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文献詳細

雑誌文献

臨床整形外科52巻4号

2017年04月発行

最新基礎科学/知っておきたい

脊髄損傷に対する骨髄間葉系幹細胞の経静脈的移植療法—医師主導治験と急性期から慢性期にかけての基礎研究

著者: 森田智慶1 本望修2 山下敏彦1

所属機関: 1札幌医科大学医学部整形外科学講座 2札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所神経再生医療学部門

ページ範囲:P.366 - P.371

文献概要

はじめに

 本邦の脊髄損傷患者の年間発生数は5,000〜6,000人と言われており,総数は10万人を超える.その発生機序は,直達外力による脊髄組織の圧挫である一次損傷と,出血・浮腫・炎症などによる壊死や損傷神経線維の脱髄・軸索損傷などの二次損傷が関与すると考えられている1).今日の標準治療は,脊椎の整復固定術・除圧術といった手術療法や,リハビリテーションが一般的である.メチルプレドニゾロンの大量投与療法は,その有効性が疑問視され,また種々の重篤な合併症が散見されることから,2013年のガイドラインにおいて「推奨しない」と記されている2).一度受けた脊髄の損傷そのものを修復し得る治療法はいまだ存在せず,現在も患者は大きな後遺症を抱えたまま,その後の生活を余儀なくされている.

 われわれは1990年代から,脊髄損傷の実験的動物モデルを用いて,各種幹細胞をドナーとした再生医療研究を精力的に行ってきた.なかでも,脊髄損傷のみならず,脳梗塞やパーキンソン病など,他の多くの分野の再生医療研究において有用性が高いと注目されており,臨床応用が大いに期待できるドナー細胞として骨髄中に含まれる間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)に着目した.われわれは,急性期から亜急性期の脊髄損傷動物モデルに対し,骨髄由来のMSCの移植実験を行い,良好な機能回復が得られたことを報告した1,3).これらの基礎研究結果に基づき,2013年11月には,脊髄損傷患者に対する医師主導治験を実施しており,再生医療等製品としての薬事承認を目指している.

 本稿では,われわれがこれまでに行ってきた急性期から亜急性期,さらに慢性期の脊髄損傷に対するMSCを用いた再生医療研究の最新の知見と,現在本学で施行している自家MSC移植療法の医師主導治験の概要について述べる.

参考文献

1) Sasaki M, Li B, Lankford KL, et al. Remyelination of the injured spinal cord. Prog Brain Res 2007;161:419-33.
2) Hurlbert RJ, Hadley MN, Walters BC, et al. Pharmacological therapy for acute spinal cord injury. Neurosurgery 2013;72 Suppl 2:93-105.
3) Osaka M, Honmou O, Murakami T, et al. Intravenous administration of mesenchymal stem cells derived from bone marrow after contusive spinal cord injury improves functional outcome. Brain Research 2010;1343:226-35.
4) Honmou O, Houkin K, Matsunaga T, et al. Intravenous administration of auto serum-expanded autologous mesenchymal stem cells in stroke. Brain 2011;134:1790-807.
5) Morita T, Sasaki M, Kataoka-Sasaki Y, et al. Intravenous infusion of mesenchymal stem cells promotes functional recovery in a model of chronic spinal cord injury. Neuroscience 2016;335:221-31.
6) 後藤佐多良.高齢医学におけるトランスレーショナル・リサーチ.基礎老化研究の応用を考える.日老医誌2005;42:144-51.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1286

印刷版ISSN:0557-0433

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