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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科55巻11号

2020年11月発行

雑誌目次

特集 足部・足関節の画像解析—画像から病態を探る

緒言 フリーアクセス

著者: 渡邉耕太

ページ範囲:P.1190 - P.1190

 近年の画像解析技術の進歩は目覚ましい.特に,コンピューター技術を駆使した解析と超音波検査において目を見張るものがある.画像解析技術の進歩に伴い,足部の病態解析への応用と新たな知見による病態の理解が進んでいる.画像の3次元化,リアルタイム化,動的評価がキーワードとなっている.これらは,CT,MRI,超音波の領域で顕著である.しかし,単純X線像による評価はいまだ重要な位置を占める.単純X線撮影は多くの施設で行える方法であり,また最近は撮影方法や解析方法の工夫によって,より詳細な病態をとらえることが可能となっている.

 本特集では,解析画像を単純X線像,超音波画像,CT,MRI,動的評価に分け,これらの分野に精通した先生方に執筆いただいた.単純X線像については,聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院の原口直樹先生に真の下肢機能軸と考えられる評価法とその臨床応用を,奈良県立医科大学の宮本拓馬先生には足部疾患の評価と病態解析をまとめていただいた.超音波については,久留米大学の野口幸志先生と済生会奈良病院の松井智裕先生に,足関節靱帯と足部疾患の最新の知見について解説いただいた.CTでは,東京大学大学院理学系研究科の野崎修平先生に距腿関節と距骨下関節の形態から導かれるキネマティクスと病態との関連を,京都府立医科大学の城戸優充先生には荷重CT研究の知見をまとめていただいた.MRIについては,札幌医科大学の寺本篤史先生に3D MRIによる足関節靱帯の評価を,聖マリアンナ医科大学の三井寛之先生には足部・足関節病変の病態評価について解説いただいた.動的評価については,芝浦工業大学工学部の深野真子先生に3D-2D model-image registration法の原理と足関節不安定症例の動態についてまとめていただいた.

【X線】単純X線像を用いた足関節の機能軸評価

著者: 原口直樹

ページ範囲:P.1191 - P.1196

 下肢の最大の機能は荷重であり,下肢障害の診断と治療にあたってはその機能軸を評価することは必須である.従来のMikulicz線では機能軸が足関節を通る点を決定できないために,足関節における下肢機能軸評価は困難であったが,Hip to calcaneus viewによりこれが可能となった.ここでは変形性膝関節症と変形性足関節症の関係や,変形性足関節症や成人期扁平足において後足部の機能軸評価がどのように病態解明と治療方針の決定に寄与してきたかを,症例提示とともに明らかにしたい.

【X線】単純X線像を用いた足部の病態評価

著者: 宮本拓馬 ,   谷口晃 ,   田中康仁

ページ範囲:P.1197 - P.1203

 単純X線は簡便で,侵襲も少なく,骨形態を評価できる方法であり,日常診療で最も頻繁に行われている評価方法の1つである.そのため,骨形態の時系列変化を追うのに最も適していると考えられる.本稿ではその中でも,マッピング法,横倉法,アキレス腱モーメントアームの評価法を紹介する.また,2D-3Dレジストレーションの技術は,これまで静止位でしか評価できなかったことが,動態での評価を可能とする.これにより,これまで行われていた単純X線の計測方法においても,新たな知見が得られることが期待される.

【超音波】足関節靱帯の超音波画像による病態評価と損傷靱帯の治癒過程評価

著者: 野口幸志 ,   副島崇 ,   大川孝浩

ページ範囲:P.1205 - P.1209

 エコーが広く普及した現在,足関節外側靱帯損傷の診療において損傷部位の不安定性を動的に評価でき,ドプラにより組織の炎症や治癒過程を評価することができるエコーは,画像診断の第1選択となった.従来,時間経過により判断されていた固定期間や運動負荷の開始時期を,エコーによる治癒過程の経時的な評価によって判断することができる.適切な固定期間の判断や適切なリハビリテーションの計画・指導ができるため,長すぎる外固定による拘縮や早すぎる負荷による損傷靱帯の治癒不全を防ぐことが可能となる.

【超音波】足部(足関節以外)の超音波画像による病態評価—超音波画像による足底腱膜症の病態評価

著者: 松井智裕 ,   熊井司

ページ範囲:P.1211 - P.1217

 足底腱膜症の重要な超音波所見には,足底腱膜の肥厚,血流の増加,踵骨棘の形成などが挙げられる.これらの所見をこれまでに報告されている足底腱膜症の病態に関する病理組織学的所見と照らし合わせることによって,患者における足底腱膜症の病態を評価し,さらには超音波ガイド下に治療を行う一連の流れについて解説する.

【CT】足関節運動特性と病態発生機序に関連する足根骨形態変異

著者: 野崎修平

ページ範囲:P.1219 - P.1222

 近年,CT画像から得られた情報を数理的に解析することで,足関節疾患に特徴的な足骨形態の変異傾向の一端が解明されてきた.本稿では,距腿関節・距骨下関節の形態と回転軸との対応関係,幾何学的形態測定学を用いた骨形態解析の概要,足部・足関節疾患症例における足根骨形態特性について解説する.本稿で提示する知見が,足根骨形態を基盤に生じる足関節運動の特徴についての理解を助け,足部疾患の発生機序や治療方針に関する議論のよりどころとなることを期待する.

【CT】足関節・足部疾患における荷重CT研究

著者: 城戸優充 ,   生駒和也 ,   牧昌弘 ,   外園泰崇 ,   高橋謙治

ページ範囲:P.1223 - P.1226

 2000年頃から現在(2020年9月)にかけて,荷重CTを用いた足関節・足部疾患に関する研究が発展している.欧米では,歯科領域で用いられていたコーンビームCTによる立位荷重CTが商用化され,国際的な共同研究も進んできた.本稿では,これまでに行われた荷重CT研究を紹介し,その問題点と今後の展望について概説する.また研究対象となった疾患のうち,扁平足(後脛骨筋腱機能不全),外反母趾について,代表的な解析結果と得られた知見を詳述する.

【MRI】足関節靱帯の3D MRI

著者: 寺本篤史

ページ範囲:P.1227 - P.1232

 MRIは軟部組織の描出に優れるため靱帯損傷の診断において有用であるが,足関節外側靱帯や遠位脛腓靱帯の走行と断面像の「ずれ」に伴う描出不良を経験することがある.高解像度撮像のthree-dimensional magnetic resonance imaging(3D MRI)は各靱帯走行に沿った任意の断面像を描出することができるため,足関節靱帯損傷の診断精度が高まり,治療選択への応用も期待される.本稿では足関節靱帯における3D MRIの撮影方法と画像評価のポイントを解説する.

【MRI】足部・足関節領域におけるMRI診断と病態評価—Bone Marrow Edema所見を活用した病態解析

著者: 三井寛之 ,   仁木久照

ページ範囲:P.1233 - P.1239

 MRIは単純X線撮影では評価が困難な骨軟骨病変や腱靱帯組織の評価が可能であり,広く疾患の病態評価に利用されている.正常な腱,靱帯,軟骨組織はT1強調像,T2強調像で低信号を呈し,病変を正確に評価するためにはプロトン密度強調像やSTIR像が有用である.軟骨病変を評価する際には軟骨下骨層,骨髄病変の有無も確認する.変形性足関節症において骨髄組織に発生する骨髄浮腫(bone marrow edema;BME)は,既存のX線診断では分類が困難な病期や病態をさらに細分化して評価するための診断ツールとして応用できる可能性がある.

【動的評価】3D-2D Model-image Registration法を用いた足関節の動態分析

著者: 深野真子

ページ範囲:P.1241 - P.1248

 3D-2D model-image registration法は動作中の関節のキネマティクスを高い精度で分析する分析法の1つである.この方法を用いて足関節内反捻挫の反復既往を有する者の歩行立脚期中の距腿関節および距骨下関節のキネマティクスを明らかにした.足関節捻挫の反復既往を有する者は,踵接地から立脚期の60%にかけて,距腿関節での内旋が健康な者よりも有意に大きいことが明らかとなった.

連載 やりなおし! 医療制度 基本のき・11

整形外科医が産業医?

著者: 小無田要

ページ範囲:P.1250 - P.1252

はじめに

 「整形外科で産業医?」

 おそらく,このような考えをお持ちの方はまだまだ多いのではないだろうか?

 私は,2001年に産業医の資格を取り嘱託産業医を務めている.また2011年から日本臨床整形外科学会(以下JCOA)産業医委員会に所属している関係で,非産業医の先生方に産業医について啓発するため「産業医とは」,「産業医の現状」,「なぜ整形外科医に産業医を勧めるか」,この3点につき述べたいと思う.

いまさら聞けない英語論文の書き方・27

語るに語れないauthorshipの諸問題②—Authorshipの誤用・乱用・悪用(abuse)

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.1254 - P.1257

 今回は昨今,特に問題になっているAuthorshipの誤用・乱用・悪用を取り上げます.敢えて口にすることがはばかられる暗黙の了解事項ともいえる内容も若干含みます.指導医,Principal Investigator(PI)からしてみると,“何をいまさら”と思われるかも知れませんが,本連載はもともと,若手の医師・研究者が対象ですので,あえてこの話題を取り上げます.言わずもがなですが,筆者が偉そうにこれらの問題を語れる立場ではないことは重々承知の上です.不行儀・不埒をご容赦ください.

臨床経験

CTを用いた人工関節全置換術前後の筋断面積・脂肪変性評価

著者: 鵜養拓 ,   大村はるか ,   渡辺雅彦

ページ範囲:P.1259 - P.1262

目的:人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)前後の股関節周囲筋断面積,脂肪変性をcomputer tomography(CT)を用いて評価した.

対象と方法:後外側アプローチでTHAを行った症例に対して術前,術後半年でCTを施行した.股関節周囲筋の断面積およびCT値を計測し術前後の推移について検討した.

結果:術前に比べ術後大殿筋,大腿筋膜張筋の断面積は増大していた.内閉鎖筋,外閉鎖筋の術後CT値は有意に低下していた.

まとめ:後外側アプローチでは術後の大殿筋,大腿筋膜張筋の断面積は増大したが,内閉鎖筋,外閉鎖筋のCT値は低下しており,脂肪変性が生じていることが考えられた.

症例報告

橈側支持組織の完全破綻による示指伸筋腱脱臼の1例

著者: 新井哲也

ページ範囲:P.1263 - P.1267

 示指MP関節の橈側支持組織がすべて断裂したことによる伸筋腱尺側脱臼を経験した.

 50歳,女性.前医で右示指MP関節近傍にステロイド注射を頻回に受けていた.示指MP関節の橈側支持組織(橈側矢状索,MP関節橈側側副靱帯,橈側側索,関節包)が完全に破綻していたため再建術を行った.

 伸筋腱脱臼は日常診療でしばしば遭遇する.単純な矢状索の断裂によることが多いが,自験例は橈側支持組織が完全に破綻していた.前医でMP関節近傍にステロイド注射を頻回に受けており,何らかの因果関係が示唆された.

肩甲骨関節窩に同種骨移植を行った反転型人工肩関節全置換術の3例

著者: 大石隆太 ,   村成幸 ,   結城一声 ,   鈴木朱美 ,   遠藤誠一 ,   佐々木幹 ,   石井政次 ,   高木理彰

ページ範囲:P.1269 - P.1274

 肩甲骨関節窩に高度な骨欠損を認め,上腕骨頭にも圧潰を認める腱板断裂性肩関節症2例3肩と変形性肩関節症の1肩に対し,同種骨移植を併用した反転型人工肩関節全置換術を施行した.最終経過観察時に,全例で疼痛と日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOAスコア)の改善を認め,1肩を除き肩可動域の改善を認めた.移植骨は全例で骨癒合し,感染症は認めなかった.本症例では,高齢女性で自家骨が骨質不良と考えられ,通常移植骨として用いられる上腕骨頭は圧潰していた.自家骨の使用が困難で,骨バンクが利用できれば同種骨も有用な選択肢になり得ると考えられた.

レボフロキサシン内服後に両側アキレス腱断裂を発症したステロイド内服患者の1例

著者: 銭谷俊毅 ,   岡田葉平 ,   寺本篤史 ,   村橋靖崇 ,   神谷智昭 ,   渡邉耕太 ,   山下敏彦

ページ範囲:P.1275 - P.1279

 レボフロキサシン内服後に両側アキレス腱断裂を発症したステロイド内服患者の1例を報告する.

 74歳男性.感冒症状でレボフロキサシンを処方された.内服5日目から誘因なく歩行困難が出現し,1カ月後に当院を受診.両側アキレス腱断裂を認めた.

 手術は両側同時に行い,術式はアキレス腱の欠損が大きかったためLindholm法と自家半腱様筋腱による補強を行った.

 レボフロキサシンによる大きな欠損を伴うアキレス腱断裂に対し,強固な固定法により良好な臨床成績を得た.術後2カ月から独歩可能となり,再断裂なく経過している.

書評

臨床研究の教科書—研究デザインとデータ処理のポイント 第2版 フリーアクセス

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.1280 - P.1280

 ぼくは臨床研究そのものの専門家ではなく,臨床研究の専門家の知見から学び,研究をしている一医者にすぎない.車を作ったり直したりする能力はまるでないが,運転はしている次第.だから本書を上から「批評する」資格はなく,本書を活用してきた読者の一人として「これは一読の価値がありまっせ」とオススメすることしかできない.よって,書評ではなく推薦文である.

 2016年に本書初版が出たときは,知人に勧められて買い求めた.内容もさることながら,文体が素晴らしいと思った.こういう比較が適切なのかは知らないが,しかし主観的にそう感じたので仕方がないから書くが,経済学者の森嶋通夫の本を読むようなクリスピーな文体だった.本当にこの領域の世界内を熟知している人が,しかし冗長な説明は全てそぎ落として要諦だけ読ませるような文体だ.今年,新しい第2版を読んでその意を新たにした.

不明熱・不明炎症レジデントマニュアル フリーアクセス

著者: 鈴木富雄

ページ範囲:P.1281 - P.1281

 この書の「序」は次の文章で始まる.


『不明熱の臨床はざっくりと次の2つの問題を内包しています.

(1)発熱へのアプローチが不適切で,本来不明熱ではない発熱が「不明熱」とされる

(2)本当の不明熱は文字通り原因が「不明」なため,臨床では未知の事柄への対処を強いられる

 不明熱の診療を向上させるには「基本と応用」を押さえることが必要です.

 「基本」というのは(1)に,「応用」は(2)に対応する力にそれぞれ相当します.』

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1189 - P.1189

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1283 - P.1283

あとがき フリーアクセス

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.1286 - P.1286

 新型コロナウイルス感染拡大を受け,いわゆる「新しい生活」が始まり約半年が過ぎました.さまざまな会議もウェブシステムを用いてオンラインで行われるようになりました.当初は,オンライン会議ではシステムの使用方法にも馴れておらず,また発言のタイミングも取りづらく戸惑いも多かったものの,現在ではシステムもかなり使いこなせるようになり,どこからでも参加が可能,移動の必要もなく,感染リスクもないことから重宝するようになりました.最初のうちは画面のどこをみてよいのかもかわかりませんでしたが,馴れてくると画面上の参加者の表情も読み取れるようになり,face to faceの会議のときと同様に,なんとなく場の雰囲気というのもわかるようになってきました.今回のコロナ禍は,このようなデジタル技術の重要性を改めて認識する機会になりました.

 さて,本号の特集は,札幌医科大学の渡邊耕太先生に「足部・足関節の画像解析—画像から病態を探る」というテーマで企画いただきました.サイズも小さく,形態も複雑な足部・足関節の疾患・障害の診断は困難を伴うことも多いと思われますが,最近のデジタルX線,CT,MRIなどのデジタル画像の進歩により病態の解明が進み,診断もより正確に行えるようになってきました.今回の特集では本領域のエキスパートの先生方に最近の足部・足関節の画像解析について詳細に解説をいただいております.また,防衛医科大学の堀内圭輔先生の連載企画では,医学界でも深刻な問題となっているauthorshipの誤用・乱用・悪用について,難しい課題を大変わかりやすく解説いただいています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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