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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科53巻3号

2018年03月発行

雑誌目次

誌上シンポジウム THAの低侵襲性と大腿骨ステム選択

緒言 フリーアクセス

著者: 名越智

ページ範囲:P.184 - P.184

 セメントレスステムを用いた人工股関節置換術(THA)の長期の良好な臨床成績を得るには,ステム金属に対して“osseointegration(attachment of lamellar bone to implants without intervening fibrous tissue1)”)を得ることが要求される.そのためセメントレスステムの初期固定性を向上させるために,大腿骨近位固定性か遠位固定性か,ステムの断面形状は髄腔に合わせたcylindricalなものか四角断面か,固定性獲得様式に関してもfit and fillでいかに髄腔占拠率を上げるか,taper wedge理論によるものかなど,さまざなな議論がなされている.

 近年,Khanujaらのセメントレスステムの分類が報告され,ステムの固定性に関する考え方が示された.最近では,より短いステムを用いることができるようになり,2015年にはFalezらが頚部骨切りのレベル,ショートステムの形状により,ステムのどの部分で初期固定性を得るかの分類を試みている.一方で,THAにおける低侵襲性に関しても議論され,皮切の長さ,筋腱温存,手術アプローチの方法も話題となっている.本来のTHAの目的は,長期間にわたって疼痛のない股関節を獲得することと股関節機能の改善であり,そのためには,人工股関節脱臼や術後感染,術中骨折,静脈血栓塞栓症(VTE)などの周術期の合併症を防止し,さらに股関節周囲の軟部組織のダメージを軽減することなどが課題となる.では,いったい,どのようなコンセプトのステムを選択すべきなのか.症例の骨質,年齢,股関節の変形の状態と程度により,術者が選択する考え方はさまざまであると思われる.

フィン付ショートステム(GTSステム)は低侵襲THAの実現に有効か?

著者: 三浦陽子

ページ範囲:P.185 - P.190

 フィン付きショートステム(GTSステム)の術後短期成績について調査した.本ステムは良好な初期固定性が得られており,軟部組織および骨組織温存に優れていた.またステム長が短いため,筋腱温存進入法においても設置が容易であった.

高齢者に用いられるZweymüller型ステム(SL-PLUS®,SL-PLUS® MIA)の特徴と低侵襲THA

著者: 稲葉裕 ,   池裕之 ,   齋藤知行

ページ範囲:P.191 - P.197

 Zweymüller型ステムは長方形断面,ダブルテーパーデザインを特徴とするセメントレスのストレートステムであり,髄腔占拠率が抑えられ,骨内膜上の組織や海綿骨を温存し,髄腔内の血流を保つことが可能である.骨脆弱性を有する症例,大腿骨近位部の変形が強い症例,大腿骨骨切り術後の症例にも対応可能で,高齢者に対しても良好な臨床成績が報告されており,適応が広く汎用性のあるステムである.SL-PLUS®MIAステム(Smith & Nephew, Memphis, TN, USA)は外側ウイング部をラウンドバック状へとデザイン変更したことにより,大転子部の骨温存および大転子内側に付着する筋腱の温存が可能となり,従来のZweymüller型ステムと比較してより低侵襲に手術を行うことが可能になっている.

Rectangular Curved-short Stemの固定性と低侵襲THA

著者: 藤井英紀

ページ範囲:P.199 - P.204

 Fitmore®ステム(Zimmer Biomet社製)は,Zweymüllerステムの特徴である四角形の断面コンセプトを継承したショートステムであり,トリプルテーパー形状で2種類の内側カーブと3種類のネックデザインをもった近位固定型の大腿骨インプラントである.回旋安定性に優れ,内側のカルカー近位に荷重伝達されるデザインは,従来のステムの長期経過でみられるようなストレス遮蔽を低減すると考えられる.われわれは,2014年1月から,このFitmore®ステムを使用していて,その経験から得た知見に考察を加えて報告する.

テーパーウェッジ型ステムの特徴と低侵襲THA

著者: 中田活也 ,   北田誠 ,   田村理

ページ範囲:P.205 - P.216

 テーパーウェッジ(TW)型ステムは良好な長期成績と易挿入性と安全性を背景に,近年,人工股関節全置換術(THA)使用症例が急増している.Single wedgeによるproximal metaphysisにおけるステム前額面でのwedge-fitあるいはテーパーロックにより初期固定を獲得するコンセプトを有する.特にショートTW型ステムでは,初期固定性を担保するために適切な髄腔適合性が求められ,それによりステムコンセプトが実現されると考えられる(fitting first theory).骨温存も可能で低侵襲THAに適するステムであるが,髄腔形状,骨質,ステムの適合性,脚長差,オフセット,前捻角,骨盤と大腿骨の相対的位置関係など総合的に判断して,症例個別的に機種を選択する必要がある.

ショートアナトミカルステムの特徴とその低侵襲性—APS Natural HipTM Systemを使用して

著者: 加畑多文 ,   楫野良知 ,   井上大輔 ,   多賀正 ,   山本崇史 ,   高木知治 ,   大森隆昭 ,   吉谷純哉 ,   上野琢郎 ,   上岡顕 ,   谷中惇 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.217 - P.223

 ショートアナトミカルステムであるAPS Natural HipTM System(APS)は,その解剖学的な近位部のデザインと限局したポーラス面およびポリッシュ加工された細い遠位部により,近位大腿骨髄腔に荷重を集中させてstress shieldingを減少させようというコンセプトを持つ.変形性股関節症に対しAPSを用いて施行された初回THA 50関節を3年以上観察した結果,ほとんどの症例でstress shieldingはGrade 1以下であり,小転子レベルでのspot welds形成が認められた.本ステムのデザイン特性により,小転子高位以遠での良好な骨温存とstress shielding抑制効果が得られており,その点において低侵襲であるといえた.

各種近位固定テーパー形状ステムの固定性の違いと低侵襲

著者: 中村琢哉

ページ範囲:P.225 - P.231

 現在,セメントレス・ステムでは,テーパー形状のステムが主流となっている.テーパー形状のステムは他のステムに比べ利点がいくつかあり,その1つがステムの近位で固定されることである.しかしながら,テーパー形状であるからといってすべてのステムが同じ固定様式となっているわけではない.また,テーパー形状のステムは,低侵襲という面でも利点があり,今後のステムは低侵襲性をより意識した形状となっていくことが予想される.ここでは,テーパー形状ステムの固定様式の違いと低侵襲性について概説する.

Lecture

投球障害(スポーツ選手)に対する肩関節のチェック項目と実際

著者: 藤澤基之 ,   原正文

ページ範囲:P.233 - P.238

はじめに

 野球肩には,インピンジメントや関節唇損傷,骨端線障害などさまざまな疾患が含まれる.これらの障害は手術加療を要さず,運動療法を中心とする保存療法で復帰できることが多い.症例ごとの問題点を明確化し,保存療法の効果を評価するためには,身体状態の評価が必要である.われわれはHara testと称される1)野球肩を評価する専用の理学所見(11項目),および単純X線でのゼロポジション撮影を用いて,保存療法の効果を評価している2,3).保存療法目的の短期入院選手について,運動療法の治療効果を調査した結果において,Hara testのうち,特に肩甲帯の脱力などを示唆するelbow push test,elbow extension testや,疼痛の再現テストであるhyper external rotation test,impingement signなどが,治療開始前より有意な改善が認められた4).また,理学療法治療前後でX線検査によって評価すると,正常像(ゼロポジションtype A)を示した割合に改善が認められた.これらの評価法を用いて,投球障害肩の保存療法を行ううえで必要なチェック項目について説明する.

整形外科/知ってるつもり

エコーガイド下注射の最前線 Hydrorelease

著者: 笹原潤

ページ範囲:P.240 - P.244

はじめに

 われわれ整形外科医が行う治療行為は,手術治療と非手術(保存)治療に大別される.整形外科関連の学術集会のシンポジウムなどにおいては,手術治療がテーマとして取り上げられる機会が多く,そのため整形外科医の興味は手術治療に偏りがちである.しかし,実際の日常診療において,手術治療が必要となるケースより保存治療を適応するケースのほうが圧倒的に多い.手術治療に先んじて行われるべき保存治療について,整形外科医はその重要性を再認識し真摯に取り組まなければならない.

 保存治療における重要なオプションとして近年注目されている手技が,エコーガイド下注射である.本稿では,エコーガイド下注射の基本的な手技を説明し,最新の手技であるHydroreleaseについても症例を提示して解説する.

境界領域/知っておきたい

ステロイド関連大腿骨頭壊死症の発生予防は可能か

著者: 本村悟朗 ,   中島康晴 ,   山本卓明

ページ範囲:P.246 - P.248

はじめに

 特発性大腿骨頭壊死症(osteonecrosis of femoral head:ONFH)は整形外科領域の代表的な疾患であり,人工股関節や骨切り術といった手術治療がメインとなる整形外科らしい疾患である.ONFHの基本病態は虚血に伴う骨梗塞であり,特徴的なのは,骨頭に梗塞が“発生”してから,骨頭が圧潰して“発症”するまでに数カ月から数年のタイムラグが存在することである.ONFH患者が整形外科外来を受診する動機のほとんどは「股関節が痛い」からであり,初診時にはすでに骨頭が圧潰していることが多い.すなわち,日常臨床で整形外科医が治療対象としているのは“発症”しているONFHである.ONFHに対する“発生の予防”と“発症の予防”はともに重要な課題であるが,いまだ有効な方法は確立されていない.本稿では,“発生の予防”にフォーカスを当て,基礎実験から現在実施されている臨床研究までを概説する.

臨床経験

変形性膝関節症に対するホームエクササイズを併用したヒアルロン酸関節内注射の1週ごとと2週ごとの効果比較

著者: 戸田佳孝

ページ範囲:P.251 - P.255

目的:ヒアルロン酸(HA)の至適な注射間隔を探ること.

対象と方法:60例の変形性膝関節症(膝OA)患者にホームエクササイズを共通療法として,HAを1週ごとに5回注射する群(1週毎群)と2週ごとに5回注射する群(2週毎群)に分け,治療成績を比較した.

結果:1週毎群と2週毎群の間で,治療前後でのLequesne重症度指数の改善点数(P=0.38)とVASの改善%(P=0.54)に有意差はなかった.

まとめ:膝OAに対するHA関節内注射は,2週ごとに継続するよりも急性期に1週ごとに5回行うほうが,患者にとっても医療経済にも効果的だと考える.

症例報告

上位胸椎後縦靱帯骨化症に対し胸骨縦割式アプローチを用いた前方除圧固定術の経験

著者: 梶川慶太 ,   古川満 ,   梅津太郎 ,   丘雄介 ,   林健太郎 ,   菊池謙太郎 ,   栩木弘和 ,   奥山邦昌

ページ範囲:P.257 - P.261

 上位胸椎病変に対して前方除圧固定術を行う場合,胸骨縦割式進入法を選択することがある.しかし,その頻度は少なく高度な技術が求められる.症例は48歳男性で高度な肥満体型であった.両下肢のしびれ,歩行障害を主訴に当科を受診し,T1/2高位に後縦靱帯骨化症を認めた.通常の頚椎前方進入法では,椎間板直上からの除圧操作が困難であり,また,プレートを固定するスクリューの挿入が困難なため,胸骨柄を縦割し,C7-T2高位前方除圧固定術を施行した.術後,歩行障害は改善し,良好な成績が得られた.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.183 - P.183

書評 慢性痛のサイエンス—脳からみた痛みの機序と治療戦略 フリーアクセス

著者: 高橋和久

ページ範囲:P.262 - P.262

 半場道子先生のご講演は何度か拝聴したことがある.痛みに関する脳科学,神経科学についての最新のお話しで,大変興味深くお聞きした.しかしながら,あまり馴染みのない脳の解剖用語や限られた講演時間のなかで,先生が話されたことをすべて理解できたとはいえなかった.一度,先生の知識と考え方をまとまった形で伺いたいと願っていたところ,書籍執筆のお話しをお聞きし,上梓されたら是非拝読したいと申し上げた.本書を拝受後,3日ほどで読ませていただいた.

 本書は,慢性痛を侵害受容性,神経障害性,非器質性に分け,そのメカニズムについて脳科学,神経科学の観点から最新の知見を紹介している.近年の機能的脳画像法や基礎医学的な研究成果をもとに,脳を中心とする神経系のダイナミックな機能を解説している.さらに,解明されたメカニズムをもとに慢性痛に対する各種の治療法と,その科学的根拠について述べている.それぞれ興味深い内容であるが,なかでも「骨格筋は分泌器官であり,筋活動は慢性痛の軽減に有効である.また,筋活動により多くの疾患の原因となる慢性炎症を抑制でき,疾患の予防につながる」という事実は大変興味深く,日常診療でも患者さんの指導に役立てたい知識である.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.263 - P.263

あとがき フリーアクセス

著者: 山本卓明

ページ範囲:P.266 - P.266

あとがき

 今年は,いよいよアメリカ・メジャーリーグで大谷翔平選手の二刀流への挑戦がはじまるようです.投手として使う筋肉や体の動きは,野手・打者としてのそれとは全く異なり,成功を収めるのはかなりの困難を伴うのではないか,と予想される方も多いようです.ただ,本人の「世界最高の選手になる」という目標は素晴らしいの一言に尽きると思います.是非,成功してもらいたいと思う一方で,ケガ・故障だけには注意してほしいと心から願っています.

 さて今月号では,その野球に関して「LECTURE」で,これまでプロ野球選手の治療やメディカルチェックに長年携わってこられた久恒病院の原正文先生と藤澤基之先生による,「投球障害(スポーツ選手)に対する肩関節のチェック項目と実際」が掲載されています.アスリートであれば誰しも,メスを入れずに治癒を目指したいと思うものです.独自のテストによる客観的評価に基づいた保存療法の有効性について,大変有用な情報が得られると思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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