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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科53巻2号

2018年02月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム 骨関節外科への3Dプリンティングの応用

緒言 フリーアクセス

著者: 村瀬剛

ページ範囲:P.96 - P.96

 2013年,オバマ大統領(当時)が一般教書演説で「3Dプリンターに大きな開発投資をして米国の製造業を変革する」と宣言して以来,3Dプリンティング技術はさまざまな分野で脚光を浴びるようになった.医療,なかでも骨関節を扱う整形外科は,同技術の恩恵を受ける有望な分野であることに間違いない.

 3Dプリンティングの基礎となる積層造形のアイディアは,名古屋市工業研究所の小玉秀男氏の1980年の発案がオリジナルであった.しかしながら,当時この発明は日本国内で評価されず,特許も成立しなかった.後に米国3Dシステムズ社が実用化して以来,医療用途などの高機能な機種は欧米企業の寡占状態である.一方,私が2015年末に招聘された北京大学主催のシンポジウムでは,樹脂造形,金属造形のさまざまな整形外科臨床応用が活発に発表され,その勢いには凄まじいものがあった.すでにいくつものベンチャー企業が中国で設立され,新しい技術に熱い眼差しが向けられていた.

脊椎外科における3Dプリンティング(樹脂・金属)の応用

著者: 藤林俊介 ,   竹本充 ,   大槻文悟 ,   松田秀一

ページ範囲:P.97 - P.108

 近年,急速な発展を遂げている3Dプリンティング技術の脊椎外科への応用が始まっている.われわれは選択的レーザー溶融法を用いてヒト海綿骨構造を造形し,さらに表面の化学処理を行うことでチタン製人工骨の研究開発を行ってきた.本稿では,その研究の一環である色付き3D実体模型を用いた手術シミュレーション,椎弓根スクリュー刺入ガイドとしての手術支援テンプレート,生体活性チタン脊椎カスタムメイドケージの開発における動物実験と医師主導型自主臨床試験などを紹介する.同時に諸外国における3Dプリンティング技術の脊椎外科への応用に関しても紹介する.

骨腫瘍分野における3Dプリンティングの応用

著者: 松峯昭彦

ページ範囲:P.109 - P.114

 悪性骨腫瘍切除後の大骨欠損に対して再建が必要であるが,現在の腫瘍用プロステーシスでは対応できない症例にしばしば遭遇する.近年,急速に進歩してきた3Dプリンターを用いた積層造形は,そのような特殊な大骨欠損の再建のためには,まさにうってつけの技術といえる.われわれは,CT画像を基に,術前にあらかじめ3Dプリンターで作製したカッティングデバイスとカスタムメイドデバイスを用いて,骨腫瘍切除後の大骨欠損の再建を目指している.現状と臨床使用までの問題点など概説したい.

股関節外科領域における3Dプリンティング:骨切り術への応用

著者: 坂井孝司

ページ範囲:P.115 - P.120

 3Dプリンティングの進歩により,樹脂3Dプリンティングによる手術支援ガイド(patient specific surgical guide:PSG)が整形外科の種々の領域に臨床応用されている.股関節外科における骨切り術への応用として,寛骨臼回転骨切り術(rotational acetabular osteotomy, curved periacetabular osteotomy)への適用や,人工股関節全置換術における大腿骨頚部骨切り,また大腿骨矯正骨切りに関する適用が報告されている.

3Dプリンティング技術の上肢手術への応用

著者: 大山慎太郎 ,   平田仁

ページ範囲:P.121 - P.129

 整形外科治療に関連して使用する器具は術具,インプラント,装具,シミュレーションや説明用の模型など多岐にわたる.近年,これらの製作に3Dプリンターによる高速造形が大きな影響を及ぼしており,特に上肢治療で使用される器具において重要視される要素として,軽量性,精緻性,高いカスタマイズ性があり,近年の機器や材料の進歩により3Dプリンティングでそのような要件を満たす機器が安価に作成可能となってきた.

 3Dプリンティング器具の周術期における主な用途としては患者説明・術前プランニング・手術支援や術具・インプラント・術後装具や義肢が挙げられる.特に上肢手術における3Dプリンティングの応用についての最新の知見を紹介し,将来の展望について述べる.

セラミックス製カスタムメイド人工骨の3Dプリンティング

著者: 藤澤彩乃 ,   鄭雄一

ページ範囲:P.131 - P.135

 骨欠損性疾患のうち,個人差や症例差が大きいものは,三次元造形によるカスタムメイド人工骨の適用が効果的である.われわれは,顎顔面領域への適用を念頭に,リン酸カルシウムを三次元積層造形する手法を用いてカスタムメイド人工骨を開発した.リン酸カルシウム粉末に硬化液を噴射することで積層造形を行うシステムを構築し,製品の精度・強度・生体適合性はいずれも臨床使用に耐え,かつ安全性に問題のないことを確認した.今後は,より再生能を高める技術との併用を期するとともに,ミクロ構造のもたらす効果を付加することで改良が見込まれる.

金属3Dプリンティングの先端的状況:骨・骨関節分野への応用へ向けて

著者: 中野貴由 ,   石本卓也 ,   小笹良輔 ,   福田英次

ページ範囲:P.137 - P.144

 金属3Dプリンティング(additive manufacturing)は,骨・骨関節用金属デバイスの患者ごとへのカスタム対応を可能とする革新的手法であり,外形状のみならず,デバイス機能と直結する内部形状や材質の制御をも可能とする.既に一部の人工関節部品を含む金属3Dプリンティング製品が上市され,臨床応用がスタートしている.現在はあたかも生体骨として振る舞うようなデバイス開発も進み,生体骨の特徴である異方性機能を取り入れたカスタム異方性インプラントの実現も期待されている.本稿では,骨・骨関節機能再建への応用に向けた金属3Dプリンティング技術の最前線について解説する.

視座

手術が上手であるということ

著者: 岡崎賢

ページ範囲:P.95 - P.95

 外科医は誰しも「上手な手術」にあこがれる.外科医は,少なくともその道を選んだときは,手術を併用した診療という職業に魅力を感じて,外科医になったわけである.「手術が上手である」という言葉は,外科医にとって,「顔がよい」「性格がよい」「頭がよい」と同列に最高の褒め言葉である.誰もがその褒め言葉を言われたいと思っている.「手術が上手」とはどのような要素で成り立っているのであろうか.速いけれども上手とは思えない人もいる.大胆だけど上手とは思えない人もいる.手のスピードは速いけれど結果的に時間がかかっている人もいる.逆にスローペースなようにみえて,最終的に速い人もいる.術場の雰囲気をうまくコントロールできて上手に思わせる人もいる.上手とはとても漠然としたものだ.

 15年ほど前に,人工関節の業者から,たくさんの術者をサポートしてきた経験から「やはり展開でしょうか」という言葉を聞いた.展開がきれいであることが上手な人の特徴だという.なるほど.ちゃんとみるべきものをみせる技術はMISで行う手術でも大切であろう.よくみえない視野でゴソゴソ手術をしている姿は,ちゃんとやっていても上手な印象を受けない.関節鏡ではなおさらだ.また上手で速い人は「同じ確認を2回しない」.安全のためにダブルチェックは不可欠である.しかしダブルチェックとは,同じ方法で2回確認することではない.1つのことを異なる方法で確認することである.同じ操作を2回3回行うことは無駄な動きにみえるし,迷っているようにみえるし,スムーズに手術が運んでいないようにみえるし,おそらくそのとおりであろう.国内外の多くの人の手術をみてきた.有名な人,無名な人,さまざまな施設で手術見学をし,感銘を受けてきた.まだまだ学ぶことが多い.いつまでも上手になれないものだ.

論述

Bi-cruciate stabilized型人工膝関節において脛骨コンポーネントの内旋設置は膝蓋大腿関節圧を上昇させる:in vivo解析

著者: 豊田真也 ,   金子卓男 ,   河野紀彦 ,   望月雄大 ,   羽田勝 ,   川原佳祐 ,   池上博泰 ,   武者芳朗

ページ範囲:P.145 - P.149

背景:Bi-cruciate stabilized型人工関節全置換術(以下,TKA)における脛骨コンポーネントの回旋角度と術中膝蓋大腿関節(patellofemoral joint:PF)圧の関連を検討した.

対象と方法:内反型変形性膝関節症に対してbi-cruciate stabilized(BCS)型TKA(JourneyⅡBCS)を使用した22例22膝を対象とした.PF圧は膝蓋骨コンポーネントと同形状に作製したセンサーで測定し,コンポーネント設置角度は3DテンプレートソフトであるZedKneeで測定した.

結果:脛骨コンポーネントの内旋角度と最大PF圧との間には正の相関(r=0.51,p=0.02)を認めた.

まとめ:脛骨コンポーネントの過度の内旋はPF圧を上昇させる傾向があるため避けるべきである.

整形外科基礎

抗菌薬の濃度が浮遊生菌数とバイオフィルム形成に及ぼす影響

著者: 小関弘展 ,   依田周 ,   梶山史郎 ,   樋口隆志 ,   砂川伸也 ,   尾﨑誠

ページ範囲:P.151 - P.156

 生体金属材料が存在する環境において,抗菌薬の濃度が表皮ブドウ球菌の浮遊生菌数とバイオフィルム形成に与える影響を評価した.最小発育阻止濃度(MIC)以上のセファゾリンとバンコマイシンは,浮遊生菌数と生体金属材料表面のバイオフィルム被覆率を低下させた.しかし,MIC未満では浮遊生菌数は減少傾向を示したものの,バイオフィルムの範囲は拡大する傾向を示した.低濃度の抗菌薬は生体金属材料表面におけるバイオフィルム形成を促進するため,インプラント関連感染症を難治化させる要因となりかねない.

Lecture

ロコモティブシンドロームの臨床判断値と疫学

著者: 星地亜都司

ページ範囲:P.159 - P.164

はじめに

 ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)は,2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で,運動器の障害によって移動機能が低下した状態をいう.従来の変形性関節症,骨粗鬆症などの単独疾患モデルではとらえきれなかった概念である.国の施策である健康日本21(第二次)では重要課題として運動器疾患の予防が採択されている.そこでは,ロコモの認知度向上(国民の80%)が目標として掲げられている.国民に運動器の重要性を認識してもらうための啓蒙活動が,日本整形外科学会(以下,日整会),ロコモチャレンジ!推進協議会,日本臨床整形外科学会を中心に展開されてきた.

最新基礎科学/知っておきたい

運動器慢性痛に関与する脳内メカニズム

著者: 加藤総夫

ページ範囲:P.166 - P.170

「痛みの経路」という亡霊

 患者の痛みの訴えに耳を貸すことが全人的医療の基本であることは言うまでもない.それは何のためか? なぜ患者の痛みの訴えに耳を傾けるよう医学部や臨床研修で指導するのか?

 その理由の1つは,患者の痛みの訴えから,身体に起こっているなにごとか(位置? 強さ? 経過?)についての情報が得られる,という経験的な根拠に基づくものである.患者が「述べる」身体の状況に関する報告に耳を傾け,医師は,診断学の教科書や自分の経験に基づき,その「痛みの原因」を突き止め,なんらかの治療を施す.だが,このような考え方は「ある部位の痛みにはその部位に原因がある」という「痛みの因果関係」と呼ぶべき亡霊によって形作られている.

臨床経験

頚椎症性脊髄症に対する椎弓形成術後のJOACMEQの経時的改善の傾向

著者: 川崎佐智子 ,   重松英樹 ,   岩田栄一朗 ,   田中誠人 ,   森本安彦 ,   増田佳亮 ,   植田百合人 ,   登希星 ,   田中康仁

ページ範囲:P.171 - P.177

目的:頚椎椎弓形成術術後の日本整形外科学会頚部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)を用いた経時的な改善傾向をドメイン別に明らかにする.

対象と方法:頚椎椎弓形成術を施行し,術後3カ月・6カ月・1年・2年のJOACMEQを連続して評価できた19例を対象とし,ドメイン別に術後各時点で,改善した割合を用い治療効果を判定した.また,ドメイン別の改善時期別に術前重症度(重症度)を求めた.

結果と結語:全ドメインで術後3カ月での改善割合が最大で,QOL以外のドメインは1年,QOLは2年まで改善が期待できた.頚椎機能,上下肢運動機能は,重症度が高いほど早期に改善する傾向であった.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.93 - P.93

書評 股関節・骨盤の画像診断 フリーアクセス

著者: 中島康晴

ページ範囲:P.178 - P.178

 長崎労災病院放射線科部長の川原康弘先生の手による『股関節・骨盤の画像診断』が上梓された.「こういう画像の教科書がほしかった」,これは本書を手に取った私の偽らざる第一印象である.今まで骨盤・股関節部の画像診断を系統的に取り扱った成書は私の知る限りは存在せず,ほとんどは部分的に述べられているに過ぎないからである.


 本書の素晴らしい点として,あらゆる病態・疾患に対応している点をまず挙げたい.例えば,大腿骨寛骨臼あるいは坐骨大腿骨インピンジメントは比較的新しい疾患概念であるにもかかわらず,その単純X線写真からMRIの画像まで漏れることなく記載されている.人工関節合併症にしても金属摩耗粉によるハレーションのみえ方やその低減方法まで示されている.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.179 - P.179

あとがき フリーアクセス

著者: 仁木久照

ページ範囲:P.182 - P.182

あとがき

 今年は平昌冬季五輪・パラ五輪,FIFAワールドカップなど世界的に注目されるスポーツイベントが目白押しで,2019年ラグビーワールドカップ,2020年五輪・パラ五輪など日本で開催されるビックイベントを控え,スポーツに対する関心は高まる一方です.そうした盛り上がりの一方で,“e-Sports”の台頭がめざましいことはご存じでしょうか.私にとっては,PCゲームから始まり,今ではインターネットを介して対戦し中には多くの賞金を得る大会もある,程度の知識しかありませんでした.“e-Sports”はエレクトロニック・スポーツの略で,電子機器を用いて行う娯楽,競技スポーツ全般を指すと定義されています.それが2022年アジア競技大会で正式なメダル種目に決定,というニュースに多少の驚きを感じました.日本ではスポーツを「運動・体育」と捉えがちですが,本来スポーツのもつ「楽しむ・競技」という意味からすれば,欧米ではチェスやビリヤードもスポーツとして認知されていますので,そうした発想は当然かもしれません.やがては市場として遅れている日本でも認知度が増し競技人口も増えるでしょう.そうなると,いずれどこかの学会で「e-Sportsによるoveruse syndrome」といったシンポ・パネルが企画されたり,用語集に「overuse e-Sports injury」という用語が収載されたり,「日本整形外科e-Sports医学会」という学会ができる時代がくるのではないか,など突飛な妄想をしてしまいます.

 一方で,WHOは「ネットゲーム依存は『病気』」として,2018年6月公表予定のICD-11に「Gaming disorder」(ゲーム症・障害)を新たに盛り込むことを発表したというニュースを目にしました.「持続又は反復するゲーム行動」と定義していますが,オリンピックへの採用まで検討されているe-Sportsが広く普及する中,負の側面であるネット依存の対策に役立てることも目的なのだと思います.しかし,「競技」となる以上,練習にも当然時間をかけることになるでしょう.「ゲーム症・障害」とならずに,競技として成り立たせることができるのか,どこで一線を画すのか,e-Sportsを推進される方々・団体にとっては余計なお世話でしょうが,とても難しい問題が山積しているのだろうと要らぬ心配をしてしまいます.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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