誌上シンポジウム 脂肪幹細胞と運動器再生
緒言
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著者:
土屋弘行1
所属機関:
1金沢大学大学院医薬保健学総合研究科医学専攻整形外科講座
ページ範囲:P.6 - P.6
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幹細胞治療は,日本が世界を牽引する研究分野であり,幹細胞の再生能力がより高く,腫瘍化などのリスクはより低くという目標にしのぎを削っている.脂肪の中には脂肪,軟骨,骨,筋などに分化誘導可能な細胞があり,脂肪由来幹細胞と呼ばれている.骨髄から採取される骨髄間葉系幹細胞などと同等な再生能力を有するともいわれ,研究が進んでいる.その分化能力はiPS細胞ほど高くはないが,比較的安全に使用でき,臨床応用もさまざまな形で進んでいる.例えば,美容外科でよく行われる脂肪吸引で患者から脂肪を採取し,その場で幹細胞を含んだ細胞集団を分離し移植するという治療が,乳房再建術などですでに日常的に行われている.整形外科分野では,変形性膝関節症に対する脂肪由来幹細胞の移植治療を行っているクリニックも現れてきている.
一方,その治療効果やメカニズムなどは,これから検証されるべき課題である.幹細胞治療は,移植した細胞が目的の細胞に分化して再生が進むことがまず期待されるが,脂肪由来幹細胞などの体性幹細胞は,液性因子がパラクラインで周囲の組織に作用し,再生の促進や症状の緩和に関わっていることも考えられている.