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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科55巻2号

2020年02月発行

雑誌目次

特集 整形外科の職業被曝

緒言 フリーアクセス

著者: 伊藤淳二

ページ範囲:P.108 - P.108

 放射線は整形外科医にとってなくてはならない診断ツールである.放射線の恩恵として,小さい侵襲で治療を受けられる患者は「医療被曝」として受け入れることができる一方で,整形外科医自身は被曝による放射線障害が生ずる「職業被曝」であり,手指に皮膚がんが発生し労働災害として認定される事例が報告されている.放射線は有用性と有害性の両者をもつ諸刃の剣であり,うまく使いこなさなければいけない.

 今回,放射線利用に造詣の深い先生方に各方面からお考えをお寄せいただいた.まず三浦富智先生(弘前大学)からは整形外科医の手指への慢性被曝で起こる染色体異常についてお示しいただき,大野和子先生(京都医療科学大学)には放射線誘発白内障の予防のため水晶体被曝線量の引き下げについて解説していただき,浅利享先生(弘前大学)には同教室員の放射線被曝の実態調査の結果について詳しくお示しいただいた.現場での対応として,森圭介先生(長崎大学病院外傷センター)には外傷手術における被曝リスクと対策について,山下一太先生(徳島大学)には脊椎手術における被曝の実態と防護法について,船尾陽生先生(国際医療福祉大学)からは放射線使用が必須の脊椎低侵襲手術における実態と被曝低減への工夫について,石垣大介先生(済生会山形済生病院)には手外科における職業被曝の実際と対策について実際の手技とともに詳しくお示しいただいた.

整形外科医の超局所慢性被曝による染色体異常

著者: 三浦富智

ページ範囲:P.109 - P.113

 われわれは,X線透視検査および手術に携わる整形外科医の職業被曝の実態を解明するため,青森県脊椎外科懇話会に所属する医師の協力を得て,末梢血リンパ球における染色体異常を解析した.整形外科医の末梢血リンパ球では,二動原体染色体および環状染色体などの不安定型染色体異常が他の医療職者よりも高頻度に認められた.さらに,安定型染色体異常である転座も高頻度であった.このことから,X線透視検査および手術に携わる整形外科医では,明らかに過剰な職業被曝があり,検査および手術時の放射線防護の徹底が必要となる.

水晶体の被曝線量引き下げと整形外科医の放射線誘発白内障の予防

著者: 大野和子

ページ範囲:P.115 - P.119

 2021年4月から医療,工業などの全分野の放射線従事者を対象とする被曝線量限度が改正される.この結果,水晶体の等価線量限度は,現行の年150ミリシーベルト(mSv)から,5年間で100mSvかついずれの1年間においても50mSvを超えない,に引き下げとなる.改正の目的は放射線誘発白内障の予防とされている.本稿では整形外科医が抑えておくべき法令改正に関する事項と,白内障の予防のために必要な日常診療での放射線防護策を概説する.

整形外科医師における放射線職業被曝に関する実態調査—自己記入式アンケート調査からの検討

著者: 浅利享 ,   和田簡一郎 ,   熊谷玄太郎 ,   田中直 ,   石橋恭之

ページ範囲:P.121 - P.125

 今回われわれは整形外科医110名(男性104名,女性6名)に対し自己記入式アンケートを送付し,職業被曝への意識と被曝軽減の対策法を調査・検討した.職業被曝への意識調査では,「気を付けている」と回答した割合は97%であり,放射線を扱う業務時間は平均2.6時間/週であった.放射線を扱う業務は手術が一番多く(76.3%),放射線防護具・測定器の使用の割合は手術時・検査時ともに低かった.慢性放射線障害による手指の皮膚病変に対し,4名ががん切除を受けていた.今後は被曝軽減の工夫や被曝量の確実な記録が行われるよう啓発していく必要がある.

整形外科外傷治療における被曝リスクと対策

著者: 森圭介 ,   宮本俊之 ,   田口憲士 ,   土居満 ,   西野雄一朗 ,   尾﨑誠

ページ範囲:P.127 - P.132

 整形外傷手術において,最小侵襲手術の普及や髄内釘の適応の拡大により,骨折部の整復位の確認など術中に透視を使用する頻度が増えている.整形外傷医は,手術件数の多さなどから他分野の整形外科医より被曝量が多いとされている.そのため術中被曝量を極力軽減する努力をしないといけない.われわれの施設は,整形外傷手術において透視の利用法をルール化して,他職種も含めた外傷チーム内で共通認識することで,透視の使用頻度を減らすことができた.われわれの手術中の透視利用法について具体例を挙げながら述べることとする.

X線透視による脊椎外科医の職業被曝の実際—未固定遺体より学ぶ

著者: 山下一太

ページ範囲:P.133 - P.141

 低侵襲医療の発展により,X線透視の使用量は増大傾向にある.それに伴って,医療者の職業被曝量も増加しており,その手技内容上,特に脊椎外科領域では手や眼への被曝量は多く,被曝による悪影響が懸念されている.職業被曝の基本的知識について整理し,特に脊椎外科医に関わる職業被曝を中心に詳述する.整形外科医,特に脊椎外科医は自分および患者への被曝を意識し,被曝量低減に努める必要がある.

低侵襲脊椎手術における職業被曝の実態と対策

著者: 船尾陽生 ,   石井賢

ページ範囲:P.143 - P.148

 近年の超高齢社会を背景に低侵襲脊椎手術の発展が期待されている一方で,X線透視による医療従事者の術中被曝が懸念されている.国際放射線防護委員会は放射線業務における被曝限度を定めており,過剰な放射線被曝による放射線障害を防ぐことが推奨されている.医療従事者は医療現場における被曝の実際を知ることが重要であり,被曝量の低減化へ向けた具体的な対策をとる必要がある.低侵襲脊椎手術における術中被曝には直接線による被曝と散乱線による被曝があり,本稿では筆者らが調査した術中被曝の実態を中心に述べ,被曝量の低減化対策について考察する.

手外科手術における手指職業被曝と対策

著者: 石垣大介

ページ範囲:P.149 - P.153

 手外科領域では骨関節外傷を中心として,小さい治療対象に対する微細な操作を要求されるX線透視下手術が日常的に多く行われている.筆者の調査では,手外科医の手指の年間被曝線量は平均14.2mSvであった.これは国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告する放射線作業従事者の皮膚に対する等価線量年限度を大きく下回っていたが,手外科医の手指が被曝していることは事実である.被曝量を減らすためには,X線透視機器のパルス透視やしぼりの機能を利用するとともに,術者が極力透視野への写り込みを避け,透視時間の短縮を図るよう意識することが重要である.

論述

人工膝関節全置換術施行例における前十字靱帯と外側大腿脛骨関節軟骨の状態についての検討

著者: 琴浦健 ,   田中聡一 ,   岡本剛治 ,   藤代高明 ,   安喰健祐 ,   長田尚介 ,   北澤大也 ,   平中崇文

ページ範囲:P.155 - P.159

目的:人工膝関節全置換術における前十字靱帯と外側大腿脛骨関節軟骨の状態を明らかにすること.

対象と方法:当院で人工膝関節全置換術を施行した84例130膝を対象とし,術中に前十字靱帯と外側大腿脛骨関節軟骨の状態を確認し分類した.

結果:前十字靱帯が機能し外側大腿脛骨関節軟骨が保たれている膝は40膝(31%),前十字靱帯が機能し外側大腿脛骨関節軟骨が保たれていない膝は14膝(11%)であった.

まとめ:正確な術前評価による,適切な人工関節の選択・術式の選択が重要である.

年齢層別にみた後方経路腰椎椎体間固定術の費用効用分析—医療保険制度における年齢区分の意味とは

著者: 藤原啓恭 ,   小田剛紀 ,   島田裕子 ,   森口悠 ,   齊藤正伸

ページ範囲:P.161 - P.170

背景:後方経路腰椎椎体間固定術(PLIF)の費用効用分析について,75歳を境界とした年齢層別に検討すること.

対象と方法:QOL効用値にShort-form 6-dimentions(SF-6D)を用いて入院診療に関わる直接的費用のみを調査し,75歳未満(P群)と75歳以上(E群)の2群に分類し,費用効用比(cost-utility ratio:CUR)について,術後5年までの予測値を割引率2%で算出し比較検討した.

結果:術後5年での予測CURはP群で364万円,E群で423万円と算出され,P群のみvery cost-effectiveと評価された.

まとめ:年齢層によって要求される治療目標は異なるため,年齢層別の費用効用分析のエビデンスを重ねることも重要である.

Lecture

最新の診療ガイドライン作成法

著者: 吉田雅博

ページ範囲:P.173 - P.176

信用できる診療ガイドラインとは

 診療ガイドラインの目的は,臨床医療で患者医療者双方に参考とされ,患者の意思決定を支援し,患者に対して最適な医療を実践するための資料であると考えられている.

 信頼できる診療ガイドラインの作成方法のまとめを表1に示した.偏りのない作成委員によって,偏りのない作成方法を用いて,文献の網羅的検索と評価統合,公平な推奨決定が行われ,内容の恒常的な評価改訂更新が行われることが重要である.

海外留学レポート

アジアトラベリングフェロー2018

著者: 高橋真治

ページ範囲:P.178 - P.180

 筆者は,2005年3月に医学部を卒業して整形外科,特に脊椎外科の臨床に励み,2009年4月〜2013年3月の間,大学院で研究に勤しみました.その後は1年間,アメリカ頚椎学会や北米脊椎外科学会の会長を務めているJeffrey Wang先生がおられるカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)に留学しました.留学中は基礎研究や臨床データの解析,手術・外来見学などを行い,週末はアメリカの文化や自然に触れ,充実した日々を過ごしました.

 その後,日本で臨床家として仕事に励み,2018年に日本脊椎脊髄病学会(JSSR)のアジアトラベリングフェローとしてアジア2カ国を訪問しました.本稿ではそういった経験を踏まえ,本フェロー応募に至った経緯や,実際に行ってみた感想,その後について述べます.

論文Review

長掌筋腱との誤認による正中神経の採取

著者: 多田薫

ページ範囲:P.181 - P.181

腱を神経と誤認?

 長掌筋腱は腱移植術や靱帯再建術を行う際の移植片として広く用いられている.長掌筋腱と正中神経を誤認して採取するなどあり得ないというのが一般的な認識だが,過去には長掌筋腱との誤認による正中神経の採取例が10例報告されている.今回,著者らがアメリカ手外科学会の会員を対象とした調査を行ったところ,このような正中神経の誤認採取例が19例存在していたとのことである.

 誤認採取が発生した手術は肘の内側側副靱帯再建術が7例,母指CM関節の靱帯再建術が4例,腱の再建術が3例,母指MP関節の側副靱帯再建術が2例,その他が3例であった.19例中7例は手術中に誤認採取であると判明したが,12例は正中神経が長掌筋腱と誤認されたまま移植片として使用されていた.また,術後の初回診察時に誤認採取であると判明したのは12例中2例のみであり,3例は術後1年以降に初めて誤認採取が判明していた.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・18

ソフトの準備

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.182 - P.185

 論文作成には,文章執筆はもちろん,データ集計,グラフ作成,写真編集,Figure編集,文献リスト作成など,さまざまな作業をこなす必要があります.それぞれ,多少の知識と経験を要求されますが,適切なソフトを用意し,それらを使いこなすことで負担を減らすことができます.長年研究に携わっている指導医・principal investigatorであれば,使い慣れたソフトをそろえているものです.今回は,若手の医師・研究者が対象に,論文作成に先立って用意すべきソフトをご紹介いたします.

やりなおし! 医療制度 基本のき・2

リウマチ専門医を目指す若手整形外科医のために

著者: 三宅信昌

ページ範囲:P.186 - P.187

 1999年以降,関節リウマチ(RA)に,メトトレキサート,生物学的製剤(Bio),JAK系製剤が保険採用されたため,RAの疾患コントロールは大変良好となり,以前のように手術をしなくてはならないRA患者数は激減しました.そのためか整形外科に入局してもRAを専攻する若手医師は減ってきました.

 この現実を鑑みて思うところが多くありますが,3つに絞って述べます.

臨床経験

高齢者頚椎骨折の臨床的特徴

著者: 遠藤康広 ,   加藤雅敬 ,   林哲平 ,   河野亜紀 ,   稲川未悠 ,   田畑友寿 ,   田島秀之 ,   森岡秀夫 ,   有野浩司

ページ範囲:P.189 - P.194

目的:高齢者頚椎骨折の病態ならびに治療経過を,他の年齢群と比較し,その特徴について考察した.

対象と方法:2005〜2016年に頚椎骨折のため入院加療を行った28例を,70歳以上の高齢者群と70歳未満に分類し比較した.

結果:高齢者群では低エネルギー外傷での受傷が多く,また予後も合併症により不良であった.

結語:高齢者群では,合併症による影響を大きく受ける.受傷後早期に全身状態を把握し,必要に応じ手術適応の判断を行う必要がある.特に呼吸器系合併症が多いため,早期離床と早期リハビリテーション導入が重要と考える.

腰部脊柱管狭窄症に対するロコチェックを用いた評価—間欠性跛行のタイプ別比較

著者: 重松英樹 ,   田中誠人 ,   川崎佐智子 ,   須賀佑磨 ,   山本雄介 ,   池尻正樹 ,   田中康仁

ページ範囲:P.195 - P.197

背景:現在,腰部脊柱管狭窄症(LSS)における混合型,馬尾型,神経根型の各間欠性跛行タイプ間においてロコチェック陽性該当項目数に違いがあるかについて明らかではない.

方法:年齢,性別,体格指数(BMI),7項目のロコチェックの陽性該当項目数,日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準(JOAスコア),Oswestry disability index(ODI),健康関連QOLとしてEuroQoL-5 dimentions(EQ5D)を評価した.

結果:ロコチェックの陽性該当項目数は,混合型:4.4±1.6,馬尾型:4.5±1.9,神経根型:4.0±1.9で3群間に有意差はなかった.またJOAスコア,ODI,EQ5Dにおいても各タイプ間に有意差はなかった.

まとめ:LSSはどの間欠性跛行タイプも一様にロコチェック陽性該当項目数が多く,ロコモ度が悪化している.

症例報告

全周性Radial Rim Fractureに対するFragment-Specific Fixationの1例

著者: 山本博史 ,   小西宏樹

ページ範囲:P.199 - P.202

背景:橈骨遠位端辺縁での骨折は関節包靱帯の付着部剥離骨折で,関節面と靱帯修復のために正確な固定が必要となる.

症例:26歳男性,左利き.自転車で走行中転倒して骨折,救急搬送された.左橈骨遠位端rim fractureで,背側に脱臼していた.骨片をそれぞれ固定していくにつれて,背側脱臼の整復,遠位橈尺関節(DRUJ)の安定性が獲得できた.術後1年5カ月で,可動域は掌屈50°であること以外は,背屈,回内外はほぼ健側と同様になり,Quick DASH scoreがdisability/symptomで2.3,work(教師)が0,sports(自転車)が0となった.

まとめ:Fragment-specific fixationにより,関節面,靱帯の機能を修復できた.

INFORMATION

第12回セメントTHAセミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.185 - P.185

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.107 - P.107

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.205 - P.205

あとがき フリーアクセス

著者: 仁木久照

ページ範囲:P.208 - P.208

 令和2年の第96回箱根駅伝では「厚底シューズ」が注目されました.80〜90%の選手が履き,驚異的な記録を連発し,ある解説者は「時計が壊れているかのよう」と表現していました.テレビ局は,予定より早く終わりすぎて,余った放送時間の調整が難しかったとも報道していました.少し前までは上級者ほど「薄底」を好むというのが常識でしたが,根底から覆ったわけです.開発経緯を調べてみると,某メーカーが42.195kmの“2時間切り”を達成する目的で開発され,そのきっかけはリオ五輪男子マラソンで金メダルを獲得したケニア選手からの要請だったそうです.そのケニア選手は某メーカーの思惑どおり,昨年10月に非公認レースながら神の領域であった“2時間切り”を達成しました.札幌で行われる東京オリンピック2020のマラソンでは厚底シューズを履いた選手ばかりになるのでしょうか.脚へのダメージが軽減できるので,故障の軽減にもつながるかもしれません.あるいは限界を超える走行は,これまでの常識とは異なる故障を引き起こすかもしれません.足の外科を専門とする私にとって大変興味があるニュースです.いろいろな意味で注目です.

 さて,今月の特集は「整形外科の職業被曝」で,伊藤淳二先生が企画されました.整形外科医にとって,手術,脊髄造影,神経根ブロック,四肢透視,など放射線を扱う業務が多いことは言うまでもありません.患者に対する低侵襲手術が発展している一方で,X線透視による医療従事者の術中被爆が問題にもなっています.本企画を通じて,整形外科の職業被曝の実態と対策について情報収集していただければと存じます.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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