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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科55巻12号

2020年12月発行

雑誌目次

特集 女性アスリートの運動器障害—悩みに答える

緒言 フリーアクセス

著者: 片寄正樹

ページ範囲:P.1290 - P.1290

 近年,女性アスリートの活躍は国際的にも国内的にも大きな広がりを見せている.特にハイパフォーマンスレベルの女性スポーツへの関心の高まりを背景に,女性アスリートをとりまく運動器障害の診療に関する様々な知見も整理されるようになってきた.米国スポーツ医学会が,利用可能エネルギー不足,視床下部性無月経,骨粗鬆症の3つを「女性アスリートの三主徴Female Athlete Triad(以下,FAT)」として広く啓蒙したことは,女性アスリートの運動器障害に潜む背景が重要であることを示唆した.その後も国際オリンピック委員会からは,総エネルギー消費量に対する少ないエネルギー摂取量による負のバランス状態を「RED-S」として,パフォーマンスにかかわる身体システムへの悪影響を指摘している.昨今ではこれらを基盤とした治療や予防が進む中,女性特有の身体特性そしてライフイベントに伴う心理変化も女性アスリートの診療とサポート上のpitfallとして留意すべきものと認識されるようになってきた.一方で,女性アスリートの運動器障害の発症に影響する足部骨格形態の性差など,新たなるメカニズム追究も進んでいる.

 本特集では,疫学と診断治療にあわせて女性アスリート運動器障害の特有なメカニズムにせまる多様な背景要因について着目した.結果として,女性アスリートの運動器障害の診療とサポートの最前線で活躍する多様な職種の先生にご執筆をいただいている.整形外科,女性診療科,栄養指導,心理サポート,理学療法,そしてアスレティックトレーニングと多岐にわたる視点での解説とCOVID-19の影響を受けたスポーツ現場からの女性アスリートサポートの最前線報告は,女性アスリートに寄り添う多様な専門職の連携が重要であることを改めて認識させてくれる.多忙を極める中,ご執筆をご担当いただいた先生方には心より感謝申し上げたい.

女性アスリートの外傷・障害—競技種目特性も踏まえて

著者: 半谷美夏

ページ範囲:P.1291 - P.1296

 国際総合競技大会期間中の外傷・障害発生割合に明らかな性差は認めなかった.しかし,本邦の代表選手や候補選手のメディカルチェック時の外傷・障害保有割合は女性のほうが高率で,その性差は競技種目により異なっていた.また,国立スポーツ科学センターの診療においては,前十字靱帯損傷や疲労骨折は女性で受診割合が高かったが,男性が高率な競技種目もあり,腰椎分離症は男性のほうが高率だった.女性アスリートをサポートする際には基本的な女性アスリートの特徴を理解した上で,アスリート個人の状況を把握して対応する必要がある.

若年女性アスリートの骨粗鬆症と疲労骨折

著者: 宇津野彩 ,   能瀬さやか

ページ範囲:P.1297 - P.1299

 女性の骨量維持には安定した月経周期によるエストロゲン分泌が不可欠であるが,女性アスリートは視床下部性無月経に伴う骨粗鬆症および疲労骨折のリスクが高い.特に若年女性アスリートは最大骨量獲得前に無月経を迎えると,競技生活中の疲労骨折のリスクが高まるだけでなく,生涯にわたって骨粗鬆症ハイリスク群となる.そのため10代からの早期介入による骨粗鬆症の予防や再発防止が重要である.

女性アスリート三主徴に対するアプローチ

著者: 大沢亜紀 ,   窪麻由美

ページ範囲:P.1301 - P.1304

 女性アスリートが陥りやすい3つの障害,“利用できるエネルギー不足”,“視床下部性無月経”,“骨粗鬆症”の女性アスリート三主徴(female athlete triad:FAT)がある.整形外科外来ではFATのアスリートに繰り返す骨折などで遭遇することがある.FAT診断できず,放置することにより,骨折を繰り返し,トレーニングの継続すら困難になるケースもみられる.本稿では女性アスリート三主徴を的確に診断し,治療するためのスクリーニングや,診断・治療について述べる.

女性アスリートのエネルギー不足と栄養指導

著者: 小清水孝子

ページ範囲:P.1305 - P.1311

 女性アスリートの三主徴の根本的な原因である利用可能エネルギー不足の改善には,栄養アセスメント結果に基づいて,女性アスリートの生活・練習環境などの背景を把握したうえで個々に,実現可能な食生活改善の具体的な対策を講じていくことが重要である.特に練習量に見合った糖質の摂取量を確保することがポイントとなる.この際,指導者,整形外科・婦人科の医師や,スポーツ医・科学の各分野の専門家が公認スポーツ栄養士・管理栄養士と連携できることが望ましい.

女性アスリートのスポーツ障害—心理サポートにおけるけが

著者: 江田香織

ページ範囲:P.1313 - P.1316

 心理サポートを訪れる受傷アスリートは,不自然な症状や痛みの訴えを呈している場合が多い.心理サポートでは,彼らの訴える痛みの背景に潜む心理・社会的な痛みについても多層的に聞いていくことで,アスリート自身がけがを受容し,痛みを低減させ,リハビリテーションへの専心性を高めていく.女性アスリートの場合には,女性特有の身体的変化に伴って受傷する場合がある.この場合,痛みの背景にある心理・社会的な訴えを理解することを通して,女性としての変容を受け入れ,それに適した行動変容へとつながっていくと考えられる.

女性アスリートのスポーツ外傷障害と骨格構造

著者: 野崎修平

ページ範囲:P.1317 - P.1320

 前十字靱帯損傷が女性アスリートにおいて高い発生率を示す機序には,ホルモン要因,骨形態を含む解剖学的要因,動的課題における膝外反・回旋運動を含む生体力学的要因が関連する.近年,足部内に位置する距骨下関節を起点に膝関節を構成する脛骨の回旋運動が生成される一連の骨動態が解明され,この距骨下関節を構成する骨形態には性差が実在すると報告された.本稿では,距骨下関節の運動生成に寄与する踵骨・距骨の骨格形態における性差を解説し,これらの骨形態変異が足部−下腿の運動連鎖に及ぼす影響に関する推察を提示する.

女性アスリートの運動器障害に対する理学療法

著者: 寒川美奈

ページ範囲:P.1321 - P.1324

 近年,女性アスリートへの支援は多方面から行われている.しかしながら,女性は月経や妊娠,出産,結婚などライフイベントの影響を受けやすく,継続的かつ包括的な支援体制の充実が望まれる.

 男性との骨格や性ホルモンなどの違いから,女性アスリートで好発する障害の特徴も少し異なる.また,理学療法では,身体構造や生理学的特徴,心理社会的状況を理解して進めていくべきである.

 そこで本稿は,女性アスリートに好発する運動器障害と理学療法について紹介し,女性アスリートへの包括的支援のあり方を紹介する.

女性アスリートの長期運動休止後のスポーツ傷害予防

著者: 広瀬統一

ページ範囲:P.1325 - P.1329

 COVID-19感染拡大という未曽有の状況下において,女性アスリートのスポーツ傷害予防の重要性と課題が再確認された.体力・運動能力の維持,練習再開後の段階的負荷設定,継続的な傷害予防プログラムの実施を包括的に行うことが,傷害予防に貢献する.さらに緊急事態宣言発出下において,多くのアスリートはサポートスタッフとのコミュニケーションに課題を有していた.女性アスリートの傷害予防ひいては競技力の維持や向上には,スポーツ医科学支援者の積極的なアスリートとの対話が生命線であると考えられた.

COVID-19蔓延に伴う女性アスリートの課題—心理的側面に着目して

著者: 鈴木佳奈実 ,   土肥美智子

ページ範囲:P.1331 - P.1336

 COVID-19蔓延は,多くのアスリートに多大な影響を及ぼしている.国際オリンピック委員会(IOC)は,コロナ禍において,アスリートの心理サポートが必要であると報告している.これまでに,女性アスリートは男性アスリートと比較して,精神健康度が低いことが示されており,COVID-19蔓延に伴っても,女性アスリートはより心理的問題を抱えているとの報告がみられた.国立スポーツ科学センターが実施した調査により,女性アスリートは『競技に関する不安』よりも『一般的な不安』を強く感じている可能性が示され,ママアスリートからは,育児に関する不安の声がきかれた.

視座

脊柱変形手術についての私見

著者: 髙橋淳

ページ範囲:P.1289 - P.1289

 患者さんに手術を提案する時,私は「自分だったらこの手術を受けたいか?」「自分の身内だったらこの手術を受けさせたいか?」を常に考えている.

 2005年に信州大学整形外科脊椎班のチーフを拝命し,以来側弯症の手術の執刀を任されてきた.当時,韓国のSe-Il Suk教授が開発し,米国のLawrence G Lenke教授が世界に広めた「Segmental pedicle screw fixation」が主流になりつつあった.2004年の国際頚椎外科学会の前に,Lenke教授の手術を見学させていただき,本手技を信州大学に導入しようと考えた.彼らの技術は素晴らしかったが,米国で主流だったフリーハンドでの椎弓根スクリューの刺入は,一歩間違うと脊髄損傷,大動脈損傷,肺損傷のリスクがあった.また「高度に進行した大きくて硬いカーブにはたくさんスクリューを刺入する必要があるが,中等度までの軟らかいカーブに対してはすべての椎骨にスクリューを刺入する必要がないのではないか?」と疑問を抱いていた.1998年当時からリウマチ頚椎を中心にナビゲーションを用いた椎弓根スクリューの実績があったため,「自分が側弯症の執刀ができるようになったら,ナビゲーションを使ってより安全確実に,必要最小限のスクリューで矯正したい」と感じていた.2005年にskip pedicle screw fixationを考案し,さらに,ナビゲーションの時間短縮を実現したmulti-level registration法を併用した矯正手技を,2010年の雑誌「Spine」に報告した.また,「自分の娘ならこのような手術をしたい」との思いから,同種骨や人工骨は使わず局所骨のみを使っている.思春期特発性側弯症に対する後方矯正固定術において,今のところ偽関節は経験していない.

整形外科基礎

変形性関節症の骨リモデリングに対するNSAIDsの疾患修飾作用

著者: 金本隆司 ,   山根ひとみ ,   比嘉辰伍 ,   中田研

ページ範囲:P.1339 - P.1345

 変形性関節症(OA)は,軟骨変性・喪失,滑膜炎,軟骨下骨の硬化,疼痛などを伴う関節障害であり,OA初期においては軟骨変性に先行して軟骨下骨での骨量減少が起こる.OA治療に使用される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)では,疼痛などの症候に対する抗炎症作用とは異なる疾患修飾作用が近年注目されている.本総説ではOA初期の病態において重要な役割を果たす軟骨下骨の骨リモデリングに対するNSAIDsの疾患修飾作用に着目し,2010年以降の報告を中心に,骨芽細胞・破骨細胞の分化誘導・形成に対するNSAIDsの抑制作用を明らかにした.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・28

Researcher identifierを活用すべし

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.1346 - P.1349

 Researcher identifier(日本語に訳すとしたら,“研究者識別サイト”でしょうか?)とは,研究者ごとに識別コードを与え,その研究者の業績を紐づけするサービス,もしくはウェブサイトを指します.著者と論文を結び付けることに,何の面倒があるかと思われるかもしれませんが,実際のところ,著者名だけでは特定の研究者を同定するのは不十分です.

 本稿では,近年,普及しつつあるResearcher identifierの概要と,代表的なウェブサイトをご紹介します.Researcher identifierの活用は,研究者として必須になりつつあります.

やりなおし! 医療制度 基本のき・12【最終回】

応招義務と医師の働き方改革

著者: 奥村栄次郎

ページ範囲:P.1350 - P.1351

 応招義務の解釈が変わった.「診療に従事する医師は,診療治療の求があった場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない」という医師法19条1項の解釈は,昭和24年厚生省通知が長きにわたり基本であった.しかし,これが勤務医の過重労働の要因になっていることと,昭和24年当時とは国民への医療提供体制が著しく変わったことから,令和元年12月25日厚生労働省通達により解釈の基本が変わったのである1)

 旧解釈では,休診日であっても急患に対する対応は解除されるものではないとされていたが,新解釈では,診療時間外・勤務時間外であることを理由に診療を拒否しても応招義務違反に当たらないと,正反対の要件変更となった.他に新解釈には,応招義務は医師が国に対して負担する公法上の義務で,患者に対する私法上の義務ではないということと,医師が労働基準法に違反することを理由に診療を拒否しても応招義務違反に当たらないということが明記された.

臨床経験

腰椎変性疾患に対するMinimally invasive spine Stabilizationの比較検討—L4/5椎間におけるMIS-TLIFとLLIFの比較

著者: 檜山明彦 ,   田中真弘 ,   加藤裕幸 ,   酒井大輔 ,   渡辺雅彦

ページ範囲:P.1353 - P.1358

背景:近年,Minimally invasive spine Stabilization(MISt)手術が行われるようになっている.

対象と方法:L4/5の不安定性を有す腰部脊柱管狭窄症患者70例を対象に,異なる2つのアプローチの侵襲性や臨床成績を比較検討した.

結果:手術時間や入院期間はLLIF(lateral lumbar interbody fusion)群で有意に短く,術中出血も少なかった.一方で術後の痛みや患者満足度はMIS-TLIF(transforaminal lumbar interbody fusion)とLLIFによる統計学的有意差はなく,総入院点数も2群間で差がなかった.

結語:L4/5のMIStの選択において,手術侵襲はLLIFのほうが低侵襲であったが,総入院点数や術後の痛みや患者満足度には差がなく,いずれも有用な術式であった.

症例報告

成人脳性麻痺股関節二次障害に対する筋解離術により歩行能力が改善した2例

著者: 西山正紀 ,   多喜祥子 ,   西村淑子 ,   山田総平 ,   堀川一浩 ,   二井英二

ページ範囲:P.1359 - P.1362

 成人脳性麻痺における股関節亜脱臼,変形性股関節症などの二次障害に対し,股関節を中心に筋解離術を施行し,関節症の改善により歩行器歩行能力の向上した,43歳と35歳の2症例を経験した.筋解離術は早期の関節症の進行を遅らせるか,停止させ得る可能性や,進行した関節症に対する除痛効果を認めた.脳性麻痺であり,多関節にわたる下肢全体の筋緊張緩和も関節周囲筋の痙縮,拘縮による関節内圧上昇を軽減する重要な要素である.成人脳性麻痺においても筋緊張を評価し筋解離の範囲を定めれば,筋解離術は有用な術式と考える.

固定範囲を延長することなくサルベージ手術を行った軸椎歯突起骨手術の1例

著者: 本間友康 ,   福田健太郎 ,   北村和也 ,   藤井武 ,   末松悠 ,   山下裕

ページ範囲:P.1363 - P.1367

 64歳女性.環軸椎不安定性を伴う軸椎歯突起骨に対し,後頭骨プレートとC2椎弓根スクリュー(pedicle screw:PS)による頭蓋頚椎(occipito-cervical)O-C2後方固定術を施行したが,早期にPS基部の弛みにより矯正損失を生じた.再手術はC1後弓フックとC2椎弓スクリューによる固定と,Brooks法に準じたC1-C2ワイヤリングを追加し,経過は良好である.本症例では固定方法を駆使することで固定範囲を延長することなくサルベージし,C2付着筋を温存し得た.

書評

臨床研究の教科書—研究デザインとデータ処理のポイント 第2版 フリーアクセス

著者: 福岡敏雄

ページ範囲:P.1368 - P.1368

 この『臨床研究の教科書』は,臨床研究にかかわるどんな人にも必ず役立つところがある,どんな人にも読む価値がある,そんな不思議な本である.

基礎から学ぶ 楽しい疫学 第4版 フリーアクセス

著者: 市原真

ページ範囲:P.1369 - P.1369

 手に取ったとき,とてもシンプルに見えた.タイトルも,表紙のデザインも,宣伝目的の帯でさえも.しかしパラパラパラと3めくりしたあたりで,おやっと思った.著者名や発行年月日などが載った「奥付」が冒頭に配置されていたからだ.

 若すぎる顔写真に謎が深まる.来歴にもナニヤラ遊び心がにじむ.表紙から想像していた堅物な印象からの違和感に思考が衝突して,立ちすくむような気分になる.発行日欄の一行目は「第1版第1刷 2002年3月」,最終行が「第4版第1刷 2020年8月」.着実に版を重ねてきた名著である.それなのにこのノリはなんだ?

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1287 - P.1287

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1371 - P.1371

あとがき フリーアクセス

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.1374 - P.1374

 多くの医療機関でCOVID-19院内感染が生じ,「医療崩壊」という言葉があらゆるメディアで報道されてきました.現在も第2波で予断を許さない状況下で,感染症対応にご尽力されているすべての医療者の皆様に心より敬意を表したいと思います.

 今回の特集は「女性アスリートの運動器障害—悩みに答える」です.この特集で私も多くのことを学びました.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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