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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科52巻5号

2017年05月発行

雑誌目次

視座

点字開発者ルイ・ブライユに学ぶ

著者: 金子和夫

ページ範囲:P.419 - P.420

 パラリンピックで視聴覚障害者が行うスポーツは団体では5人制サッカー,ゴールボールが,個人では水泳・柔道・自転車・ボート・カヌーやトライアスロンまで参加対象となっている.トライアスロンに至っては,健常者と障害者が同じレースで競い合う場合もある.なかでもリオパラリンピックで初めて実施された視覚障害者マラソンで,3時間6分52秒の記録で銀メダルに輝いた道下美里選手には驚かされた.リオパラリンピックでの視覚障害者たちの活躍は鮮明な印象を残した.

 少し整形外科から離れて,点字について述べようと思う.現在世界中で用いられているのはBraille 6点式点字法で,フランス人のLouis Braille(ルイ・ブライユ,1809〜1852)が16歳(1825年)で考案した点字法である(日本ではまだ江戸時代末期!).

誌上シンポジウム 成人脊柱変形の目指すポイント PI-LL≦10°,PT<20°はすべての年齢層に当てはまるのか

緒言 フリーアクセス

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.422 - P.422

 2012年に国際側弯症学会(SRS:Scoliosis Research Society)において,Schwabらが成人脊柱変形の分類(SRS-Schwab classification)を報告し,矢状面アライメント評価としてPI-LL(PI:pelvic incidence,LL:lumber lordosis),SVA:sagittal vertical axis,PT:pelvic tiltの評価とHRQOLを保つための目標値「PI-LL≦10°,SVA<40mm,PT<20°」を提唱してから日本でも注目を浴び,そして成人脊柱変形に対する手術治療ゴールの1つの目標値として手術治療が多く行われるようになった.ただ,この指標はあくまでも体型や生活様式がアジア系の患者と全く異なる欧米人のデータを基にして作成された目標値であった.

 また,われわれが対象としている成人脊柱変形患者の中には,椎体骨折を伴った脊柱後弯症や,対象年齢も高く骨粗鬆症を合併している患者も多い.このような背景のもと,日本からもわれわれ日本人の体型や年齢,骨粗鬆症の状態,そして生活様式や活動性を考慮した手術目標値の設定が必要と考える.

成人脊柱変形の治療目標

著者: 中尾祐介 ,   佐野茂夫

ページ範囲:P.423 - P.428

 50歳以上の成人脊柱変形77例の術前後のアライメントを年代ごとに比較した.50〜79歳では術後PI-LL<10°の群のアライメントは良好であり,PI-LL<10°は術前の目標になり得ると考えられた.一方で80歳以上では術後PI-LL<10°群とPI-LL≧10°群のsagittal vertical axisに有意差はなく,PI-LL<10°は目標として不十分と考えられた.術後にSVA<40mmかつPT<20°となるためのPI-LLは,50〜69歳では-0.8°,70〜79歳では-3.8°であったが,80歳以上では-10°であり,高齢者ほどより大きな局所の矯正を要していた.

目指すべきPI-LLおよびPelvic Tiltはすべての年齢層にあてはまるのか?—術後2年経過症例からの検討

著者: 稲見聡 ,   種市洋

ページ範囲:P.429 - P.432

 成人脊柱変形術後患者73例を対象にして,年齢が矢状面パラメータへ及ぼす影響を調査した.術後成績が良好な症例を若年群(65歳未満)と高齢群(65歳以上)に分け比較すると,PI-LL(pelvic incidence-lumbar lordosis)(若年群:10°,高齢群:11°)とPT(pelvic tilt)(若年群:25°,高齢群:28°)の値に有意な差がなく,TK(thoracic kyphosis)(若年群:28°,高齢群:38°)は高齢群が有意に大きかった.成人脊柱変形の手術治療は主に矯正固定術であり,手術で固定した角度で長い期間を過ごすことになる.よって,手術における矯正目標値は,年齢層を超越し経年的な変化を加味した値が理想的と考える.

成人脊柱変形患者に対する矯正固定術では年齢で矯正目標を変えるべきか?

著者: 大和雄 ,   松山幸弘

ページ範囲:P.433 - P.438

 高齢者の成人脊柱変形の矯正固定術において,われわれは矯正の目標とする腰椎前弯角を,浜松formulaを用いて決定している.しかし,年齢によって矯正の目標を変える必要があるかは不明である.そこで50歳以上の手術例を年齢別に50〜64歳の中年群,65〜74歳の前期高齢群,75歳以上の後期高齢群の3群に分け,矯正の程度別の手術成績を比較検討した.いずれの年齢群でも矯正不良群は成績不良であった.前期高齢群では矯正良好なほど成績も良好であった.後期高齢者群では中等度の矯正で最も成績良好であった.年齢によって必要な矯正アライメントが異なる可能性がある.

成人脊柱変形における至適な矢状面アライメント矯正—術中にどのように目的とするアライメントを獲得するのか?

著者: 中島宏彰 ,   金村徳相 ,   佐竹宏太郎 ,   世木直喜 ,   大内田隼 ,   今釜史郎

ページ範囲:P.439 - P.447

 近年,超高齢社会を迎え,日本人の生理的脊椎アライメントを基に,骨盤形態を踏まえたさまざまな計算式が報告され,日本人における理想的な脊椎矢状面アライメントが明らかとなってきた.しかし,いかに目標とするアライメントを手術の際に獲得するかは大きな課題であり,当院ではコンピューター・アシスト・ロッド・ベンディング(Bendini®,NuVasive社)を用いて,定量的なロッドベンディングを行っている.本ベンディング法の利点と限界を中心に検討し,理想的なアライメント獲得への当院での取り組みを紹介する.

LIV:S1ではPI-LL<10°を,LIV:S2AIではPT<20°を目指す

著者: 豊根知明 ,   白旗敏之 ,   工藤理史 ,   松岡彰 ,   丸山博史 ,   石川紘司 ,   志保井柳太郎 ,   男澤朝行

ページ範囲:P.449 - P.453

 2008年からrigidな腰椎後弯に対してpedicle subtraction osteotomy(PSO)を,後側弯に対してasymmetrical PSOを行ってきた.固定範囲は中下位胸椎からL5ないしS1とした.術後3〜8年で,LLは-1°から40°,SVAは14cmから5cm,PTは38°から24°に改善し,臨床症状と満足度は良好であった.固定頭尾側端での椎体骨折・椎間板障害は,いずれもLL>PI-10°を獲得できなかった8例中に認められていた.胸椎単独代償型(胸椎は前弯化するもPTが小さい)では,術後の胸椎後弯の増大に伴うSVAの増大に留意する必要がある.

日米成人脊柱変形の比較から

著者: 細金直文

ページ範囲:P.455 - P.458

 Scoliosis Research Society(SRS)-Schwab分類のsagittal modifiersに取り入れられているpelvic incidence-lumbar lordosis(PI-LL),pelvic tilt(PT)やsagittal vertical axis(SVA)の基準値は,北米の多施設研究結果をもとに算出されているが,同様の基準値が日本人にも適合するかどうかは明らかでない.そこで日米の成人脊柱変形(ASD)を比較することで,これら基準値の日本人における妥当性を検証した.その結果,同じ矢状面アライメントの場合,Oswestry Disability Index(ODI)で評価したADL障害の程度は,日本人でやや小さい傾向にあった.今後,本邦ASDのデータをもとに日本人に適した基準のもと矯正目標を検証する必要がある.

論述

人工股関節全置換術後10年経過した患者の転倒に関連する要因

著者: 二宮一成 ,   池田崇 ,   鈴木浩次 ,   佐藤良治 ,   平川和男

ページ範囲:P.459 - P.465

目的:本研究の目的は,人工股関節全置換術(THA)後10年経過した患者の転倒に関連する要因について検討することである.

対象と方法:対象は,THA後10年経過した患者60名とした.過去1年間の転倒の有無で転倒群と非転倒群に群分けし,患者背景,運動機能,身体活動量について両群を比較した.

結果:転倒群は,非転倒群と比較して,外転筋力と片脚立位時間が有意に低値であり,さらに高活動の者が有意に少なかった(p<0.05).

まとめ:THA後10年経過した患者の転倒には,外転筋力や片脚立位時間および身体活動量が関連することが示唆された.

座談会

医療制度の大変革期における整形外科

著者: 菊地臣一 ,   米延策雄 ,   松下隆 ,   新井貞男 ,   平泉裕

ページ範囲:P.467 - P.474

■新専門医制度の発足がもたらすもの:総合診療科との競合

菊地 第三者認定となる新しい専門医制度が延期となりました(2017年3月時点)が,これからの日本の医療制度の根幹を左右する大きな問題になることは間違いありません.

 基本19科に総合診療科が加わり,主な整形外科診療手技が総合診療科のカリキュラムにすべて入っています.いま2万人いる整形外科医の今後は,総合診療科を意識することとなり,5年後,10年後の整形外科外来のあり方が気になります.

新井 かかりつけ医の多くは内科医,総合診療医ですが,彼らはプライマリ・ケアの場合,腰痛・膝痛などの痛みが主訴であれば湿布,NSAIDsを処方します.既に骨粗鬆症薬の処方は整形外科よりも多い状況です.これからますます,整形外科と総合診療科との境があいまいになり,患者が分散すると想像されます.しかし,運動器を考えての治療でないためセカンダリ・レベルでは,診断・治療困難例,外科的手術が必要な例が生じることになり,整形外科を受診することになるだろうと思います.

整形外科/知ってるつもり

足底腱膜炎の治療

著者: 笹原潤

ページ範囲:P.476 - P.479

はじめに

 足底腱膜は,踵骨隆起の内側結節から始まり,第1〜5趾基節骨底面に停止する頑丈な腱組織で,足の縦アーチを支えている.足底腱膜炎は,歩行やランニングなどにより足底腱膜への微小外傷が繰り返されて同部位が変性し踵部に痛みをもたらす疾患で,ランナーに好発することが知られている1)

 本稿では,足底腱膜炎の診断および治療について,新たな知見も交えて解説する.

境界領域/知っておきたい

患者申出療養制度

著者: 副島研造

ページ範囲:P.480 - P.483

はじめに

 わが国の医療保険制度においては,必要な医療については基本的に,保険診療で行われるべきであること,保険適用となるのは治療の安全性・有効性が確認されたものであること,とされている.健康保険法において,保険診療と保険外診療(自由診療)を併用して行う場合には,法令で定めた一定の場合〔厚生労働大臣の認める先進医療や医薬品・医療機器の治験などの評価療養,患者の自由な選択に係る費用(差額ベッド代など)などの選定療養〕を除いて,保険診療部分も含めてすべて自己負担となる1)

 こうした現状に対して,平成24年(2012年)12月末に発足した第二次安倍内閣の「規制改革会議」において,国民一般および経済界から寄せられた規制改革要望として,「保険外併用療養のさらなる拡大」が取り上げられ,医療者側との十分な意見交換のないまま議論が重ねられた.その結果,「困難な病気と闘う患者からの申出を起点として,(中略)国内未承認医薬品等の使用や国内承認済みの医薬品等の適応外使用等を迅速に保険外併用療養として使用できるよう,保険外併用療養費制度の中に,新たな仕組みとして,『患者申出療養』を創設し,患者の治療の選択肢を拡大する」ことが,平成26年(2014年)6月「日本再興戦略 改訂2014」の1つとして閣議決定され,翌2015年,国会審議を経た後,5月29日に公布された.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・8

抗うつ薬

著者: 西原真理

ページ範囲:P.484 - P.486

 慢性疼痛に対する薬物療法において,明らかに抗うつ薬が果たす役割は増大してきている.これは最近になって慢性腰痛症に保険適用を取得したデュロキセチンの影響もあるが1),慢性疼痛に対して「病態メカニズムに基づいた薬物療法のあり方」という考え方が広がってきたことも大きいだろう.しかし,本邦において痛みに対して適応があるのは,アミトリプチリン,デュロキセチンのみであることをまず意識しておかなくてはいけない.

 最初に,慢性疼痛に抗うつ薬を使用するときに考えるべきことを挙げておきたい.それは患者のどのような病態に対して用いたいのかという目的をはっきりさせることである.具体的には,①神経障害性疼痛が背景にあると考えられる症例なのか,②痛みがうつ病,抑うつ状態に強く修飾されていると思われる症例なのか,という点である.ただ「この痛みは精神的なものが影響しているかもしれない」といった考えから抗うつ薬が処方されるという形は,できる限り避けていきたい.それは,抗うつ薬の痛みに対する経時的な効果の判定や,抗うつ薬を中止する方針などにも影響を及ぼすからである.

「勘違い」から始める臨床研究—研究の旅で遭難しないために・16

リンゴとオレンジを比べる?

著者: 福間真悟 ,   福原俊一

ページ範囲:P.487 - P.491

 第15回では,大風呂医師の「救急車で受診した患者は入院割合が高いか?」というリサーチ・クエスチョンについて,研究目的と研究方法の合致について解説しました.今回は,要因と比較対照の比較について掘り下げて検討していきたいと思います.

臨床経験

肩腱板断裂に対するステロイド関節内注射の効果の検討

著者: 坂田亮介 ,   乾淳幸 ,   美舩泰 ,   原田義文 ,   高瀬史明 ,   植田安洋 ,   片岡武史 ,   国分毅

ページ範囲:P.491 - P.495

はじめに:小断裂以下の肩腱板断裂に対するステロイド関節内注射の臨床効果を後ろ向きに検討した.

対象と方法:小断裂以下の肩腱板断裂84肩を対象とした.プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム10mg(PSL群),トリアムシノロンアセトニド20mg(TA群)をそれぞれ関節内投与し,治療効果を評価した.

結果:症状改善率はTA群で有意に高かった.PSL群でも可動域は改善したが,TA群でのみ有意差を示した.

まとめ:ステロイド関節内注射は,症状の改善に有用であった.TA関節内注射はPSLと比較し,肩腱板断裂に対してより高い症状改善効果が期待できる.

症例報告

橈骨遠位端骨折掌側ロッキングプレート固定術後に示指深指屈筋腱断裂を生じた1例

著者: 中嶋宰大 ,   小峰伸彦 ,   徳海裕史 ,   多田薫 ,   山本大樹 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.497 - P.500

 患者は74歳女性で,右橈骨遠位端骨折に対し掌側ロッキングプレート(VLP)固定術を行い,術後6年8カ月に右示指DIP関節の自動屈曲制限が出現した.X線像では遠位尺側のスクリューヘッドの突出を認めた.本症例に対し抜釘および中指深指屈筋腱を用いた腱移行術を行った.橈骨遠位端骨折VLP固定術後の屈筋腱断裂の大多数は長母指屈筋腱に対する報告だが,本症例では示指深指屈筋腱(FDP2)が遅発性に断裂した.少なくとも画像上明らかな異常を認める例は,術後経過年数に関わらず早期に抜釘が必要であると考える.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.417 - P.417

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.501 - P.501

あとがき フリーアクセス

著者: 金谷文則

ページ範囲:P.504 - P.504

 この原稿を書いている4月2日には,東京で桜が満開と報告されていました.沖縄の桜は2月には散りましたが,亜熱帯に属するため1年中花が咲いており,今はブーゲンビリアとハイビスカスが咲き誇っています.札幌市内ではまだ雪が残っている箇所もあるとのこと,日中の気温が20℃を超える沖縄にいると,日本が南北に長いことを実感します.

 本号の誌上シンポジウム「成人脊柱変形の目指すポイント:PI-LL≦10°,PT<20°はすべての年齢層に当てはまるのか」は素晴らしい企画です.従来はチャレンジと考えられた成人脊柱変形の治療法が,手術手技,器具そしてモニター法の進歩により,標準的な手術手技となりつつある過程を目の当たりにしていることを実感いたしました.本シンポジウムでは手術適応,矯正目標に加えてナビゲーションを含めた手術手技も詳述されています.熟読のうえ,臨床にお役立ていただければ幸いです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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