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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科55巻1号

2020年01月発行

雑誌目次

特集 新しい概念 “軟骨下脆弱性骨折”からみえてきたこと

緒言 フリーアクセス

著者: 山本卓明

ページ範囲:P.2 - P.2

 わが国は超高齢社会を迎え,健康寿命の延伸は喫緊の課題となっています.なかでも骨粗鬆症に伴って発生する脆弱性骨折は,寝たきりの原因ともなり,整形外科的にもその対応が求められています.さらに近年,骨粗鬆症に伴う脆弱性骨折が関節内にも発生することが報告されてきました.

 その代表的疾患が,大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(subchondral insufficiency fracture:SIF)です.これまで,大腿骨近位部骨折は,転子下,転子部,頚部骨折という分類しかありませんでしたが,骨脆弱性を基盤として大腿骨頭の軟骨直下にも骨折が発生するということがわかりました.SIFは,進行した場合は大腿骨頭に圧潰変形を来し,手術的治療が必要となる場合も多くあり,本骨折を早期に診断し,適切な治療を行うことは,外科的治療の回避にも繋がります.日常診療において本骨折の認知度を向上させ,適切な診断と治療を行うことが,今,われわれ整形外科医に求められています.

軟骨下脆弱性骨折の画像所見

著者: 上谷雅孝 ,   大木望

ページ範囲:P.3 - P.9

 軟骨下脆弱性骨折の画像診断にはMRIが最も有用であり,骨折線を反映した線状〜帯状の低信号域とその周囲の骨髄浮腫を認めることが特徴である.進行例では関節面の圧潰,種々のパターンを示す軟骨下骨の異常信号がみられ,骨壊死の終末像との鑑別が困難となる.軟骨下骨の異常信号や関節面圧潰を来しうる疾患として,一過性骨髄浮腫症候群や虚血性骨壊死などとの鑑別も重要である.

大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折の診断と治療

著者: 髙橋大介 ,   浅野毅 ,   清水智弘 ,   髙橋要 ,   岩崎倫政

ページ範囲:P.11 - P.15

 股関節における関節内脆弱性骨折として代表的な疾患に“大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(SIF)”がある.本骨折は1999年にYamamotoらがその概念を確立させたが,発症時の単純X線写真では明らかな異常を認めないことが多いため,しばしば診断が遅れる.本疾患の確定診断にはMRI検査が必須であり,その画像所見が特発性大腿骨頭壊死症(ONFH)と類似するため鑑別を要する.SIFの治療の原則は免荷による保存治療となるが,約半数の症例では変形性股関節症へ進行する.本項ではSIFの診断・治療に加えて,SIFの予後予測因子に関しても,いくつかの臨床研究から得られた知見について紹介する.

—大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折—若年発生例の特徴と治療

著者: 岩崎賢優 ,   山本卓明

ページ範囲:P.17 - P.20

 大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(subchondral insufficiency fracture of the femoral head:SIF)は若年成人でも稀に発生する.診断と保存的治療については基本的に高齢者と同様である.手術適応となった場合,若年では可能な限り関節温存すべきであり,骨頭前方回転骨切り術を第一選択とする.

急速破壊型股関節症と大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折との関連性

著者: 遠藤裕介

ページ範囲:P.21 - P.25

 急速破壊型股関節症は,高齢女性に好発し6〜12カ月以内に急速に股関節が破壊を来す疾患として,1970年にPostelらによって報告された疾患概念である.明らかな誘因がなく関節破壊が急速に進行してから診断されることが多いとされてきた.近年では,大腿骨骨頭軟骨下脆弱性骨折が骨脆弱性をベースに高齢女性の片側に生じることから,急速破壊型股関節症に関連する要因の1つとして注目されている.急速破壊型股関節症と大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折との関連性について,論文をレビューし考察した.

一過性大腿骨頭萎縮症との関連

著者: 山口亮介

ページ範囲:P.27 - P.30

 一過性大腿骨頭萎縮症は,壮年男性や妊娠後期の女性に誘因なく急性の股関節痛を引き起こし,単純X線で大腿骨頭中心の骨萎縮像を示すが,数カ月の経過で自然に治癒する疾患とされている.大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折とは疫学や治療法,予後も異なるが,その臨床的画像的特徴から,近年では若年に発症した大腿骨頭軟骨下(脆弱性)骨折に類似した病態と考えられるようになっている.骨萎縮が起きる理由や軟骨下骨折が発生する病態はまだわかっていないが,近年,罹患者に特徴的な股関節形態が報告されている.

—軟骨下脆弱性骨折—特発性膝骨壊死との関連

著者: 王寺享弘

ページ範囲:P.31 - P.40

 膝関節の特発性骨壊死(spontaneous osteonecrosis:SON)は,部位別に大腿骨内側顆,脛骨内側顆,外側コンパートメントの病変(大腿骨と脛骨を含む)に分けられる.その病態は骨脆弱性を基盤とした軟骨下脆弱性骨折と考えられている.このうち日常診療で遭遇することの多い大腿骨内側SONでは,内側半月板の後角損傷が先行する病変であるとの報告が多い.小走りや階段の踏み外しの際,ブチっとした轢音を膝関節内に感じ,膝窩部を中心に激痛が走り当日は歩行が困難になるなどの症状があれば,MRI検査で後角損傷に特徴的な画像所見を確認し,SONへ伸展することを防ぐために適切な治療をしなければならない.

肩関節における軟骨下脆弱性骨折

著者: 伊﨑輝昌 ,   中山鎭秀 ,   三宅智 ,   柴田光史 ,   新城安原 ,   山本卓明

ページ範囲:P.41 - P.46

 肩関節における軟骨下脆弱性骨折(subchondral insufficiency fracture:SIF)は,股関節SIFと同様に骨粗鬆症を有する高齢女性にみられるが,その報告は極めて少ない.急速な関節裂隙の狭小化を伴いながら破壊が進行する例もあるため,SIFを疑った場合は,速やかにMRI検査を行うことが望ましい.腱板断裂合併例では,骨頭圧潰に伴う関節不安定性によって腱板断裂サイズが拡大する可能性が指摘されている.病理組織像では,層状構造の骨壊死巣はなく,旺盛な仮骨や肉芽組織がみられる.外傷歴がないか,あっても軽微な高齢女性の肩関節痛患者の診療に際して,SIFは考慮すべき重要な疾患の1つである.

腎移植後にみられる大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折

著者: 大鶴任彦 ,   岡崎賢

ページ範囲:P.47 - P.53

 腎移植300例におけるMRI前向き調査から大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(SIF)と大腿骨頭壊死症(ONFH)の発生率を調査し,両者の鑑別につき検討した.MRI上大腿骨頭にバンドが認められた場合は,大腿骨頚部軸に平行にスライスした斜水平断(oblique axial像)のT1およびT2 STIR像を追加撮影し確定診断した.その結果,発生率はSIF1.0%,膝骨脆弱性骨折0.3%,ONFH1.0%,膝骨壊死0.3%であった.SIFの病変の局在は全例大腿骨頭荷重部前方であった.SIFとONFHの鑑別が困難な場合,MRI oblique axial像においてバンドより中枢部は,SIFなら出血を反映し高信号,ONFHなら壊死組織のため等信号という原則は確定診断に有用であった.

論述

正常膝におけるAnatomical Alignment,Mechanical Alignmentの年齢変化に関する検討

著者: 佐藤敦 ,   古屋貴之 ,   高木博 ,   川島史義 ,   加藤慎 ,   奥茂敬恭 ,   金澤臣晃 ,   栃尾秀典 ,   富田一誠

ページ範囲:P.55 - P.58

背景:人工膝関節置換術において下肢アライメントは非常に重要である.本研究の目的は正常膝におけるアライメントの年齢変化を検討することである.

対象と方法:2014〜15年に運動器検診を受診した健康成人25名50膝を対象に,下肢アライメントの機能軸と解剖軸を計測した.

結果:mLPFA 88.7°,aMPFA 82.5°,mLDFA 86.4°,aLDFA 80.8°,mMPTA 86.7°,aMPTA 85.5°,mLDTA 89.7°,aLDTA 88.5°,JLCA 0.97°であった.

まとめ:正常膝において60%に3°を超える生理的内反を認めた.

Lecture

脊髄性筋萎縮症の診断と治療

著者: 小牧宏文

ページ範囲:P.59 - P.65

はじめに

 脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は運動神経細胞の脱落に起因する筋力低下を主症状とする常染色体劣性疾患である.1891年に初めて報告され,1995年に原因遺伝子SMN (survival motor neuron)1として同定された.発症は出生前から成人期まで幅広く,発症時期や最大獲得運動機能といった臨床的特徴によりⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ型の4型に分類される1).SMN1の相同遺伝子であるSMN2を標的とし,スプライシングを制御するアンチセンス核酸の髄腔内投与による治療が2016年に米国で承認され,その後,日本を含む多くの国で使用されるようになっている.またウイルスベクターを用いた遺伝子治療が2019年に米国で承認を受けた.本総説ではSMAの概要とともに,整形外科医が関与する事項にも焦点を当てて解説する.

海外留学レポート

臨床研究留学in米国ケンタッキー州

著者: 有馬秀幸

ページ範囲:P.66 - P.70

 筆者は,2006年3月に浜松医科大学を卒業し,初期研修後,浜松医科大学整形外科に入局.関連病院研修,大学院で博士課程を修了後,2016年4月〜2017年3月の1年間,米国ケンタッキー州ルイビル(Louisville, Kentucky)にあるNorton Leatherman Spine Centerに研究留学に行きました.留学先の決定から現地で経験できたこと,そして良かったこと,困難であったことを含めて報告します.

論文Review

仰臥位での人工股関節全置換術におけるカップ設置角度の精度は,術中の骨盤姿勢変化量の違いにより側臥位よりも高い

著者: 林申也

ページ範囲:P.71 - P.71

序文 寛骨臼カップの設置角度は人工股関節全置換術(THA)において術後成績を決定付ける重要な因子である.術中にカップの設置を行う際の設置角度は骨盤姿勢の影響を受けるが,術中の骨盤姿勢と術後X線画像撮影時の姿勢が同じであることが理想的である.本研究の目的は,手術体位による骨盤姿勢の変化を術中股関節正面像・術後の仰臥位X線正面像で比較することと,カップの設置角度と術中・術後の骨盤姿勢変化との関連を検討することである.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・17

査読者への対応—rebuttal letterを書くにあたって

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.72 - P.75

 医学・科学論文を発表するには,いわゆるpeer review(同じ研究分野の医師・研究者による査読)を経る必要があります.これで,投稿した論文が当該雑誌の掲載に相応しいか判断を仰ぐことになります.査読者のコメントに対し,適切に対応することは,論文を正しく評価してもらうのに極めて重要です.このため,指導医・principal investigatorがrebuttal letter(査読者の質問に対する回答書)の対応をすることが多く,経験の浅い医師・研究者には馴染みが薄いかもしれません.しかし,避けて通れない道ですので,今回は,筆者の査読者としての経験も交えつつ,査読者への対応に関してお話しします.

やりなおし! 医療制度 基本のき・1【新連載】

保険診療ってなに?

著者: 新井貞男

ページ範囲:P.76 - P.77

 医師国家試験に合格し,医師免許を取得しても,すぐに病院に勤めて保険診療ができるわけではありません.保険診療を行う(病院や診療所などで働く)際は,医師が自らの意思により,勤務先の保険医療機関の所在地を管轄する地方厚生(支)局長へ申請し,保険医登録をする必要があります.保険医登録がなければ,保険医療機関で診療に従事することはできません.もちろん,自由診療のみを行うのであれば,医師免許証だけで診療することはできます.

臨床経験

難治性髄液漏に対する治療戦略

著者: 坂野友啓 ,   長谷川智彦 ,   大和雄 ,   吉田剛 ,   安田達也 ,   有馬秀幸 ,   大江慎 ,   後迫宏紀 ,   山田智裕 ,   井出浩一郎 ,   渡邉悠 ,   松山幸弘

ページ範囲:P.79 - P.83

対象と方法:脊髄腫瘍144例のうち難治性髄液漏7例(髄内4例,硬膜内髄外3例)を対象とした.高位,硬膜形成の有無,髄膜炎合併の有無,髄液細菌培養,治療法,経過,入院期間につき検討した.

結果:高位は頚胸椎部6例で,硬膜形成を6例,予防的髄液ドレナージを2例に施行した.髄膜炎は4例,髄液培養陽性1例であった.抗菌薬はセフトリアキソン(CTRX)を使用し,髄液ドレナージ6例,硬膜修復術5例を要した.平均入院期間は10週間であった.

まとめ:頚椎部で硬膜形成した症例は髄液漏が遷延化した.予防的髄液ドレナージの必要性を感じた.

日本人におけるびまん性特発性骨増殖症(DISH)の有病率に関する文献的調査

著者: 檜山明彦 ,   渡辺雅彦

ページ範囲:P.85 - P.90

目的:日本人のびまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)の有病率について,過去の英文誌をもとに調査を行った.

対象と方法:2014年以降の10論文を対象とし9,646人(男性5,352人,女性4,294人,平均年齢65.1歳)のDISH有病率(男女別含む)について調査した.

結果:DISH症例は1,488例で,その有病率は15.4%であった.年齢が高く,男性の有病率は21.3%(1,142/5,352例)と,女性8.1%(346/4,294例)と比較し約2.6倍高かった.

結語:高齢男性では,転倒程度の軽微な外傷でもDISHによる椎体骨折を念頭に置くべきである.

症例報告

複数の胸椎椎体骨折に化膿性脊椎炎を続発した1例

著者: 三好英昭 ,   西庄武彦 ,   井上智恵

ページ範囲:P.91 - P.94

 同時発症した多発性胸椎椎体骨折に化膿性脊椎炎を続発した症例を経験したので報告する.症例は90歳男性,転落により第8胸椎と第12胸椎に椎体骨折を生じ,保存治療中に双方の骨折部位に脊椎炎が続発した.起炎菌はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)で,受傷から脊椎炎診断までの期間は12週間であった.抗菌薬治療により感染は鎮静化した.感染経路として尿路感染症からの血行性感染が疑われた.

Pachydermodactylyの3例

著者: 小池智之 ,   加藤直樹

ページ範囲:P.95 - P.101

 Pachydermodactylyは,主に若年者の手指PIP関節部の橈尺側面の皮膚肥厚を来す比較的稀な疾患である.特徴的な腫脹のみを認め,疼痛,可動域障害などを伴わず,画像検査,血液検査でも関節炎の所見を認めない.外見の異常以外は症状がないため見逃されている可能性がある.筆者らは3例を経験し,2例に対して整容面の改善を目的に外科的切除を行い,再発や悪化を認めていない.本症の原因は不明であるが,外的刺激も誘引の可能性がある.保存治療では改善のない症例が多いが,外科的切除は機能障害を残すことなく整容面の改善を得ることができる.

書評

新訂 うまい英語で医学論文を書くコツ—世界の一流誌に採択されるノウハウ フリーアクセス

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.102 - P.102

 海外の研究成果に学ぶ時代なら英語論文は読めればよかった.が,医学研究において,日本が最先端の一角を占める分野が珍しくなくなった.つまり,英語での論文発表が求められる時代になった.その時代に不可欠なノウハウを,長年に渡る英語論文の執筆・添削指導をしてきた経験から引き出し,多くの添削事例とともにまとめたのが同名書の初版であった.1991年の出版以来,30年近く読み継がれてきた名著の新訂版が本書である.

 著者の植村研一先生は,中学時代に英語弁論大会に出場して以来,千葉大医学部卒業後は横須賀米国海軍病院でのインターンを経て,7年半にわたって米英に留学されるなど,英語をたくさん使ってきた経験を持つ.さらに帰国後も日本脳神経外科学会の英文機関誌に投稿される論文の英文添削にかかわり,日本医学英語教育学会や日本脳神経外科同時通訳団まで創設してしまった方である.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1 - P.1

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.103 - P.103

あとがき フリーアクセス

著者: 酒井昭典

ページ範囲:P.106 - P.106

あとがき

 2020年,新年あけましておめでとうございます.令和2年,天皇陛下が即位されて初めてのお正月を迎えます.昨年末から本誌の編集委員メンバーに新しく加わりました産業医大の酒井昭典です.どうぞよろしくお願いいたします.

 今年はオリンピックイヤーです.2020年7月24日から8月9日まで開催されるオリンピック競技大会では,史上最多の33競技・339種目が開催されます.続いて,8月25日から9月6日まで,パラリンピック競技大会22競技が行われます.海外からも多くの観光客が来日するものと思われます.2013年IOC総会で行われた滝川クリステルさんの素晴らしいプレゼンどおりに「お・も・て・な・し」の心で皆様を歓迎したいものです.今年は,スポーツによる運動器傷害や障がい者スポーツの医学的・社会的意義など,運動器に関してグローバルに議論し,ロコモティブシンドロームの認知度向上に努めながら,運動器の重要性を国民にアピールするよい機会だと思われます.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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