前合併症の悪化や新たな合併症が発生しやすい.腎不全患者の周術期には腎機能悪化の防止と周術期合併症の発生防止に注意する必要がある.末期腎不全である血液透析患者では,透析期間が長期になるほど,術前合併症はより多く,より重症化しており,術後合併症の発生率は高い.透析の有無にかかわらず,腎不全患者を整形外科だけで治療することは困難であり,周術期には内科,麻酔科と連携して,慎重に周術期管理を行うことが重要である.

破壊性脊椎関節症(DSA)—診断・治療

著者: 簗瀬誠

ページ範囲:P.411 - P.418

 長期透析患者に発生する透析アミロイドーシスは,骨・関節症状を生じる.脊椎領域では,骨・関節破壊性病変とアミロイド沈着性腫瘤による脊柱管狭窄病変を生じる.本稿では破壊性病変の1つである破壊性脊椎関節症(destructivespondyloarthropathy;DSA)について概説する.DSAは,椎間板腔狭小化や椎体終板の破壊を生じて,脊椎炎と類似したX線所見を呈する.鑑別にはMRIが有用となる.DSAの除圧手術後に,破壊性病変が進行し再狭窄を生じることは少なくない.よって,CTで椎間関節の破壊像を,また動態X線像で不安定性を評価し,固定術の要否を検討する必要がある.一方,DSAの固定術後は,固定隣接椎間障害や内固定具の弛みなどの問題が高率に発生する.固定方法,固定範囲,固定材料など今後も検討を要する疾患である.

骨粗鬆症診療とChronic Kidney Disease(CKD)

著者: 山本憲男 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.419 - P.429

 慢性腎臓病(CKD:chronic kindy disease)とは,慢性に経過する腎臓病を包括する概念である.CKDの患者では腎機能回復は困難で,いかにその進行を遅らせるかが重要となる.ステージングを用いて重篤度の評価を行うが,推定糸球体濾過量(eGFR:estimated GFR)と尿蛋白から行うことができ,簡便である.腎機能が低下し,電解質バランス調整の予備能が低下しているCKDの患者では,骨粗鬆症治療により,異常血清カルシウム値を認めることがあるので,注意が必要である.一般診療における整形外科医からの投薬も,CKDへの理解とその配慮のうえでなされるべきである.

透析患者における肩障害

著者: 橋詰博行

ページ範囲:P.431 - P.435

 10年を超える長期維持透析患者での特徴的な症状である仰臥位肩痛(SPSP)は,肩峰下滑液包と腱板へのアミロイド沈着による肩峰下腔の内圧増加が主因により生じ,透析肩峰下腔病変と呼ばれる.肩峰下腔の減圧を目的とした低侵襲の内視鏡下烏口肩峰靱帯切離術(ECLR)によりSPSPは消失する.平均17年間透析を受けている208例252肩に対してECLRを局所麻酔下に行った.平均予後調査期間は6年5カ月であった.SPSPは術直後に234肩(93%)で消失した.ECLR無効例は18肩(7%)であった.日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準で術前平均61点から術後91点に改善した.再発率は9%(22肩)であり,いずれも再度のECLRを要した.3回施行3肩,4回施行2肩であった.

慢性腎不全患者における手根管症候群とばね指のDay Surgery

著者: 岳原吾一

ページ範囲:P.437 - P.442

 糖尿病性腎症に由来する透析患者は毎年増加しており,これに関連する手外科領域の代表的疾患として手根管症候群やばね指がある.透析患者の手根管症候群の特徴として,透析時の強い痛みの他に長期透析でアミロイド蛋白の沈着による屈筋腱腱鞘滑膜炎を伴い手指の著明な可動制限を来す例がある.その場合,単純な手根管開放術では改善せず,滑膜切除術の追加や症例によっては肥厚した屈筋腱に対して腱縮小術や浅指屈筋腱抜去術を行う.

 一方,ばね指はトリガリングや痛みが改善すれば患者満足度は高いため,通常の直視下腱鞘切開術の他に,外来処置室で可能な18G針を用いた経皮的腱鞘切開術も簡便で有用な方法である.長期透析例で腱の肥厚に伴い著しく手指の可動性が悪い場合には,先に述べた浅指屈筋腱抜去術を要する例もある.

Lecture

骨転移診療におけるキャンサーボードの役割

著者: 篠田裕介

ページ範囲:P.443 - P.450

骨転移診療の必要性と問題点

1.骨転移診療の必要性

 がん罹患患者数は年々増加しており,2000年には53万2,000人であったが,2015年には98万2,000人に達すると予測され1),国民の2人に1人が一生の間にがんに罹患する時代に突入した.さらに,診療技術の向上によりがんの治療成績・予後が大きく改善しており,1993年からと2003年からの各5年間にがんと診断された患者の5年相対生存率は,男性で10%,女性で8%向上している(表1).そのため,転移を有する担がん患者が激増している.

 以前は,骨転移患者の予後が悪かったため,骨転移の存在は「末期」を意味していた.また,骨転移そのものは生命に影響を及ぼさず,有効な治療法が限られていたため,骨転移は治療対象とならなかった.しかし,生存期間が延長するにつれ,疼痛や骨折・麻痺を予防し適切に診療することが,患者のADL維持,QOL改善のためにますます重要になってきた.

整形外科/知ってるつもり

3Dポーラス

著者: 神野哲也

ページ範囲:P.452 - P.456

はじめに

 人工関節や人工骨などの生体材料の進歩は,整形外科の発展に大きく寄与してきた.近年,「3Dポーラス」と称される,主として骨親和性の良好な金属を材料として作られた多孔性材料が注目されている.本稿では3Dポーラスについて,用語の意味合いや材料の特徴,臨床応用例について解説する.

最新基礎科学/知っておきたい

脊椎骨増殖性病変と骨粗鬆症を併存するびまん性特発性骨増殖症に対するテリパラチドの治療効果—靱帯骨化石灰化症自然発症モデルマウス(twy/twy)を用いた検討

著者: 濵野博基 ,   高畑雅彦 ,   太田昌博 ,   平塚重人 ,   清水智弘 ,   亀田裕亮 ,   岩崎倫政

ページ範囲:P.458 - P.465

はじめに

 脊椎骨増殖性病変を有する代表的疾患にびまん性特発性骨増殖症(DISH)がある.DISHでは,主に脊椎の靱帯に異所性骨化が生じるが1-4),骨化進展により強直が進行すると,椎体内部には応力遮蔽性骨粗鬆症が併発する5).本邦における大規模横断研究によるとDISHの有病率は全体の10%と高く,とくに80歳以上の男性では40%もの患者が罹患する6).DISHの骨折リスクは,非DISH患者と比較して高いが5,7,8),DISH患者の骨粗鬆症に対する薬物治療に関しては知見がほとんどない.

 骨粗鬆症性椎体骨折の予防効果が最も高い薬剤の1つに,副甲状腺ホルモン(PTH)製剤テリパラチド(TPD)がある.TPDはPTHの活性部位であるN端側34個のアミノ酸を遺伝子組換え大腸菌あるいは化学合成で作製したタンパク製剤である.PTHは本来血中カルシウムの主要な調節因子であり,骨基質に貯蔵されているカルシウムを動員する作用をもつため,副甲状腺機能亢進症による持続的なPTH高値では骨量は減少し,二次性骨粗鬆症を来す.しかし,1980年にReeveら9)が,PTHを間歇的に(毎日1回)投与すると,骨吸収の亢進に比べ骨形成が優位に上昇し,骨同化作用を示すことを報告した.以降,骨形成促進作用をもつ骨粗鬆症治療薬としての開発が進み,本邦では2010年から臨床使用が承認されている.

 TPD間歇的投与は,とくに海綿骨を多く含む椎体に強く作用する.海綿骨の増加だけでなく,骨梁構造も改善するため10),閉経後骨粗鬆症患者の椎体骨折リスクを著明に低下させる11,12).すなわち,TPDはDISHにおける椎体海綿骨骨粗鬆症に対しても有効と考えられる.しかしながら一方で,強力な骨形成促進作用により異所性骨化や脊椎強直などの骨増殖性病変をさらに増強させる懸念がある.

 そこで,われわれはDISHにおける応力遮蔽性骨粗鬆症および骨増殖性病変に対するTPDの効果を,マウスモデルを用いて調査した.

境界領域/知っておきたい

植皮と植皮様超薄皮弁(PSP flap)

著者: 成島三長 ,   飯田拓也 ,   山下修二 ,   林祐司 ,   田代絢亮 ,   光嶋勲

ページ範囲:P.466 - P.469

はじめに

 植皮術は1869年にスイス人のReverdinがpatch graft(薄く小さい皮膚片を水玉模様のように創面に置く植皮術)に成功して以来,さまざまに応用されている.その中で特に一般的に使用される植皮は,分層植皮と全層植皮である1)

連載 東アフリカ見聞録・5

ジャングルの王様(Another King Living in the Jungle)

著者: 馬場久敏

ページ範囲:P.470 - P.472

 共和国制をとるウガンダだが,4つのれっきとした王国が国内に現存し,国王も即位している.

 彼らは国防・政治経済を除く文化・民俗伝承のみにその権限を共和国政府から委託されているのだ.ちなみにムラゴ病院元整形外科部長のテイト・ベイイザ(Tito Beyeza)は“トロ王国文化大使”である.しかしながら,上記の国王とは別の意味で,筆者は友人のゴッちゃん医師(第1回参照)を“ジャングルの王様”と呼んでいる.

臨床経験

外側型腰椎椎間板ヘルニアに対する経皮的内視鏡下椎間板切除術(PELD)

著者: 浦山茂樹 ,   西良浩一 ,   水野昭平 ,   北川泰啓 ,   船戸貴宏 ,   出沢明

ページ範囲:P.473 - P.479

方法と対象:外側型腰椎椎間板ヘルニアに対する経皮的内視鏡下椎間板切除術(percutaneous endoscopic lumbar discectomy:PELD)の結果を後ろ向きに検討した.対象は最近3年3カ月間に連続して手術した40例で,年齢は平均60歳であった.

結果:31例(78%)が頭側移動し,11例が脊柱管内にまで移動していた.手術時間は平均82分で,主にpostero-lateral approachを38例に行い,合併症はなかった.4例で再発したが23例の神経麻痺は全例で改善した.JOAスコアは術前平均15.3点から最終時28.5点になり,改善率は96%であった.下肢痛VAS値は術前65mmから最終1mmになった.

まとめ:PELDは合併症に注意して手術すれば,疼痛は十分に消失し,成績も良好であった.したがってPELDは外側型ヘルニアに対して極めて有効な手術法であった.

症例報告

高齢者に発生した腰椎Endodermal Cystの1例

著者: 石元優々 ,   川上守 ,   中尾慎一 ,   松岡淑子 ,   安岡弘直 ,   長田圭司

ページ範囲:P.481 - P.485

 高齢者に発生した腰椎endodermal cystの1例を経験した.症例は73歳の男性,両膝から下腿のしびれを主訴に当院を紹介され受診した.MRIでL2/L3高位の馬尾腫瘍とL3/L4,L4/L5高位の脊柱管狭窄を認めた.手術において囊腫様の腫瘍摘出とL2-L5除圧固定術を行った.MRI所見に特徴的なものはなく,病理組織検査で確定診断を得た.術後,患者のQOLは改善し高い手術満足度を得られているが,MRIにおいてcystの一部と思われる輝度変化が残存しているため,今後の経過観察が必要である.

再手術を要した後縦靱帯骨化症を伴った頚椎脱臼骨折の1例

著者: 玉置康之 ,   百名克文 ,   田中康之 ,   川井康嗣 ,   打越顯 ,   岩井輝修 ,   光澤定己 ,   土井浩平 ,   神頭誠 ,   梅本啓央 ,   小椋隆宏

ページ範囲:P.487 - P.490

 再手術を要した後縦靱帯骨化症を伴った頚椎脱臼骨折の1例を経験したので報告する.症例は70歳,女性で,distractive flexion typeのC5/6脱臼骨折に後縦靱帯骨化症を合併していた.徒手整復で神経症状が改善傾向を認めたため,非除圧での前後方固定手術を行った.しかし,術後麻痺が進行し,MRIでC5/6の狭窄が増悪していたため,緊急後方除圧固定手術を行った.術後,症状は改善し,術後1年でFrankel分類D,骨癒合も得られた.既存の脊柱管狭窄がある強直性脊椎を伴った頚椎脱臼骨折の手術法は,後方除圧固定が望ましいと思われた.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.401 - P.401

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.491 - P.491

あとがき フリーアクセス

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.494 - P.494

 今年は平年より早く,都内で桜の開花宣言が出されました.毎年,3月中旬を過ぎますと日本中がこの話題で盛り上がります.寒い冬が終わり,暖かい春を迎えて美しい桜の花を愛でますと,心も高揚します.「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし(世の中に桜の花がなければ春はどれだけのどかな気分になれるのだろう)」と詠んだ平安時代初期の歌人,在原業平の心境がよく理解できます.一方で業平は「桜花 散り交(か)ひ曇(くも)れ 老いらくの 来(く)むといふなる 道まがふがに(桜の花よ,散り乱れてあたりを曇らせてくれ.老いがやってくる道が分からなくなるように)」とも詠んでいます.これは40歳を迎えた時の権力者,右大臣藤原基経に対するお祝いの歌として詠まれたそうです.諸説では平安時代の平均寿命は40歳に満たなかったということなので,40歳というと十分にお祝いに値する年で,同時に老いを心配する年でもあったのだと思われます.ところが現在では,医学の発達,栄養状態,生活環境の改善から平均寿命はその当時の倍以上に伸びており,高齢者が増加し,40歳というとこれから働き盛りというところです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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