icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科52巻9号

2017年09月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム パーキンソン病と疼痛

緒言 フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.818 - P.818

 わが国における超高齢社会の到来は,診療現場にも劇的な変化をもたらしている.整形外科も例外ではない.

 以前は,交通事故に伴う骨折や先天性股関節脱臼,あるいは結核が整形外科における外来患者の多数を占めていた.cureの時代である.そこでは,ギプス巻きや流注膿瘍の穿刺が若手医師の毎日の仕事であった.

パーキンソン病とはなにか

著者: 榎本博之

ページ範囲:P.819 - P.824

 パーキンソン病の主要な症状が運動症状であることは明らかであるが,それとともに,本特集で扱う疼痛をはじめとしたさまざまな非運動症状を伴うことも,古くから知られている.しかし,運動症状の治療が困難であった時代には非運動症状は重要視されてこなかった.ところが運動症状に対する治療法が発達することで,近年,現状の治療法による効果の乏しい非運動症状はQOL維持において重要な要素となっている.また,これら非運動症状を含めた病態の研究が進むことで,パーキンソン病を脳疾患ではなく,全身疾患として捉えるようになっている.本章では近年の疾患概念と運動症状,非運動症状について概説する.

—パーキンソン病と慢性疼痛—病態メカニズムと対策について

著者: 西岡健弥 ,   服部信孝

ページ範囲:P.825 - P.828

 近年,パーキンソン病と慢性の痛みとの関連について,多くの知見が得られている.パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患であり,高齢化社会に伴い患者数は増加している.約30〜50%程度に慢性の痛みは合併し,頻度的にも多い.ドパミンの内服加療の切れ目に出現するoff painと呼ばれるものや,特有の姿勢異常に起因する.パーキンソン病の慢性の痛みの特性について理解し,適切に対応できることは,患者の生活の質を上げるために重要といえる.

—パーキンソン病と慢性疼痛—アンケート調査結果とみえてくる新たな世界

著者: 湯浅龍彦

ページ範囲:P.829 - P.833

 パーキンソン病の慢性疼痛の実態をアンケート調査から明らかにした.疼痛の種類は,腰痛が最多40%で,肩こり,関節痛,手足のしびれ,痛みなどが続いた.パーキンソン病の慢性疼痛は患者のADLを著しく障害する.

 パーキンソン病の慢性疼痛を掘り下げていくと,みえてくる本質は中枢神経系の全体に及ぶ情報処理機構の破綻であり,そこではドパミン代謝異常にとどまらず,さまざまなシステムを巻き込んだ全脳ネットワークの機能異常という状況である.そうしたパーキンソン病の全体を俯瞰する新たな視点に立ってこそ初めて適切な治療対策を工夫することが可能となる.

—パーキンソン病と腰痛—臨床像

著者: 田中洋康 ,   武田篤

ページ範囲:P.835 - P.838

 パーキンソン病では腰痛の頻度が極めて高い.一般的に症状が進行するにしたがってその頻度・程度とも悪化すると考えられるが,発症早期から腰痛を訴える例も多く,なかにはパーキンソン病の発症に数年程度先行する例も存在する.特有の姿勢異常や筋固縮が一因とされるが,脊椎変性疾患を伴う例も多く,骨粗鬆症の関与も指摘されている.整形外科的な原因疾患が明らかでない腰痛患者の中に,パーキンソン病が存在し得ることに注意が必要である.

パーキンソン病患者における姿勢異常と腰痛—理学療法について

著者: 小野寺亜弥 ,   鈴木良和 ,   平賀よしみ ,   福田倫也

ページ範囲:P.839 - P.843

 パーキンソン病患者では特有の姿勢異常を呈し,腰痛との関連についてさまざまな報告がされている.腰痛の原因として,筋・骨格系の問題が主要因とされているが,その他,ジストニア関連痛や中枢性疼痛を原因とするものも報告されている.そのため,実際の患者では姿勢異常のみで説明できる腰痛は多くはなく,患者の状況に応じた対応が必要である.本稿では,パーキンソン病患者における姿勢異常と疼痛発生のメカニズムについて解説し,パーキンソン病の疾患特性,病期を踏まえた理学療法について紹介した.

—パーキンソン病と腰痛—どう治療するか

著者: 吉井文均

ページ範囲:P.845 - P.850

 パーキンソン病では半数以上の患者で腰痛の訴えがある.Fordの疼痛分類に基づき,腰痛の原因を1.筋骨格性,2.神経根/神経障害性,3.ジストニア性,4.中枢性に分類した.治療方針を決めるうえでは,原因がどのタイプのものかを判断する必要がある.治療には薬物療法,手術療法,脊髄刺激療法,リハビリテーションなどがあるが,早期からの介入が望ましく,最初からL-dopaやその他の抗パーキンソン病薬で治療を試みることもある.腰痛を慢性化させないためには,腰部の変化のみならず,総合的な立場からのアプローチが重要になる.

—パーキンソン病と腰痛—パーキンソン病に対する高周波熱凝固術(RF-T)を中心とした複合治療—難治性腰背部痛を呈する神経筋疾患に対する腰髄神経後枝内側枝RF-Tの有効性

著者: 寺尾亨 ,   加藤直樹 ,   武石英晃 ,   藤田周祐 ,   谷諭 ,   村山雄一

ページ範囲:P.851 - P.860

 パーキンソン病に代表される神経筋疾患(neuromuscular disorders:NMD)の腰背部痛(low back pain:LBP)は難治性であり,腰椎固定手術後に高い合併症が出現することが知られている.後側弯を来したNMD患者のLBPに対し,当院では除痛効果を目的とした腰髄神経後枝内側枝の高周波熱凝固術(radiofrequency thermocoagulation [RF-T] of the posteriomedian branch of lumbar spine:PBLS)を施行しているが,この手技のみでは長期間の除痛を得ることが困難な症例が散見された.現在は,RF-T of PBLSに加え,仙腸関節の高周波熱凝固術,梨状筋ブロックおよびボツリヌス毒素の筋肉注射などを組み合わせることで,RF-T of PBLSの単独治療と比較し長期的な除痛効果を認めている.いずれの手法でも奏功しない症例には最終手法として脊髄刺激療法を行い,除痛の相乗効果を得ている.NMDのLBPの病態は個々の症例で異なっており複数の病態が合併しているため,それぞれに適した複合治療が必要である.

—パーキンソン病と腰痛—脊髄刺激療法—適応と課題

著者: 牟礼英生 ,   平澤元浩 ,   永廣信治

ページ範囲:P.861 - P.867

 脊髄刺激療法(SCS)は,主に経皮的に脊髄硬膜外電極留置を行い,脊髄後索を刺激することにより神経障害性疼痛を抑制する神経調節治療(neuromodulation therapy)である.パーキンソン病は中脳黒質ドパミン含有神経細胞の変性に伴う不随意運動疾患とみなされてきたが,近年は自律神経障害や認知機能障害などの非運動症状に注目が集まっている.痛みもその1つであり,しばしば治療抵抗性のこともありQOLを低下させる一因となる.本稿ではSCSの概要およびパーキンソン病に対するSCSについて自験例に文献的考察を加えて解説する.

—パーキンソン病と腰痛—腰椎の手術—適応と課題

著者: 中川幸洋 ,   𠮷田宗人

ページ範囲:P.869 - P.874

 パーキンソン病患者では,腰痛やcamptocormiaをはじめとした姿勢不良がしばしば問題となる.また,腰椎に関しては,腰部脊柱管狭窄症や腰椎すべり症を合併することも多く,除圧手術や固定手術を行う機会もあるが,手術適応に関しては病態を十分に把握して適切な方法を選択することが重要である.すなわち,脊椎手術には除圧,固定,変形矯正(固定)といった手技を単独もしくは組み合わせて行うことが多いが,いずれの方法においてもパーキンソン病患者では再手術率が高く,インプラントを用いた手術では不具合が高率に発症するという事実を念頭に置かねばならない.固定や矯正の適応は慎重に行い,可能な限り低侵襲治療で対応する必要がある.

手術手技

強直性脊椎疾患症例と非強直性脊椎疾患症例では経皮的椎弓根スクリューの刺入精度に違いはあるのか?—同一術者によるフルオロスコピーガイド下刺入での検討

著者: 笹川武史 ,   丸箸兆延 ,   橋本典之 ,   上島謙一 ,   舩木清伸 ,   香川桂 ,   吉谷純哉 ,   中村琢哉

ページ範囲:P.875 - P.879

背景:経皮的椎弓根スクリュー(以下,PPS)を用いた脊椎固定術は,低侵襲に広範囲に固定できる点で強直性脊椎疾患(以下,ASD)症例の固定にも有用である.本研究の目的は,ASD症例は非ASD症例と比べPPSの刺入精度に違いがあるかを検討することである.

対象と方法:同一術者が刺入したPPS 274本(ASD群132本,非ASD群142本)を対象とし,逸脱率を調査した.

結果:PPS逸脱率はASD群で7.6%,非ASD群で2.1%であり,ASD群で有意に逸脱率が高かった.

まとめ:ASD症例ではPPS刺入には注意を要する.

調査報告

筋骨格系慢性疼痛に対する理解度と治療機関選定についての国民意識調査

著者: 菅井桂子 ,   辻収彦 ,   松本守雄 ,   西脇祐司 ,   中村雅也

ページ範囲:P.881 - P.890

背景:筋骨格系慢性疼痛についての理解度や,受診行動の決定要因などを明らかにするため,アンケート調査による横断研究を行った.

対象と方法:全国を代表するリサーチパネルを対象にweb上でアンケートを行った(5,000サンプル).

結果と考察:受診先は整形外科が最も多かった.受診時に最も重視する項目として「専門性」と「通いやすさ」が上位に挙がった.対象者の8割近くが疼痛の慢性化の予防は可能と考え,その要素として運動や姿勢を重視していた.

まとめ:今後の筋骨格系慢性疼痛対策の立案に向けての重要な基礎資料が得られた.

特別寄稿

明治時代初期のわが国における骨腫瘍外科について

著者: 大幸俊三 ,   早川智

ページ範囲:P.891 - P.898

 明治時代初期の骨腫瘍外科学および近代外科学の状況を調査する.主として日本大学医学部資料室所蔵で明治6年(1873)初刊 石黒忠悳著『外科説約』を精読し,骨腫瘍である骨瘤や軟骨瘤の記述を検索した.骨瘤や軟骨瘤は良悪性に分類され,癌骨転移も鑑別にある.手術治療では截除(切除)や截断(切断)が述べられ,また,術後感染で瘻孔や附骨疽が多いことがうかがわれる.また,Listerの石炭酸による制腐(殺菌)が記載され,近代外科学の四要項である病理解剖,止血(結紮),鎮痛(吸入全身麻酔)に制腐が加わり,骨腫瘍外科学の大きな進歩がみられた.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・13

—ガイドラインを考慮した治療—骨粗鬆に伴う疼痛

著者: 折田純久 ,   稲毛一秀 ,   鈴木都 ,   大鳥精司

ページ範囲:P.900 - P.904

骨粗鬆症と痛み

 骨粗鬆症患者における痛みには,骨折などの外傷に伴うものと骨粗鬆自体そのものがもたらす痛み(骨粗鬆性疼痛)があり(図1),破骨細胞の活性化や疼痛感受性の亢進が一因と考えられている.また,臨床における高齢者の急性腰痛の8割近くにMRI上の骨髄輝度変化がみられ,骨傷の潜在的な存在の可能性が示唆されるなど1),骨粗鬆症に関連する痛みには不明な点も多い.骨折などの外傷性の疼痛に対しては一般的な消炎鎮痛薬が用いられるが,骨粗鬆性疼痛についてはすべての機序はいまだ研究途上にあるためその薬物治療効果は完全に明らかにはなっていないが,骨粗鬆症薬による骨吸収抑制・骨形成促進を中心とした骨環境の整備が鎮痛効果につながるものと認識されている.

 本稿では運動器慢性疼痛の一因となりうる骨粗鬆性疼痛の機序について最新の知見を概観し,薬物療法の効果と可能性について述べる.

慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・14

腰痛のタイプ別運動療法—ACE(エース)をねらえ!

著者: 松平浩

ページ範囲:P.905 - P.909

はじめに

 腰痛の治療および再発予防の介入法として運動療法は最も重要な手段である.慢性腰痛に対する運動療法として,疼痛の改善にはストレッチが,機能の改善には筋力増強が優れるといったシステマティックレビュー1)など,そのエビデンスは蓄積されているものの,体系的なコンセプトに基づいた整理は発展途上にある.本稿では,筆者が臨床現場で用いている腰痛の運動療法“ACE(エース)コンセプト”について概説する.

「勘違い」から始める臨床研究—研究の旅で遭難しないために・17

方法自体がゆるくないか?

著者: 福間真悟 ,   福原俊一

ページ範囲:P.910 - P.913

 連載第14回,15回では,研究抄録を評価する5つのチェックポイントについて解説しました.今回は,その中で,5つの項目の中の1つ「方法自体がゆるくないか?」というポイントについて解説していきます.

 最初に,研究抄録を評価する5つのチェックポイントについておさらいしておきましょう.

臨床経験

腰部脊柱管狭窄症を持つ高齢者へのロコモチェックを用いた評価—一般高齢者との比較

著者: 重松英樹 ,   岩田栄一朗 ,   田中誠人 ,   奥田哲教 ,   森本安彦 ,   増田佳亮 ,   山本雄介 ,   田中康仁

ページ範囲:P.915 - P.918

背景:ロコモティブシンドロームはロコモチェックで自己評価できる.

方法:健康イベント参加の65歳以上の高齢者と当院で手術した腰部脊柱管狭窄症(以下,LSS)に,ロコモチェックで評価し,比較検討した.

結果:LSSの患者はロコモチェックの該当項目数が有意に増加していた.また,一般高齢者とLSSともに「家の中でつまずいたり滑ったりする」や,「横断歩道を青信号で渡りきれない」ことは両群ともに該当しにくい項目であった.

まとめ:LSS患者では一般高齢者と比較し,ロコモチェックの該当項目が有意に増加していた.

症例報告

若年発症頚椎化膿性脊椎炎の1例

著者: 丸岩侑史 ,   福田健太郎 ,   高橋勇一朗 ,   吉田祐文

ページ範囲:P.919 - P.922

 化膿性脊椎炎の若年発症は比較的稀とされており,今回20代発症の頚椎化膿性脊椎炎を経験したので報告する.

 症例は26歳男性,背部痛と発熱を主訴に救急外来を受診し,CRP28mg/dLと高値を認め,不明熱として入院となった.血液培養は陰性で,頚椎単純X線像でも異常を認めなかった.右示指しびれと筋力低下が出現したため,発症から10日後に頚椎MRIを施行した.C6/7椎間板腔から波及する硬膜外膿瘍を認め,頚椎化膿性脊椎炎を診断した.安静と抗菌薬による保存療法により治療開始から3週でCRPは陰性化し筋力も回復した.頚椎装具を装着して離床し,再燃なく退院した.起炎菌,感染経路は不明であった.

 化膿性脊椎炎は免疫力の低下した高齢者や中高年に好発し,健常な若年者への発症は稀である.本症例のような下位頚椎発症では単純X線像で異常を認められないこともあり,早期診断のためにはMRIは必須であるが,何より丁寧な理学所見と本症を念頭に置くことが重要である.

--------------------

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.817 - P.817

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.923 - P.923

あとがき フリーアクセス

著者: 吉川秀樹

ページ範囲:P.926 - P.926

 地球温暖化の影響か,記録的な猛暑が続いたこの夏ですが,いかがお過ごしでしょうか? 大雨災害や詐欺事件,政界でも大臣や党代表の辞任など,不安定な出来事が多い日本列島です.世の中の乱れに影響されず,学問の原点に戻って整形外科学を楽しみたいものです.

 本号の誌上シンポジウムでは,菊地臣一先生の企画・編集で『パーキンソン病と疼痛』を特集しています.パーキンソン病は腰痛を代表とする慢性疼痛が特徴的ですが,意外にも,整形外科のシンポジウムで取り上げられることは稀です.読者にとって大変有益な情報を提供するものと考えます.発見者のジェイムズ・パーキンソンについては,『アルツハイマーはなぜアルツハイマーになったのか:病名になった人々の物語』(講談社)に詳細な記述があります.本書はパーキンソン病,アルツハイマー病,アスペルガー症候群など,人名が病名となった10疾患と,3つの人名由来の医学用語に関する物語が掲載されており,大変興味深いです.1755年にロンドンで生まれたジェイムズ・パーキンソンは学会や世相を騒がせた孤高・異能の外科医です.17歳のときから父ジョンの「パーキンソン父子医院」で外科医・助産師として働いています.王立人道協会の記録によれば,首つり自殺した青年や落雷に打たれた瀕死の男を蘇生させたり,時の国王,ジョージ3世の暗殺容疑でも告発されています.1817年,62歳のとき,医学書『振戦麻痺(shaking palsy)について』を上梓し,患者6人の科学的な観察症例を世界に先駆けて公表しました.ジェイムズ・パーキンソンの慧眼は,この振戦麻痺の根本原因は脊髄の上部の延髄にあると見抜いた先見力でした.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら