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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科53巻1号

2018年01月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 脂肪幹細胞と運動器再生

緒言 フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.6 - P.6

 幹細胞治療は,日本が世界を牽引する研究分野であり,幹細胞の再生能力がより高く,腫瘍化などのリスクはより低くという目標にしのぎを削っている.脂肪の中には脂肪,軟骨,骨,筋などに分化誘導可能な細胞があり,脂肪由来幹細胞と呼ばれている.骨髄から採取される骨髄間葉系幹細胞などと同等な再生能力を有するともいわれ,研究が進んでいる.その分化能力はiPS細胞ほど高くはないが,比較的安全に使用でき,臨床応用もさまざまな形で進んでいる.例えば,美容外科でよく行われる脂肪吸引で患者から脂肪を採取し,その場で幹細胞を含んだ細胞集団を分離し移植するという治療が,乳房再建術などですでに日常的に行われている.整形外科分野では,変形性膝関節症に対する脂肪由来幹細胞の移植治療を行っているクリニックも現れてきている.

 一方,その治療効果やメカニズムなどは,これから検証されるべき課題である.幹細胞治療は,移植した細胞が目的の細胞に分化して再生が進むことがまず期待されるが,脂肪由来幹細胞などの体性幹細胞は,液性因子がパラクラインで周囲の組織に作用し,再生の促進や症状の緩和に関わっていることも考えられている.

脂肪由来間質細胞による脊髄損傷治療

著者: 髙橋藍 ,   中嶋秀明 ,   山本悠介 ,   松峯昭彦

ページ範囲:P.7 - P.12

 脂肪由来間質細胞(adipose-derived mesenchymal stromal cell;ADSC)は採取が比較的容易であり,幹細胞の頻度も高いと報告されており,脊髄損傷に対するADSC移植による運動機能改善効果,軸索再生効果が認められた.また,脊髄損傷部では二次損傷による虚血,炎症,酸化ストレスが惹起され移植細胞に影響すると考えられるが,ADSCは酸化ストレスや低酸素に対する抵抗性が認められ,移植後の生存率も高いことから,質的な面での有用性も期待される.

脂肪由来幹細胞と皮弁生着

著者: 萩原祐介 ,   南野光彦 ,   橋口宏 ,   園木謙太郎 ,   高井信朗

ページ範囲:P.13 - P.20

 脂肪由来幹細胞(ADSCs)の皮弁生着改善作用をin vitroおよびin vivoで評価した.比較対象には骨髄由来幹細胞(BMSCs)を用いた.培養条件下での細胞増殖能,培養7日目以降の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)放出能はADSCsが優れていた.培養10日目以降の肝細胞増殖因子(HGF)放出能はBMSCsで多くみられた.ラット背側に作成した皮弁生着距離はADSCs・BMSCs移植群ともにコントロールより有意に延長した.皮弁下血流量の増大が確認され,組織像では移植細胞周囲にVEGFの放出がみられた.

脂肪由来幹細胞と骨再生

著者: 林克洋 ,   野村一世 ,   方向 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.21 - P.25

 幹細胞や成長因子などを使用した骨の再生医療は古くから行われてきており,一定の成果を収めている.間葉系幹細胞の1つである脂肪由来幹細胞は骨にも分化し,ヒトでも侵襲が少なく十分な細胞数が得られるので,骨再生の臨床応用が現実的である.当科でもin vivoで仮骨延長への移植実験を行い,旺盛な骨形成を認めた.また,in vitroでアスコルビン酸を用いた脂肪由来幹細胞シートの作成に成功し,非シート細胞に比べ骨分化能に優れていることがわかった.

脂肪幹細胞を用いた循環障害に対する再生医療

著者: 岩畔英樹 ,   原田雄輔 ,   傍島聰

ページ範囲:P.27 - P.33

 昨今,多分化能を有する幹細胞に関する基礎的研究の著しい発展によって,幹細胞を用いた臓器再生医療への可能性,有用性が次第に明らかとなるにつれ,幹細胞の臨床応用への可能性に大きな期待が寄せられている.近年,医療現場で大きく注目されている新しい概念が「再生医療」である.

 また,2015年(平成27年)11月から世界に先駆けて「再生医療新法」が施行された.つまり,これからの数年は,再生医療を取り巻くすべての領域(分野)において目の離せない時期が到来する.

 そこで今回は,皮下脂肪組織由来再生(幹)細胞を用いた循環器領域,とりわけ重症な虚血性下肢病変に対する臨床応用の可能性について概説する.

脂肪組織由来間葉系幹細胞の三次元構造体による骨軟骨再生

著者: 村田大紀 ,   中山功一

ページ範囲:P.35 - P.41

 ブタの頚部から採取した脂肪組織から,間葉系幹細胞(AT-MSCs)を分離培養した.その後,AT-MSCsのみで細胞凝集塊を作製した後に,細胞の足場材料を用いることなく鋳型を使用して三次元構造体(プラグ)を作製した.大腿骨滑車溝に円柱状の骨軟骨欠損孔を2つ作製し,一方にはプラグを移植し(移植孔),もう一方は非移植とした(対照孔).組織学的評価は手術後6カ月および12カ月に行った.その結果,対照孔では,骨軟骨組織の修復が部分的に認められたものの不完全であった.それに対して,手術後6カ月の移植孔では,欠損部の表層には軟骨組織が再生されており,深層には軟骨下骨が形成されていた.さらに,手術後12カ月の移植孔では,軟骨組織が正常軟骨とほぼ同様の厚さで再生されていた.

視座

何で英語をやるの?

著者: 千葉一裕

ページ範囲:P.3 - P.4

 最近,若手医師の国外留学希望者が減っているとの話があります.私は,毎年数回,国際学会に出席しますが,日本人医師の参加者,発表者ともに減っている気がしてなりません.こうした内向き傾向の一因に語学,特に英語の問題があるといわれています.ある国際間の比較調査では,日本の高校生の英語力は中国や韓国はもちろん,アフリカの国々よりも低いとの報告もあります.政府もこの点には危機感を持っており,グローバル化政策という旗頭のもと,英語は小さいときからやらないとダメだということで,小学校から英語の授業が始まることになりました.言葉は大切な意思伝達手段ですが,同時に長年積み重ねられたその国の文化そのものであり,われわれは日本語を通じて知らず知らずのうちにわが国固有の文化を学び,日本人としてのアイデンティティを確立してきたはずです.何の目的もなく,「英語は必要だから」と子供に強制しても,日本人としての芯を持てない大人になったり,「なんで英語をやるの?」と反発し,むしろ英語が嫌いになる子供が増えるだけかもしれません.

 以前,本コラムで帝京大学の河野博隆教授は,こうした「行きすぎた英語教育」に警鐘を鳴らされています(51巻3号).「学会や講演会で最新の情報は得られるし,日本にいて普通に臨床をやっている分には英語ができなくても困らない」との声も耳にします.たしかにわが国は,政府や外資系企業などごく一部を除き,英語が出来なくても何ら仕事や日常生活に困ることがない,世界でもめずらしい国です.しかし,残念ながら英語は科学,文化,政治などあらゆる分野で国際共通語として情報交換手段となっており,特に若い先生方にとってその習得はもはや避けては通れないものです.

論述

腰椎変性疾患に対するinstrumentationを併用したPLIFの費用効用分析—一般的尺度と疾患特異的尺度を用いた検討

著者: 藤原啓恭 ,   小田剛紀 ,   島田裕子 ,   森口悠 ,   米延策雄 ,   牧野孝洋 ,   海渡貴司

ページ範囲:P.43 - P.50

背景:「公的医療費支払者」の立場から後方経路腰椎椎体間固定術(PLIF)の費用効用分析を行うこと.

対象と方法:1椎間のPLIFを施行した50例の出来高換算入院時全診療報酬(Cost)を調査した.質調整生存年(QALY)導出に必要なQOL効用値として一般的尺度にShort-Form 6 dimention(SF-6D),疾患特異的尺度にRoland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)を使用し,術後2年まで経過観察し,その費用効用比(Cost/QALY)を算出した.

結果:SF-6Dからみた術後2年でのQALY獲得値は0.226,Cost/QALYは1020万7261円,RDQからみた術後2年でのQALY獲得値は0.497,Cost/QALYは464万1531円であった.

まとめ:わが国の費用効用分析はいまだ不足しており,整形外科のみならず各分野でのエビデンスの蓄積が急務である.

手術手技

転移性脊椎腫瘍に対する新たな低侵襲手術 経椎弓根的腫瘍内切除による神経除圧の有用性

著者: 穴澤卯圭 ,   渡部逸央 ,   青山龍馬 ,   二宮研 ,   鈴木悟士 ,   堀田拓 ,   白石建

ページ範囲:P.51 - P.57

背景:転移性脊椎腫瘍が脊椎不安定性および神経根症状を呈すると,疼痛の制御は困難となる.

方法と対象:椎体腫瘍が神経根を圧迫し,腰痛および神経根症状で歩行困難を呈した2例に対し,椎弓切除と経椎弓根的に脊柱管内に膨隆した腫瘍の腫瘍内切除,減圧を行った.

結果:術中の腫瘍からの出血は容易に制御可能で,肉眼的に神経の除圧が確認可能だった.術後,神経根症状は改善し歩行可能となり,術後約3カ月の間,症状の再発は認めなかった.

まとめ:経椎弓根的腫瘍内切除により,低侵襲で腫瘍の切除および神経の除圧が可能となる.

Lecture

整形外科における医事紛争

著者: 小島崇宏

ページ範囲:P.59 - P.62

はじめに

 昨今,病院が訴えられた,病院に対し損害賠償を命じる判決が出た,あるいは医師が書類送検されたなど,日々,医療事故に関する報道を目にする.このような報道に接し,自分もいつか裁判に巻き込まれるのではないかと漠然とした不安を覚える医師も少なくないと思われる.しかしながら,そのような漠然とした不安から,積極的な治療を行うことに躊躇し,萎縮してしまうようでは,患者によい医療を提供するという医師本来の目的を十分に達することができない.

 本稿は,医事紛争の現状および日常診療で注意すべきことを解説することで,特に若手整形外科医の紛争に関する漠然とした不安を払拭し,患者のための医療に邁進する一助となればと考える.

整形外科/知ってるつもり

Hip-Spine Syndrome

著者: 森本忠嗣

ページ範囲:P.64 - P.68

はじめに

 股関節疾患と腰椎疾患は,加齢とともに増加し,しばしば併発し,両疾患とも腰下肢痛,歩行障害を呈するため相互の誤診例は稀ではない.さらに,一方の病変が他方の病変へ影響を及ぼすこともある.このような両疾患の密接な関連をOffierskiとMacNab1)らがHip-spine syndrome(以下,HSS)として提唱して以来,症候学や診断学,生体力学などさまざまな角度から論じられている.本稿では,HSSの原著以降の報告について紹介する.

境界領域/知っておきたい

骨転移に対する職種・診療科横断的なアプローチ

著者: 髙木辰哉

ページ範囲:P.70 - P.73

がんによる運動器障害

 現在では,一生の中でがんに罹患することがある人は2人に1人とも言われている.がんとともに生きる期間が長くなり,多くのがんサバイバーの方たちが,治療と並行して家事や仕事をしながら生活している.がんと共存する患者さんたちにとっては,「助かるどうか」とともに「どれだけ人間らしく生活できるか」が大切になってきている.人間らしい生活を考えるとき,食事や排泄が自分自身でできたり,さまざまな苦痛や不安が軽減されることが望ましいわけであるが,根本的な部分の1つに,「歩く」,「動ける」ということが挙げられるだろう.それを妨げるがんによる運動器障害にはどのようなものがあるだろうか?

 がんによる運動器障害には,がんそのものによって起こるものや,がん治療に伴って起こるもの,高齢であることなどの個人的な背景からも起こり得る.もともとの脊椎関節変形,抗がん剤やホルモン治療あるいは放射線治療による二次的な骨粗鬆症や骨脆弱性,リンパ節転移やその切除・放射線照射によるリンパ浮腫,悪液質などによるサルコペニア(筋肉量の減少),がんの進行や手術・化学療法による体力低下とそれに伴う不動によって起こる廃用症候群と疼痛,薬剤治療による末梢神経障害なども対象になるが,骨転移によって引き起こされる疼痛や骨折および麻痺は,その中でも重篤な状態となるリスクが高いため,大きな問題となる(表1).

臨床経験

骨粗鬆症性腰椎椎体骨折患者での腰椎と大腿骨の骨密度の比較検討

著者: 太田孝一

ページ範囲:P.75 - P.78

目的:高齢者の骨粗鬆症性腰椎椎体骨折患者における腰椎と大腿骨の骨密度を比較検討した.

対象と方法:2015年6月〜2017年5月に骨粗鬆症性腰椎椎体骨折で入院した65歳以上の40例を対象とした.骨密度は体幹骨dual X-ray absorptiometry(DXA)法により腰椎と大腿骨近位部で測定し,骨密度とyoung adult mean(YAM)値で検討した.

結果:骨密度とYAM値のいずれも,腰椎に比べて大腿骨近位部が有意に低かった(p<0.0001).

まとめ:高齢者の骨粗鬆症性腰椎骨折患者では,骨密度とYAM値のいずれも,腰椎より大腿骨近位部のほうが有意に低かった.

症例報告

母指MP関節掌側脱臼の1例

著者: 前田篤志 ,   鈴木拓 ,   黒岩宇 ,   長谷川正樹 ,   志津香苗 ,   早川克彦 ,   大村威夫 ,   鈴木克侍 ,   山田治基

ページ範囲:P.79 - P.82

 22歳男性,ラグビーの試合で右手が相手選手の下敷きになり受傷した.母指MP関節掌側脱臼と診断し,同日,観血的整復を施行した.術中所見では,MP関節内には明らかな整復阻害因子を認めず,橈・尺側側副靱帯の中手骨,基節骨からの剥離を認めた.側副靱帯および背側関節包を縫合するとMP関節は安定した.術後8カ月における自動運動可動域(伸展/屈曲)は,MP関節は0°/60°,IP関節は0°/60°であり,再脱臼も認めなかった.本症例では早期に手術加療を行うことで良好な成績を得ることができた.

砕石位に伴う両側下腿コンパートメント症候群の1例

著者: 永谷健太郎 ,   石坂隆博 ,   谷口健太 ,   中村優 ,   畔柳裕二 ,   今林英明 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.83 - P.87

 術中体位により生じた両下腿コンパートメント症候群の1症例を経験した.51歳男性(BMI:36.8)で,約5時間の低血圧麻酔下に砕石位での尿道形成術を受けた.術後両下腿外側区画のコンパートメント症候群を発症したため,筋膜切開術を施行し,症状の改善を得た.手術中の体位により下肢に生じたコンパートメント症候群をwell leg compartment syndrome(WLCS)と称し,不適切な体位による圧迫のための筋区画内圧の上昇が原因とされる.加えて本症例では,低血圧麻酔による拡張期血圧の低下も発症に関与したと推測された.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1 - P.1

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.89 - P.89

あとがき フリーアクセス

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.92 - P.92

あとがき

 新年を迎えて本号をお読みの読者も多いと思います.昨年は国内外でさまざまな出来事がありました.突然の衆議院解散,民進党の分裂,トランプ政権発足とその後の混乱,北朝鮮の核実験強行など,どちらかというと社会の秩序が乱れることが多かったと思います.本年はより落ち着いた1年であることを願っています.

 さて,この世には必要ではあるものの,多すぎても困るものがたくさんあります.雨,二酸化炭素,仕事,肩書きなどなどですが,脂肪もその1つと思います.脂肪は体の維持には必要ですが,多すぎると健康を害します.メタボリックシンドロームの病態として脂肪組織の慢性炎症があり,体のさまざまな臓器に悪影響を及ぼす可能性があることも報告されております.しかし,脂肪内には多くの幹細胞があり,再生医療を行う際の有力なcell sourceの候補となります.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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