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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科53巻10号

2018年10月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 原発巣別転移性骨腫瘍の治療戦略

緒言 フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.852 - P.852

 年間出生件数が100万人を下回るわが国において,新たにがんと診断される患者は年間100万人を超えている,今や日本人の2人に1人ががんとなり,3人に1人ががんで死亡している現状を考えれば,言い古された言葉ではあるが,やはりがんは国民病の最たるものであるといっても過言ではないだろう.そのような現状の中で,抗体薬を代表とする多くの新規治療が導入され,がんの治療も大きく進歩を続けている.以前は長期予後が見込めなかったような症例でも,骨転移と共存しながら日常生活を送れるケースが増えている.

 「転移性骨腫瘍(がんの骨への転移)」といってもその実態は様々であり,一括りにしてしまうことは甚だナンセンスである.これは骨が折れたことを「骨折」と一言で片付けてしまうのと同様なことでもある.骨を専門としている整形外科医であれば,いかに腫瘍を専門とはしていなくとも,基本的な知識を有していることは非常に重要と考える.

腎癌の骨軟部転移に対する転移巣切除術

著者: 樋口貴史 ,   山本憲男 ,   林克洋 ,   武内章彦 ,   三輪真嗣 ,   五十嵐健太郎 ,   加藤仁志 ,   村上英樹 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.853 - P.857

 近年,腎細胞癌の治療の進歩は目覚ましく,転移を有していても長期生存が見込めるがん種の1つとなった.また,転移性腎癌に対する転移巣切除は予後を延長することが報告され,国内外のガイドラインでも推奨されている.当院における腎癌の骨軟部転移に対する転移巣切除後の予後を解析した結果,生存期間中央値は10.6年で,これまでの報告を大きく上回るものであった.本稿では腎癌の骨軟部転移に対する転移巣切除の意義や適応,手術法などについて,当院の解析結果を基に文献的考察を加えて報告する.

骨髄腫・リンパ腫における骨病変

著者: 遠藤誠 ,   松本嘉寛 ,   川口謙一 ,   林田光正 ,   岡田誠司 ,   松下昌史 ,   幸博和 ,   薛宇孝 ,   藤原稔史 ,   中島康晴

ページ範囲:P.859 - P.864

 骨髄腫およびリンパ腫はいずれも血液系悪性腫瘍であり,頻繁に骨病変を有することから,整形外科医が接する機会が多い腫瘍である.両者ともに化学療法および放射線治療に対する感受性に優れ,原疾患治療における手術の必要性は低い.しかし,いずれの腫瘍も骨脆弱性や病的骨折の原因となり得るため,しばしば整形外科医による介入が必要となる.いずれの腫瘍も診断のポイントがあり,その知識があれば,適切に早期診断することはさほど難しくない.本稿では,整形外科医として最低限知っておくべき基礎知識を概説するとともに,整形外科医が果たす役割について解説する.

肺癌の骨転移に対する治療戦略

著者: 河野博隆 ,   時崎暢 ,   阿部哲士 ,   藤沼渉 ,   佐藤健二 ,   関順彦

ページ範囲:P.865 - P.869

 肺癌は全がんの中で最も頻度が高いがん種であり,骨転移の頻度が高いことが知られている.これまで,肺癌骨転移症例の予後は他のがん種に比して悪いとされてきた.しかし,分子標的治療薬と免疫チェックポイント阻害薬の導入によって,飛躍的に治療成績が向上してきており,その臨床像は劇的に変化してきている.肺癌骨転移に対する治療法の選択では,原発担当科とコミュニケーションを取り,個々の症例の遺伝子型と全身治療を把握したうえでの検討が必要である.本稿では肺癌診療の現状を概説し,肺癌骨転移に対する現在の治療戦略について述べる.

乳癌骨転移

著者: 片桐浩久

ページ範囲:P.871 - P.879

 乳癌は骨転移の原発として肺癌に次いで多い.他の癌と異なり,エストロゲンやプロゲステロンのレセプターやHER 2といわれるがん遺伝子を調べることによって治療効果や予後が予測できる.放射線治療に対する反応は良好で,一時的な除痛だけではなく骨の再生も期待できる.そのため脊椎転移では,麻痺がない段階で適切な放射線治療を行い,対麻痺を予防することが最も有効な治療法である.長管骨の切迫または病的骨折では,予後が短い症例は内固定と放射線治療が第一選択となり,長期予後が予想される症例では3年以上の生存は稀ではないので,病巣部を切除し人工骨に置換することが望ましい.骨修飾薬(bone modifying agent:BMA)の投与により,骨折や脊髄損傷のような骨関連事象は減少するが,なくなるわけではない.乳癌骨転移は全身疾患であるため定期的に経過観察を行い,次に起こる事象を上手に回避することも整形外科の役割である.

前立腺癌骨転移の診療戦略

著者: 髙木辰哉

ページ範囲:P.881 - P.887

 前立腺癌は予後が長く,骨転移も多くみられるがんの代表であり,その診断と治療には近年,大きな変化がみられている.前立腺癌に対する新規薬剤と骨修飾薬の投与で多くの骨転移がコントロール可能になってきた半面,生存期間の延長によって骨関連事象が起きることもみられるようになってきた.

 とくに,前立腺癌に対して未治療の骨転移では,造骨と溶骨が混合する画像が比較的多くみられること,骨転移発覚後の5年生存率は41%と改善傾向にあるが,骨転移発覚時に去勢抵抗性前立腺癌であった症例は予後が悪いことを,自験例の解析から報告する.

甲状腺癌骨転移の治療

著者: 森岡秀夫

ページ範囲:P.889 - P.895

 分化型甲状腺癌骨転移は,溶骨性変化を生じるため病的骨折を起こしやすい.骨転移によって失われた骨の支持性回復や脊髄圧迫による麻痺改善を目的とした外科的治療を行うことは他の癌種と同様だが,局所の根治性も念頭に置いた手術計画が望ましい.骨転移を生じた後も,比較的長期の予後が見込まれることがその理由である.131I治療の適応にならない骨転移に対する外科的治療は,甲状腺癌に対して分子標的治療が導入された現在でも有用な選択肢である.したがって,可能であれば局所切除は積極的に行い,骨欠損部を再建する手術を目指すことが重要である.

Lecture

強剛母趾—外反母趾とは何が違うのか?

著者: 秋山唯 ,   仁木久照

ページ範囲:P.897 - P.903

強剛母趾とは

 強剛母趾は,母趾中足趾節関節(MTP関節)の変形性関節症が本態であり,主に中足骨頭と基節骨基底部の背側の骨棘が衝突し,母趾の伸展制限や疼痛を来す疾患である.外反母趾を伴うものや種子骨と中足骨間に変形がみられるものまで病態は様々だが,その臨床的特徴を有するものを特に強剛母趾と呼ぶ.

 本稿では,強剛母趾の診断とその病期診断,病期による保存療法および手術療法の適応について紹介する.

最新基礎科学/知っておきたい

間葉系幹細胞による脊髄損傷治療への応用(静注治療)

著者: 本望修 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.904 - P.907

 われわれは,自己培養骨髄間葉系幹細胞を治験薬(自家骨髄間葉系幹細胞 “STR01”)として医師主導治験を実施し,薬機法下で再生医療等製品として一般医療化することを試みている.本薬は脳梗塞に対して,2013年2月に治験届を提出し,医師主導治験(第3相)を開始している.脊髄損傷に対して,同年10月に治験届を提出し,医師主導治験を実施した.

 また,2016年2月には厚生労働省の再生医療等製品の「先駆け審査指定制度」(下記参照)の対象品目の指定を受け,薬事承認を受けることを目指して現在進行中である.

境界領域/知っておきたい

整形手術前の経口抗血栓薬の休薬指針

著者: 福田芽森 ,   板橋裕史

ページ範囲:P.908 - P.913

 整形外科周術期において抗血栓薬の休薬や再開を検討する際に重要なことは,①抗血栓薬を内服している理由を確認することと,②手術の出血リスクを評価することである.これらの情報から個々の症例における「休薬による血栓性合併症」と「周術期の出血性合併症」のリスクを比較し,周術期に休薬が必要か,また休薬する際にはヘパリンなどの薬剤による置換が必要なのかを検討する必要がある.

 本稿では,以上に留意して整形外科手術前の抗血栓薬の休薬指針を抗血小板薬と抗凝固薬に分けて概説する.なお,国内では日本のガイドラインを遵守するべきという考え方もあるが,欧米のガイドラインにはより新しいエビデンスが反映されているため,本稿では後者の考え方を中心に述べる.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・2

“文献の用意”と言われたら

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.914 - P.918

 論文執筆のノウハウの以前に,当該領域の知識がないと論文を書き始められません.当然です.しかし,本当に文献を読んだの?と疑いたくなるような原稿をしばしば目にします.指導医・研究責任者(principal investigator:PIと言います)からしてみると,若い医師・研究者と医学・科学を議論できるのは大きな喜びです.しかし,残念ながら,そのような状況に至らないこともしばしばです.

 今回は,指導医から“文献を用意しておいて”と言われた時に,期待されている対応についてお話します.

臨床経験

非解剖学的前十字靱帯再建術後再再建術症例の組織学的評価

著者: 宇川聖美 ,   高橋恒存 ,   笹沼秀幸 ,   福島崇 ,   竹下克志

ページ範囲:P.921 - P.926

目的:非解剖学的前十字靱帯(ACL)再建術後再再建術症例の初回移植腱の組織学的評価を行うこと.

方法:初回移植腱は大腿筋膜張筋1例,骨付膝蓋腱1例につき,関節鏡視下に初回移植腱を切離し,長軸方向に標本作製を行った.

結果:辺縁部のコラーゲン線維配向は整で紡錘形細胞があった.中央部のコラーゲン線維配向は不整で無細胞領域と小球形細胞が存在していた.αSMA陽性血管は辺縁部のみならず移植腱内に確認された.S100陽性神経終末は確認されなかった.

考察:非解剖学的ACL再建術後の初回移植腱は,正常ACLとは異なる組織学的特徴を示した.

ST法(Silicone tube法)を用いたDupuytren拘縮に対するコラゲナーゼ注射法におけるチューブ長の選択

著者: 金谷貴子 ,   名倉一成 ,   原田義文 ,   美舩泰 ,   乾淳幸

ページ範囲:P.927 - P.931

背景:Dupuytren拘縮に対するST法(Silicone tube法)セットは,拘縮索内中央部へのコラゲナーゼ注入を目的とし,シリコンチューブで深度;2,2.2,2.5,2.7,3mmに調整できる.

対象と方法:Dupuytren拘縮の21指にエコー検査で皮膚表面—拘縮索中央間距離を至適注射深度として測定した.

結果:12指が前述5種類のうちの深度となった.9指ではチューブ長が前後する結果となり,拘縮索内への実際注入%は浅いサイズ選択の際は44〜49%,深いサイズ選択の際は53〜67%であった.

まとめ:注入深度が前述の5種類以外となり,チューブ長が前後する際,浅いサイズ選択は拘縮索幅の50%から大きく外れるものでなく,安全に思われた.

症例報告

Free medial plantar flapによる外傷性指掌部皮膚欠損の治療経験

著者: 川西洋平 ,   中村和人

ページ範囲:P.933 - P.937

背景:指掌部外傷は,露出部の外傷であり,皮膚欠損を伴った場合,神経・血管束や腱などの深部軟部組織が露出することとなる.そこで,その再建には,整容面の再建と同時にそれら軟部組織の機能が温存できる方法を選択しなくてはならない.

症例:外傷性指掌部皮膚欠損に対し,free medial plantar flapを用いて再建した症例を経験したので,報告する.

結果:機能面と整容面で良好な結果を得ることができた.

まとめ:足底部の皮膚は,指掌部皮膚に類似しているため,指掌部の最適な再建材料である.

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ページ範囲:P. - P.

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ページ範囲:P.851 - P.851

書評 MISt手技における側方経路椎体間固定術(LIF)入門—OLIF・XLIF®を中心に フリーアクセス

著者: 中村博亮

ページ範囲:P.938 - P.938

 近年,椎体間に側方進入し,従来よりも大きなケージを挿入して固定を行う,いわゆるLIFが盛んに行われるようになった.X線透視(イメージ)を頼りに椎体間に進入し,その間隔を拡大しつつ固定を行う方法である.この方法によって神経組織を操作することなく神経要素の間接除圧を行える.その手術手技に習熟すれば,対象患者に対して大きな福音をもたらすことは必定である.また,一方では,前方手技に慣れていないと思われる術者による大きな合併症も報告されている.イメージには骨性成分しか撮像されないが,その経路には腸管や尿管,大血管,大腰筋内の神経要素などが存在することを十分に認識・理解しなければならない.筆者らの世代は,先輩の先生方が施行される開放手術(オープン)での腰椎前方固定術に何度も立ち会って経験を積ませていただいた.筆者自身も,後腹膜進入で内視鏡下に腰椎に側方進入し,椎体間固定を施行していた.内視鏡下に進入すると,尿管や大血管などはよく観察でき,操作中にもその辺縁が操作部に入ってくることがあることも,よく理解している.前述のような理由から,本方法を施行するに当たっては,その解剖や手術手技のポイント,合併症を未然に防ぐ方法などを記載した書物がぜひとも必要であると,以前から感じていた.

 このようなタイミングで登場したのが本書である.内容を拝見すると,まず本術式を施行するに当たって理解しなければならない解剖が詳細に記載されている.これから本手術手技を開始しようとされている若手医師の方には,この章を熟読することをお勧めしたい.次に前弯獲得,間接除圧のメカニズム,本術式の適応が記載されており,手術手技の実際についてはOLIF,XLIF®に分けて詳細な記述がなされている.さらに特筆すべきは,何らかの問題が生じた場合のトラブルシューティングが実現場で役立つように事細かに記載されており,目を通しておくべきことが必須となる章であろう.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.939 - P.939

あとがき フリーアクセス

著者: 仁木久照

ページ範囲:P.942 - P.942

あとがき

 今年の夏の甲子園第100回記念大会は,史上初の2度目の春夏連覇や第1回大会以来103年ぶりの秋田県立高校の決勝進出など,話題満載の大会でした.複数の投手による継投が主流の現代の高校野球にはめずらしく,9人全員野球で1人のエースが予選からすべて投げ抜くという昭和の高校野球そのものをみているようでした.また,はじめてタイブレークが導入された夏の大会でもあったのですが,タイブレークでの逆転サヨナラホームランも印象的でした.非日常的でドラマチックな展開を期待してしまう自分には,ノーアウト1,2塁からはじまるタイブレークは物足りなさを感じますが,投球過多を避けるための方策とすれば致し方ないのかもしれません.いずれにしても,100年以上にわたり国民に親しまれてきた甲子園大会の継続と発展には,これまで多くの整形外科医が関与されてきたものと存じます.日頃のご尽力に敬意と感謝の意を表します.

 さて,今月の誌上シンポジウムは「原発巣別転移性骨腫瘍の治療戦略」で,土屋弘行先生が企画されました.腎癌,骨髄腫,肺癌,乳癌,前立腺癌,甲状腺癌の骨転移の疫学,診断,治療,予後について盛りだくさんの内容となっています.日整会でも,がんによる運動器の問題,さらにがんの治療による運動器の問題を「がんロコモ」として大々的に取り上げています.キャンサーボードを立ち上げる施設も増えた現在,タイムリーな話題といえるでしょう.本企画を通して,がんの骨転移に対する最新事情に触れていただければと思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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