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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科52巻6号

2017年06月発行

雑誌目次

論述

人工股関節置換術におけるショートテーパーウェッジ型ステムの固定様式の評価—ZedHipを用いた3次元的解析

著者: 縄田健斗 ,   阿部功 ,   白井周史

ページ範囲:P.507 - P.511

背景:人工股関節置換術(THA)において,ショートテーパーウェッジ(STW)型ステムを用いる場合は近位での十分な髄腔適合が必要である.

目的:3次元画像解析ソフトウェアを用いてSTW型ステムの固定様式を評価,解析すること.

対象と方法:2013年8月以降,初回THAでSTW型ステムであるBiomet社製Microplastyステムを使用した21例22関節を対象とした.Gruenのzone分類における皮質骨とインプラントの接触の有無から固定様式を4群に分類し,各固定様式の各zoneで皮質骨と接したインプラント面積の割合を解析した.

結果:本例において90%でproximal-metaphyseal fittingが達成されていた.

まとめ:固定様式を正確に評価するうえで,3次元的な検討が重要になってくる可能性がある.

大腿骨近位部転移性骨腫瘍に対する腫瘍用人工骨頭置換術後の機能的予後調査:術後患肢機能に関与する因子は何か?

著者: 竹中聡 ,   中紀文 ,   濱田健一郎 ,   中井翔 ,   高木啓至 ,   王谷英達 ,   伊村慶紀 ,   名井陽 ,   上田孝文 ,   荒木信人 ,   吉川秀樹

ページ範囲:P.513 - P.518

背景:大腿骨骨転移に対する腫瘍用人工骨頭置換術の術後機能を継時的にみた報告はなく,転移性骨腫瘍患者の残された余命において本術式を患肢機能の獲得と維持に役立てる方法について検討した.

対象と方法:大腿骨骨転移に対して腫瘍用人工骨頭置換術を施行した14例を対象に,継時的な術後移動能力を後視的に調査した.

結果:術後1カ月の移動能力は症例によって大きく異なり,術後免荷のある群で有意に低かった.術後3カ月でほぼ全例が自力歩行可能であった.

まとめ:少なくとも短期予後患者では本術式術後の免荷は望ましくないと考える.

頚椎椎弓形成術後の頚椎アライメントにおけるサルコペニアの影響

著者: 小清水宏行 ,   酒井義人 ,   原田敦 ,   伊藤定之 ,   伊藤研悠 ,   飛田哲朗

ページ範囲:P.519 - P.524

背景:サルコペニアと姿勢異常の関連を疑い,頚椎椎弓形成術後の頚椎アライメントにおけるサルコペニアの影響を検討した.

対象と方法:椎弓形成術を行った171例を対象とした.Sanada基準を用いてサルコペニアの診断とした.評価は術前と術後1年で行い,頚椎アライメント評価はC2-7SVA(sagittal vertical axis)を用い,機能評価としてはSF-36および日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(JOAスコア)を用いた.

結果:術後1年においてサルコペニア群で有意にC2-7 SVAが大きく,SF-36とJOAスコアは低い結果であり,C2-7SVAとJOAスコアは負の相関を認めた.

まとめ:サルコペニアは頚椎術後アライメントおよび成績に影響を及ぼす可能性があるため,悪化を来さない後療法を検討する必要がある.

調査報告

一般住民における「ロコチェック」と転倒の関連

著者: 重松英樹 ,   岩田栄一朗 ,   田中誠人 ,   奥田哲教 ,   森本安彦 ,   増田佳亮 ,   田中康仁

ページ範囲:P.525 - P.528

背景:2007年に日本整形外科学会が提唱したロコモティブシンドローム(ロコモ)は,ロコモーションチェック(ロコチェック)で自己評価できる.

方法:健康イベントに参加した170名に,7項目からなるロコチェックを用いて評価を行い,過去1年以内の転倒との関係を調査した.

結果:参加者は20歳以上の成人男性59名,成人女性111名で,40名に転倒経験があった.ロコチェック陽性者に転倒経験の割合が有意に高くなり,ロコチェック陽性項目数が多いと転倒の割合も高くなっていた.

まとめ:ロコモは転倒の危険因子であり,ロコチェックは転倒リスク評価に役立つ.

Lecture

仙腸関節障害の診断と治療

著者: 村上栄一

ページ範囲:P.529 - P.536

はじめに

 医師になって15年ほどは仙腸関節由来の痛みを知らずに,腰痛の専門医として何とかやってきた筆者には,“本当に仙腸関節の痛みはあるのか”,との疑問を持つ医療者の気持ちがよく理解できる.一方,この痛みの存在に気付いてからは,決して少なくないことに驚いている.仙腸関節由来は身体的特徴を把握すれば,みつけるのは決して困難ではないが,特異な画像所見が得られないために,見逃されやすい面を持つ.なかには身体表現性疼痛障害と診断される患者さんもいる.このような悲劇を生まないためにも,仙腸関節の痛みの特徴を知り,鑑別診断の1つに入れることが重要と考える.その理解の一助になればと思い,この疾患の特徴と診断および治療について述べたいと思う.

整形外科/知ってるつもり

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015

著者: 萩野浩

ページ範囲:P.538 - P.540

はじめに

 骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインは2015年7月に最新版に改訂された.本ガイドラインは病態,予防,診断,治療,費用対効果など,骨粗鬆症診療を広範囲にカバーしている.本稿では骨粗鬆症のガイドライン策定の経緯と,2015年に改訂されたガイドラインのトピックを紹介し,最新のガイドラインによって骨粗鬆症診療において変わらないものとこれから変わるものを考える.

最新基礎科学/知っておきたい

Tendon gel(腱の再生)

著者: 鳥越甲順 ,   葛巻徹 ,   中瀬順介 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.542 - P.545

はじめに

 45年前,組織学実習で「腱はコラーゲン線維の束である.線維束間には線維芽細胞(腱細胞)が散在し,透過型電子顕微鏡(電顕)では翼を広げているようにみえるので翼細胞とも呼ばれる」との説明を受けた.整然と並ぶコラーゲン線維に美を感じ,翼の持つ快い響きに惹かれて,いつか機会があれば,コラーゲン線維はどのようにして縦列するのか,その配向性機構を調べてみたい.また,腱細胞はどのような翼を広げているのかと,腱に興味を抱いていた.図1は,現在,組織学実習で供覧している腱の組織像である.腱細胞に白鷺(シラサギ)の飛び立つ様を思い浮かべないだろうか.

 本稿では,腱の創傷治癒(再生)過程を解析し,コラーゲン線維の配向性機構を追究した.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・9

漢方製剤

著者: 三潴忠道

ページ範囲:P.546 - P.549

漢方医学的な認識:『寒』の確認

 漢方製剤は元来,漢方医学的な基本ソフトの上で発達したため,症状や病名だけではなく,漢方医学的な考え方も導入して処方したほうが臨床効果を得やすい.疼痛に関する漢方製剤の使用においては,特に病態の寒・熱の判断が重要である.寒の病態では,寒冷刺激で悪化しカイロや風呂など温熱刺激で症状が緩和されることが多く,問診すると冷え症状が存在する.寒に対する代表的な漢方薬の附子(キンポウゲ科トリカブトの塊根)は鎮痛作用も強く,慢性疼痛は寒を伴うことが多いためしばしば応用される.非適応(寒が存在しない)病態では中毒の危険もあるが,寒を確認して少ない量から使用する.附子中毒については,最後に述べる.

臨床経験

腫瘍用人工関節感染に対して再置換術を行った6例の治療経験

著者: 鈴木周一郎 ,   筑紫聡 ,   吉田雅博 ,   小澤英史

ページ範囲:P.551 - P.556

背景:腫瘍用人工関節置換術は,術後感染率が高く,その治療には再置換術を要することが多い.

対象と方法:腫瘍用人工関節感染に対して再置換術を行った6例の治療法を検討した.起炎菌は全例メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を認め,一期的,二期的再置換がそれぞれ半数ずつ行われた.

結果:最終的に5例で感染が鎮静化された.

まとめ:感染の波及した不良組織を積極的に除去し,血流のよい軟部組織再建を併用すること,および,ブドウ球菌感染に対してはリファンピシン内服を併用することで,年単位の排膿が持続していた症例も感染を鎮静化することができた.

座位時脊椎アライメントのX線学的検討—椅座位と体育座りの比較

著者: 増田一太 ,   金沢伸彦 ,   和智道生 ,   宇於崎孝 ,   塩澤成弘

ページ範囲:P.557 - P.561

背景:本研究は,子どもが日常的に行う椅座位と体育座りについて,X線画像から胸椎,腰椎・骨盤のアライメントを計測したので報告する.

対象と方法:対象は,30歳以下の健常成人男性9名とした.撮影肢位は立位,椅座位,体育座りとし,それぞれのアライメントを算出した.

結果:体育座りは,椅座位に比べ胸椎後弯角,腰椎前弯角,仙骨傾斜角が有意(p<0.05)に後傾していた.

まとめ:体育座りは椅座位よりも脊椎後弯が強く,腰椎構成体に負担の強い姿勢である可能性が示唆された.

離島にある単一施設におけるcrowned dens syndrome12例の臨床像の検討

著者: 小林晃 ,   鈴木真紀 ,   里岡充一 ,   栗園薫 ,   夏目由美子 ,   宮上寛之

ページ範囲:P.563 - P.568

目的:当院で診断した12例のcrowned dens syndrome(以下,CDS)の臨床的特徴を明らかにすることを目的とした.

方法:約3年間に当院でCDSと診断した12例を対象として検討した.

結果:男女比は1:11で,全例高齢者であった.ほとんどの症例で発熱,炎症反応高値を示し,容易にCDSと診断できたが,髄膜炎を疑った症例が1例あった.

結論:診断医がCDSを認知していると,容易にCDSと診断できることが判明した.頚部痛の鑑別診断として本疾患を念頭に置く必要がある.

高齢者腰部脊柱管狭窄症患者の手術満足度に影響する術前心理的因子の検討

著者: 北川智子 ,   川上守 ,   石元優々 ,   長田圭司

ページ範囲:P.569 - P.574

背景:これまでの研究で,腰部脊柱管狭窄症患者の満足度にはうつが影響することが報告されている.うつ以外の多彩な心理的因子も腰部脊柱管狭窄症患者の手術成績に影響する可能性があるが,どのような心理的因子が手術に対する患者満足度に影響するのかは,いまだ明らかでない.

対象と方法:高齢の腰部脊柱管狭窄症(以下,LSS)患者の手術満足度と,痛みに対する不安や破局的思考,身体症状に伴う不安および抑うつ,仮面うつ,整形外科患者に対する精神医学的問題の影響について検討した.65歳以上のLSS患者90名(男性46人,女性44人:平均年齢73歳)を対象に,各種心理評価を質問紙で実施した.

結果:重回帰分析の結果,「手術に対する満足度visual analogue scale(VAS)」はHospital anxiety and depression scale(HADS)の不安,健康関連QOL(SF-36)の身体機能で,「もう一度同じ手術を受けるかVAS」は痛みの破局的思考の拡大視で有意差がみられた.

まとめ:高齢LSS患者の手術満足度には,SF-36の身体機能とHADSの不安,痛みの破局的思考の拡大視が関連していた.

骨粗鬆症性椎体骨折の保存治療におけるサルコペニアと骨粗鬆症治療の重要性

著者: 飯田浩貴 ,   酒井義人 ,   渡邉剛 ,   小清水宏行 ,   竹村真里枝 ,   松井康素 ,   原田敦 ,   飛田哲朗 ,   伊藤研悠 ,   伊藤定之

ページ範囲:P.575 - P.581

目的:骨粗鬆症性椎体骨折の保存治療における骨粗鬆症とサルコペニアの影響を調査すること.

対象:骨粗鬆症性椎体骨折により入院した65歳以上の患者341例.

結果:男性ではサルコペニアが,女性では骨粗鬆症治療が治療成績に影響していた.

まとめ:骨粗鬆症性椎体骨折の保存治療において,女性では骨粗鬆症治療を行うことでADL向上が期待できる.男性においては,骨粗鬆症治療のみならずリハビリテーションを中心とした骨格筋にも着目した治療体系を考慮すべきである.

症例報告

マッサージによるBaker嚢腫破裂の2例

著者: 荻野英紀 ,   柴代紗衣 ,   島陽一郎 ,   髙田寿 ,   三浦信明 ,   徳重潤一

ページ範囲:P.583 - P.586

 Baker嚢腫の破裂は,臨床所見上,下肢深部静脈血栓症に似た症状を認め,偽性血栓性静脈炎と称される.今回われわれは,膝痛に対し整骨院でマッサージを受け,症状増悪,深部静脈血栓症の疑いで紹介され,画像診断でBaker嚢腫破裂の診断に至った2例を経験した.偽性血栓性静脈炎の診断には,詳細な問診と下肢超音波検査やMRI検査所見が診断上重要であるとともに,本症例は強力なマッサージによりBaker嚢腫破裂が起こり得るという,新たな情報を呈する.

後脊髄動脈症候群に椎体梗塞を合併した1例

著者: 美馬雄一郎 ,   小栁貴裕 ,   船尾陽生 ,   磯貝宜広 ,   大門憲史

ページ範囲:P.587 - P.592

 高血圧の既往を持つ74歳女性が,軽い運動後に左下肢しびれ・脱力を生じ,2日後に歩行困難となり,尿閉も出現した.核磁気共鳴画像(MRI)軸射像でTh12-L1レベルの脊髄後索に限局したT2高輝度変化を,脂肪抑制(STIR)像でL2椎体に左側優位の高輝度変化を認めた.椎体梗塞を伴う後脊髄動脈症候群でリハビリテーションと自己導尿で加療したところ,発症4カ月で屋内杖歩行が可能となり,自己導尿も離脱した.発症6カ月以降は明らかな日常生活動作(ADL)の改善はなく,1年半の現在,排尿は支障ないが便秘は残存し,杖で断続的な屋外歩行が可能なレベルにとどまっている.

両側脛骨骨折手術後に免荷式リフトを用いて歩行訓練を行った1例

著者: 岡田順 ,   田口潤智 ,   堤万佐子 ,   上之原佳太 ,   山本沙織 ,   田村麻祐

ページ範囲:P.593 - P.597

 53歳女性(体重47kg)の両側脛骨骨折症例において,手術後の両下肢荷重制限状態に対して,免荷式リフトを用いて両下肢免荷での歩行訓練を行った.本症例では,両下肢25kg免荷から20kg免荷,さらに10kg免荷へと段階的な両下肢部分荷重での歩行訓練を進め,手術後51日目に両下肢の全荷重が可能となり,合併症なく独歩および自立生活復帰ができた.本症例の治療経過を報告し,両側脛骨骨折手術後での免荷歩行訓練方法および免荷式リフトの機動性,安全性などについて考察を加える.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.505 - P.505

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.599 - P.599

あとがき フリーアクセス

著者: 仁木久照

ページ範囲:P.602 - P.602

 「知進知退 随時出處」 平成29年大相撲春場所で19年ぶりに日本出身の新横綱となった稀勢の里関が感動の逆転優勝を飾った後に,元横綱審議委員 内館牧子氏による,ある全国紙への寄稿にあった文言です.「進むべきところを知り,退くべき時を知り,いつでもそれに従う.」手負いの新横綱はなぜ土俵に上がり続けたのか.単に「あきらめない心」ではなく,経験や苦労から得た己の「知進」に従い,周りが何と言おうと,今は「進むべき時」と判断したのだろう,と.感動の千秋楽だったので,この寄稿は心に残っていました.この興奮が冷めやらぬうち,長年フィギュアスケート界を牽引してきた浅田真央選手が引退を宣言.シニアデビュー以来,浅田選手のアスリートとしての気持ちの強さにたくさんの元気をもらいました.諸事情あったと思いますが,最後は己の「知退」に従い,今が「退くべき時」と判断したのかもしれません.いかなる仕事,環境下だろうと「知進知退 随時出處」という背骨を持っている人間は強く,動じない.そうした人だからこそ,高みを目指せるのだと改めて感じた次第です.

 さて,今月は「Lecture」では,診断が難しい腰痛の1つとして注目されている仙腸関節障害について,村上栄一先生に「仙腸関節障害の診断と治療」としてご執筆いただきました.「整形外科・知ってるつもり」では萩野 浩先生に「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015」として,ガイドライン作成の経緯,2015年度版改訂のポイント,治療薬の有効性の評価,薬物治療開始基準,そして新しいガイドラインで変わらないもの,変わるものについて,わかりやすくエッセンスを述べていただきました.「最新基礎科学 知っておきたい」では,鳥越甲順先生に「Tendon gel(腱の再生)」と題し,人工腱・靱帯の誕生の瞬間から今後の可能性までわかりやすくご紹介いただきました.基礎科学の面白さを垣間見ることができると思います.また“連載”の「慢性疼痛の治療戦略—治療法確立を目指して」では,三潴忠道先生に関節や神経の疼痛,腰痛に対する漢方製剤の基本をお示しいただきました.さらに多岐にわたる分野からの「臨床経験」,「症例報告」に加え,「論述」の3編の原著論文も非常にレベルが高く,読み応えがある内容になっています.ぜひ,ご一読ください.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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