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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科52巻4号

2017年04月発行

雑誌目次

視座

足の裏の米粒

著者: 安達伸生

ページ範囲:P.317 - P.317

 「博士の学位とかけて,足の裏の米粒と解く.その心は,取っても食えないが取らないと気持ち悪い.」この謎かけは当初,医療関係の学位取得に関して言われたものらしいが,現在は取得してもあまり役に立たない資格について広く言われる.古い謎かけであるが,大変言い得て妙である.確かに靴や靴下に入った小さな異物は大変気持ち悪く,何とかして取り除きたくなるものだ.奇妙に足を振って靴に入った小石の位置を微妙に変えた経験が誰にでもあるはずである.今日は「足の裏」について考えてみたい.

 古代の哲学者アリストテレスは人間の感覚を,視覚,聴覚,嗅覚,味覚,触覚に分け,五感と呼んだ.そのうち人間の触覚は大変繊細であり,ある報告によると人の指先は数マイクロメートルの点や数十ナノメートルの凹凸を判断できるらしい.四肢歩行から直立歩行への進化の過程において,多くの機能や役割を担うようになった手,手指に与えられた素晴らしい能力である.一方,足底の感覚に関する研究は非常に少なく,詳細は明らかではない.足の裏は東洋医学では「第二の心臓」,「体の地図帳」とも呼ばれる.足の裏には60〜70個のツボ(経絡)があり,体中の各臓器と経絡により関連付けられており,大変重要視されている.

論述

脊椎術後せん妄の危険因子の検討とスクリーニングツールの開発

著者: 圓尾圭史 ,   西井理恵 ,   橘俊哉 ,   有住文博 ,   楠山一樹 ,   木島和也 ,   吉村知穂 ,   前林憲誠 ,   吉矢晋一

ページ範囲:P.321 - P.326

背景:高齢者手術の増加に伴い,術後せん妄は脊椎領域でも高頻度に生じる合併症である.

対象と方法:単施設での脊椎手術294例を後ろ向きに調査した.せん妄の頻度と危険因子を同定し,せん妄スクリーニングツールを作成した.

結果:術後せん妄は22%に認めた.精神疾患の既往,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用,70歳以上,ICU入室,難聴が危険因子であった.脊椎術後せん妄スクリーニングツールのカットオフ値は10点以上であった.

まとめ:今後はせん妄スクリーニングツールを使用して予防に努める予定である.

変形性関節症(変形性脊椎症を含む)に対する新規非ステロイド性抗炎症薬エスフルルビプロフェンプラスター剤の長期投与時の有効性および安全性について

著者: 八田羽幾子 ,   大塚昇 ,   松下勲 ,   松本秀男 ,   星野雄一

ページ範囲:P.327 - P.338

背景:エスフルルビプロフェンプラスター剤(S-flurbiprofen plaster,以下SFPP)は経皮吸収性と組織移行性に優れた非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drug,以下NSAIDs)のテープ剤である.本試験は,変形性脊椎症を含む変形性関節症(osteoarthritis,以下OA)患者を対象とした長期投与時の有効性および安全性の確認を目的として実施した.

対象と方法:OA患者201例(男50例,女151例,平均66.3歳)の計301部位に前治療NSAIDsから切り替えてSFPPを52週間貼付した.今回,SFPPの長期投与における有効性の特性およびリスク因子と安全性の関係について検討した.

結果:SFPPは前治療NSAIDsの成分に関わらず,さまざまな関節のOAに対して2週後から有意な改善を示し,52週後まで効果を維持した.貼付部位副作用は46.8%に発現し,その内92.9%は無処置または休薬・薬物治療により改善し,貼付を継続できた.光線過敏症は発現しなかった.全身性副作用は9.0%に発現したが,臨床上問題ない程度であり,全身性NSAIDsの短期併用による明らかな影響はなかった.

まとめ:SFPPは早期から効果を発揮し長期にわたり有効性を維持できた.また,52週間継続貼付下でも安全性に優れた外用貼付剤といえる.

Lecture

臨床研究における最近の統計手法の意義とPits and Falls—後編:混合効果モデル分析とその周辺

著者: 小栁貴裕

ページ範囲:P.339 - P.347

 前編(52巻2号)では,ランダム化比較試験(RCT)ではないデータのバイアス対処に関する最近の手法を紹介した.後編では群内に従属性を持つ複数のデータ群,すなわち階層構造データを分析する手法としての混合効果(マルチレベル)モデル分析につき言及する.2005年頃から特にRCTで頻繁に使われ出した手法であり,この構造を無視した分析では,しばしば誤った結果を導く可能性がある.

上殿皮神経障害による腰痛

著者: 井須豊彦 ,   金景成

ページ範囲:P.349 - P.355

はじめに

 「腰痛診療ガイドライン2012」1)によれば,腰痛の85%は原因が特定できない非特異的腰痛に分類されており,腰痛の日常診療では非特異的腰痛に対してどのように治療していくかは重要なことである.近年,筆者は腰痛を呈する腰椎周辺疾患2)(上殿皮神経障害,中殿筋障害3),中殿皮神経障害,梨状筋症候群,仙腸関節障害など),特に,上殿皮神経障害による腰痛に注目して腰痛治療を行っている.本稿では,上殿皮神経障害による腰痛の診断,治療について述べるとともに,現時点での問題点や将来の展望についても言及する.

整形外科/知ってるつもり

3Dプリンターを用いたComplete Fit Brace(CFB)の開発:castに替わる固定法

著者: 加賀望 ,   山田晋 ,   島田洋一

ページ範囲:P.356 - P.361

はじめに

 骨折の保存療法としては,castを用いた固定法が一般的である1).Castを体表形状に合わせて巻きつけているが,体表との間に綿包帯などが介在するため,固定力・適合性に限界がある.また,固定の際に患者に疼痛を与えてしまう場合もある.

 近年,3Dプリンターは医療分野において急速に普及しつつあり2),整形外科領域でも多用されている3).骨折手術や脊椎外科,骨軟部腫瘍領域などで術前の正確な立体認知のために3次元モデルを作製したり,術前手術シミュレーションや術中ナビゲーションが行われている4-6).また,カスタムメイドインプラントも実用化されている7,8)

 現在,筆者らはcastに替わる新しい固定法として,3Dプリンターを用いた“Complete Fit Brace(CFB)”を開発し,臨床に応用している9).本稿では,実際の症例を提示し紹介する.

脳脊髄液減少症とは?

著者: 加藤真介

ページ範囲:P.362 - P.364

 腰椎穿刺後などに生じる起立性頭痛は,整形外科医にとって最も身近な低髄液圧症状を示す病態である1).脳脊髄液減少症(cerebrospinal fluid hypovolemia)は,起立性頭痛の症例のうちガドリニウム増強頭部MRIで硬膜がびまん性に増強されるが,髄液圧が正常である症例に対してMokriら2)が提唱した疾患概念である.

最新基礎科学/知っておきたい

脊髄損傷に対する骨髄間葉系幹細胞の経静脈的移植療法—医師主導治験と急性期から慢性期にかけての基礎研究

著者: 森田智慶 ,   本望修 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.366 - P.371

はじめに

 本邦の脊髄損傷患者の年間発生数は5,000〜6,000人と言われており,総数は10万人を超える.その発生機序は,直達外力による脊髄組織の圧挫である一次損傷と,出血・浮腫・炎症などによる壊死や損傷神経線維の脱髄・軸索損傷などの二次損傷が関与すると考えられている1).今日の標準治療は,脊椎の整復固定術・除圧術といった手術療法や,リハビリテーションが一般的である.メチルプレドニゾロンの大量投与療法は,その有効性が疑問視され,また種々の重篤な合併症が散見されることから,2013年のガイドラインにおいて「推奨しない」と記されている2).一度受けた脊髄の損傷そのものを修復し得る治療法はいまだ存在せず,現在も患者は大きな後遺症を抱えたまま,その後の生活を余儀なくされている.

 われわれは1990年代から,脊髄損傷の実験的動物モデルを用いて,各種幹細胞をドナーとした再生医療研究を精力的に行ってきた.なかでも,脊髄損傷のみならず,脳梗塞やパーキンソン病など,他の多くの分野の再生医療研究において有用性が高いと注目されており,臨床応用が大いに期待できるドナー細胞として骨髄中に含まれる間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)に着目した.われわれは,急性期から亜急性期の脊髄損傷動物モデルに対し,骨髄由来のMSCの移植実験を行い,良好な機能回復が得られたことを報告した1,3).これらの基礎研究結果に基づき,2013年11月には,脊髄損傷患者に対する医師主導治験を実施しており,再生医療等製品としての薬事承認を目指している.

 本稿では,われわれがこれまでに行ってきた急性期から亜急性期,さらに慢性期の脊髄損傷に対するMSCを用いた再生医療研究の最新の知見と,現在本学で施行している自家MSC移植療法の医師主導治験の概要について述べる.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・7

抗てんかん薬

著者: 益田律子

ページ範囲:P.372 - P.376

慢性疼痛治療に用いられる抗てんかん薬

 慢性疼痛に対する抗てんかん薬の役割として,三叉神経痛を含む神経障害性疼痛の症状緩和,片頭痛予防,線維筋痛症の症状緩和,などが挙げられる.抗てんかん薬は以下の作用機序によって,神経障害性疼痛を中心とする疼痛性疾患に鎮痛作用を発揮すると考えられている1)

臨床経験

高齢者の急性腰痛に対するMRIの有用性—椎体骨折診断における単純X線像との比較

著者: 小島敦 ,   笹生豊 ,   鳥居良昭 ,   森岡成太 ,   藤井厚司 ,   新井賢一郎

ページ範囲:P.379 - P.383

背景:高齢者の椎体骨折は,単純X線(Xp)による診断が困難である.近年,MRIの普及により椎体骨折の診断率は向上している.

対象と方法:急性腰痛の70歳以上の高齢者を対象にXpとMRIを撮影し,椎体骨折の頻度を調査した.

結果:Xpで85.7%,MRIで82.1%に椎体骨折を認めたが,レベルが一致したものは46.4%で,不顕性骨折は26.8%であった.椎体骨折ありは骨折なしと比較し,平均年齢に差はなかったが,平均visual analog scale(VAS)が高値であった.

考察:椎体骨折では診断にMRIが有用で,VAS値は高値であった.

化膿性脊椎炎に対する経皮的内視鏡下椎間板切除術(PED)の治療成績

著者: 河野衛 ,   安部哲哉 ,   長島克弥 ,   三浦紘世 ,   中山敬太 ,   藤井賢吾 ,   船山徹 ,   竹内陽介 ,   坂根正孝 ,   山崎正志

ページ範囲:P.385 - P.389

背景:化膿性脊椎炎に対する経皮的内視鏡下椎間板切除術(percutaneous endoscopic discectomy:PED)の有効性と限界を評価した.

対象と方法:胸腰椎化膿性脊椎炎に対してPEDを行った28例(男性21例,女性7例,手術時平均年齢70歳)の治療成績を検討した.

結果:28例中21例で術後感染の鎮静化(CRP<0.3)が得られ,CRP陰性化までの期間は術後5.5±8.4週であった.4例がPEDに抵抗し,再手術を要した.

まとめ:糖尿病による末期腎不全患者の感染制御は難しく,神経症状を伴う硬膜外膿瘍や腸腰筋膿瘍の合併例はPED単独治療の限界と考えられた.

化膿性肩関節炎に対する鏡視下デブリドマンの治療成績

著者: 佐々木宏介 ,   田中智顕 ,   前隆男

ページ範囲:P.391 - P.396

背景:化膿性肩関節炎に対する鏡視下デブリドマンの治療成績を検討した.

対象と方法:術後6カ月以上調査可能であった6例6肩に対し,感染の鎮静化と再発の有無,また最終調査時の肩関節機能を日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOAスコア)で評価した.

結果:全例で感染は鎮静化し,また最終調査時まで再発はなかった.最終調査時,平均JOAスコアは81.5(62〜95)で,比較的良好な肩関節機能が獲得されていた.

まとめ:鏡視下デブリドマンは化膿性肩関節炎に対する有効な治療法と考えられた.

7人制ラグビー女子日本代表における膝前十字靱帯損傷の発生調査

著者: 平井晴子 ,   田崎篤 ,   田島卓也 ,   石山修盟 ,   中村明彦

ページ範囲:P.397 - P.401

背景:2016年から五輪種目となった男女7人制ラグビー(セブンズ)のうち,女子選手の競技人口は,2011年度に比して1.7倍に増加している.ステップ動作の多いコンタクトスポーツである本競技の膝前十字靱帯損傷発生の調査を行った.

対象と方法:トップレベルの女子ラグビー選手を対象とし,アンケート調査による後ろ向き調査を行った.

結果:ボールを持った攻撃時の受傷が19人中17例(89.5%)であり,非接触受傷が19人中11例(57.9%),方向転換動作時の受傷が19人中11例(57.9%)と全体の過半数であった.

まとめ:女子セブンズにおいても非接触受傷が多く,本競技に特有の予防対応が望まれる.

症例報告

大腿骨頚部脆弱性骨折の3例

著者: 益原健太 ,   上田譲 ,   松尾知彦 ,   藤島弘顕 ,   後藤晃 ,   信貴経夫 ,   津田隆之

ページ範囲:P.403 - P.407

 転倒の既往なく発症した大腿骨頚部脆弱性骨折の3症例を経験したので報告する.対象は全例女性,年齢は64,88,89歳であった.明らかな外傷歴はなく荷重時の股関節痛が出現し,1例のみ歩行可能であった.3例とも発症初期の単純X線では骨折線を認めなかった.骨密度測定(DXA法)では,YAM値56.3%(47〜62%)と著明な骨密度低下を認めた.1例に観血的固定術,2例に人工骨頭置換術を施行した.大腿骨頚部骨折(内側型)は通常,転倒などの外傷で発症するが,外傷歴のない脆弱性骨折が数%程度存在すると推測され,著明な骨密度低下との相関が示唆された.

Tarlov cystによる神経根障害に対し囊腫切除で改善を得た1例

著者: 藤森孝人 ,   小田剛紀

ページ範囲:P.409 - P.412

背景:有症状の仙骨囊腫は比較的稀で,病態,治療についてのコンセンサスが十分には得られていない.

対象と方法:73歳男性,片側性の下肢痛を呈していた.CTミエログラムでS2神経根から発生した仙骨囊腫を認めた.これによるS1神経根圧迫と診断し,囊腫切除を施行した.

結果:緊満した囊腫とS1状関節突起との間にS1神経根が挟まれていた.囊腫壁を部分切除し,縫縮した.術後,下肢痛の改善が得られた.

まとめ:仙骨囊腫は仙椎神経根障害の原因となり得る.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.315 - P.315

書評 手の先天異常—発生機序から臨床像,治療まで フリーアクセス

著者: 石井清一

ページ範囲:P.377 - P.377

 平成27年の日本整形外科学会総会から帰宅したのは5月25日であった.そのとき,心臓疾患で療養中の荻野利彦先生の急逝の知らせを受けた驚きと寂しさを昨日のことのように思い出す.

 荻野先生が北海道大学に入学し,郷里の静岡から札幌に出てこられたのは昭和40年のことであった.下宿が私の家のすぐ近くにあったこともあり,付き合いは学生時代からとなる.先生は医学部を卒業されると整形外科に入局したが,やがて手の外科を専門分野に選び,その中でも上肢の先天異常の研究に情熱を傾けるようになった.その節目,節目に私が関与したことがいま走馬灯のように頭の中を駆け巡っている.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.413 - P.413

あとがき フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.416 - P.416

 皆さんは,“singularity”という言葉をご存知でしょうか? 人工知能(AI)が人類の知能を越える転換点,または,それらがもたらす世界の変化のことを言うそうです.AIやVR(ヴァーチャルリアリティ)技術,ロボット技術などが急速に進化し,機械の知能が人間を超える日が近づいてきています.医療の領域でも,内科診断学,放射線診断学,病理診断学に大きな進歩をもたらすでしょうし,治療もエビデンスレベルと推奨度を参考にしながら選択していけるようになるでしょう.そこで,singularityを念頭に置いて,われわれ整形外科医は,よい部分を受け入れつつも整形外科医としてのアイデンティティー,存在価値を死守していかねばなりません.いまから準備が必要だと思っています.

 さて,視座では,広島大学の安達伸生教授が,医学博士の学位を「足の裏の米粒」に例えています.これは,おそらく古くから言われていることでしょう.医学博士を取得すべく,大学院に入学する人が減少しているのは,新たな初期研修制度が始まってから顕著になっています.医学研究は,医学の進歩のためにはなくてはならないものです.私は若手医師に,「医学博士の価値は?」と問われますと,即座に「医学の進歩に欠かせない研究をすることである! 君の人生を賭けてみないか!」と,答えています.現状では,給料のアップや地位向上に即座につながるとは言いにくいのですが,専門医取得とともに医学博士取得も,医師たちの何らかのインセンティブにつながるようにすべきです.日本発の医学医療の発展を切に願うばかりです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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