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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科52巻8号

2017年08月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 創外固定でどこまでできるか?

緒言 フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.712 - P.712

 日本での創外固定の歴史は1924年の前田式骨折接合器に始まり,1960年代には河邨式創外固定器による骨延長が行われ,1980年代後半からロシアのIlizarovによる組織延長術(distraction histogenesis)や,De Bastianiによる仮骨延長術(callotasis)が急速に広まった.特に組織延長術は,関節鏡,人工関節にならび20世紀後半の整形外科分野の画期的進歩の1つといえる.日本に本格的にIlizarov創外固定器が導入されて約30年が経過している.近年は,患者や医師の創外固定に対する負担感や,内固定材の進歩とともに,創外固定治療はやや下火になりつつある.しかしながら,創外固定でしかできない治療があり,その有用性がいまだに極めて高いのも真実である.

 本誌上シンポジウムでは,テーマを「創外固定でどこまでできるか?」とし,現状の創外固定治療の限界を打破し,また若手の整形外科医に創外固定の魅力を知ってもらおうと日々奮闘している6名の創外固定のエキスパートにご執筆をお願いした.野坂光司先生には外傷治療における創外固定器の有用性について執筆していただいた.寺本司先生には創外固定を用いた膝・足関節部の骨切り術について,創外固定器の有用性と骨切りのコンセプトについて執筆していただいた.川端秀彦先生には上肢疾患の特に細かい部位における創外固定の使用法,有用性について,大関覚先生には足部疾患における創外固定治療について,金郁喆先生には小児疾患における創外固定の有用性について,松原秀憲先生には感染・偽関節・変形などの外傷後遺症に対する創外固定を用いた治療について解説いただいた.どの先生にもそれぞれの先生方が得意とする分野における創外固定の有用性や魅力,限界を余すところなく伝えていただけたと思う.

リング型創外固定による外傷治療

著者: 野坂光司 ,   宮腰尚久 ,   山田晋 ,   齊藤英知 ,   木島泰明 ,   土江博幸 ,   斉藤公男 ,   島田洋一

ページ範囲:P.713 - P.717

 Ilizarov創外固定に代表されるリング型創外固定は,術者にとっては手技が煩雑で,患者にとってはかさばって不快というイメージが付きまとう反面,リング型創外固定を得意とする術者(Frame surgeon)が,径1.8mmのワイヤーを多数駆使して,下肢の脆弱性粉砕骨折を強固に固定し,術直後から全荷重歩行可能な患者をみると,やはりリング型創外固定はこれからの超高齢社会において,なくてはならない治療法であることを実感する.また,変形治癒や偽関節など,慢性期症例に対して使用されるイメージが強いリング型創外固定であるが,急性期外傷でも強い力を発揮できる.

骨切りの創外固定—膝関節と足関節に対する創外固定器を用いた3次元関節内骨切り術

著者: 寺本司

ページ範囲:P.719 - P.723

 内側型変形性膝関節症に対する脛骨顆外反骨切り術(TCVO),内反型変形性足関節症に対する遠位脛骨斜め骨切り術(DTOO)を行ってきた.これらの術式のコンセプトは関節面の接触面積が増大し,関節面の形態が変化することで,関節面の形態に由来したbone instabilityが改善し,最後に確実にアライメントを矯正できることである.下肢の変形には関節内変形と関節外変形があるが,関節内の変形矯正には関節内骨切りが必要であり,関節外の変形矯正には関節外骨切りが必要であると考えている.ここに報告した症例は3-dimentional intra-articular osteotomy(3次元関節内骨切り術)を用いた関節形成術であり,関節外科におけるコンセプトはすべて共通である.

上肢の創外固定

著者: 川端秀彦

ページ範囲:P.725 - P.732

 不安定な骨折や感染創を避けての固定など一般的な創外固定器の使用法に加えて,上肢における創外固定器の特徴的な使い方として,①関節近傍での強固な固定および関節を架橋しての固定,②広範な骨欠損に対して,他の部位を犠牲にすることなく治療する骨移動術,③1cmに満たない小骨片を骨延長する指骨延長術,④重度の拘縮に対する軟部組織延長術,などが挙げられる.これらはいずれも創外固定があって初めて完遂できる治療である.

足の創外固定

著者: 大関覚

ページ範囲:P.733 - P.746

 下肢の推進力を地面に伝達する足部の機能を再建するには,足底全体が地面を捉えるplantigradeな足部構造が必須であり,創外固定器はギプスより強力に矯正位を保持できる.足の外科の軟部組織解離術や骨切り術に,Ilizarovの牽引性組織誘導法を併用すると,高度な足部変形を安全に漸次矯正することが可能である.

小児の創外固定

著者: 金郁喆

ページ範囲:P.747 - P.760

 創外固定器を用いた小児の骨延長や変形矯正術では,その手術時期や変形の部位とその程度によって治療法を検討する必要がある.成長終了時期であれば1回の手術で治療できることが多いが,幼少期の変形や成長障害では1回目の治療後に変形の進行や成長障害を来すため,少なくとも6カ月以上は術前に経過観察を行うことが望ましい.その間,患児の変形や成長障害の程度を把握して,高度な変形では成長抑制術の併用や健側の治療も同時に行うなど,必要最小限の手術回数で機能的な四肢を獲得できるよう工夫する必要がある.

外傷後遺症に対する創外固定を用いた治療

著者: 松原秀憲 ,   宇賀治修平 ,   濱田知 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.761 - P.768

 外傷後後遺症の中で創外固定が有用な疾患としては①変形治癒,②骨端線損傷後の変形,③偽関節(感染性・非感染),④軟部組織欠損,⑤尖足変形,⑥関節牽引形成術がある.本編では,①から④についての代表症例を呈示し,その有用性を考察した.創外固定は,近年敬遠される傾向にあるが,内固定にないメリットがたくさんあり,かつ創外固定でしかできない治療もあり,外傷後後遺症の治療には非常に有用である.

論述

人工膝関節置換術の術後疼痛管理およびリハビリテーションに術中塩酸モルヒネ投与は有用か

著者: 千葉裕美 ,   杉田健彦 ,   高橋美希子 ,   宮武尚央 ,   佐々木啓 ,   吉田美智子

ページ範囲:P.769 - P.773

背景:多剤カクテル療法は人工膝関節置換術(TKA)の術後疼痛管理に対して有効性が認められている.この多剤カクテル注射(以下,カクテル注射)に塩酸モルヒネを用いる報告が多数あるが,その効果は明らかではない.

対象と方法:今回,カクテル注射内もしくはくも膜下へモルヒネを混注し,術後鎮痛やリハビリテーションに与えるモルヒネの影響を検討した.

結果:カクテル注射内混注の有無による鎮痛効果に有意差はみられず,くも膜下投与では術後平均20時間までの鎮痛効果が優れていたが,副作用である嘔気・嘔吐では劣っていた.一方,リハビリテーションへの好影響はみられなかった.

まとめ:カクテル注射へのモルヒネ混注の有用性は認められなかった.

調査報告

50歳以下の健常者における床に座り,床から立つ能力と肩,腰,膝の痛み経験との関連性

著者: 戸田佳孝

ページ範囲:P.775 - P.779

背景:51歳以上では床に座り立つときに手や膝を突く群は突かない群に比べ,6年以内に死亡する確率が2倍高いとの報告がある.

対象と方法:本研究では50歳以下41歳以上の102例の健常人を,肩か腰か膝の痛みの経験の有無によって既往歴あり群となし群に分類し,床に座り立つ能力に関する指数を比較した.

結果:腰痛既往歴あり群(23例)の指数は6.8±2.4点であり,なし群(79例)の8.2±1.9点に比べて有意に低かった(P=0.007).

まとめ:腰痛の既往歴があれば骨盤の前後傾が困難であることが多く,そのため床に座り立つ能力が劣ると考察した.

Lecture

首下がり

著者: 豊根知明 ,   白旗敏之 ,   工藤理史 ,   松岡彰 ,   丸山博史 ,   石川紘司 ,   男澤朝行

ページ範囲:P.781 - P.785

はじめに

 1986年,Langeら1)はfloppy head syndromeと称して,首下がり12例を報告した.首下がり(dropped head)とは,顎が前胸部に接触する“chin-on-chest deformity”を来す病態であり,前方注視困難となり日常生活にさまざまな支障を来す.頚部伸筋群の筋力低下が主因と考えられるが,前頚筋の過剰緊張も一因とされる.原因疾患は,運動ニューロン疾患・筋疾患・パーキンソン症候群なども含め多岐にわたる.診察においては,頚部筋以外の筋力低下,筋萎縮のほか,眼瞼下垂や錐体外路症状の有無などをチェックするが,疑わしい場合には神経内科にコンサルトし,その上で明確な原因のない首下がりとして整形外科が主治療科となることが多い.後弯変形がflexible(頚部後屈により改善)な症例においては,装具やリハビリテーションによる治療が優先され,筆者の経験ではその多くで症状の改善が得られる.変形がrigidな症例に対しては外科的な治療が考慮される.胸腰椎の成人脊柱変形に対する手術治療は,骨盤パラメータの解析と,それに基づくformulaの構築により,正確な術前のプランニングが可能となり,手術成績の向上と合併症の軽減が図られてきた.一方で,前方注視困難な首下がり症例に対する手術治療戦略はいまだ確立されているとは言えず,さらにデータを積み上げていく必要がある.

境界領域/知っておきたい

たこ・うおの目

著者: 渡邊孝治

ページ範囲:P.786 - P.788

はじめに

 「たこ」,「うおの目」はそれぞれ「胼胝」,「鶏眼」の俗称である.胼胝や鶏眼で困っている人は,整形外科だけではなく皮膚科や形成外科を受診することも多い.私見であるが,皮膚科や形成外科では胼胝・鶏眼という皮膚の角質異常に注目され,局所の治療で終了していることが多い印象を受ける.胼胝・鶏眼は摩擦や圧迫などの慢性的な刺激により,生体の生理的な防御反応として全身のどこにでもできうる.われわれは,胼胝や鶏眼は摩擦や圧力の要因が取り除かれれば,徐々に小さくなり,治ることを知っている.整形外科医として胼胝や鶏眼を診察するときは,われわれの得意な荷重バランスやアライメントについて考察し,胼胝・鶏眼の原因を考えながら治療をしていくとおもしろい.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・11

—ガイドラインを考慮した治療—慢性腰痛

著者: 川口善治

ページ範囲:P.790 - P.793

はじめに

 2012年10月に刊行されたわが国の腰痛診療ガイドライン(以下,ガイドライン)には,“Clinical Question 11:腰痛に薬物療法は有効か”という項目があり,これに対する回答として“Grade A:薬物療法は有用である”と明確な記載がある1).腰痛に対する具体的な治療薬としてガイドラインには,1.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),2.COX-2選択的阻害薬,3.アセトアミノフェン,4.筋弛緩薬,5.抗不安薬,6.抗うつ薬,7.オピオイド,8.その他,が記載されている.それぞれの薬物にエビデンスが示されているが,これはCochraneレビュー,ヨーロピアンガイドライン,米国内科学会と米国疼痛学会によるガイドラインを基に,2008年3月31日までの期間に発刊された文献を検索した結果である.しかし初版のガイドラインの作成に当たり参考とされた約10年前の知見と現在とを比較すると,腰痛診療に対して使用される薬物はここ数年で大きく様変わりした感がある2).本稿では,ガイドラインを踏まえたわが国の腰痛に対する薬物療法の現状,ガイドライン発刊以降の最新の知見を解説しつつ,慢性腰痛の診療に対する現状と今後の課題について筆者の考えを述べたい.

慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・12

—ガイドラインを考慮した治療—変形性膝関節症

著者: 廣瀬隼 ,   水田博志

ページ範囲:P.794 - P.799

はじめに

 変形性関節症(osteoarthritis:OA)は整形外科領域で最も頻度の高い疾患であり,なかでも膝関節におけるわが国の有病率は2,530万人1)と推定されている.膝OAはロコモティブシンドロームの代表疾患の1つであり,進行すれば歩行などの日常生活動作に支障を来す.OAの病態は関節軟骨の摩耗変性を主体とし,それに続発する軟骨と骨の破壊および増殖性変化を来す,関節軟骨と関節構成体の退行変性を基盤とした慢性疾患である.現時点で根治療法はなく,進行予防や症状改善のために,患者教育,運動,減量,および薬物療法が主に行われ,病状が進行したものに対しては外科的療法が実施される.各種治療について,近年はエビデンスに基づき作成された膝OAの診療ガイドラインが複数の国際的な学会や機構から公表されている(表1).本稿ではそれらのガイドラインを踏まえた薬物療法について概説する.

臨床経験

仰臥位前方進入法による人工股関節全置換術後の異所性骨化

著者: 中北吉厚 ,   老沼和弘 ,   吉居啓幸 ,   田巻達也 ,   上西蔵人 ,   三浦陽子 ,   白𡈽英明

ページ範囲:P.801 - P.804

背景:仰臥位前方進入法(DAA)による人工股関節置換術(THA)後の異所性骨化(HO)の傾向や発生率についてはいまだ十分解明されていない.

対象と方法:当院のDAA THAを行った1,023股を調査した.

結果:22.1%(226/1,023股)にHOを認めた.Brooker分類classⅢ以上の発生率は2.6%(27/1,023股)であった.男性,低年齢者,手術時間の長い症例,術前の変形が高度な症例で出現率が高かった.

まとめ:手術侵襲が大きく軟部組織損傷の大きい症例ほどHO出現率が高かった.

症例報告

転位した第7頚椎上関節突起骨片による神経根症を生じた1症例

著者: 常起忠 ,   恩田啓 ,   柳澤真也 ,   木村雅史

ページ範囲:P.805 - P.808

 第7頚椎の片側性上関節突起骨折により神経根障害を来した1例を経験した.症例は50歳男性でトラックの荷台から転落し受傷した.単純X線像とMRIで明らかな異常が認められなかったため,頚椎カラーによる保存療法を継続した.しかし,上肢の脱力感,しびれに改善がないため,当院受診後3週目(受傷後7週目)に行ったCT検査で骨折が判明した.受傷から約2カ後に内視鏡下手術を行い,術後2年の時点では,しびれは残存しているものの筋力は回復し復職している.頚部外傷においてCT検査の重要性を再認識させられた症例であった.

2根障害を呈したガス含有腰椎椎間板ヘルニアに対して内視鏡下椎間板摘出術を施行した1例

著者: 岡田紗枝 ,   山田宏 ,   山﨑悟 ,   西山大介 ,   中村憲太 ,   太地良 ,   松﨑交作

ページ範囲:P.809 - P.812

 2根障害を呈したガス含有腰椎椎間板ヘルニアに対して,内視鏡下椎間板摘出術(MED)を施行した.弯曲手術器機と斜視鏡特性を活用することで,腰椎の安定化機構に重要な役割を果たす峡部や椎間関節を医原性に損傷することなくヘルニア切除が可能であった.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.711 - P.711

書評 上肢の画像診断 フリーアクセス

著者: 江原茂

ページ範囲:P.780 - P.780

 岡本嘉一(筑波大学医学医療系臨床医学域・放射線診断学)・橘川 薫(聖マリアンナ医科大学・放射線医学講座)の両氏による上肢の画像診断の教科書が上梓された.上肢の関節の画像診断については,肩関節を扱った教科書はすでに内外にみられるが,このユニークな書籍は上肢でも肩を除いたより末梢の上腕から手までを扱っている.上肢の画像診断に関する先行書籍にはさらにChung & SteinbachのMRI of the Upper Extremity(2010年,Wolters Kluwer/LWW)がある.MRIを扱っている点で類似していると思われるが,この肩も含めた書籍では,肘関節と手関節を疾患別でなく部位別に扱っている点でスタイルに違いがある.本書では題名は画像診断とあり,従来のX線検査やCTを解説に盛り込んでいるが,実際にはMRIに重点を置いていることは明らかで,先行する教科書に劣らないくらい画像診断の今日的な状況を色濃く反映している.

 このユニークな書籍の従来の教科書との違いは内容にあり,解剖のアトラスに続く章ではスポーツ外傷や神経絞扼に始まり,残りの半分近くを外傷・腫瘍・関節炎といった骨・関節領域の基本的な領域をカテゴリー別に扱っている.特に内容の特徴としては著者のお一人である岡本氏が肘関節のスポーツ傷害に取り組んでこられた成果が十分に盛り込まれている.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.813 - P.813

あとがき フリーアクセス

著者: 黒田良祐

ページ範囲:P.816 - P.816

 梅雨入りしたというのにほとんど雨がなく,早くも各地で取水制限がはじまり,水不足が心配されます,と書きましたが,この原稿の校正段階で九州地方に集中豪雨による甚大な被害が発生しています.お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに,1日も早い復興を心より願っております.

 今年の夏は暑さ厳しいとの長期予報も出ており,年々日本が亜熱帯化していくのを実感しています.5月18日〜21日に東北大学教授 井樋栄二会長の主催で第90回日本整形外科学会学術総会が宮城県仙台市の仙台国際センターなどにおきまして,「復興と再生」をテーマで開催されました.2011年の東日本大震災から6年,東北地方の沿岸地域にはまだまだ地震の傷跡が残っておりますが,杜の都ではアカデミックな熱い議論のみならず,スポーツ大会(野球・サッカー・バスケットボール),全員懇親会での「みちのくプロレス」など,連日連夜大いに盛り上がりました.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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